♦️1170『自然と人間の歴史・世界篇』新規経済対策成立への道(2021)

2021-10-31 21:20:40 | Weblog
1170『自然と人間の歴史・世界篇』新規経済対策成立への道(2021)

 2021年3月に「アメリカ救済計画(American Rescue Plan)」が成立してからは、アメリカでの経済対策は新たな展開を見せていく、以下ではその流れを簡単に追跡していこう。


⭕2021年11月15日には、総額1兆円規模のインフラ投資法案が成立した。今後5年間にわたり道路や港湾などの輸送や通信網を中心に投資することで、有効需要とそれに規定される雇用の拡大、ひいては競争力強化を図るという。

⭕2021年10月28日には、政権が、「ビルド・バック・ベター」と名付けている3.5兆ドル規模の歳出・歳入法案について、規模を当初想定から半減し、10年で1.75兆ドルとする枠組みを発表した。与党・民主党内の意見対立があるなかで、当初目指した法人税率、個人所得税率の最高税率の引き上げは見送って、代わりの財源として巨大企業を対象に会計上の利益に最低15%を課すことを盛り込んだ。そうすることにより、10年間の歳入増加を1兆9950億ドルと見込むことにより、歳出増加をすべて賄えるとしている。

⭕2021年7月28日には、超党派の上院議員グループが6月下旬に上院に提出していた「インフラ投資計画法案」が、上院で審議入りした。同計画の当初の新規支出額は5790億ドルであったのが、今度は5500億ドルと少し減額されている。同計画の規模は、今後5年間で約1兆ドルをかけるというもの。

⭕2021年7月13日には、上院の民主党が、3兆5000億ドル規模の投資計画を発表した。これを、先般の超党派の「インフラ投資計画」の5500億ドルと合わせると、4兆1000億ドルとなる。民主党の上院のシューマー院内総務は、「これはバイデン大統領がわれわれに求めていて(当初の「アメリカ雇用計画(American Jobs Plan、アメリカ雇用計画とも訳される)」と「アメリカ家族計画(American Families Plan)」を合わせた)支出規模」に非常に近いものだ」と発言した。

⭕2021年8月10日、上院は、超党派の「インフラ投資計画法案」を賛成69、反対30で可決した。同計画の規模は今後5年間で約1兆ドルを見込み、既に予算配分済みの支出を除いた新規支出は、先の調整により約5500億ドルとなっている。新たに財源を増やすべく、未使用の失業保険給付金の活用や、2020年の新型コロナウイルス対策の余剰金などを充てることにしている。


⭕2021年8月24日には、下院が、環境や福祉分野に10年間で3.5兆ドルを投資するという「アメリカ投資計画」(前述)に関わる予算決議を可決した。上院では、これを8月10日に可決している。しかし、これで同計画の実施が決まった訳ではなく、かかる予算決議は予算編成方針に当たるもので、具体的な予算関連法案の作成にゴーサインが出た段階だ。

⭕2021年9月13日には、下院民主党が、上下両院で審議中の3兆5000億ドル規模の「アメリカ投資計画」(前述)の財源となる増税案を発表した。米メディアによると、増税規模は10年間で企業、個人に対してそれぞれ約1兆ドルを見込む他、その他の財源として、税の徴収強化による約1,200億ドル、薬価政策の変更による約7000億ドル、同計画の経済押し上げ効果による税収増の約6000億ドルを充てることにより、財源は確保できると主張している。
 かかる3兆5000億ドルを賄うための財源のうち、企業に対する課税の主な項目としては、法人税率を現行の21%から26.5%に引き上げること、グローバル企業の国外収益に対する課税の最低税率を現行の10.5%から約16.6%に引き上げることになっている。ちなみに、バイデン政権が当初提案していた増税後の同税率は、前者が28%、後者が21%だった。個人への課税についていうと、バイデン政権の当初の提案通り現行の37%から39.6%(年収40万ドル超の場合)に引き上げることに加え、年500万ドルを超える所得についてはさらに3%の付加税率を追加するというもの。



⭕2021年10月28日、バイデン大統領は、下院の民主党党員集会において、看板の3兆5000億ドルの「ビッグ・バター・ベター(よりよき再建)」政策の枠組みを、半減の10年で1.75兆ドルに縮減すると述べ、このところの民主党内路線対立を解きたい意向を示した形だ。
 これには、法人税率などの引上げを見送ることになっている。その代わりに財源として、先般多国籍企業を対象に関係各国が15%の最低税率を合意したのを踏まえ、巨大企業の会計上の利益に最低15%を課すことを盛った。また、自社株買いで借金をして株価を上げようとするのに対しても1%の課税を行うほか、年間所得が100万ドルを超える富裕な個人に対しても追加税率を導入する考えを示した。


(参考)「Build Back Better Framework

OCTOBER 28, 2021•STATEMENTS AND RELEASES

The Build Back Better Act will create millions of good-paying jobs, enable more Americans to join and remain in the labor force, spur long-term growth, reduce price pressures and set the United States on course to meet its clean energy ambitions.

Investments in Children, Families and Caregiving that Grow the Economy’s Capacity

Universal Preschool for all 3- and 4-year Olds: Expand access to free high-quality preschool for more than 6 million children. This is a long-term program, with funding for six years.

Affordable High Quality Child Care: Limit child care costs for families to no more than 7% of income, for families earning up to 250% of state median income. It enables states to expand access to about 20 million children. Parents must be working, seeking work, in training or taking care of a serious health issue. This is a long-term program, with funding for six years.

Affordable, High-Quality Care for Hundreds of Thousands of Older Americans and People with Disabilities in Their Homes and Communities: Strengthening an existing program through Medicaid and ending the existing backlog and improving working conditions for home care workers

Expanded Child Tax Credit:  Extend for one year the current expanded Child Tax Credit for more than 35 million American households, with monthly payments for households earning up to $150,000 per year. Make refundability of the Child Tax Credit permanent.

Investments in Clean Energy and Combatting Climate Change

Clean Energy Tax Credits ($320 billion): Ten-year expanded tax credits for utility-scale and residential clean energy, transmission and storage, clean passenger and commercial vehicles, and clean energy manufacturing.


Resilience Investments ($105 billion): Investments and incentives to address extreme weather (wildfires, droughts, and hurricanes, including in forestry, wetlands, and agriculture), legacy pollution in communities, and a Civilian Climate Corps.

Investments and Incentives for Clean Energy Technology, Manufacturing, and Supply Chains ($110 billion): Targeted incentives to spur new domestic supply chains and technologies, like solar, batteries, and advanced materials, while boosting the competitiveness of existing industries, like steel, cement, and aluminum.

Clean Energy procurement ($20 billion): Provide incentives for government to be purchaser of next gen technologies, including long-duration storage, small modular reactors, and clean construction materials.

Affordable Care for Millions of Hardworking Americans

Affordable Care Act Premium Tax Credits: Extend the expanded Affordable Care Act premium tax credits through 2025. Experts predict that more than 3 million people who would otherwise be uninsured will gain health insurance. Also make Affordable Care Act premium tax credits available through 2025 to 4 million uninsured people in uncovered states.

Allow Medicare to cover the cost of hearing.  Establish a hearing benefit in Medicare, a crucial benefit to our seniors for a reasonable cost.

Bringing Down Costs, Reducing Inflationary Pressures, and Strengthening the Middle Class

Housing: $150 billion investment in housing affordability and reducing price pressures, including in rural areas. Funds go towards building, preserving, and improving more than 1 million affordable rental and single-family homes, including public housing, plus rental and down payment assistance.

