ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

Whisper Not Ⅲ

2015-01-19 02:12:36 | Weblog
この曲のトナリティーの特徴はマイナーキーが5度ずつ上行していくところだ。それぞれピボットになるマイナーのコードを挟んでいる。アナライズにはそんなに時間はかからない。ここで物理的な問題ではない「3度」について考えてみよう。12音で音楽をやっている以上、コードの3度音が長3度か短3度かは大きな問題だ。音楽のおおきな分かれ道でもある。でも音楽のいわゆる「ルール」にはその理由がありそれを理解すれば、へんな言い方だけどそれを逆手に取ることもできる。禁則とされる連続8度や連続5度も特定の声部が強調されて全体のバランスがくずれるのがその理由だと分かれば、それを逆利用して並行和声を増強したりもできるのだ。コードの3度音にも同じようなことが言える。メジャーなのかマイナーなのかはっきりしないじゃないか、コードの性質を明確に打ち出すのがアカデミズムの基本姿勢だ、というのがルールだ。(この場合サスペンションの技法について言うつもりはないので・・・。)しかしこの論理を裏返せばコードの性質をはっきりさせないのも音楽表現のひとつの選択肢でもあるのだ。優柔不断な音楽を表現したければ3度を除外すればいい。どっちつかずというのは悪いことばかりではない。動きが軽くなる。もちろん音楽に奇をてらうのは禁物だ。この曲のように明確なコード進行が音楽の根幹をになっている曲に無理やりそういう主張を放り込むのはちょっとセンスが悪い気もするが、常に音楽にはもっと自由な発想があることを頭にいれておくとインプロヴィゼーションの質も変わってくる。