猫に鈴をつけるのは誰だ…１２

沢田さんは酔っていました。お酒じゃあありませんよ(笑)
いわゆる陶酔でしょうか(笑) 地方の高校を出て二十数年…憧れの京都に就職を決めて希望に胸を膨らませていたあのころ天にも昇る気持ちは既に色褪せてしまい鴨川に流していました。
観光都市、京都はすべての地方人を見た目ほど容易に受け入れてはくれません。
遷都以来あらゆる軍事勢力がこの王城の地に侵出してきた経緯を身をもって体験していた京都人は地方人に気を許すことはないでしょう。 それは歴史が雄弁に語っています。 故に地方人は同じような境遇の地方人としか交わません。
京都人には自尊心と虚栄心(見栄です)表と裏が同居しています。
耳障りのよい言葉につい気を許してもそれはお愛想でしかありません。 それに気づいたとき沢田さんは三十路も半ばを越えていました。
今日この場に二人の管理職がいます。
加藤課長は関東出身、河田部長は関西の地方出身でした。

うるさい上司と揶揄されていても今の二人はかわいいものでした。
(今この人たちは私に平伏している)
私のアドバイスを待っている!!
たかが田舎の高校卒のOLに頭を下げて教えを乞う姿を見て沢田さんは陶酔していたのでした。

「沢田さん」
河田部長は焦れて声をかけました。
「ええ」沢田さんは我に還りました。
そうか…私はまだこの迷える子羊さんに教示を与えていなかったのか(笑)
河田部長と加藤課長は沢田さんの口許を見守っています。唇が動けば一言一句逃さず聞くつもりです。

給湯室に沈黙が流れます。
事務所のざわめきが遠く聞こえてきますが、ここはまるで別世界です。
静寂を破ったのは、沢田さんでした。

これ以上焦らせては怒られてしまうでしょう…