Education Beyond High School and Workforce Development: Reduce costs and expand access

3Education Beyond High School and Workforce Development: Reduce costs and expand access to education beyond high school by raising the maximum Pell grant, providing support to Historically Black Colleges & Universities (“HBCUs”), Hispanic Serving Institutions (HSIs), Minority Serving Institutions (“MSIs”), and Tribal Colleges and Universities (“TCUs”), and investing in workforce development, including community college workforce programs, sector-based training, and apprenticeships.

Earned Income Tax Credit for 17 Million Low-Wage Workers: Extend for one year the current expanded Earned Income Tax Credit for childless workers.

Equity and Other Investments: Other targeted investments including maternal health, community violence initiatives, Native communities, disadvantaged farmers, nutrition, pandemic preparedness, supply chain resilience, and other areas.

Improve Our Immigration System Consistent with the Senate’s Reconciliation Rules.

Policy
$ billionChild Care and Preschool400
Home Care150
Child Tax & Earned Income Tax Credits200
Clean Energy and Climate Investments555
ACA Credits, Including in Uncovered States130
Medicare Hearing35
Housing150
Higher Ed and Workforce40
Equity & Other Investments90
Total1750Immigration100」以上、ホワイトハウスの声明にアクセス、2021.10.29」

 見られように、こちらでのキーポイントとしていわれるのは、○株主に報告した利益が10億ドルを超える企業を対象とする15%のミニマム税と、自社株買いに対する1%の付加税○1000万ドルを超える所得に5%の税率上乗せ、2500万ドルを超える所得にはさらに3%の上乗せする。○クリーンエネルギーと気候温暖化対策に5550億ドルを振り向ける。○3ー4歳児の幼児教育無償化、子育て税控除拡大を2022年末まで延長するなど。

⭕2021年10月28日、この時点での報道によれば、下院民主党の左派(進歩派)は、1兆7500億ドル規模の税制・支出計画枠組みを大筋で支持したが、上院を通過している5500億ドル規模のインフラ法案については税制・支出法案と共に採決の準備が整うまでは引き続き前進させない方針だという。



(続く)

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♦️1166『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの2022年度予算案と「Build Back Better(より良い復興)」

2021-10-30 18:45:33 | Weblog
1166『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの2022年度予算案と「Build Back Better(より良い復興)」

 2021年5月28日、OMB(米行政管理予算局)は、支出規模6兆110億ドルとする2022年度(2021年10月~2022年9月)予算案を含む2022年度の予算教書を議会に提出した。今回は、年度ごとに議会による歳出予算法の制定が必要な裁量的経費については先行して議会に提出されていた、それが今回は残りの義務的経費や「米国雇用計画」、「米国家族計画」をはじめ、2022年度中に見込まれる支出額が盛り込まれている。 
 歳出の規模は6兆110億ドルで、新型コロナウイルス対策で支出規模が拡大した2020年度や2021年度に比べれば予算規模は減少している。かたや、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年度の支出額4兆4,480億ドルと比べると、約35%の増加となる。
 同予算教書の主な内容としては、馴染みの社会福祉・社会保障費や国防費のほか、「経済再生計画」にみる新型コロナウイルス対策に加え、「米国雇用計画」に盛り込まれたインフラ投資、サプライチェーンの強化、住宅・商業ビルの耐候化関連の支出、「米国家族計画」に盛り込まれた無償教育拡充や低所得者・子育て世帯への税額控除拡充などの支出が含まれている。ちなみに、これら三つの計画を一くくりに「Build Back Bette(より良い復興)」」と総称している。これら支出を含む2022年度の義務的経費は前年度比23.5%減の4兆180億ドル、裁量的経費は4月に提出された1兆5,224億ドルから積み増しされての1兆6,880億ドル(前年度比0.5%減)となっている。
 歳入については、上記のおしなべての財源が色々と含まれる。目新しいものとして法人税の引上げ、米国多国籍企業の国外軽課税無形資産所得に対する実効税率の21%への引上げ、所得税の最高税率の引上げ(37%→39.6%)¬、高所得者などへの課税執行の強化、キャピタルゲイン課税の強化などがある。

 これらのうち法人税と所得税の一部引き上げは、トランプ前政権の時の税率引き下げ(2017年12月22日成立)の逆を行くものであり、成立には共和党の反対が予想される。


(続く)


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☆お知らせ☆読者の方からのコメントへの返事(2021.10.28、管理人)

2021-10-29 17:12:54 | Weblog

☆お知らせ☆読者の方からのコメントへの返事(2021.10.28、管理人)

(以下の通り、参考にしていただくため、読者のみなさまへ、お知らせいたします。)
 
拝啓 M様

 本日、コメントを頂戴しているのに気付いて、拝読させてもらいました。鶴田藩についての項目に不適切な箇所、及び全体としても記述がおかしいのではないかとのご指摘のように感じられます。御引用の史料は、初めて知りました。出元の確かな史料のように理解できることから、当ブログの当該記述に不正確さや誤りがあるのかもしれません。
 とりわけ、「この際に、浜田の街は焼き払われ浜田城も同時に灰燼に帰した。」としておりますのは、いかにも乱暴な決めつけなのかもしれません。とりあえずネット限りでそのような記述をした史料がないかをみましたところ、例えば、川村一彦氏の「大名家のお家騒動」(歴史研究会)なる電子書籍が検索でき、そのページの抜粋の中にてはそのような記述をしておられるようです。
 小生としては、この項目を作成した折に、何かの史料に当たってから、この下りを記したことはいうまでもないものの、その史料が何であるかを本ブログ記事の中で明らかにするべきであったのかもしれません。このこと、全く失念しておりました。このことについて、迂闊であったかと、恥ずかしい思いを禁じ得ませんが、しばらく時間を与えてもらい、それなりに勉強してみたいと存じ願い上げます。
 なお、読者の方がそういう疑念を抱かれていて、只今、当方がまともにお答えできない状況にて、本内容を掲載しております、「岡山の今昔」と「岡山の歴史と岡山人」の当該項目につきましては、ひとまず引き上げさせていただく運びを検討することにいたします、それと、現在、小生の自宅のネット環境に故障が起こっていまして、原因がわからず、修復ができておりません。業者に来てもらうことも考えているところです。また、当方、現在重要な原稿(経済学関係)を請け負っておりまして、いづれ時間が確保でき次第、取り組みさせていただくつもりです。丸尾拝

♦️221『自然と人間の歴史・世界篇』気体の状態方程式の発見(1662~1802)

2021-10-29 09:54:03 | Weblog

221『自然と人間の歴史・世界篇』気体の状態方程式の発見(1662~1802)


    1662年、イギリスの化学者ロバート・ボイル(1627~1697)は、閉じ込められた気体の圧力Pと体積Vとの間にPV=一定との関係があることを発見する。これに続いての1787年、今度はフランスの学者ジャック・シャルル(1746~1823)が、「酸素、窒素、水素などの気体の体積は、摂氏0(ゼロ)度から80度の間で直線的に変化することを発見する。
 

 これを、前記のボイルの業績と連動させて、「ボイル・シャルルの法則」と呼ぶ向きがある。ところが、彼は学会とは距離を置いていて、この研究成果を学会で発表しなかったという。

 そして迎えた1802年、フランスのゲイ・リュサックは、シャルルが見出していた気体と温度との関係を、自前の実験装置を用いて定量的に示すのに成功する。具体的には、空気、水素などを用いた気体の体積の増減を繰り返すことで、その「気体の体積は一定圧力のもとでは摂氏1度の温度上昇によって、摂氏0度の体積の273分の1度ずつ増加する」といい、これを「リューサックの第一法則」と呼ぶ。

