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続・新型コロナウイルス(6)PCR-2

2021-01-22 00:00:00 | 新型コロナウィルス
 前回の福岡博士の記事や、マリス博士の著書での説明で、PCR検査の原理的なところはおおよそ解説されていた。

 新型コロナウイルスへの感染を診断する方法としては、当初唯一の方法とされたこのPCR検査だが、このPCR検査をめぐる議論は、今日まで続いている。それは何故か。

 先ごろ、ノーベル生理学・医学賞を受賞した4人の学者が連名で次のような提言を発表して話題になった。4人のうち、本庶佑博士と大隅良典博士はTVのワイドショウにも出演してその趣旨を説明したが、その要望事項の中には『PCR検査能力の大幅な拡充』が含まれていた。

「声明
 過去一年に渡るコロナ感染症の拡張が未だに収束せず、首都圏で緊急事態宣言が出された。現下の状況を憂慮し、我々は以下のような方針を政府に要望し、実行を求める。

一、 医療機関と医療従事者への支援を拡充し、医療崩壊を防ぐ
二、 PCR 検査能力の大幅な拡充と無症候感染者の隔離を強化する
三、 ワクチンや治療薬の審査および承認は、独立性と透明性を担保しつつ迅速に行う
四、 今後の新たな感染症発生の可能性を考え、ワクチンや治療薬等の開発原理を生み出す生命科
   学、およびその社会実装に不可欠な産学連携の支援を強化する
五、 科学者の勧告を政策に反映できる長期的展望に立った制度を確立する

2021 年 1 月8日
大隅 良典
大村 智
本庶 佑
山中 伸弥 (五十音順)」

 前回紹介したように、福岡伸一博士は、PCR検査をCOVID-19の診断に用いる場合の問題点について、次のように書いていた。福岡博士だけではなく、PCR検査を、新型コロナウイルスへの感染診断に用いることについて懸念する声は他の学者からも出されているし、実際、厚労省の方針も、検査能力の拡大については積極的とは言えない。

 「米国のCDC(疾病コントロールセンター)はサイトにいちはやく、リアルタイムPCRに使用する遺伝子配列を複数パターン公表した。現在の検査はこの情報に準拠しているはずだ(ただし、ウイルス側の変異の速度も早いので、この点の注意も必要)。
 問題は、リアルタイムPCR法が鋭敏すぎることだ。
 ほんのわずかでもウイルスゲノムがあれば(理論的には一滴の鼻水サンプルの中に一個のウイルスがいれば)、それを陽性として検出してしまう。なので、ある集団に対して(症状にかかわらず)網羅的に検査をすれば必ずやかなりの程度の陽性者が発見されることになる。しかし風邪の症状が出るのは、個人個人の免疫系とウイルス増殖とのせめぎあいのバランスによる。陽性でも、全く無症状の人、ウイルスを拡散する危険がほとんどない人も多数存在するだろう。」

 高感度ゆえに、検査に伴い、偽陽性者が出ることを懸念しての話であるが、その後の報道によると、PCR検査では偽陰性者も問題になっている。高感度だけが問題なのではなく、その判定基準の設定もまた重要な要素であることがわかる。

 これはPCR検査の「感度」と「特異度」がそれぞれどの程度になるように検査方法と判定方法が管理されているかということでもある。一般的なことではあるが、検査における感度と特異度はトレードオフの関係にある。これは陽性判定をする際の基準値「カットオフ値」の設定により変化するものである。

 次の図はある感染症検査における検査値と、健常者数、感染者数およびカットオフ値の関係をモデル的に示す図である。

 感染者と健常者とを完全に分離できるような検査方法というものは無いということなので、どうしても部分的にこれらが重なり合う検査値範囲が存在する。すなわち偽陽性と偽陰性とが出ることになる。このバランスを見て陽性/陰性の判定基準となるカットオフ値が決められている。カットオフ値以上であれば陽性、未満であれば陰性判定となる。

