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続・新型コロナウイルス(4)サイトカインストーム

2020-12-11 00:00:00 | 新型コロナウィルス
 大阪の高校同窓会から12月1日発行の会誌が届いた。早速読み始めると、同窓会長の挨拶と現校長のあいさつに続き、特集COVID-19として同窓生である平野俊夫氏(現・量子科学技術研究開発機構理事長)の「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に思う:ポストコロナは存在するか?」が掲載されていた。



 平野俊夫氏については随分前から、前大阪大学総長ということで知っていたし、今年になってからは、免疫学者としてTVのワイドショウに出演されたり、中央公論7月号に「医療体制を整備し、COVID-19を克服せよ ~集団免疫とワクチン・治療薬の最前線~」という内容の文章を寄稿されていたこともあり、氏が発信されるものに注目していた。また、個人ブログを書かれていることを知り、こちらも拝見していた。




 その、個人ブログ「人生心の旅」を訪ねてみると、2020年9月13日付で「ポストコロナは存在するか?」という内容の文章が載っていて、そこには「桃陰だより37号寄稿文より、一部抜粋」とあったので、今回届いた会誌でその全文を読むことができるようになった。

 会誌の内容を読み進むと、全体としては20万年という人類史を俯瞰した大きな話であるが、ブログには載っていなかった内容として、COVID-19についてのやや専門的な記述も見られた。次のようである。

 「・・・では、少し目の前のCOVID-19を冷静に考えてみよう。世界の感染者数は4700万人を突破し、死者の数も120万人を突破した。日本でも10万人以上が感染し死者の数は1700人を超えたが、人口100万人当たりの死者の数は世界平均の約150人や欧米の数百人に比べると約14人前後であり、日本を含むアジアでは感染しにくく、かつ重症化しにくいという状態が続いている。しかしながら世界全体を俯瞰すると深刻な状況が続いていることには変わりない。また今後ウイルスに変異がおこり強毒化する可能性は否定できない。

 このような状況ではあるが、COVID-19に関しては明るいニュースも含めて様々なことが明らかになってきた。50歳以下の人が重症化するリスクは非常に低く、感染者の80%以上は無症状か軽症で治癒する。また高齢者や肥満者や喫煙者、あるいは糖尿病や循環器疾患などの基礎疾患を有している人を中心に重症者の約20~30%が血栓を伴う重症肺炎や多臓器不全になり命を落とす。すなわち、高齢者や基礎疾患などを有するハイリスクな人への感染を防ぐことと、重症化を防ぐことが最重要課題である。・・・

 重症化は免疫の暴走であるサイトカインストームで起こる。免疫抑制剤であるステロイド製剤やサイトカインストームに効果があるとされるインターロイキン6(IL-6)の阻害剤(商品名アクテムラ)が有効であるという結果も報告されている。また、炎症を引き起こすレニン・アンジオテンシン系の阻害薬(高血圧の治療薬)が重症化阻害に有効であることも報告されている。このようにCOVID-19に対する(ワクチン開発や)治療方法に明るい話題が増えてきた。

 さらに、致死率は当初考えられていた約5%よりも低いと考えられる。抗体検査の結果から、おそらくPCR検査で確定された感染者数より、実際は10~50倍は多いと考えられているので、致死率は当然10分の1~50分の1となる(0.5%~0.1%)。
 また、集団免疫閾値(集団の何%が免疫を獲得すれば感染流行が収束するかの%)も当初60%と考えられていた。しかし、その算定根拠である基本再生産数(一人の感染者が感染させることができる人数)は、1)ウイルスの性質、2)感染される人の遺伝的要因や免疫的要因、3)社会的要因の3つで決まるのであり、ヨーロッパのそれと日本のそれは異なるし、都会と農村地域でもことなる。集団免疫閾値が低ければ、予想される死者の数は少なくなる。また免疫反応はウイルスが侵入して直ちに反応する自然免疫と、遅れて反応する獲得免疫があり、感染することにより生じる獲得免疫だけを考えると集団免疫閾値が高くなり、予想される死者の数も多くなる。獲得免疫は免疫記憶を有しており、同じ病気には2度はかからないか、罹っても軽くて済む(ワクチンは獲得免疫を利用する)。一方、自然免疫は病原微生物の種類に関係なく素早く反応できるが免疫記憶は有していない。しかし、BCG接種などで本来の病原菌とは関係ない病原微生物に対する自然免疫反応が強くなる現象が報告されている(訓練免疫とも呼ばれている)。仮に集団免疫閾値が60%であれば、自然免疫と獲得免疫を合わせた免疫力と他の遺伝的要因とを合した病原微生物に対する総合抵抗力を、集団の60%の人が獲得していれば良く、感染し獲得免疫を有する人が60%に達する必要は全くない。・・・

