寝転がって気ままに想う事

 世の中ってこんなもんです・・
面白可笑しくお喋りをしましょうか ^^

役員の憂慮(13)

2010年10月30日 11時35分09秒 | 日記
民宿富田屋の夕食は素朴なものでした。
岩魚(いわな)の焼き物、牛蒡と芋の煮物、法蓮草、水菜のお浸し、鹿肉の焼物、全ておばあさんの手作りでした。
『ねぇちょっとお酒頂きましょうか(笑)』
黙々と箸を進める円山本部長を横目に深雪は言いました。
『うん!俺は要らないけど君が飲んだら…』
『そうか貴方は飲めなかったのよね』
時が経ち経験を積み重ねてもアルコールは相変わらずでした。
『これがこの人の唯一の欠陥かも知れないわ…』
深雪はおはあさんに地酒があれば下さい♪と頼むと円山本部長のお茶碗にお茶を継ぎ足しました。
『あれ!お客さん鹿肉は食べないの』おばあさんは全く手を付けていない鹿肉の焼物を見て円山本部長をなじりました。
『これ鹿なの?』 『そうですよ』
『何か分からなかったんだよ』
『この辺りで採れた鹿ですよ』
『鹿肉はねぇ精を付けますよ(笑)』おばあさんは本気ともつかない冗談を言うとお酒の支度に戻りました。
『へぇ~精が付くんだって♪』
今度は円山本部長が覗くように深雪を見て言いました。 『嫌やわ♪』
耳まで赤く染めて 深雪はうつむきました。
二人は若い新婚の雰囲気を味わっていたのでしょうか(笑)
海外の高級リゾートホテルで分不相応な新婚旅行を満喫している♪ように…
そうですね(笑)
愛し合う二人には古びた民宿であろうと変わりない訳ですから…

ただしお風呂には閉口したはずですよ(笑)
狭くて一人分しか入れない浴槽でもちろんシャワーなんかありません(笑)『一緒に入ろうか』脳天気に誘う円山本部長に浴室を覗いた深雪は苦笑しました(笑)
『貴方が入ったら一体私はどこにはいればいいの?
『ここ空いているよ』円山本部長は狭い浴槽の片方に身体を寄せていますが!
『ありがとう(笑)』気持ちはわかるけどとても一緒には入れないわ(笑) 洗い場は大人一人分が座るだけでしたから…
『そうか…』ぐるりと見渡して残念そうに円山本部長は言いました。
『ごゆっくり♪』 そう声を掛けると深雪は部屋に戻ろうとしました。
『待ってよ!』
浴室から声を出した円山本部長は、 『良い方法があるから』なんなんだろう?深雪は覗いて見ました。
『ここ!ここ!』 円山本部長は大きな身体を浴槽に沈めて手招きをしています。
『ここって…』
浴槽には円山本部長がドップリと浸かっています。
『ここだよ(笑)』 『ここ?』そうです(笑)円山本部長は自分の身体の上を言うのです。
『あんた変態か』(笑) そう口にしかけましたが、円山本部長は本気みたいでした(笑)
『いいの?』
試して見ました。 『大丈夫だよ』
『ほんとにいいの』
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役員の憂慮(12)

