この曲の6小節目、コードはE7THでメロディーがFからE♭に下がってまたFにもどる部分がある。ここは普通はE♭ではなくてEだ。モンクにどんな意図というか閃きがあったのだろう?E♭を弾こうとするとちょっとヴォイシングを考えなければならない。でもこの曲に馴染み、モンクの演奏を何度も聞いていると、E♭でないと物足りなくなってくる。♯や♭を間違えたりという初歩的なミスは論外だけど、こういうケースや前打音、装飾音符では全音か半音か迷ったりどちらでもよかったりすることがある。全音か半音かという問題はもちろん12音平均律があっての話だ。半音は今の音楽組織の中では音程を判別する最小単位だ。もちろん人間はもっと小さな音程も聞き分けられる。でも音楽構造の一部分としてはこれ以上細かいのは扱いづらいのだ。ボーカルや音程を耳だけで聞き分ける弦楽器などではもっと細かい音程を感じて演奏したりもしている。逆にすごくアバウトになって全音か半音か分からないような歌いかたをするひともいる。まあそれでも音楽が良ければ許される。名演奏、名歌唱とされる。でも鍵盤楽器はそうはいかない。はっきりどちらかを弾かなければいけない。半音階主義とでもいうような音楽はじつはとても古く紀元前のギリシャに存在していたと本で読んだことがある。こういうちいさな音程を音楽に取り入れる発想はずいぶん昔からあったのだ。でも2度を全音と半音にはっきり区別するというのは12音が確立されてからだ。ピアノという楽器はいわば12音平均律の申し子で、モンクの音楽はある意味完全な「ピアノ音楽」だ。それはモンクが本当のピアニストであるからで、ピアノを通してモンクの歌を表現しているのだ。それにしてもここの全音は不思議だ。???