図1.検査におけるカットオフ値と偽陰性と偽陽性の発生

 次の図のように、感染者と健常者の分布の重なりがより少ない場合には、偽陽性者と偽陰性者は少なくなり、感度と特異度はともに高くなる。

図2.健常者と感染者の分布の重なりが少ない場合

 また、図1のケースで、カットオフ値を変更すると、偽陽性者数、偽陰性者数は次のように変化し、感度と特異度はトレードオフの関係にあることが理解される。
 
図3.図1のカットオフ値を大きくすると感度が低下し、特異度が高くなる

 PCR検査ではCt値がこのカットオフ値に相当すると考えられるが、PCR検査の場合にも、こうした一般的な感度と特異度の関係がそのまま通用するのだろうか、あるいは何か特別な関係があるのだろうか。

 ここで改めて感度と特異度の定義を見ておくと次のようである。2020年に新型コロナウイルス感染が拡大し始めたころにはPCR検査の感度と特異度はそれぞれ、70-80%、90-99%程度と解説されていた。


 その後、2020年9月29日に、北海道大学からこのPCR検査の感度と特異度に関する発表が行われた。内容は次のようである。

「プレスリリース【記者会見】新型コロナウイルス唾液PCR検査の精度が約90%であることを世界最大規模の研究により証明!

 これからの新型コロナウイルスの感染爆発を防ぐには、濃厚接触者など無症状者から新型コロナウイルス感染者を発見し、感染伝播をブロックすることが重要になります。今まで、初期の小規模な研究結果より、PCR検査の感度は70%程度と考えられており、さらに唾液PCR検査の感度は明確ではありませんでした。
 今回、北海道大学大学院医学研究院の豊嶋崇徳教授らの研究グループは、約2000例という過去世界最大の症例における唾液と鼻咽頭ぬぐい液の診断精度の比較を行いました。それぞれの感度は83-97%対77-93%、特異度は両者とも99.9%以上でした。また、陽性例のウイルス量は両者で同等でした。
 以上の結果から、PCR検査の感度は従来いわれていた70%を遥かに上回る約90%であり、特異度も極めて高く、信頼できる検査であることを明らかにし、鼻咽頭ぬぐい液、唾液ともに使用でき、より安全で簡便に採取できる唾液を用いたスクリーニング検査は標準法として適切であると結論づけました。」

 参考資料として挙げられている文献には次の図が示されていた。


北海道大学病院 PRESS RELEASE 2020/9/28 より

 リリースされた発表内容には、PCR検査におけるCt値のことは示されていないが、国内での検査であるから、後述する感染研法に基づく基準で行われているものと考えられる。この研究発表で、PCR検査精度が感度、特異度共に十分高いことが示されたので、PCR検査についての議論が決着したかと思っていたが、必ずしもそうではなかった。

 北海道大学の発表が行われた後の、2020年12月2日には、国会でPCR検査の信頼性に関する次のような質疑も行われている。質問に立ったのは、日本維新の会・参議院議員「やながせ裕文」氏(下記文字起こしした引用文の「Q」)である。質問に答えているのは、厚労省の佐原康之総括審議官(同「AS」)と山本博司副大臣(同「AY」)である。
 
(当該質疑はこのYouTubeの3分10秒あたりから始まる)

