軽井沢からの通信ときどき3D

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山野で見た蝶(15)クロツバメシジミ

2023-08-25 00:00:00 | 
 山野といってもこのクロツバメシジミを初めて見たのは、小諸のMさんが管理しているバタフライガーデンでのことである。

 このガーデンの一角にクロツバメシジミの食草ツメレンゲが植えられていて、そこで自然に繁殖を繰り返している様子を観察し、撮影させていただいた。

 Mさんのバタフライガーデンにはオオムラサキの絵が描かれた看板があり、ここにアサギマダラの飛来地であること、オオムラサキやミヤマシジミの繁殖地であることが表示されていて、こうしたチョウの保護や観察機会の提供に力を入れていることが伺われるのであるが、これらメジャーともいえる種のほかにも、本種のように地味で目立たないチョウの繁殖支援にも力が注がれている。

 このバタフライガーデンには、時々お邪魔しては、花に集まってくるチョウの撮影をさせていただくのであるが、春先に立ち寄った時、クロツバメシジミの食草のツメレンゲを種子から増やしているところを見せていただいた。こうして食草を絶やさずに育てていくことで、これを頼りに生きている種を守っているのである。

 いつもの「原色日本蝶類図鑑」(横山光夫著 1964年保育社発行)を見ると、クロツバメシジミは長野県上田市で発見されたことが、次のように紹介されている。

 「発生地はきわめて小区域に極限され、一見『やまとしじみ』に類似した蝶である。長野上田において1919年初めて発見され、その後、島々谷・上高地・松本付近からも見いだされ、関東ではわずかに秩父・栃木に知られるにすぎない。・・・幼虫はイワレンゲ・ツメレンゲなどを食べ、これらの繁茂する岩肌地帯や、時には藁葺・瓦屋根などにも発生しその付近を離れず、不活発に飛翔する。発生は年3回、5・7・9月に発生、終齢幼虫で越冬する。」

 また、「信州 浅間山麓と東信の蝶」(鳩山邦夫・小川原辰雄著 2014年信州昆虫資料館発行)によると、この地方での分布が次のように記されていて、発見地域だけに生息数は比較的安定しているとされる。

 「東信地方では比較的広範囲に生息し、地域変異の研究のため各地で調査されており、記録も多い。・・・全般的には個体数の目立った増減は認められない。環境省レッドリストで準絶滅危惧種、長野県版では留意種に区分されている。」

 クロツバメシジミは人家周辺から低山地で見られるとされるが、発生源に生育する食草のツメレンゲ・イワレンゲ・タイトゴメ・マンネングサ(ベンケイソウ科)をあまり離れず、付近をちらちら飛翔し、すぐとまるという。

 妻と私が訪問したこの時にも、ツメレンゲの周辺を飛び回っては止まるという動作を繰り返して、確かに遠くに飛び去るということはない。写真撮影も容易であった。

 とても小さな種で、ヤマトシジミやツバメシジミに似ているが、和名の由来になっている通り翅表が一様な黒色で、細く短い尾状突起があることでこれら2種とは区別される。また、翅を閉じていても、斑紋の配置や色でも区別が可能である。



上から、ヤマトシジミ、ツバメシジミ、クロツバメシジミ

クロツバメシジミ(2022.8.30 撮影)

 
食草のツメレンゲに止まるクロツバメシジミ(2023.8.16 撮影)


食草のツメレンゲに止まるクロツバメシジミ(2023.8.16 撮影)

 
食草のツメレンゲに止まるクロツバメシジミ(2023.8.16 撮影)


食草のツメレンゲに止まるクロツバメシジミ(2023.8.16 撮影)


食草のツメレンゲに止まるクロツバメシジミ(2023.8.16 撮影)

食草のツメレンゲに止まるクロツバメシジミ(2023.8.16 撮影)

食草のツメレンゲに止まるクロツバメシジミ(2023.8.16 撮影)

小石に止まるクロツバメシジミ(2023.8.16 撮影)

食草のツメレンゲに止まるクロツバメシジミ(2023.8.16 撮影)

コマツナギの枝先に止まるクロツバメシジミ(2022.8.30 撮影)

食草のツメレンゲに止まるクロツバメシジミ(2023.8.16 撮影)

食草のツメレンゲに止まるクロツバメシジミ(2023.8.16 撮影)


ロックガーデンの石に止まるクロツバメシジミ(2023.8.16)

 写真撮影はすべて「バタフライガーデン」で行った。園内の一角にクロツバメシジミの食草ツメレンゲが植えられているので、そこに行けば比較的容易に見つけ、撮影することができる。

 特にこの種は食草を遠く離れることが無いとのことで、M氏が生育場所を広げようと、10mほど離れた場所にもツメレンゲを植えているが、まだこの新しい場所での繁殖は見られないという。前述の、「発生地はきわめて小区域に極限され」るというのも頷ける生態である。

 「フィールドガイド 日本のチョウ」(2013年、誠文堂新光社発行)や「日本産蝶類標準図鑑」(2011年、学研教育出版発行)に掲載されているクロツバメシジミの国内分布図を見ても、離散的であり、その特異な状況が理解される。

 次の概略図からもわかるように、日本産は大きく3つの個体群に分けられるとされる。その外観上の差は裏面の色や紋の形状と配置の違いによる。日本産蝶類標準図鑑にはこうした違いを示すために、各産地の標本写真が多数掲載されているが、私には複雑すぎて容易には理解できない。


クロツバメシジミの分布地図(前出の2著書を参考に筆者作成)

 こうした地理的変異に関し、ウィキペディアには「日本舞踊師範の藤間勘左はそういった本種の差異を研究している」(最終更新2020年8月31日)と紹介されている。

 ところで、クロツバメシジミの撮影をさせていただいた、M氏の「バタフライガーデン」からさらに奥の方には、住民有志が、荒れ放題になっている里山に手を入れることで、花が咲き 蝶が舞う 憩いの森を再構築しようと立ち上がり、長野県の支援を受けるなどして、「ぬかじ(糠地)憩いの森」を作っている。

 みはらし交流館にはパンフレットが用意されていて、次のように記されている。

 「蝶の保全活動 オオムラサキやゴマダラチョウの生息域保護のための食餌樹エノキ、クヌギやナラの植樹、絶滅危惧種の蝶の保全活動を推進しています。タテハチョウの多くは森の中で成虫で冬越しをします。蝶の棲む里山は豊かな自然の環境づくりが欠かせません。」



蝶の保全を目指す糠地地区里山整備利用推進協議会のパンフレットから

 アサギマダラのマーキング調査はすでに行われていて、「糠地郷蝶の里山会」ではアサギマダラの吸蜜植物フジバカマを育て、バタフライガーデンと水石蝶の里では飛来地整備を行っている。調査結果はこうした活動の中核となっている「大阪市立自然史博物館・昆虫研究室」に報告され、データとして登録されるシステムが確立されている。秋の飛来シーズンには毎年3000~4000頭のアサギマダラが立ち寄るとされる。

 このほか、ヒメギフチョウなども視野に入っているようで、今回紹介したクロツバメシジミも加えた、蝶の食草エリアの完成とチョウの定着が楽しみである。


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