2010年10月29日 11時28分14秒 | 日記
二人は揃って外へ出ました。
水色の空にハケで掃いたような雲が一面に拡がっていました。西の方が薄紅に染まりだしていて如何にも秋の夕暮れの風情です。
先ほど上がってきた広場には朱や紫の実を付けた樹木が寂しげに佇んでいます。
澄み切った空気を吸い込み円山本部長はすっかりリラックスした気分になりました。
『寂しさに宿を立ちいで眺めれば何処も同じ秋の夕暮れ…』
『どうしたんですか…』深雪は驚いた様子で聞きました。
『おかしいかな』 円山本部長は頭を掻き振り返りました。
『だって貴方がそんな俳句を口にするなんて…』
『俳句じゃあないよ!百人一首だよ(笑)』『そうなの…』
深雪はまじまじと顔を覗き込みました。
『いやぁうちの運転士に高村さんと言う人がいてあの人がこんなのをよく口にするからね』理科系の円山本部長は文系は苦手でした。それでも最近は数字では割り切れないカオスの世界を知り興味を持つようになりつつあるのでした。
『へぇそうなの(笑)』
深雪は少し安心しました。 無機質な技術系の円山本部長も少しは遊び部分が出来て来たのでしょうか。
以前の知ってかいた円山部長時代からいろいろな事を身に付けてきたようです。
…それは成長を悦喜ぶ反面、寂しさを覚える子供の成長を見守る母親の心情でしょうか… 深雪には永い間会えなかった時間(とき)を感じざるを得ませんでした。
『ここはほんと何もないんだね(笑)』深雪の揺れる心も知らずに円山本部長は呑気に歩いていました。
『そうね…』確かに心が荒んでいた円山本部長には絶好のリハビリでした。 ふだん人工的な空間に囲まれた生活とは全然違った世界です。
広場は展望台みたいにグルリと見渡せました。『あっちが和歌山よ』深雪が指差す方向には青く霞んだ山々が連なってありました。
『フーンじゃあ大阪はこっちかな』 やや右手の方角を円山本部長は見ていました。
『そうね(笑)』
深雪が笑ったのはその方角にも同じような山々が横たわっていました。 この辺りは紀伊山地の真ん中に当たります。
『こっちから日の出があるのよ』
深雪が何かを探すような仕草を見て 円山本部長は
『明日早起きして拝まなくっちゃあ』
『ええ!きっときれいな日の出よ』 日本晴れの夕暮れは明日も快晴になるに違いないでしょう。
『上に上がろうか』広場をブラブラ歩いて小さな小道を見つけたのでした。四五メートル上まで登れる階段が続いています。 『怖いわ』深雪が言うと円山本部長は手を差し延べました。
『ありがとう』深雪の手は華奢でスベスベしていました。
ああこの感触…お互い握りあった手のひら温もりが永い時の狭間を結び付けました。
明るくはしゃぐ深雪を眩しい物でも見るように円山本部長は眺めていました。
階段を上り切ると小さな地蔵さんがありました。
『こんなところにどうしてあるんだろう。』
『それは道祖神でしょ』
円山本部長の横に並んで深雪は説明しました。
『どうそしん?』 『ええこの辺りを守る神様よ』
分かりやすい説明に円山本部長は頷きました。
『じゃあ僕達もお参りしょう』
『ええ』
二人は肩を並べて手を合わせました。
円山本部長に寄り添うように深雪は手を合わせています。
その横顔に若い時とは違った肌の変化に円山本部長は気が付きました。『えっ』深雪は気がついたのか照れ笑いを浮かべて立ち上がろうとしました。
その瞬間深雪の身体を武骨な腕が覆いました。
『!』
しゃがんだまま円山本部長は抱き締めていました。
もう二人に言葉は要りません。
忙しなくお互いを確かめるように抱擁を交わしました。静寂が周りを包み込んで遠く山々が夕日に染まりだしていました…
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役員の憂慮(11)