 これに触発されたのがイギリスの物理学者のトムソン(のちのケルビン卿(きょう)、1824~1907)であって、1848年、かかる温度をゼロとする新しい温度目盛り(絶対温度T)を提唱する。さらにオランダの化学者ファンと・ホッフ(1812~1911)は、1モルの気体に対する一定量をR(気体定数)とし、n(エヌ)モルの気体に当てはめたときの関係式PV=nR0T(エヌアールゼロティー)を提案する。現代化学ではこれを「理想気体の状態方程式」と呼ぶ。


 なお、この「モル数」で表現した気体の状態方程式、PV = nR0T の導出としては、まずは、1モルの気体は、標準状態、すなわち0℃、1気圧( 1.013×105Pa)において、22.4リットルを占めており、この事実の説明から始めよう。

 言い換えると、このアボガドロの法則によると、同一温度、同一圧力、同一体積のすべての種類の気体には同じ個数の分子が含まれる。

 これは、イタリアの化学者アボガドロ(1776~1856)が発見したもの。その名前は、アボガドロの死後の1860年に開催された世界初の化学者国際会議で、彼の功績を記念して付与された。ちなみに、アボガドロは、「酸素や水素などは原子で存在するのではなく、二つの原子から成り立つ分子として存在する」ことも提唱した。


 それでは、その個数はいったい幾らなのかというと、くどくなるが、0℃、1atm、22.4リットルの中に 約602000000000000000000000個 というのだから、いかに多いかおわかりいただけよう。短く書くと、 6.02×10の23乗個 だ。

 さらに便利な表現で、短く書くと 、上記の関係を用いて1mol(いちもる)と表現でき、この個数をアボガドロ定数といい、記号で表すときは 「NA 」が便利。しかして、A = 6.02×10の23乗 /mol 。
 そこで、これを状態方程式に代入すると、こうなる。
 R0 = PV/nT = (1.013×105×22.4) /( 1×273)
  = 8.31*103 [(Pa・L)/(K・mol)]
  = 8.31 [J/(K・mol)]
 なお、R0 は一般気体定数と呼ばれ、気体の種類に依存しない定数となっている。



(続く)

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♦️1169『自然と人間の歴史・世界篇』ベーシックインカムへの動き(アメリカ、2020~2021)

2021-10-27 23:04:57 | Weblog

1169『自然と人間の歴史・世界篇』ベーシックインカムへの動き(アメリカ、2020~2021)

 はじめに、アメリカで議会事務局に提出されたという、ある法案について、報道されている中から、抜粋して紹介しよう。

 「多くのアメリカ国民が、新型コロナウイルスに対抗する経済刺激策としてアメリカ政府から1200ドル(約13万円)の給付金を受け取り始めた。だが銀行口座を持たない国民にとって、この給付手続きは合理化されているとは言えない。(中略)

 そして低迷している経済を活性化するためにはたった一度の給付では不十分ではないかという懸念の中で、2人の民主党議員がさらなる給付金の法案を提出した。

 ティム・ライアン(Tim Ryan)とロー・カンナ(Ro Khanna)両議員が4月14日に発表した緊急資金法案は、16歳以上で年間所得が13万ドル(約1400万円)未満のすべてのアメリカ国民に、毎月2000ドル(約21万5000円)を、少なくとも6カ月間給付するものだ。

 この法案には、最初の給付金で生じた混乱を軽減するための対策が含まれている。それが、電子決済だ。(中略)

 「この法案では給付金を、銀行口座振込や小切手、プリペイド型デビットカードのほか、Venmo、Zelle、PayPalなどの電子決済サービスで受け取れるようにする。」(ビジネス・インサイダー・ジャパンの日本語版、2020年4月19日電子版より引用)

 これによって、アメリカ全世帯の4分の1が該当するとみられる、銀行口座を持っていない人にも、小切手換金サービスの高額の手数料支払いを介することなく、現金が受け取ることができると考えた。
 この法案、結果としては、大方の陽の目を見なかったようなのだが、一石を投じたであろうことはいえるのではないだろうか。


(続く)

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♦️1168『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの金融政策(その行方)

2021-10-27 10:07:57 | Weblog

1168『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの金融政策(その行方)

 新型コロナ禍でのアメリカの金融政策の主な展開としては、これまで歴史的低金利の継続と大規模量的緩和への傾斜であった。後者の政策では、2020年2月末に4兆1,586億ドルだったFRB(米連邦準備制度理事会)の資産規模は、2020年5月20日に7兆ドルを超え、2021年2月2日現在は7兆4,149億ドルに達した。
 それが、リーマンショック期のQEでは、FRBが資産を3兆ドル積み上げるのに5年を要した。今回は3ヶ月でその規模を達成、巨大な通貨供給が信用の安定と資産価格の上昇に寄与したと言えるだろう(ただし、物価の上昇がそれに見合う通貨の増大をもたらすという流れが基本であろう)。
 その後も、この資産の増加傾向は続いていて、2021年10月13日現在の「連邦準備バランス」(FRBサイト提供、2021.10.14)によると、約8兆4809億4200万ドルにも膨れ上がっている。

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 それが、2021年9月21~22日のFOMC(連邦公開市場委員会)において、次回11月の会合でのテーパリング(資産買い入れ縮小)開始に含みを持たせたのは、FRBのこの間の金融からの経済てこ入れが一つの転回点にさしかかってきたとの認識の表れだろう。
 その場において、ついては2022年半ば頃までにこの作業を終わらせるのが望ましい、そしてテーパリングと利上げ開始を分けて考える方針がパウエル議長から改めて示された形だ。

(続く)

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♦️1165『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの家計債務と企業債務(2020~2021)

2021-10-27 07:54:56 | Weblog
1165『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの家計債務と企業債務(2020~2021)

 

 2021年2月2日時点でのセントルイス連銀の報告によれば、2020年9月末における家計の債務残高は16兆4,064億ドルで、2019年末と比べ4,049億ドル増加していた。その内訳でいうと、消費者信用残高は237億ドル減ったのに対し、大規模金融緩和下での低金利下でモーゲージ(抵当・抵当権の意味))が3,161億ドル増えた。それでも、この時の対名目GDP比率は77.5%に留まり、住宅バブルでモーゲージが急増していた2008年3月の98.3%のレベルには達していない。

 一方、家計の債務の内訳ては、住宅ローンの動向が中心となろう。そこで、全米の住宅価格の指標となる、「S&Pコアロジック・ケース・シラー指数」(スタンダード・アンド・プアーズ社が全米の住宅価格の指標となる指数を取りまとめたもの)によると、2020年10月以降、前年同月比の上昇率が平均で10%を超えた。それからも、2021年3月時点の米国の住宅価格の水準になると、前回の住宅バブルのピークだった2006年4月の住宅価格を16.8%も上回った。

 

 それが2021年6月29日に発表された2021年4月時点の同指数では、前年同月比で14.6%上昇し、過去30年あまりで最大の伸びとなった。
 背景には、住宅ローン金利が10回以上も史上最低を更新したことに加え、コロナ禍を避けるための在宅勤務が増え、郊外への住み替え需が増加したことがあろう。かたや供給側も、米国の木材価格が高騰し、他にも材料不足に加え、おまけに資材を運ぶトラック運転手をはじめ労働力不足が顕著であることから、幅広く供給制約が出たことが挙げられている。


