鬼の目にも泪…１４

一時間あまりの訪問を終えて鬼塚専務は車に乗られました。(この敬語これでいいのかなぁ…)
この場合お客様の玄関先から出ますが、無論お見送りがあります。これが結構難しいのですが…
私は駐車場所で待機しています。
「そろそろ時間かな…」となると玄関が見えるところまで車を進めます。
そしていつ出てこられてもいいようじっと玄関を見張っていますが…
ただただ見ているだけはほんと疲れます(苦笑)
ちょっと目を離した瞬間に玄関に出ていることもありました！
お得意先だけに玄関前で待機できないためですが、このあたりは大変気を使いますね。
でもこれにはコツがありまして… よく見ていると玄関のガラス越しにチラチラ人影が見え出します。
それを合図に私はゆっくりと車を進めます。距離にして四五メートルでしょうね…
じわじわ進んで行くのと鬼塚専務が出てこられるのとバッチリのタイミング になるのがベストです。ちょうど一言なにか喋っておられる時にスーっと車を前に着けます。

スーですよ(笑)音もなく然(さ)り気無く…です♪ ドアを開けるのは お得意先の方です♪私は車の中にいます…
お見送りの役員の秘書さんか、担当者の部長あたりですが、
鬼塚専務もいつもみたいに「おぅ…」とも言えず「どうも…」そんな感じかな♪
とにかく乗り込まれたら窓を開いてあいさつをしているのが済んだころ車を出します。
スーっとです♪
この車を出すタイミングが中々難しいのですよ～
はやいとあいさつが途中切れになりますし、遅いと変な間が漂います(笑) 遅くなく 早くなく おまけに後ろを振り向かずに…です♪
こんなビミョーなタイミングで車を出すのです～(笑)
そのあとお見送りを尻目に敷地内を静かに進めますが、ほんと歩くくらいのスピードで守衛さんがいる門までいきますが、ここも徐行で通りすぎます。最後に守衛さんの最敬礼を受けながら 軽く会釈(えしゃく)して脱出です(笑) こうして書いてみて
ビミョーなニァンスが伝わりましたか？
とにかく外に出るとホッ一息…一段落です！
さて！話を戻しましょう…♪♪
私たちは(鬼塚専務と窓田本部長)来た道を戻ります。
次は工場です。
得意先の訪問を終われば窓田本部長はここまでです。
近くの駅で窓田本部長を降ろすと遂に鬼塚専務と二人っきり(笑)ですね…
私には新たな緊張が走りました。
しかしそれも危惧になりました。鬼塚専務はいつもの昼寝タイムに入られたのか全く気配がありません…
直ぐに軽いいびきが聞こえてきて私は又々一息でした(笑)
私の仕事は緊張と一息をつくの繰り返しでした(笑)

工場まで約３０分です。ゆっくりお休みくださいね♪

私は座り直すと慎重にハンドルを切りました…

鬼の目にも泪…１３

私にはさっぱり理解できません…
怒っているようで、いないようで…(笑)
一方の窓田本部長の様子は完全なグロッキー状態なのですが…
この時間阪高(阪神高速道路)は空いていました。 ここも市内を走る関係か両側が壁になっています。
だから大阪市内を一望とはいきません
「今日はえらく空いているなぁ…」
鬼塚専務の独り言みたいです(笑) が…
私は聞こえていない振りをしながら運転に集中していました。
「なぁ…！」
「は、はい(汗)」
いきなり振られて慌てました。
催促ですね(苦笑)
「どれくらいで着くんだ!?」
語気からしてご機嫌斜めですよ(苦笑)
「はい、あと１０分くらいです！」
私は端的に短く答えました。
「…」
「あれ…？」
聞けば必ず「あ…そう」とか「早いなぁ…」など何らかしら返事をされるのですが無言です…
まさか聞こえなかった訳じゃあないでしょう!?
私はちょっぴり不安になりました。
車は順調に進んでいます。この分ではもっと早く着くかも知れません。
私は不安からお尻がムズムズなってきました… (これは私の癖？みたいです…)
「おい、もう着くぞ、」鬼塚専務は横の窓田本部長を突っつくような言い方ですね…
「はい…」
何だか頼りない返事をしますが、もうちょっと元気だしなよ!!
私は自分の弱気を忘れて窓田本部長の弱腰を叱咤していました。

