ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

My Man’s Gone Now

2014-04-14 01:58:52 | Weblog
1935年George Gershwin のオペラ「Porgy&Bess」の中のアリアだ。歌詞はDuBose Heywardが書いている。この曲はもちろんジャズスタンダードとなることを意図して書かれたものではない。ガーシュウィンはいろんな目的を持って曲を書いている。プロの作曲家としては当然のことだ。しかし、この曲がジャズミュージシャンの耳の止まってインプロヴィゼーションを前提とするジャズチューンになることは想像していなかったと思う。この曲がいわゆる「ジャズ」の要素を受け入れられる楽曲であることはジャズミュージシャンの直感で見抜かれたことなのだ。ジャズの演奏に使うためには、まずこの曲の形式、和声を変えなければいけない。でもどんなにいろいろ手を加えてもこの楽曲の持つインパクトは薄れない。強烈な主張を持った曲、そしてガーシュウィンはそういう作曲家なのだ。ペンタトニックの強い旋律と間に入る半音階的な大きな旋律、このふたつしかない。しかしそこから放たれる空気感は、世の作曲家たちが羨望するガーシュウィンの才能そのものだ。ガーシュウィンは大した音楽教育は受けていない。それはプロの作曲家になってからも彼の中に劣等感となって残っていた。第二次世界大戦中、アメリカに移り住んだヨーロッパの音楽のマエストロたち、シェーンベルグやストラヴィンスキーらとの間で起きたガーシュウィンの逸話はほほえましかったり、ちょっと悲しかったりするけど、音楽教育の本当の難しさを感じさせるものでもある。ガーシュウィンが音楽の英才教育を受けジュリアードを出ていたら、この曲を書けたかどうか?誰にもわからない。

サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード
ユニバーサルクラシック
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