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 次には、企業の債務がどのくらい積み上ってきているかをみよう。まずは、セントルイス連銀調べでの2020年9月末のアメリカ企業の債務残高は、10兆9056億だった。これは、同年6月末の11兆80億ドルからはやや減少し、対名目GDP比率も56.4%から51.5%へ低下した。
 経済規模に対する企業債務ということでは、以前は対GDP比率で45%はバブルのシグナルだった。今回、その水準を大きく上回った背景は、FRBによる大規模金融緩和があったためと考えられている。

 これと相まっての数字として、2020年7月に入り、米企業の社債発行残高は10兆ドルを超え、アメリカの2019年のGDP21.5兆ドルの半分近くに上っている。フィナンシャル・タイムズによると、提携による融資や中小企業向け融資など、他の形態の債務も加えると、企業の債務残高は17兆ドルに上るとのこと。

 こうした社債の発行には、次の見方もある。そういうのは、2020年2月12日の米株式市場ではダウ工業株30種平均の終値が前日比275ドル高の2万9551ドルと過去最高を更新し、史上初の3万ドルに迫った。新型肺炎への過度の警戒感が薄らいだことが背景にあるが、自社株買いや配当など年1兆ドル(約110兆円)を超える株主還元が株高を勢いづけている面もある。
 そんな中でも代表格なのが、2019年に最も自社株買いをしたIT大手企業のアップルだ。788億ドルと純利益(575億ドル)の1.4倍もの資金を自社株買いに回した。アップル株は年間で80%あまり値上がりし、米国株全体をけん引した。有望な投資機会が減るなかで、利益以上の金額を株主還元に回す企業はなお多い。

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 こうした家計と企業の債務増加の継続に対し、警鐘を鳴らしてきたFRBは、最新の2021年5月に「金融安定報告書」発表した。その中で、前回の報告書以降、両者の債務による脆弱性は低下している。それでも、企業と家計の債務が最近横ばいでの推移に変化していることに触れて、新型コロナの影響を強く受けている企業と家計が抱える潜在的なリスクには、引き続き注意が必要だとしている。
 とはいえ、両方ともに、低金利や、賃金保護プログラムなど政府の継続的支援などの効果が薄れていくと、弱いところから債務返済能力の低下が顕在化していく可能性があるのは否めない。
 
(続く)

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♦️1164『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの財政赤字(2020~2050)

2021-10-25 19:31:36 | Weblog
1164『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの財政赤字(2020~2050)
 
 アメリカ財務省は、2021年10月22日、 2021年会計年度(2020年10月~2021年9月)の財政赤字は約2兆7720億ドルだったことを明らかにした。過去最悪だった前年度(2020年度、2019年10月~2020年9月)実績からは少し改善したものの、大規模な新型コロナウイルス対策の導入により、2年連続で巨額の赤字となった。
 背景には、新型コロナワクチン接種が進み経済活動が再開されたことなどがあり、同赤字額は、前年度赤字の約3兆1320億ドルに比べ約3600億ドル改善した。歳出はやはり6兆8180億ドルと、約2660億ドル(4.1%)増加したのに対し、歳入は約4兆0460億ドルと、前年度から約6260億ドル(18.3%)増加した。
 景気回復に伴って税収が増えたものの、新型コロナウイルス対策の支出が続き、過去2番目の赤字幅となったことについては、経済状況が依然厳しいことが窺える。GDP(国内総生産)に対する財政赤字の比率は約12.4%で、前年度から2.6ポイント縮小した。ただ、リーマン・ショック後の2009年度(2008年10月~2009年9月)の9.8%を大幅に上回る。
 なお、バイデン政権や議会は、2021年の3~4月にインフラ投資や子育て・教育支援などからなる経済対策を議会に提出しているが、これはまだ未成立であるので、今回の決算には入っていない。


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 もしコロナ禍からの不安定要因がこの先も持続し、新しい成長が軌道に乗らず、こうしたベースで財政赤字の積み上げが続くようだと、金利負担の上昇が大いなる危険をもたらしかねない。それを見越しては、2021年7月29日のFOMC(米連邦公開市場委員会)後の会見で、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は「インフレの上振れは一時的」との判断を繰り返した。そして、「足元の高インフレがインフレ期待の上昇をもたらしている兆候はない」と述べ、「インフレの上振れは一時的」との判断を堅持している。
 この発言の背景には、債務危機を回避するために巨額の財政赤字をペースダウンさせるしかないという現実があろう。それでも、同議長は2020年の夏、景気が回復した場合FRBは利上げを検討するかと聞かれ、「利上げについては考えていない。利上げについて考えていない」と回答した。それは今も変わっていないようだ。「米国の財務省・企業・家計が膨大な債務残高を抱えているため、利上げは選択肢にない」となる。
 
 
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 それでは、これからの財政赤字と同残高はどうなっていくのだろうか。これについては、CBOの「2021~2031財政見通し」報告書では、単年度財政赤字は2021年度にGDP比で10.3%と過去2番目の大きさに達した後、減少に転じるも、2020年代後半からは再び増加していく。 
 これにより、債務残高は2021年度にGDP比で102%となり、その後も増え続け、2031年度に同107%、額でいうと約35兆8270億ドルに達してする。なお、その後も試算されていて、財政赤字とともに増え続け、2051年度には同202%になると見込まれる。
 こうしたの話になると見込まれるには、ほぼ二つの要因が指摘される。一つは、人口の高齢化による支出増加がある。メディケア(65歳以上の高齢者及び障害者向けの連邦政府が運営する公的医療保険)やメディケイド(低所得者向けの連邦政府と州政府が運営する公的医療保険制度)などのヘルスケアプログラムにかかる費用が、高齢化とともに増加していくことだ。ちなみに、2019年度でのメディケアの支出は15%、メディケイドは同9%となっていた。それが、2051年度には、GDPで9.4%に膨れ上がるというのだ。
 もう一つの主要因としては、利払い費の増大が挙げられる。こちらは、2025年度までは低金利が続くものの、2026年度から2031年度にかけて10年債の金利が年3.0%になるとの想定がなされている。かくて、2020年代中頃からは利払い費用が激増することが見込まれ、2051年度の利払いはGDP比で8.6%に上昇すると見込まれている。
  

(続く)

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♦️1163『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの株価(2021)

2021-10-25 13:40:11 | Weblog

1163『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの株価(2021)

 2021年10月22日のアメリカ株式市場では、S&P500種株価指数が8営業日ぶりに反落し、前日比0.1%安の4544.90を付けた。ナスダック総合指数は0.8%下落、ハイテク銘柄中心のナスダック100指数も0.9%安となった。一方、ダウ工業株30種平均は、73.94ドル(0.2%)高の3万5677.02ドルと高値を維持している。

 金融当局は、これの動きが物価上昇圧力につながることを注視しており、それに応じて行動するとの考えを示している。また、物価を押し上げている世界的なサプライチェーンの制約と供給不足に触れ、「従来の想定より長期に及ぶ可能性が高く、来年になってもしばらく続きそうだ」といい、その上で、そうした供給面での制約がいずれ改善されるのに伴い、インフレ率は低下するというのが、なお最も可能性の高いシナリオだとの、従来の見方をあらため示した。 

 これの現時点での評価については、2020年1月から2021年8月にかけての信用残高(注)とS&P500指数の各月末値のデータを追跡した結果(野村証券投資情報部作成「週刊、米国株式展望」2021年10月18日付け)によると、この二つの指標のこの間の増加ペースは、「ほぼ軌を一にして」急増している。このことから、当該株価の上昇にほほ見合う信用の供給が行われているのが見て取れよう。