車はすぐに阪高を降りました。
降りて下道は僅か数キロですからあっと言う間にお得意先に到着です。
何度も来ている場所で私はいつも通り玄関の守衛さんにお辞儀をしながら入ります。
相手先はお客様でもこちらは専務であります。(ゴホン！)
守衛さんは窓口から出ていて直立不動最敬礼で私たちを迎えてくださいます。
この感触が堪らなく好きで私でなくとも癖になりそうなくらいですよ。
玄関には担当者…たぶん部長クラスがうちの専務を出迎えに出ています。
この辺りは慣習なのでしょうか…
お得意先がこちらを出迎えるのは…
私は最初面食らいましたがね(笑)
場合に依っては相手先の役員さんが出迎えてくる時すらありますから…
ビジネスとは関係なく重役、役員ともなればどこまでいっても役員なのですね(羨望)

こうして鬼塚専務の訪問は一時間程度で終わりました。
…役員の面談は大体一時間 で終わります。 話の内容はわかりませんが(笑) 大筋を決める場合が多いのではないでしょうか。
又単にゴルフや飲みにいきましょう…などお遊びの話題が八割だとも噂されています(笑)
会談が一時間だと私たち運転士は守衛さんから指示された駐車場所で待機をします。
一時間… この長くて短い時間のあいだ私は何をしているのでしょうか？
まず私の場合一番にタバコを吸います。次に飲物補給ですね(笑)
入れたら出す…トイレも重要な事柄です。
あとは売店でブラブラしたりと…私は割りと気楽にしていますが、この中で実は厳守のことがありました…
タバコですよ…
近頃タバコは公的な場所では禁煙が当たり前になっています。
だからお得意先の駐車場所でタバコを吸うのは言語道断でありますが、守衛さんは見て見ぬ振りで(笑)それでも私はこっそりわからないようにしてタバコを吸っています(苦笑)
売店は探さなくてはなりません。大体どんな会社でもありますね。 食堂と併設してある場合もありますし、ここみたいに売店だけのところも珍しくありません。
売店と言いましても会社内ですから、コンビニエンスみたいな調子にはなりません。
お菓子(スナック菓子)や缶ジュースにパンが少々かな…
あとはガムやスルメにソーセージがあります。何だか変な取り合わせですが…そうそうアルコール類はさすがにありませんでした(笑) スルメやソーセージがあるのでビールくらいあるのかな…!!と酒好きの私は思いましたが(笑)

鬼の目にも泪…１２

新御堂筋の 渋滞を抜け出ると、国一(こくいち)です。 要するに国道1号線ですが、始発は東京日本橋からはるばるきてここ大阪の梅田新道が終点になります。
さすがに日本の一番の幹線道路ですね…
因みにこの先は二国(にこく)になります。
…国道2号線(神戸から山陽に走ります)ですが、これなぜか反対に呼ぶんですね…
国一(こくいち)…二国(にこく)！ですから(笑)
たぶん聞き間違いを無くすためでしょうか？ここらあたりが関西人の合理性がわかると言うものですね…