2010年10月28日 09時32分24秒 | 日記
『どうぞお入り下さい』
おばあさんが愛想笑いしながら手招きしています。
バスにいるときとはえらく違うなぁ 苦笑いして円山本部長は玄関の敷居を跨ぎました。
三和土(たたき)には女物の靴が一足行儀良く置かれていました。
『お客さん上がって真直ぐ行ったお部屋ですから…』 おばあさんの声だけの案内を背中で聞いて円山本部長は靴を脱ぎました。家の中は昔ながらの建具を使っています。古い座敷を通り縁側の廊下を渡ると離れ座敷になっていました。
こんな古家に離れがあるなんて…
なんか隠れ旅行のイメージが湧いて来た円山本部長はワクワクしながら離れの扉を開きました。
中は思った通り和室でした。八畳の落ち着いた座敷風に作られていました。
右手に広い窓がこしらえてあります。 その先に深雪が座っていました。麻色のスーツを着込んで如何にも清楚なイメージを醸し出していました。
『深雪…』声を掛けようとした円山本部長はハッとしました。窓から外を眺めていた姿があまりにも神々しく近寄りがたい雰囲気があったからでした。深雪は目を閉じているのか瞑想の境地にあるようで他人ではない関係の円山本部長でさえ近寄りがたいほどでした。ミシッ畳の軋む音で気がついたのか慌てながら深雪は顔を上げました。 円山本部長を見つけるとニコッと微笑んで頭を下げました。
『やあ!久し振りやね』笑顔で円山本部長も返しました。
『ほんとお久し振りですね(笑)』
そう言いながら円山本部長の顔をまじまじと眺めて
『思ったよりもお元気そうですね』
『うん、君の顔を見たら元気になったよ』笑いながら円山本部長は座敷の真ん中にある座卓の前にドカッと座りました。 『あらそこじゃあないですよ』深雪は笑いながら膝を進めて床柱の方を指しました。
『あっ!そうか』確かに、ここのお客なら床柱のある上座に座るのが普通でした。
でもそんな形式張ったことは円山本部長の一番苦手なところでもありました(笑)
『…んなこといいじゃあないかよ』円山本部長はそれよりも深雪が側に来るように手招きしました。
『えっ』分からない振りをして深雪は笑いました。
笑顔があい変わらずのチャーミングな姿は普段の修験者とは違う顔でした。…と言いましても修行の姿は見た事ありませんが(笑) きっと厳しい修行なんだろう…いくら想像しても円山本部長とは住む世界が違いました。
『失礼します』声を掛けて扉が開きました。
先程のおばあさんがお辞儀をしながら入ってきました。
『これお茶です』 円いお盆に茶碗が二つ…
そうか♪おばあちゃんが来るからか…深雪がこっちに来ない訳が分かりました。
『あの…食事は七時ですが、先にお風呂に入られますか?』
そうだった、ここは宿屋なんだよ。 深雪に気を取られていた円山本部長は時計を見ました。
深雪の方を伺うと貴方に任せます… と言う顔♪
『じゃあ少しその辺りをぶらぶらして来ますから』
『分かりました』 『この辺りは何もないけれど景色はいいからね…』
おばあさんが愛想良く頷くと下がって行きました。
『あのばあさん俺達のことどう思っているんだろうね』二人きりになって照れもあった円山本部長はおばあさんを冷やかしました。
『何言ってるのよ』クスクス笑いながら深雪はお茶椀に手を掛けていました。
深雪から微かに香水の香りが円山本部長の鼻をくすぐってきました。
ショートカットの髪が直ぐ横まであります。(当たり前だろ)
『ほんと久し振りだね…』
しみじみ円山本部長は呟きました。 『ええ…』素直に深雪も頷きます。 二人にはいつも一緒には居られない 運命にありました。(八月の無くしたリング参照して下さい)
『俺なぁ…』
何から話そうと円山本部長は考えました。その躊躇した時 、
『私貴方がどうしようと追いて行きます』
いきなり結論ですよ(笑)
円山本部長は改めて深雪の顔を見詰めました。
この女何もかも知って居ながらそれでも俺に追いてくるのか…
ここまで信頼してくれる根拠は何なんだろう。
理科系らしく理論的に解釈したいのですが、事女についてはお手上げでした(笑)
これが『愛』なんだろうなぁ…
理論を超えた愛情を円山本部長は何となく理解しようとしました…『考えこんじゃあ、あかんわ(笑)』
*あかん…関西言葉です。だめよ、の意味です(笑)深雪は円山本部長の心を知っていて明るく振る舞います。
『そうだね…』深雪の振る舞いに悩んでいた自分が恥ずかしくなりました。
『ねぇ散歩に行きましょうよ』
以前の深雪にはない積極性がここにはありました。
『そうやね』頷くと円山本部長は立ち上がりました。 外は日暮れにはまだ間がありそうでした…
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役員の憂慮(10)