(注)信用残高は、Finance Industry Regulatory Authority (FNRA)の中での「Debit Balance in Customers' Securities  Margin Accounts」から採取されている。


🔺🔺🔺

 一方、債券市場に目を向けると、この日(2021.10.22)の米国債相場(価格)は、長期債を中心に上昇し、ニューヨーク時間午後4時26分時点での10年債利回りは、6ベーシスポイント(1bp=0.01%)低下しての1.64%を付けた。


(続く)

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♦️1063『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの賃金はどのように決まっているか(2021)

2021-10-23 19:02:04 | Weblog
1063『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの賃金はどのように決まっているか(2021)

 

 冒頭から、ややこしい話になるが、資本主義下で、賃金はどのようにして決まるかを、少しだけ考えてみたい。これは、資本主義のメカニズムでの重要なテーマとして、長い間、議論されてきたものの、いまだに通説らしきものは見当たらないようだ。
 それというのも、経済学の分野では、近代経済学派とマルクス経済学派とが、方法論もかなり異なっていて、なかなかに同じ土俵の中で議論を闘わせることが、難しいのだ。
 そこで、その一例を、この資本主義体制の下(この社会体制下では、その名前の通り、人間ではなくて、資本が主人公である)での賃金の大きさをどのように規定したらよいのだろうか。その場合に往々にして取り上げられるのが、限界生産力説と労働力再生産費用説の二つである。。
 まずは、前者に登場してもらおう。こちらの主眼とするのは、かかる生産要素のうち他の要素を一括して固定して見なした場合の市場を考え、かたや人間労働だけ1単位の追加投入を行なってみる。そのときに得られる追加的産出量を労働の限界生産力と呼ぼう。

 そこで、わかりやすいように、記号を用いるとしよう。すると、その大きさは、産出量 q 、労働 l 、固定資本 k とすると、生産関数 q=f(l、k) から、∂q/∂l(この見慣れない記号の呼び方は「ラウンド」といって、労働量のある変化に応じてどのくらいの産出量の変化がもらされるかを示す、この操作を数学では偏微分(へんびぶん)という) で示される。
 これを経済の指標として用いようとする際には、一般に追加投入の増加によって変化していくであろう。そのうち、増加するものを限界生産力逓増、減少するものを限界生産力逓減という。そして、通常はすべての生産要素について限界生産力は逓減すると仮定されている。

 一方、労働力の供給側はどうなのかというと、こちらは始めオーストリア学派が唱えた限界不効用でいわれる「働くことは常に苦痛である」という心理法則をもって、労働者がその都度自己の労働力を資本家に供給するかしないかを決めるとした。
 だが、そもそも、世の中に雇われないで生きることのてきる労働者はおらず、無理な話で組み立てられているのではないかと。そこで、供給側の限界生産力だけで、理論を組み立てなければならなくなった。
 しかし、この労働の限界生産力と賃金率は一致するという賃金の限界生産力説には、当初から、現実との妥当性の点から異論がかなり出されてきた。それというのも、具体的にどうなるかは、それを何らかの形で測ることでなければなるまいが、以来今日に至るまで、それが納得できる内容で測定されたことは聞かないのである。

🔺🔺🔺

 賃金決定の理論として次に紹介するのは、マルクスが考えた労働力再生産をキイ(鍵)とする説なのだが、これを簡単かつ分かりやすく解説するのは、簡単なようでなかなか難しい。以下では、この問題への参考になりそうな経済専門家の論説の中から、マルクスへのガイダンス(道案内)に当たりそうな部分をしばし紹介してみよう。

 一杉哲也氏の著書では、こう解説されている。

 「マルクスの理論は、労働の供給側を重視したものであった。特に、資本主義社会では、ほとんどつねに労働供給が需要を上回る傾向があるため、賃金は上がることが難しく、最低生活水準に抑えつけられるのが正常であるとしたのは、賃金に対する供給側の働きを重くみた証拠に他ならない。しかし賃金は、歴史的に見て必ずしもつねに最低生活水準に抑えつけられているわけではないし、また最低生活水準そのものが時代とともに上昇してくることは、マルクス自身も認めていた。そして、それが彼の理論体系上矛盾するということもないのである。
 他方限界生産力説においては、資本家がつねに労働者の限界生産力を考慮しなからの雇用量を決定するかどうか、第一それが測定できるかどうかも疑問である。かくてそれを企業側の支払能力を問題にする理論であると解釈し直そう。そして労働者一人当たりの純付加価値生産性(平均生産力)を上限とし、労働力の再生産費(最低生活費)を下限とし、その中間において、労働組合と資本家との交渉力(bagaining power)のバランスによって決定されると見るのが、現在においては最も妥当であろう。」(一杉哲也「現代経済学の基礎理論」)


 二つ目、宮沢健一氏は論文の中で、こう述べておられる。

 「マルクスの分配理論によれば賃金がまず生存のための最低賃金で先決され、逆に利潤がその残余として決定される。すなわちいま実質賃金率をw、労働量をNであらわせば、マルクスの分配率定式は、
P/Y(利潤分配率)=(Y-wN)/Y
と書かれる。この式のうえに、(1)産業予備軍の存在と、(2)資本家の蓄積衝動という2つの想定が加えられて、実質賃金支払額wNは、ある最低賃金率「wバー」に応ずる額以上には上がりえないという結論が導かれる。もちろん短期においては、資本家の蓄積の増大は労働需要を拡大して賃金を高めるが、もちろん短期においては、資本家の蓄積の増大は労働需要を拡大して賃金を高めるが、しかし長期的には、失業者の産業予備軍の存在が、雇用されている労働者との競争を通じて、賃金を最低賃金水準に引き下げる力として作用する。
 また、蓄積衝動は、たとえ方向性として雇用を高めても、それに伴う経過的な賃金上昇が労働節約的な技術を促進させ、労働需要の相対的低下を導いて産業予備軍を増大させるという形で結実し、結果としてふたたび賃金を引き下げるように作用する。
 このようにして、まず賃金が先決されれば、そのとき利潤P、したがってその分配率は、生産物価値Yから最低生存賃金「wバーN」を差し引いた剰余価値の形で、残余として決められる。」(宮沢健一「巨視的所得分配の理論」)
 

 参考までに、景気の上昇局面において、労働力供給と労働需要の不均衡の累積があるとした上で、マルクス経済学者の置塩信雄は、資本がどのようにしてその繁栄を未来へ繋ごうとするかに触れ、こう述べている。

 「このような説明に対して、労働需要が増大し、産業予備軍を吸収してゆくにつれて、労働市場の需給が緊迫し、貨幣賃金率が上昇する結果、利潤率の低下、それによる旧来の生産技術で操業する資本の破壊、また全体としての蓄積需要の減少が生じ逆転するという異論が出されるかもしれない。事実、このような考えを基礎において恐慌論を組み立てている人びとがある(宇野理論)。
 しかし、貨幣賃金率の上昇は、直ちに搾取率、利潤率の低下となるわけではない。問題は、貨幣賃金率が諸商品価格に比して上昇するかどうかである。すなわち、諸商品で測った、実質賃金率の運動が問題である。ところが、資本家の蓄積需要が加速的に増加している場合には、諸商品で測った実質賃金率の上昇率は、労働生産性の上昇率より必ず下回る。別言すれば、搾取率は必ず上昇する。それゆえ、上昇局面では、蓄積需要、搾取率、労働需要はいずれも累積的増大をみせる。」(置塩信雄「マルクス経済学2資本蓄積の理論」)