さて国一に出た私は直ぐに阪高(阪神高速道路因みに名高は名古屋高速道路です)に乗るため右側に寄りました。
目の前二百メートル ほど先に入り口がありますから…
信号待ちの時でした。 後ろから窓田本部長が突然口を開きました。
「高速が混んでいたから下に降りたの？」
「はぁ～？これから乗るのですが…」
前の信号が生憎青に換わった時でした。
慌てましたね(笑)
今から阪高(阪神高速道路)に乗るために信号待ちしているのですよ(笑) それを高速から降りた…とは(笑)
一体全体…このおっさん(笑)は何を言うてるのか…
信号は変わりましたが、じりじり進むだけで一編に高速の入り口まで行けません。
二台目で止まると今窓田本部長の訊いた意味がわかりましたよ。
さっき走っていた新御堂筋を高速道路と勘違いしていることを(笑)
確かにあの道路は信号がありませんし、高架になっています…
けど料金所もありませんし、スピードだって６０キロ制限になっています。
そう言えばこのおっさん…いえいえ!?この窓田本部長は海外赴任が長かったらしいのですが…
それにしても大阪の新御堂筋を知らないなんて(笑) 私は呆れるより馬鹿馬鹿しくなりました。
窓田本部長はなにか釈然としない顔でいましたが、
そのとき鬼塚専務がムクムクと目覚められました(笑)
「ああ…ここどこ？」「はい、阪神高速の入り口まで来ています」「ああ…そう」
鬼塚専務は背広を探ってタバコを取り出します。
この方は超がつくヘビースモーカーでした(笑)
カチッ！カチッ！ライダーの音がしますと、車内にタバコの香りがなびいてきます…
「はぁ～」私は内緒で深呼吸しました。
実は私も愛煙家でありまして(笑)人の吸っている紫煙を意地汚く吸い込むくらいのヘビースモーカーでした(笑)…無論私たち運転士は勤務中は絶対禁煙であります。
鬼塚専務は旨そうに紫煙を吐き出すと、「まぁ頑張れよ…」
窓田本部長に言われたのでしょうが、私はビクッとしました。
依然私たちの仲間がクビななったおりにやはり鬼塚専務から「まぁ次頑張れよ…」と声を掛けられたそうで、この話しはあくまでも噂の域を出ませんが、この世界ではこんな声のかけられ方をすると要注意でありました…(苦笑)
「はい」
窓田本部長は小さく返事をしましたが、あとは無言です。
鬼塚専務も無言です… 車内に又々味の悪い無言劇が始まりました…

鬼の目にも泪…１０

それで… 昨日だいぶん逸れた話を戻しましょうか(笑)
窓田本部長…国内営業本部の本部長ですが、肩書きに似つかず小心者でした。
大体が専務にちょっと叱られただけで、しゅん太郎じゃあたかが知れていますね。
私は内心笑っていました。
車は予定されている大阪市内のお得意先に向かいます。
まず駅の構内を半周して新御堂筋に入ります。この道路は自動車専用道路です。北の箕面市から大阪市の玄関口の梅田まで真っ直ぐ延びている幹線道路です。 朝晩の通勤時間帯はまず渋滞になりますが、この新御堂筋には信号がありません…だからどうして渋滞になるのか、先頭はどうしているのか？昔の漫才のネタじゃあないですが確かめてみたいものです(笑)それでも間の時間帯はスムーズですんなり走れば１０分くらいで梅田まで行けます。
新御堂筋はほとんど高架式の道路になっていますがその先にある阪神高速道路に乗るため途中で降りました。

鬼の目にも泪…１１

今回は随分寄り道してしまいました(苦笑)
さて窓田本部長と鬼塚専務は車内でも黙り込んでいました。時おり鬼塚専務の空咳があるだけです(苦笑)
こんな場合(滅多にありませんが…)私はシーンとした雰囲気を我慢して運転に集中することにします。
道路は新御堂筋に入ります。
道路は空いていますがその分飛ばし屋がいます。 荒っぽい車に巻き添えを喰わされないゆう注意を払いながら進めますが、淀川を越えて急に混み始めてきました。
この辺りから多少渋滞を覚悟していましたが、ちょっと早めでした。 渋滞は仕方ないのですが、今日は専務のご様子が違いました…「不味いなぁ(まず)…」私はハザードを点けて後ろからの追突を用心しながらそっと専務の様子を窺(うかが)いました。
「…」「？」「〓…〓…」「！」(笑)
分かりにくくてすみません♪
小さな寝息を立てているのは鬼塚専務です(笑)
乗車されて１０分くらいでしょうか… (微笑)
スヤスヤ…とは言いがたいのですが(笑)眠っていらっしゃるのは間違いありませんな♪
そうなんですよ♪
この方は実に切り替えるのがお上手と言いますか、情況に即した対応力があるようで、特にお一人の時はまずお昼寝になります。
そしてこれが不思議な事に到着間際になると、ひとりでにムックリと起きるのですよ(笑) これは一種の特技といってもよいのではないでしょうか…

とにかく不穏な空気と思い違いをしていた私は苦笑いをしながらもやれやれ…の心境でした。
道路(新御堂筋)をノロノロ進みようやく最終降り口まづきました。 この道路は前にお話をしましたが、自動車専用道路でした。