猫に鈴をつけるのは誰か…11

「うわ～」
河田部長が叫びました。
「時間がない」
沢田さんの話しに聞き入っているうちにもうこんな時間です(笑)
月次会議が迫っていました。
６階の事務所はだだっ広く仕切りなしであります。
その内の総務は入り口から近い一角を与えられていました。三人(河田部長、加藤課長、沢田さん)は総務の奥にある給湯室の前で話し込んでいました。
話し好きな沢田さん(笑)、二人の管理職相手に色々諭しますが、二人は差し迫った暴風みたいな専務の怒りをかわすための即効性を求めていました。
どうして沢田さんだけ、ああも専務と対等に出来るのかなぁ？
唯一社内で鬼塚専務に馴れ馴れしくできる人 でしょうか。
河田部長は思っていました。
(あんなに仲良くならないまでも普通にしてほしいなぁ)(笑)
情けないような話ですが、実際鬼塚専務の怒った姿は正に大魔人の姿でした。

怒り狂う大魔人から逃げまどい踏み潰される悪代官(笑)…それが河田部長でした。
としますと沢田さんは？
悪代官からいじめられる善良な農民でしょうね(笑)
沢田さんは哀願する河田部長にそっとアドバイスをしました。

「いいですか、この事は専務はもちろんほかの人にもしゃべっちゃあだめですよ」
二人は黙ってうなずきます。
全員が知れば裏技が裏技で無くなるからでしょう。

沢田さんは小首をかしげながらカールの利いた髪に手をやり微笑みました。
ところで 加藤課長や河田部長は他の管理職に比べて煩方(うるさがた)で通っていました。 同僚や近直の上司からも一目置かれた存在です。
それが私にはなんと従順な事でしょう(笑) これは専務と言う猫に鈴をつけたからでしょうか。
ネズミは猫が大敵です。 ネズミより遥かに大きな猫にネズミは全く敵いません。
猫は大きな身体に似合わず軽快かつ巧妙にネズミに忍び寄り あっ！と気がついた時には猫の歯牙にかかっています。
ネズミたちは考えました。 あの狡猾な猫から身を守る術をです。
一生懸命考えて思い付いたのが、猫の首に鈴をつけることでした。 猫は身体に似合わずしなやかで忍び足で近寄ります。
それを鈴の音で早めに猫が来たことを知ろうとしたのでした。
鈴の音を聞けばネズミは直ぐに逃げることができます。
「こりゃいいや!!」
「これでもう猫から逃れられるぞ」
ネズミたちは大喜びしました。
… でみんなが喜び騒いだあと一匹のネズミは言い出しました。
「それで誰が猫に鈴をつけるんだい!?」

「…」「…」「…」