新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

Comey長官の解任に思う

2017-05-13 08:15:45 | コラム
トランプ大統領は如何にこの事態に対処するのか:

コーミー長官解任については「頂門の一針」第4351号に杉浦正章氏が詳しく論じておられるので、ここに私が何か言うことはない。あのウオーターゲート事件の際にニクソン大統領にFBIの長官代理を解任されたウイリアム・ラッケルスハウス氏があの事件を回顧する講演をされた席にいたのでその思い出と、このトランプ大統領の強引とも見える出方について述べてみたい。

私はラッケルスハウス氏について2012年9月10日の頂門の一針に投稿していたので、その中から関連するところを抜粋してみよう。

<1973年にNixon大統領のWatergate問題が厳しく追及されていた際に、初代環境庁長官で当時のFBIの長官代理だったウイリアム・ラッケルスハウス(William Ruckelshaus)は当時では有名になった“Saturday Night Massacre”(=土曜日の晩の虐殺)の人事でニクソン大統領の反撃にあって解任されました。

ラッケルスハウス氏はPrinceton大学からHarvardの法科大学院に進んだ弁護士。彼は解任されて間もなくウエアーハウザー社(Weyerhaeuser)にスカウトされて法務担当上席副社長に就任し、数年後に初代環境庁長官としてワシントンDCに復帰していました。>

ニクソン大統領はこうして自分に迫り来る捜査の手を振り切ったのだが、結局は辞任したのだった。アメリカのメディアは今回の解任劇をあの頃の土曜日の晩の大虐殺に準えて報じている訳だ。だが、今から44年も前のことを持ち出しても、我が国でどれほどの人が覚えているかは疑問に思えるのだ。尤も、私はあの時の騒ぎで「弾劾」を”impeachment”というのだと覚えた記憶があった。

また、ニクソン大統領は「油断も隙もない」というか「狡猾な」人物として知られ、その為に付けられた渾名が”Tricky Dicky”と韻を踏んでいたのも、今となっては妙な思い出だ。因みに、Dickyはニクソン大統領のファーストネームである”Richard”の愛称だ。

ラッケルスハウス氏は1977年だったかの我が事業部の”Division meeting”(大規模な部会で、1週間かかる)に招待され、最終日の金曜の晩の夕食会でウオーターゲート事件を語られたのだった。40年も経ってしまった現在では内容を詳しく覚えてはいないが、「アメリカ合衆国の大統領は嘘を言った」と、一段と声を張り上げて語られたのは鮮明に覚えている。「アメリカ人は演説が上手い」と感心するだけだった。

それは「ウオーターゲート事件の追求を始めたある晩に、ラッケルスハウス氏はかの「オウヴァルオフィス」(Oval office、大統領執務室)に呼ばれたのだった。中に入るとニクソン大統領は窓の前で外を見ていたので、後ろから『貴方は本当にやっていなかったのですか』と尋ねた。答えは『本当にやっていない』だった。The President of the United States of America lied.」だった。

この件のその迫力たるやもの凄く、全員立ち上がって拍手した(現在では「スタンディング・オベーション」とカタカナ語化されたが)のだった。ラッケルスハウス氏は「あの事件は実際に起きていたのであって、ニクソン大統領は嘘を言った」と指摘されたのだった。

コーミー前長官がトランプ大統領の件で何処まで掴んでおられたのか知る由もないが、「良い仕事」をしていても解任する何らかの理由が大統領側にあったのかと疑いたくなる。自分を追ってくる者を追い払えば良いと考えたのかと、疑いたくなるのだが。大統領は自分から事態を難しくしたのかとすら思えるのだ。

なお、何度もテレビで流れた音声では「捜査対象」となっている部分を、トランプ大統領は”under investigation”と言っておられるので、この訳語は私には理解不能だ。”under”を使った熟語には他に”under repair”(=修理中)や”under construction”(=建設中)等があり、ジーニアス英和には”under investigation”は「調査または捜査中」とある。トランプ大統領はコーミー長官(当時)に「自分は捜査されているのか」と尋ねていたのではないのか。マスメディアは何かを忖度していたのか。