「Q:どういう問題かと言うと、PCR検査のですね、感度が高すぎるために死んだウイルスや非常に微量のウイルスにも反応してしまって、他者に感染させる可能性のない人をも陽性と判定してしまっているのではないか、と言う疑義であります。
 感染拡大を防止するという観点から、隔離をお願いしている訳ですけれども。必要のない人までですね、感染能力のない人まで、隔離をしてしまっているという結果に陥っているのではないかという問題であります。
 そもそもPCR検査とは、採取した唾液などにウイルスの遺伝子の一部が含まれているかどうかを判定するものであって、含まれていれば陽性、いなければ陰性と判定されます。
 しかし、そのウイルスの特性までは判らず、感染力の無い微量なウイルスや、死んだウイルスでも存在が確認されればこれ、陽性となってしまうという性質があります。
 そこで、検出するまでのサイクル数を示すCt値に注目をしたいと思います。 
 PCR検査ではサンプルのウイルス遺伝子を増幅させて判定する訳ですが、増幅の回数を示すのが、これCt値と言われています。1サイクルで1本の遺伝子が2本、2サイクルで4本、3サイクルで8本ということで、乗数的に増えていくわけですね。これを繰り返して行って、遺伝子を増幅させていってですね、ある特定の反応が立ち上がったらそれを陽性と判断するということなんです。
 で、Ct値が高ければ、高いところで反応が出れば検体に含まれるウイルスは微量、低ければ量が多いということになるという風に思います。
 現在新型コロナウイルスの判定方法については国立感染症研究所の病原体検出マニュアル、これ3月19日のものですけれども、これが公表されていて、このマニュアルに沿った判定方法、これいわゆる感染研法という風に呼ばれております。
 日本におけるPCR検査の機器とその機器を使用した陽性判定は、この感染研法に適合するかどうかということで承認を受けていると聞きました。つまりこの感染研法が検査の基準となっているわけですね。その感染研法で陽性判定するのに必要なCt値、サイクル数、これ40としているということで、Ct値40ということですね。
 しかしこの40ということはどういうことなのかと言ったら、1本の遺伝子を理論上はですね1兆本に増幅をして反応を見るというもので、極めて微量のですね、かけらまでひろう設定となっているのではないか、つまりこのCt値40というのはですね、高すぎることによって、あまりにも幅広くの人たちを、これ陽性判定してしまってるのではないかという問題を抱えているという風に考えております。
 そこで、先ずお伺いしたいんですけれども、陽性判定にCt値を40とした理由、そこで検出可能なウイルス遺伝子の数値、これについてお答えをいただきたいと思います。

議長:佐原厚生労働省大臣官房危機管理医務技術総括審議官

AS:お答えいたします。国立感染症研究所が開発した新型コロナウイルスリアルタイムPCR法での陽性基準につきましては、陽性コントロールの増幅曲線の立ち上がりが、40サイクル以内に見られ、かつ陰性コントロールの増幅曲線の立ちあがりが、見られない時に試験が成立すると見なすと示しているところでございます。
 これはあの新型コロナウイルスに限らず、一般的なリアルタイムPCR法の取り扱いに基づいて設定されているものでございます。
 またあのご質問いただきましたコピー数でありますけれども、国立感染症研究所で開発されたリアルタイムPCRにより検出することができるウイルス量の限界は5コピーとなっております。

Q:有難うございます。一般的なリアルタイムPCR法に基づいているんだということなんですけれども、これはそのどれくらいのですねコピー数を検出するまでそのサイクル数を設定するかということで、決めの問題であるという風に考えておりますし、また今ご答弁いただきましたけれども、まあちょっと私が聞いた話と違うんですけれども、5コピーだということですね。つまり5コピー分の遺伝子まで検出できるという設定で今検査をしているということなんですね。
 とするならば、その5コピーということにどういう意味があるのかということだと思います。えー、京都大学のですね、ウイルス研究所の宮沢准教授は、この40サイクルは過剰であって死んだウイルスの断片など感染力とは関係のないウイルス遺伝子の検出につながる可能性が高く、Ct値は32~35程度が妥当なのではないかということをおっしゃっているわけであります。
 そこで、先ほど、私は1コピーだという風に聞いたわけですけれども、感染研のヒアリングではですね、5コピーだと、検出限界が5コピーだということだと思いますけれども、じゃあその5コピーによって、5コピー持っている人ですね、陽性だと判定された人が、どれだけ感染力があるのか、このことについてお伺いしたいと思います。

AS:お答えいたします。PCR検査を含めた各種検査につきましては、必要な精度が保たれているものについて、薬事承認または国立感染症研究所の評価を得て実用化をしております。
 ご質問の新型コロナウイルス感染症においてどのような感染者が他者を感染させ得るのかという感染性を判断するにあたりましてはいろいろあの留意しなければいけないことがあると思います。
 たとえば検体採取の際の手技が適切でない場合、あるいは検体を採取する時期が潜伏期間である場合など、特にウイルス量が少ないと考えられる検査結果の取り扱いについては課題があるものと承知をしております。
 いずれにしても御指摘の点も踏まえ様々な知見を収集し適切な検査を行うために必要な見直しを行ってまいりたいと考えております。