 おそらく、複合要因の組み合わせの結果COVID-19に関しては欧米人よりはアジア人の方が感染も少なく重症化も少ないのではと考えられるが、将来生じる新たな感染症に関しては逆になることもあり得る。・・・ 

 このように、COVID-19は、日本を含むアジアの人々にとっては当初考えられていたほどの脅威はないかもしれないが、今後強毒化する可能性もあるので油断は大敵である。・・・
 世界は協調しなければ新型コロナウイルス感染症を克服することは出来ない。・・・
 今こそ、『地球市民』としての自覚と、『相手の立場を尊重し、信頼し、助け合う、連帯と協調の精神』が重要だ。」

 ここで、「重症化は免疫の暴走であるサイトカインストームで起こる」ことが示されている。言いかえれば、重症症状は直接ウイルス感染により起きているのではなく、ウイルス侵入によりわれわれの免疫システムが過剰に反応し、暴走を起こして起きている症状ということになる。

 平野氏は、別途「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はサイトカインストーム症候群である」という論文を日本医師会のHP上で公開し、そのメカニズムを詳しく説明している(2020年5月28日)。

 この論文の冒頭には次の記述がある。

「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、SARS-CoV-2ウイルスにより引き起こされる感染症である。
 約80%の感染者は無症状か軽症で経過するが、約20%は重症肺炎となり、そのうち30%は致死的な急性呼吸促迫症候群(ARDS)となる。
 現時点で有効な抗ウイルス薬や、ARDSに対する確立した治療方法はなく、1日も早い治療薬の開発が望まれる。
 SARS-CoV-2はACE2を受容体として感染し、自然免疫系とAngII-AT1Rを介して、NF-kBとSATA3転写因子の活性化を誘導する。STAT3はNF-kBの活性化を増強することにより、IL-6などの炎症性サイトカイン産生を増強する。
 この増幅回路はIL-6アンプと呼称される。関節リウマチなどの慢性炎症性疾患発症に重要な役割を果たし、抗IL-6受容体抗体トシリズマブはこれらの疾患の治療に有効である。
 COVID-19に見られるARDSは、サイトカインストームにより生ずると考えられる。CAR-T治療における致死的な副作用であるサイトカインストームに対して、抗IL-6受容体抗体トシリズマブは有効である。
 本論文では、サイトカインストームがIL-6アンプの活性化により生じていることを考察するとともに、抗IL-6受容体抗体トシリズマブや、AngII-AT1R阻害薬のCOVID-19治療への可能性について言及する。」

 このあと本文が続くが、あまりに専門的になるのでここでは割愛するとして、最後のまとめだけを見ておくと、次の様であり、新型コロナウイルス感染症重症化のメカニズムが理解され、対処法も出てきていることから、死者数の減少が期待できるのは朗報である。

 「このように、ウイルスや細菌感染のみならず外傷により引き起こされる肺の損傷はACE2-AngII-AT1Rシグナルを活性化するとともに、自然免疫系を活性化し、その結果としてTNFα/IL-1β-NF-kBとIL-6-STAT3が相乗的に働きIL-6 アンプ活性化を介して制御されないサイトカイン産生を誘導してサイトカインストームに至ると考えられる。 したがって、COVID-19に見られるARDSの治療にはIL-6-STAT3阻害剤やAngII-AT1R阻害剤が有効であると考えられる。 ただし、IL-6などのサイトカインは抗ウイルス活性があるので、感染初期に投与すると逆効果になると考えられるので、投与時期は血中IL-6濃度やD-ダイマーなどの組織損傷マーカーなどを指標に慎重に選ぶ必要がある。これらの阻害剤はウイルスや細菌のみならず外傷などで引き起こされるサイトカインストームが原因のARDSはもちろんのこと腎機能不全など他の臓器不全にも効果が期待できる。」 