 見られるように、前者(一杉)では「賃金は、歴史的に見て必ずしもつねに最低生活水準に抑えつけられているわけではないし、また最低生活水準そのものが時代とともに上昇してくることは、マルクス自身も認めていた。そして、それが彼の理論体系上矛盾するということもないのである」と、柔軟に解釈しているのに比べ、後者(宮沢)は、「マルクスの分配理論によれば賃金がまず生存のための最低賃金で先決され、逆に利潤がその残余として決定される」と、かなりの限定解釈を行っている。
 そのため、後者の続きにおいては、追々「すなわち、賃金は、リカードやマルクスのいうように、決して生存のために必要な最低賃金にきまる必然性はない、という点がそれである」と結論づけ、かわりにケインズ左派のカルドアによる、利潤分配率式を援用し、限界資本係数、資本家の成長率期待度及び資本家の貯蓄性向の「3つの要因に依存して利潤のわけまえが先決されるならば、賃金はその残余として決まってくる」(同)と結論づけている。


 もう一つ、今度はより実際的な場での賃金から一例を紹介しよう。岡野進氏の「失業率が下がっても賃金が上がりにくいのはなせか?」とのタイトルが付けられた「レポート・コラム」(大和総研提供、2016年12月22日付け)の一節には、当時の日本経済の分析の一環としてだろうか、次のような賃金解説を提供しておられる。

 「(前略)こうみると、景気はまあまあの状況で雇用情勢がこれだけよければ、賃金上昇が起きてもおかしくないが、なかなか賃上げが動き出さないのはなぜだろうか?賃金は市場原理を反映しつつも、基軸のところでは経営側と労働者の交渉で決まるという要素が大きい。アルバイト賃金は需給かひっ迫すればすぐ上昇するご、大企業の正規労働者の賃金はそうはいかない。長期的に雇用を守れるかどうかという観点でどの程度の賃金上昇が許容できるのかが問題になる。
 90年代以降の雇用悪化の中で日本の大企業の労働組合は、雇用を守ることを優先し、そのために賃金コストの上昇抑制を受け入れてきたようにみえる。その行動原理がまだ続いているのてはないか。そろそろ方向転換が必要になってきているのではないだろうか。」(インターネット配信からの入手)

🔺🔺🔺

 およそこのような論調を参考として踏まえつつ、アメリカの現局面での賃金決定のあり方を窺うのであれば、さしあたりいまアメリカ経済がどうなっているか、この先どうなっていくのだろうか。また、その中で企業の支払い能力の水準はどうなっているのか、さらに現在の労働者側の賃上げ運動と政府の労働問題への関わりなどを調べ、特にこの国の労働者がいまどのようなことを考え、行動しているかを調査・分析することが求められよう。


(続く)

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♦️1162『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの新型コロナ感染とワクチン接種状況(2021)

2021-10-22 21:49:45 | Weblog

1162『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの新型コロナ感染とワクチン接種状況(2021)

⭕まずは、2020年9月2日時点での「COVID 19 Incidence」としては、こうなっていた。
 以下、P、C、Dの順で、Population (Mn)、Cases (Mn)、Death (‘000)を、ついでC/P(感染者数/人口)、D/C(死者数/感染者数)、D/P(死者数/人口)の値を記す。
Indiaは、1380(P)、3.7( C)、65( D)、0.27%( C/P )、1.76%( D/C )、0.0047%( D/ P)
USAは、331( P)、6.1( C )、185( D)、1.84%( C/P )、 3.03%( D/C )、0.06%( D/C )
Brazilは、212( P )、3.95(C )、123( D)、1.86%(  C/P)、3.11%(D/C )、0.06%(D/P)

 

○それらが、2021年10月21日時点での「COVID 19 Incidence」としては、こうなっている。
 
Indiaは、1380(P)、34.1( C)、453( D)、2.47%( C/P )、1.32%( D/C )、0.03%( D/ P)
なお、直近28日間の感染確認者数56万4029人に対し、死亡者数は6761人。

USAは、331( P)、45.2( C )、731( D)、13.66%( C/P )、 1.62%( D/C )、0.22%( D/P )
なお、直近28日間の感染確認者数266万8826人に対し、死亡者数は4万9266人。

Brazilは、212( P )、21.7(C )、604( D)、10.23%(  C/P)、2.79%(D/C )、0.29%(D/P)
なお、直近28日間の感染確認者数39万6921人に対し、死亡者数は1万1912人。
 
Source: COVID 19 cases, John Hopkins University Dashboard, Sept 2, 2020及びOcto21,2021(ジョンホプキンス大学のホームページと、Source: Population, Wordometers.infoから原数字を引用し、簡易的に計算した。




⭕アメリカでは、9月25日時点で、少なくとも1回目のワクチン接種を終えた人口は全体の約64%、完了した人口は約55%に上るも、接種率の増加は7月以来、10月の下旬に入った現在まで横ばい状態が続いている。

 ちなみに、2021年10月21日のNHKテレビ番組(BS1)「インサイドOut」では、日本のワクチン接種率のうち「ワクチン接種が2回を完了した人の割合」が、アメリカのそれを上回っている、と報じている。その割合とは、日本の68.3%に対して、アメリカは56.4%というので、データの出所は日本の首相官邸ホームページとのこと。すなわち、バイデン政権の肝いりで「ブースター接種」を標榜、先行させていたはずのアメリカは、このところ接種率が悩んでいる様子が窺える。


(続く)

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♦️1158『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの雇用と賃金、その動向、水準及び格差(新型コロナ下)

2021-10-20 22:19:01 | Weblog

1158『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの雇用と賃金、その動向、水準及び格差(新型コロナ下)

🔺雇用🔺

 当該2021年9月の雇用統計の結果をもう少しいうと、当該月の雇用統計・非農業部門就労者数(NFP、労働省)は、前月比で19.4万人増となり、前月の36.6万人増にも届いていない、年初来から9ヵ月連続で増加するなかで最も小幅にとどまった。
 このように、今回の調査結果で雇用者数の伸びが小幅となった背景には、8月2日に成人人口における1回以上のワクチン接種率が70%を突破するものの、デルタ株の感染拡大が「見えにくい」重石となったのかもしれない。
 ここで2021年7~9月の3ヵ月平均でいうと、一か月当たり55.0万人の雇用増加となっており、これは、コロナ禍前の2019年平均である同16.8万人増を2倍以上も上回っている。
 とはいえ、ここでやや見方を変えてみると、2020年5月以降でみると、今回9月までに1739万人の雇用を取り戻した形となっている。というのは、2020年3月、新型コロナウイルス感染拡大を受けて米国で非常事態が宣言された。そのことが介在することで、3月と翌4月の2カ月間で米国の雇用者数は2236万人減少し、それまでの10年間で増やしてきた雇用を一瞬で失った形となっている。

 その後の同雇用者数は、2020年4月をボトムに回復傾向にあるものの、2021年4月時点で、コロナ前の2020年2月と比して約820万人もの雇用が失われたままになっていた。さらに、今回の2021年9月分の雇用統計で改めて2020年2月と比較すると、新型コロナ禍で失った雇用を取り戻すには、2236万人マイナス1739万人、すなわち、あと497万人が必要となる理屈となっている。

 もう一つ、述べておこう。それは、2021年9月に至るも、失業期間が27週間以上におよぶ「長期失業者」の定義に当たる人たちのことを考慮に入れる必要があろう。すなわち、失業期間が長期におよぶと就労意欲が低下する→就職活動をしなくなる→統計上「失業者」にカウントされなくなる→失業率は下がるが、労働参加率も下がる。このような動きは、深刻な不況期からの展開において懸念される雇用市場の特徴の一つで、結果として「失業率の低下」と「長期失業者割合の上昇」という一見矛盾した動きが併存することになる。