Q:そういうことではなくてですね、今のPCR検査で陽性と判定されるためには5コピーあれば陽性と判定されるわけですね、これ限界です。ではその5コピーで陽性と判定された人が本当に感染力があるの?ということなんです。

AS:ご指摘の通りPCR検査の陽性判定は必ずしもウイルスの感染性を直接証明するものではございません。

Q:そうすると、確認ですけれども、PCR検査で陽性判定されたからといって、その人に感染力があるとはいえないということでよろしいでしょうか。

AS:PCR検査の陽性判定イコール、ウイルスの感染性の証明ということではないということでございます。

Q:これ極めて由々しき問題だと思いますよ。今、PCR検査で陽性判定がされればですね、本来はそのCt値とほかの症状であったりとか、CTを見たりとか、ですね、によって陽性・陰性と言うのを判定していけばいいんですけれども、今検査数非常に多いんですね、だからもうPCR検査で陽性・陰性どっちか、2分の1っていうことでもう、極めてですねきっかりと別れてしまっている訳ですね。
 陽性と判定されてしまったならば、10日間の隔離という言い方をしますけれども、隔離という対象になってくるということで、社会経済上非常に大きな影響を受けていることになっているという風に思います。
 ではですね、お伺いしたいんですけれども、PCR検査の陽性者で、感染性がない可能性がある人はどれくらいいると想定されるのか、その点についてお伺いしたいと思います。

AS:お答えいたします。ウイルス量と感染性を示すデータについては必ずしも明らかではありませんけれども、ウイルス量が一定より少ない場合、培養可能なウイルスが検出されず、感染性のある可能性が低いという風に考えられております。具体的なウイルス量については様々な研究がございますけれども、例えば米国においてはこのCt値が33から35程度より高い場合、培養可能なウイルスがほとんど検出されなかったとの報告もございます。
 また日本においては、Ct値がおおむね30以下では培養可能なウイルスが検出されることが多いとの報告もございます。
 他方、どのような感染者が他者を感染させ得るのかという感染性を判断するにあたっては、先ほど申しましたように、たとえば検体を採取する期間が潜伏期であるなど特にウイルスが少ないと考えられる場合の検査結果の取り扱いなど慎重に取り扱っていく必要があると考えております。

Q:つまりですね、PCR検査で陽性と判定された方でも感染性がない人たちがたくさんいるということだと思いますよこれは、その可能性があるということだという風に思います。
 PCR検査のそもそもの目的は感染拡大を止めるということにあると思います。決して遺伝子の保持者を特定しようということではないですよね。感染力を持っている人を特定してその人に社会活動を遠慮いただくということのために、この検査はあるものだという風に思っております。ですから今の検査のあり方でいいのかということはですね、これは考えなければいけない課題だと思います。

 これは海外でも問題視する動きが出てまして、英米でのメディアでもPCR検査で陽性とされた者の中で実際に感染している者は少ないのではないかという疑念の声が上がっています。海外ではCt値が34以上だと感染性ウイルスを排出しないと推測できるという論文も発表されていて、実際に台湾ではですね、Ct値が35より低い場合のみを陽性と判定しているということであります。当初、感染研がこのマニュアルを作成した3月の時点では、未知のウイルスだということで、ウイルス遺伝子のかけらも見逃さないというですね厳格な検査方法の設定をしてきたことはこれは理解できます。しかしそこからですね9カ月が経とうとしていて、さまざまな知見が積み重なっていると思います。 
 先ほどいくつかご紹介いただきましたけれども、これはあの政府の方でもしっかりとこの知見をですね、理解している訳ですよね。5月29日の第15回新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の中に提出された資料ですね、患者のウイルス量と感染性に関する国内外の知見という資料では、ウイルス量は低いが、検出可能な範囲ではほとんど培養陰性、ウイルス分離はされないということが書かれております。
 つまりこれCt値が35を超えたらですね、感染力がないという知見があるんだよということが紹介されている訳です。また日本感染症学会もこの問題に注目をしていて、10月に発表したCOVID-19検査法及び結果の考え方では、Ct値が高い場合には、たとえ遺伝子検査が陽性であってもその検体から感染性を示すウイルスが分離されにくくなることに注意する必要がある。また遺伝子検査陽性が必ずしも感染性ありとならない可能性が示唆されているとしています。
 多くの専門家がこの問題を指摘していて、新型コロナウイルス感染症対策分科会の会長である尾身さんご自身もですね、日本内科学会の雑誌に収録されているインタビューの中で、Ct値については35位がよいのではないかと、尾身さん自身がこれ言ってるわけですよ。
 3月に作成された検査マニュアルからも9カ月が経ち、その期間にCt値とこの感染性の関係、ウイルス量と感染性の関係など多くの知見が積み重なってきております。そこで、本来の検査目的にかなったものとなるように、この感染研法におけるCt値の変更など、感染能力のある人を特定できるように、検査を見直していく必要があるという風に考えますけれども、山本副大臣の見解を伺いたいと思います。