 この論文の内容は、専門用語が多くただちに素人には理解できる内容ではないが、先に紹介した中央公論7月号の平野氏の記事にもサイトカインストームに言及した箇所があり、次のようである。こちらは専門家相手の論文ではないので、多少わかりやすくなっている。

 「・・・新型コロナウイルスに対する免疫が成立しても、一過性で長続きせず、集団免疫もワクチン開発も不可能となった時、最後の砦は治療薬である。また、この感染症の80%が無症状か軽症ですむことを考えると、致死的な急性呼吸器不全に至る重症肺炎を防ぐ有効な治療薬の開発が社会距離戦略を緩和し、社会活動を正常に戻すためにも大きな力となる。

 SARSウイルスが細胞に感染する(細胞に侵入する)には、細胞表面にあるACE2というタンパク分子に結合する必要があること(このようなタンパク分子をウイルス受容体と呼ぶ)、さらにACE2に結合するウイルス蛋白であるスパイク分子が細胞表面にあるタンパク分解酵素(TMPRSS2)で切断される必要があることがこれまでの研究でわかっていた。これらに基づき、新型コロナウイルスもACE2を受容体として、TMPRSS2依存的に細胞に感染することが超スピードで3月には明らかになった。これらの研究成果は治療薬開発の重要な基礎となっている。

 治療薬は大きく分けると2種類に分類可能である。1つはウイルスの増殖や細胞への感染などを阻害する抗ウイルス薬だ。新型コロナウイルスはRNAウイルスであることが明らかになっている。同じくRNAウイルスであるインフルエンザの治療薬として開発された ファビピラビル(商品名アビガン)や、やはりRNAウイルスであるエボラ出血熱の治療薬として開発されたGS-5734(同レムデシビル)などはRNAの増幅を阻害することにより新型コロナウイルス増殖を抑制することが期待されている。また膵臓炎の薬として開発されたTMPRSS2の阻害薬であるナファモスタット(同フサン)やカモスタット(同フオイパン)はウイルスの細胞侵入を阻害することが期待されている。これらの抗ウイルス薬は感染初期から中期に効果が期待できるが、後期に発生する急性呼吸器不全を伴う重篤な肺炎にはあまり期待できない。しかし、これらの候補治療薬が有効であれば重症者の数は減り、致死率も下がるだろう。

 もう1つは、致死的な呼吸器不全に至る「重篤肺炎」に対する治療薬だ。新型コロナウイルス感染症では、感染者の約20%が重症の肺炎になる。さらに重症肺炎になった患者の30~40%が急性呼吸器不全を伴う重篤な肺炎に陥り死に至る。時には全身の臓器が機能不全に陥る多臓器不全も生じる。もし致死的な急性呼吸器不全を阻止できれば、致死率は低下する。

 急性呼吸器不全や多臓器不全になると、これらの臓器の細胞が破壊される結果、呼吸器機能や腎臓機能などが失われる。このような重篤な肺炎は、新型コロナウイルスが引き金となってはいるが、実はウイルス自身が引き起こしているのではなく、体の免疫応答の暴走で起こる自己破壊的な現象である。これはウイルスなどに対して感染防御に働いているタンパク質サイトカインの1種であるインターロイキン6(IL-6:Interleukin-6)などの様々な免疫応答制御分子が爆発的に産生されるサイトカインストーム(サイトカインの嵐)により、患者自身の肺組織を自己破壊する現象だ。したがって前記の抗ウイルス薬は有効ではない。

 私自身は、1986年にIL-6を発見し、以来34年にわたりIL-6の作用の仕組みや、IL-6の異常でなぜ関節リウマチなどの自己組織破壊的な炎症性疾患が発症するのかを研究してきた。そして、IL-6が増幅される仕組みを解明し、このIL-6増幅回路(IL-6アンプ)の異常により関節リウマチなどの炎症性疾患が発症することを明らかにした。こうして、IL-6阻害薬のトシリズマブ(同アクテムラ)が関節リウマチに効果がある医学的根拠を明らかにしたのだ。関節リウマチは関節でIL-6アンプがじわじわと長期間にわたり活性化されている状態である。長年積み重ねてきたこれらの基礎研究の結果から、新型コロナウイルス感染症に見られる重篤な肺炎は、IL-6アンプの活性化が爆発的に肺で生じることによりIL-6をはじめ様々な炎症性サイトカインが過剰に産生されて引き起こされるサイトカインストームであることを提唱した論文を4月にアメリカの免疫学雑誌である『Immunity』に発表した。