2010年10月27日 08時36分20秒 | 日記
円山本部長は愛人の山本深雪さんのテレパシ―に導かれて山深い鄙びた民宿を目指しました。山道を歩き続けようやく民宿を見つけたのでした。人二人が並んで通れるくらいの狭い石段をゆっくりと登りました。 二十段の石段は所々崩れ落ちて山土が覗きだしていました。
登り切ると結構な広場が現れてきました。その先に民宿はありました。 民宿というより民家でしょうか。
入母屋型の古風な建ち前でした。
全体を見渡すと山の中腹を削り取った跡地に建っているようです。
『ふう~』一息入れて円山本部長は 入母屋造りの玄関を目で探しました。良く見れば古風な建物でもどことなく気品が漂っているのは整然とした雰囲気のせいでしょうか。それとも深雪が案内してくれた宿屋からでしょうか。
兎に角円山本部長はこの古風な宿屋が気に入りました。『これで紅葉の時期ならもっと良かったね』
苔と雑草の茂る広場?庭かも(笑)を横切りながら玄関に歩いて行きました(笑)
『こんにちは♪』円山本部長は広場を横切りながら声を掛けました。 黙っているとあまりにも辺りが静かすぎたのですが… 果たして誰もいる様子がありません。軒下には小さな『富田屋』の表札がありました。
『あぁやっぱりここだ』表札を確かめた円山本部長はやれやれでした。 …しかし人の気配がありません。 『こんにちは』
円山本部長は中に向かってもう一度声を掛けました。 『は~い』
しばらくして横手から返事がありました。
それは思わぬ方角から聞こえてきました。 円山本部長が声のする方に目をやるとそこにはおばあさんが立っていました。
『あれっ』
見た顔だぞ。
そうです。バスに一緒に乗っていたおばあさんでした。
『お客さん円山さんと言うんだろ…』
『えっ!どうして名前を…』たじろいだ円山本部長をジロジロ見ながら『予約したのはあんたじゃあないのかね…』
おばあさんは言いますが、直ぐにピンと来たのです。 …そうか深雪が予約を取っていてくれたんだ…
『あの連れが来ていませんか』円山本部長は深雪が来ている気がしました。
『あぁ来ていなさるよ』
やっぱり深雪だ♪ 円山本部長は胸が踊るような気分になりました。
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役員の憂慮(9)

2010年10月26日 07時28分05秒 | 日記
山本深雪さんのテレパシ―を受けて山の中にある村にたどり着きました。ここまでは来たけれど果たして何処へ行けば良いのか途方に暮れていますと『富田屋はこっちだよ』とバスの運転手が指を指しました。
見れば鬱蒼と茂る山道が口を開けていました。
向こうをのぞき込むが先が判りません。 『どうしょう…』 円山本部長は迷いました。
『お客さん大丈夫だよ!』
運転手が手を振りながら歩いて行け、と身振りをします。
『あの~とみだやがあるんですか?』
『そうだよ、しばらく歩けば見えるよ』人の良さそうな運転手が言います。
周りには古びた民家がパラパラとあるだけでした。
そうか深雪は富田屋を指しているんだな♪
富田屋はたぶん民宿かなんかだろうか? 日もまもなく暮れるはずだし…
『ありがとう…』 円山本部長はそう判断して運転手に礼を言うと山道へ向かいました。洞窟みたいな山道は 上から杉や檜が茂っていて日光も遮るほどです。
『確か暗夜行路てあったよなぁ…』 それほど太陽を遮って薄暗い山道でした。道幅は3メートル位の林道なのでしょうか途中出合う人さえありません。半時程歩いたとき急に目の前が開けてきました。
ちょうど小高い山の中腹当たりに出ました。
眼下にはなだらかな山裾に野原がいっぱいに広がっていました。その真ん中に沿って小道が付いています。
『道を間違ったかなぁ』思案げに見渡しますが富田屋の看板どころか人家さえありません。
『ふぅ~』溜息をついた円山本部長は道端に腰を下ろしました。
『キキキ~』鋭い鳴き声に振り替えると百舌の鳴き声と分かりました。
『あれ♪』
見上げてみれば、小振りな民家がありました。
『そうか♪』
見晴らしの良い下の方ばかり見ていたので気がつかなかったのでした。その建屋は十メートルほど上にありました。
白っぽい屋根が林の中にチラッと覗いていました。
『あれか…』
他にはなにも見当たりません。
山の中腹にへばり付くようにその民家?はぽつりとありました。
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