AY:やながせ委員の問題意識を含めて、大変大事であると思います。委員ご指摘の感染性のある方のみを判定できる検査につきましては、現時点では確立したものは無いと承知している次第でございます。先ほど審議官の方からも答弁ありましたように、新型コロナウイルス感染症につきまして、どのような感染者が他者を感染させ得るかという、感染性を判断するにあたりましては、いずれの検査におきましても、たとえば検体採取の際の手技が適切でない場合であったり、また検体を採取する時期が潜伏期間である場合であったり、特にウイルス量が少ないと考えられる検査結果の取り扱いにつきましても課題があるものとこう承知をしてる次第でございます。いずれにしても、委員ご指摘の点も踏まえまして、さまざまな知見を収集し、適切な検査を行うために必要な見直しを行ってまいります。

Q:ありがとうございます。適切な見直しを行っていくと、いうことでぜひお願い申し上げたいと思います。今、これからですね検査をどんどん拡大していかなければいけない局面になっているという風に思うのですね、ただ、その中でこのPCR検査に対する信頼性が揺らいでくるということはあってはならない、という風に思います。ですから、しかるべきですね、的確な、検査目的にかなった検査となるように、ぜひ適切な見直しを行っていただきたいということを申し上げまして、質問を終ります。有難うございました。」

 長い引用になったが、感染研法でサイクル数40以内で感染の判定を行っているということを、図示すると次のようである。北海道大学の結果では感度が88%程度、特異度が99.9%以上ということなので、次図の感染者、健常者の分布とは異なるが、このような概念であると思う。また、この図では以前の図1-3とは感染者と健常者の位置が入れ替わっていることに注意していただきたい。


図4.PCR検査における、Ct値と陽性/陰性判定の概念図

 国会での質疑では、現在Ct値40位内での判定を行っているが、陽性判定された者のうち、Ct値34以上では感染力は疑わしく、30以下では明確に感染力が認められるとの見方が示されていた。

 すなわち、現状の検査判定基準では、サイクル数30~34の範囲で陽性判定された者の中には擬陽性者が含まれていること、サイクル数34~40の範囲で陽性判定された者にはかなりの偽陽性者が含まれていることになる。ただ、サイクル数40以上の偽陰性者については、不問に付されている。

 その意味では、先の国会質疑で質問者の言う通り、Ct値を35程度に下げることで、偽陽性者を減らすことができる。しかし、その場合他方で次図のように、多数の偽陰性者を出すことになり、無症状感染者を把握して感染拡大を防止するという本来の検査目的には漏れが生じることになる。
 これは、PCR検査の問題点というよりも、検査の限界という感じがする。


図5.図4でCt値を35前後に下げた場合の擬陽性者数と偽陰性者数の変化

 以上、Ct値の観点からPCR検査の持つ課題をみてきた。PCR検査における手技の問題、検査実施のタイミングの問題、検査結果の判定の問題に加えて、感染者数と健常者数の分布などのデータを含めたうえで、冒頭の4人のノーベル賞受賞者による緊急提言の実施可否についても、政府から的確な方針が示されることを期待したい。

 PCR検査にはこのほかにも、その本質的な特徴から、別な課題も含まれているようである。改めて考えてみたい。

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