 白血病の治療にCAR-T療法と呼ばれる非常に優れた治療方法があるが、この治療における重篤な副作用はサイトカインストームで生じることがすでに明らかになっている。特筆すべきことは、IL-6の作用を阻害する抗体医薬であるトシリズマブがCAR-T治療の副作用であるサイトカインストームに対して有効であるということだ。したがって、新型コロナウイルス感染症に見られる重篤肺炎はトシリズマブなど、IL-6の作用を阻害する薬剤で治療できる可能性がある。すでにアメリカや日本でトシリズマブをはじめ複数のIL-6阻害薬の臨床試験が進行中だ。これが有効であれば、重症肺炎で死亡する感染者の数は減り、新型コロナウイルス感染症はインフルエンザ並みの感染症になる可能性もある。」

 サイトカインストームについてより分かりやすく説明がされているので、だいぶ理解が進んできたが、まだまだ難解なところも多い。そこで、平野氏のものではないが、COVID-19がサイトカインストームであることを、われわれ素人にもより解りやすく表現したYouTubeがあったので最後に紹介する。

 松田 学氏と田丸 滋氏(日本プラズマ療法研究会 理事長)の対談であるが、この中で田丸氏は次のように述べている。

 「・・・新型コロナウイルスは正式にはSARS-2(より正確には SARS-CoV-2)じゃないですか。SARSの遺伝子が20%変化したコロナウイルスで、もともとコロナウイルスは風邪ですから・・、ただ感染力が強い、それから悪性化しやすい。当時、中国の武漢の肺のCT画像がNHKでちょろっとでましてね。それ見れば、臨床の先生方だったらあの画像見れば一発でサイトカインストームを起こしているのはあたりまえの画像なんでね。・・・BS-NHKで夜の2時にアメリカのウイルス学者と日本の著名な先生方2人と、番組が硬くなっちゃうんで『パラサイト・イブ』を書いた作家さんと4人で対談する方式で1時間の番組だったんだけど、サイトカインストームがどうして起きるかというメカニズムの解明の話をしてるんですね、アメリカの細菌学者が。
 コロナウイルスが体に入ると、鼻腔と口腔で一番最初に闘いに行くのが免疫細胞の樹状細胞とマクロファージですが、負けそうになるとこの子たちが、下気道と肺にいる、俗にいう白血球、好食リンパ球とB細胞、T細胞が迎え撃つために、この子たちがインターロイキンというメッセンジャー物質を出すんですよ。サイトカインのひとつですね。
 ところがコロナウイルスはメカニズムは判ってないけれども、このインターロイキンを出させなくする。情報をもらっていない子たちの所に突然来るわけです。だから自覚症状がない、普通風邪だったら鼻水が出たり、のどがイガイガするじゃないですか。ここ素通りで行くんですね。で、こんど下の子ね、下気道とか肺で闘う子たちが情報なしに敵がくるんで、びっくりしちゃってインターフェロンを大量に発生しちゃうんです。それで免疫暴走、サイトカインストームを起こして重症化するというメカニズムですね。
 最初の免疫は自然免疫ですね。抗体で出るのはIgAなんで、抗体検査したってここで勝っちゃった人は抗体が出ない。獲得免疫持ってませんから、IgMもIgGも出ない。・・・」(YouTubeからの文字起こし筆者)

 と、平野氏の専門的な論文とはまた違って、われわれ素人にも直感的に解りやすい表現になっている。皆さんはどうだろうか。

 新型コロナウイルスは、見方によっては単なる風邪のウイルスという言い方もできるが、細胞の免疫機能を破壊し、その働きを妨げるという側面を併せ持っている点で単なる風邪コロナウイルスとは異なっているようである。
 自然免疫が十分強く、こうした新型コロナウイルスを初期段階で撃退できる若者や、あるいは老人でも免疫力の強い人たちには単なる風邪で済んでしまうのだが、高齢でまたは基礎疾患などがあり自然免疫力が弱く、ここを突破されると、獲得免疫が働き始めるよりも先に、サイトカインストームという免疫暴走症状を起こして重症化や重篤化をひき起こす。
 これは以前専門家が言っていたことであるが、新型コロナウイルスは、やはり厄介なかつ悪意のある”よくできた”ウイルスなのだという表現に妙に納得するのである。
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