 

🔺賃金🔺

○まずは、2021年8月分の賃金としては、次の通り。

 2021年8月の時間当たり賃金(平均時給)は前月比0.6%上昇し、予想の0.3%の2倍の伸びとなったほか、前年同月比では4.3%と、前月の4.0%から伸びが加速した。 
 平均時給は30.7ドル(7月:30.6ドル)と、前月比0.6%増(7月:0.4%増)、前年同月比4.3%増(7月:4.1%増)で、ともに伸びが増加した。
 コロナ禍の影響で労働力が不足する中、低賃金の産業を中心に賃金は上昇傾向にある。6月末時点で求人数は過去最高の1010万件を記録したという。

 ただし、これの評価については、かかる賃金上昇率は、2021年5月までは低賃金雇用の増減が激しかったために歪んだ動きになっていた、それが、2020年春大幅に失われた雇用が2021年半ばになっても依然残る中でも、多数は、追って9月6日の失業給付での上乗せ支給が終了すると失業保険のみの支給額となることで、労働者の職への復帰増加が期待できると見ていた。
 そのことを考慮すると、この時点では、この先失業率がもう少し低下してもインフレ率が上がるのは2%(年率)前後で推移、したがってインフレ懸念かま台頭する可能性は低いのではないかという観測が、多数であったようである。

○次いで、2021年9月分の実質賃金としては、次の通り。

「Real Earnings Summary

Transmission of material in this release is embargoed until	                    USDL-21-1832
8:30 a.m. (ET), Wednesday, October 13, 2021

REAL EARNINGS – SEPTEMBER 2021

All employees

Real average hourly earnings for all employees increased 0.2 percent from August to September, 
seasonally adjusted, the U.S. Bureau of Labor Statistics reported today. This result stems from an 
increase of 0.6 percent in average hourly earnings combined with an increase of 0.4 percent in the 
Consumer Price Index for All Urban Consumers (CPI-U).

Real average weekly earnings increased 0.8 percent over the month due to the change in real average 
hourly earnings combined with an increase of 0.6 percent in the average workweek.  

Real average hourly earnings decreased 0.8 percent, seasonally adjusted, from September 2020 to 
September 2021. The change in real average hourly earnings combined with no change in the average 
workweek resulted in a 0.8-percent decrease in real average weekly earnings over this period.


Production and nonsupervisory employees

Real average hourly earnings for production and nonsupervisory employees increased 0.2 percent from 
August to September, seasonally adjusted. This result stems from a 0.5-percent increase in average 
hourly earnings combined with an increase of 0.4 percent in the Consumer Price Index for Urban Wage 
Earners and Clerical Workers (CPI-W).

Real average weekly earnings increased 0.4 percent over the month due to the change in real average 
hourly earnings combined with an increase of 0.3 percent in average weekly hours.

From September 2020 to September 2021, real average hourly earnings decreased 0.4 percent, 
seasonally adjusted. The change in real average hourly earnings combined with a 0.3-percent increase in 
the average workweek resulted in a 0.1-percent decrease in real average weekly earnings over this 
period. 」

 

 見られるように、要は、物価を上回る名目賃金の上昇があるものの、その実質向上分は、前月に比べ0.2%でしかない。
 それに、まさにいま起きていることだとして、低賃金労働者が職場に戻るのが滞っていると見て、これを重要視する向きが強く、例えば、こんな指摘がなされている。

「 President Biden also discussed increased wages. Real average hourly earnings increased 0.4% between July and August. According to research from the 

Pew Research Center, despite the severity of the economic shock created by the COVID-19 pandemic, earnings of employed workers overall were largely unaffected in part because lower-wage workers experienced steeper job losses. Research from our colleagues at the Brookings Institution found that “pandemic-induced job losses hit low-wage workers much harder than those earning higher wages,” and, “Low-wage jobs have been the slowest to return.” The president pointed out the decrease in COVID-19 cases toward the end of September and steady progress on the recovery. While the vaccination rate is increasing and hospitalizations are down, more needs to be done to get Americans back to work, end the pandemic, and tackle the racial employment gap.」(ブルッキング政治経済研究所「With only 194,000 jobs added, September’s jobs report disappoints」2021.1014)

 


🔺🔺🔺

 なお、民主党は、バイデン政権の方針と銘打って、支援の基盤としての労働組合を支援する方針を打ち出している。
「Biden is proposing a plan to grow a stronger, more inclusive middle class – the backbone of the American economy – by strengthening public and private sector unions and helping all workers bargain successfully for what they deserve. 


As president, Biden will:

Check the abuse of corporate power over labor and hold corporate executives personally accountable for violations of labor laws;

Encourage and incentivize unionization and collective bargaining; and

Ensure that workers are treated with dignity and receive the pay, benefits, and workplace protections they deserve.」(サイト「民主党・ジョー・バイデン」から、2021.10.17閲覧・引用)



 
(続く)

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♦️1161『自然と人間の歴史・世界篇』スタグフレーションと現代(2021)

2021-10-19 21:59:28 | Weblog
1161『自然と人間の歴史・世界篇』スタグフレーションと現代(2021)
 
 スタグフレーションとは、どんな経済現象をいうのだろうか。それは、スタグネーション(停滞)とインフレーション(物価高)の合成語であって、その相貌たるや経済現象の中でも定説があるわけでなく、その発生と発展、消滅のメカニズムについてもしかり。加えて、これまでの歴史における所在についても必ずしもはっきりしない。だが、新型コロナ禍が2年目の2021年に入っての春頃から、追って現実のものとなるかもしれない、といわれるまでになってきている。
 なぜ今頃こんな話になるのかは、久方ぶりにコア(通常は、変動の激しいエネルギーや食料を除いたもの)の物価が5%近くに、数ヶ月連続して見られるようになったこと、その際に景気が過熱しているわけでもなく、景気回復といっても不況からまだ抜け出す迄には至っていない、だからして、この先どうなるのかが経済を勉強している者の中でもよくわかっていないようである。
 いうなれば、利潤率、設備稼働率、雇用率の低下と持続的なインフレーションとが併存している状態が起きているならば、それはもうスタグフレーションの領域に入っているわけなのだ。これの対比としては、好況末期であり、それまでの高成長を支えた諸要因が消滅することで、資本の蓄積率は低下していく、その結果、前述の3つの指標が低落していく。
 こうした事態に直面すると、国家は、金融と財政を吹かして、資本の再生産過程に積極的に関与していかざるを得なくなる。
 
 とはいえ、この政策が上手くいくためには、(1)財政の赤字が資本蓄積率や輸出超過率(純輸出率、アメリカの場合は構造的な赤字)にマイナスの影響を及ぼさないこと、(2)財政の赤字を増大させて実現利潤率の引き上げにつながったとしても、そのことで、さまざまなルートで諸要因が重なりあうことでの加速的なインフレーションを引き起こさないことが必要であろう。そうなれば、輸出需要が制約され、また意図しない輸入増大も引き起こされるかもしれない。
 また、赤字財政によって実現利潤率の低下をひとまず回避したとしても、かかる利潤率の水準(資本主義下では、その時の資本家の利潤要求態度に起因する)が維持されるためには、労働者の実質賃金率や社会福祉支出、さらに資源供給国の実質資源価格は圧迫されよう。
 そして、これらの圧迫を労働者・勤労者や資源供給国が甘受しない場合には、今や資本蓄積率、財政支出超過率(赤字率)、輸出超過率によって主に規定される利潤率を達成するには、さらに諸物価を引き上げ、なおも実質賃金率、実質資源価格を引き下げねばならなくなり、物価ー賃金ー資源価格のスパイラルが生じよう。そうなれば、この三者が互いに相手に対して疑心を抱くようにもなり、相手の価格引き上げを見込んで独占的(独占的競争による、いわゆる独占価格)にであれ、そうでない場合であれ、それらを織り込んで引き上げなどを行うようになると、国内的にも国際的にも加速的インフレーションが生じうる。

