まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

Q.倫理って生命や法律に関することですか?

2016-09-13 22:41:34 | 哲学・倫理学ファック
前回あまりうまく答えられなかった質問とちょっと似ているというか、
関連する質問なんですが、次のような質問をいただきました。

「Q.自分の中で倫理が生命や法律に関することだと思っているのですが、実際どうなのですか?」

うーん、質問者の語感というか個人的イメージにもとづく質問なのでちょっとお答えしづらいですし、
ご本人がどういう意味で質問をされているのかつかみにくい面もあるのですが、
とりあえず私なりの理解にもとづいて答えてみることにしましょう。
おそらくこの方は、倫理という語を生命や法律という語とともに耳にしたことが多いのでしょうね。
そのために倫理に対して、生命や法律と関係するものというイメージを抱いているのでしょう。
そのイメージそのものはそれほど間違っていないと思いますが、
倫理と生命との関係と、倫理と法律との関係は、それぞれ関係しているとはいっても、
関係の仕方が違いますので、そこらへんを説明してみることにしましょう。

倫理と法律との関係は、前回説明したとおりです。
倫理という言葉を広い意味で取るか、狭い意味で取るかによってちょっと変わってきますが、
いずれにせよ倫理も法律も人間社会のなかに生まれる決まり事やルールのことです。
広い意味での倫理 (=人間集団のルール) のなかに法律 (=強制力をもつルール) が含まれる、
というふうに考える場合と、
人間集団のなかに生まれるルールには、国家的強制力をもつ法律と、
そのような強制力をもたない狭い意味での倫理がある、というふうに考える場合とがありますが、
どちらの場合であっても、同じものの全体と部分、あるいは、同じものの部分と部分の関係です。
他に日本語でいい例が思い浮かばないので英語の例を出しますが、
man と woman との関係みたいなものだと言えばわかってもらえるでしょうか?
英語の man には広い意味 (=人間) と狭い意味 (=男) があるので、
man (=人間) のなかに woman (=女) が含まれると言ってもいいですし、
humankind (=人類) のなかに man (=男) と woman (=女) が含まれると言ってもよくて、
いずれにせよ man も woman も人類であることに変わりはないわけです。
そういう意味で倫理と法律との関係は、man と woman との関係みたいなものなわけです。
これでわかってもらえましたか?
これって適切な例になっていたでしょうか?

それに比べると、倫理と生命はそういう関係ではないということはおわかりいただけるでしょうか。
同じもの、似たものどうしの関係ではありません。
倫理というのは、先ほども述べたように、人間集団のなかに生まれる決まり事やルールのことです。
そして、人間はさまざまな事柄に関して決まり事やルールを作ってきました。
例えば、世界中には食に関するルールがいろいろあります。
食事の前にお祈りやあいさつ (「いただきます」) をしなければいけないとか、
食べ物を手で直接つかんではいけないとか、あるいは手で直接食べていいけど左手はダメとか、
食べる時に音を立ててはいけないとか、基本ダメだけど麺類は音を立ててもいいとか、
豚を食べちゃいけないとか牛を食べちゃいけないとか、それはもう無限にあります。
それらは食に関するルール、つまり食倫理ということになります。
その他にも、人間関係に関する決まり事や、自然環境の守り方に関する環境倫理、
仕事に関する職業倫理 (医療倫理はそのうちの一種) などなど、
人間が活動するさまざまな分野やテーマに関して倫理が存在します。

そのなかでも特に重要なものとして、生命をどう扱ったらよいかという問題があります。
まずは、他人の生命に対して何をしてよくて、何をしてはいけないのか、
(一般的に殺人はよくないとされていますが、では中絶は? 安楽死は? 脳死臓器移植は?)
続いて、他の動物の生命に対して何をしてよくて、何をしてはいけないのか、
さらには、バイオテクノロジー (生命技術) の発達によって遺伝子操作が可能になりましたが、
その場合にさまざまな種類の生命に対してどんな操作を加えていいのかいけないのか、等々。
このような生命の扱い方に関するルールが生命倫理です。
つまり、生命というのは倫理 (ルール) が必要とされる重要な一分野なわけです。
とりわけ近年の科学技術や医療技術の進展によって、
人類史上まったく考えられてこなかった新しい問題が生命をめぐって生じてきていますので、
現代において生命倫理というのは早急に解決すべきだけれども、
ひじょうに困難かつ複雑な課題に直面させられていて、
教科書やニュースなどでも頻繁に取り上げられています。
なので、倫理と聞くと生命というキーワードが一緒に思い浮かんできたのでしょう。

しかしながら、生命というのは倫理が扱う広範で多様なテーマのうちのひとつにすぎませんので、
いくら大事なテーマだといっても、それだけがすべてというわけではありません。
看護学校のこの 「倫理学」 の授業では、ほぼ生命倫理に関わる問題しか取り上げませんので、
それだけが倫理に関する事柄のように思えてきてしまうかもしれませんが、
他にもまだまだたくさん倫理はあるし、倫理学のテーマもあるということは覚えておいてください。
というわけで今回のご質問には次のようにお答えしておくことにしましょう。

A.もちろん倫理は法律と関係ありますし、
  (広義の倫理のなかに法律は含まれていますし、
   狭義の倫理と法律とは同じ人間集団の倫理のなかで相対立するものとして、
   それぞれどこがどう違うのかその関係性が問われています)
  倫理の幅広い対象のなかには生命も含まれており、
  それは倫理にとってとても重要な対象ですから大いに関係があるのですが、
  倫理は法律や生命に関することだけではないので、
  このブログや第1回目に配布した参考文献表のなかの本を読んだりしてみて、
  倫理が法律や生命を超えてどれくらい多種多様な事柄や分野と関わっているか、
  自分で確かめてみてください。


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2 コメント

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Unknown (Unknown)
2016-09-13 23:14:06
本記事とは関係ないことですが、気になっている事を質問します
今年の採点の祭典はどうなったのでしょう?
今年はまだなのでしょうか。その記事を楽しみにしているので
返信する
今は後夜祭 (まさおさま)
2016-09-14 14:49:20
Unknownさん、コメントありがとうございました。
「採点の祭典」 を心待ちにしてくださっている方がいらっしゃったのですね。
ものすごく意外です。
今年の採点の祭典は8月中に終了しました。
今は、相馬の看護学校のレポートがやっと届けられて、それだけをのんびり採点しているところで、
採点の祭典の後夜祭といった感じです。
採点の祭典に関して特にとりたててご報告すべきことがあるようにも思えないのですが、
せっかくお待ちくださっている方がいらっしゃるなら、次回からは何かしら書きたいと思います。
2月まで覚えていられればの話ですが…。
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