「あるきだす言葉たち」を追う
このたび歌集『バード・バード』で葛原妙子賞を受賞された、なみの亜子さんの近詠が4月30日の朝日夕刊に掲載されていました。
★★★ 「帰ろうよ」 なみの 亜子
★ 近眼に見たる四月のしらゆきは高みより降りやまぬさくら
※4月はしばしば真冬にもどります。雪がさくらに見えたり、さくらが雪に見えたり、さくらの花にふれれば雪のように冷たかったりしますね。
★山際にぼうぼうとある春日暮れ 帰ろうよ と言ってくださいあなた
※春になりますと日暮れが少しおそくなります。山際で新樹を眺めていたら去りがたくなる作者。彼も去ろうとしない。下句の彼への呼びかけがとても魅力的です。
★鳩、きつね、指につくれずなる母はむしろきれいな鳩に似てきつ
※加齢のせいか指の動きが鈍くなられた母上を見守る視線がやさしい。むしろきれいな鳩、「むしろ」という散文的な言葉がこの歌を甘くならないように押さえている。と思います。
★肺に手をあてて眠りぬ息をして息をして夜をふかめながら
※生きていることを確かめるとき私も肺の辺りに手を当てます。「息をして息をして」のリフレインが身にしみます。結句の「夜をふかめながら」に私は酔いました。
なみの亜子さんは1963年生まれ、奈良県在住、「塔」短歌会編集委員です。
5月1日 松井多絵子