🔺🔺🔺

 それでは、アメリカの現状はどうなのだろうか。まず、利潤率は、少なくともほぼ二分されているようである。その一つは、巨大IT企業の利益の伸びは2倍というのもある。一方、二つ目のグループは、航空業界など今度の新型コロナウイルス禍をまともに受けた業界・企業群なのだと察せられよう。そして、全体の利益率ということでは、やはり後者のグループの痛手がまだ癒えていないのではないだろうか。
 次に、設備稼働率はどうかというと、こちらは、2021年7月には前月差0.7%ポイントとなり、今回のコロナ禍前の水準(2020年2月の76.3%)に肉薄するまでに回復してきている。
 さらに、雇用率については、2021年9月の雇用統計ののうち、非農業部門就労者数(NFP、労働省)は、前月比で19.4万人増となり、前月の36.6万人増にも届いていない、年初来から9ヵ月連続で増加するなかで最も小幅にとどまった。
 このように、今回の調査結果で雇用者数の伸びが小幅となった背景には、8月2日に成人人口における1回以上のワクチン接種率が70%を突破するものの、デルタ株の感染拡大が「見えにくい」重石となっているのかもしれない。
 ここで2021年7~9月の3ヵ月平均でいうと、一か月当たり55.0万人の雇用増加となっており、これは、コロナ禍前の2019年平均である同16.8万人増を2倍以上も上回っている。
 とはいえ、ここでやや見方を変え、2020年5月以降でみると、今回9月までに1739万人の雇用を取り戻した形となっている。というのは、2020年3月、新型コロナウイルス感染拡大を受けて米国で非常事態が宣言された。そのことが介在することで、3月と翌4月の2カ月間で米国の雇用者数は2236万人減少し、それまでの10年間で増やしてきた雇用を一瞬で失った形となっている。

 その後の同雇用者数は、2020年4月をボトムに回復傾向にあるものの、2021年4月時点で、コロナ前の2020年2月と比して約820万人もの雇用が失われたままになっていた。
 それが、今回の2021年9月分の雇用統計で改めて2020年2月と比較すると、新型コロナ禍で失った雇用を取り戻すには、2236万人マイナス1739万人、すなわち、あと497万人が必要となる理屈となっている。
 
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 それに、物価の動向及びその水準については、どうなっているだろうか。これについては、景気が緩やかに回復していく中で、米国のインフレ動向が注目されてきている。消費者物価の総合指数は2021年4月の消費者物価の総合指数は、前年比で4.2%のプラスとなった。また、FRBが物価の指標(個々の物価レベルということではなく)としているPCE価格指数の総合指数もプラス3.6%と、いずれも2008年9月以来の水準に上昇した。
 さらに、物価の基調を示す食料品とエネルギーを除いたコア指数については、消費者物価指数(CPI)がプラス3.0%と1996年1月以来の伸び、PCE価格指数がプラス3.1%と1992年7月以来の水準となった。
 
 続いて、2021年5~9月のCPI(消費者物価指数、前年同月比、米労働省)は、同9月の5.4%まで、5か月連続の5%台が続く。その9月の同指数をもたらした内訳としては、新型コロナウイルス禍で品不足など供給制約が目立ち、原油をはじめ国際商品価格も上がっている。変動の大きい食品とエネルギーを除く上昇率は前年同月比で4.0%と、前月と変わらない高水準、また前月比は、0.2%上がった。
 また、2021年5~9月のPSE(個人消費支出、前年同月比、米商務省経済分析局)は、前年同月比で5月が3.4%、6月が3.6%、7月が3.6%、8月が3.6%となって
いる。
 
 ここでは、少なくとも2021年10下旬に入った迄には、その水準がスタグフレーションを引き起こしているという迄には、至ってはいまい。ただし、そうなる下地はかなりかなりの程度整ってきているのではないか。
 
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(続く)

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♦️1160『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの賃金(新型コロナ下、2021)

2021-10-19 13:42:47 | Weblog
1160『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの賃金(新型コロナ下、2021)
 
 まずは、当面の出発点としての、2020年4月の平均時給(名目賃金、労働省調べ)が、前年同月比でとれだけ変化していたかというと(Average hourly earnings,change from a year earlier)、なんと7.9%も上昇したという。しかもこれは、一説には、低賃金労働省の約35%もが無職になったために、いわゆる母集団のうち平均値より低いところにある集団がレイオフなとを通じて一斉にに排除されたせいだというのだから、驚きだ。

 次には、それから約1年が経過した頃からの、2021年の賃金動向から、少し紹介しておこう。
 2021.10.13に発表の2021年9月分の賃金(前月比と前年同月比、労働省)でみると、新しいものから、2021年10月13日発表の9月分の名目賃金(貨幣賃金、生産部門・非管理職の平均時給、以下同じ)は、前月比で0.6%の上昇の30.85ドル、前年同月比では4.6%の上昇となっている。2021年9月14日発表の8月分の名目賃金(貨幣賃金)は、前月比で0.4%(0.6%からの改定値)の上昇、前年同月比では4.0%の上昇(4.3%からの改定値)となっている。

 

 次には、実質ベースでの賃金を見てみよう。こちらの2021年10月13日発表の同9月分の物価上昇を差し引いた実質賃金は、前月比で0.8%の上昇、前年同月比では0.2%の下落(マイナス)となっている。2021年9月14日発表の8月分の実質賃金は、前月比で0.3%の上昇、前年同月比では0.1%の下落(マイナス)となっている。2021年8月11日発表の同7月分の実質賃金は、前月比で0.1%の下落(マイナス)、前年同月比では0.5%の下落(マイナス)となっている。2021年7月13日発表の6月分の実質賃金は、前月比で0.9%の下落(マイナス)、前年同月比では0.5%の下落(マイナス)となっている。
2021年6月10日発表の5月分の実質賃金は、前月比で0.1%の下落(マイナス)、前年同月比では0.1%の下落(マイナス)となっている。2021年5月12日発表の4月分の実質賃金は、前月比で0.2%の上昇、前年同月比では0.1%の上昇となっている。


(続く)

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♦️1159『自然と人間の歴史・世界篇』「アメリカの雇用計画」(2021.3発表)と「アメリカ家族計画」(2021.4発表)  

2021-10-18 08:25:37 | Weblog

1159『自然と人間の歴史・世界篇』「アメリカの雇用計画」(2021.3発表)と「アメリカ家族計画」(2021.4発表)  

 2021年3月31日には、新型コロナウイルス感染を克服し、経済を成長軌道へ乗せるべく、「アメリカの雇用計画」が、バイデン政権により発表された。

 この計画は、今後10年間に約2.3兆ドルの投資を目指しており、今後8年間にわたり毎年GDPの約1%が社会全般にわたるインフラ整備を中心にに投資されるという話である。一見して、極めて大胆、かつ網羅的な内容で埋め尽くされている印象だ。
 これと抱き合わせで提案されているのが、メイド・イン・アメリカ税制案で、こうした取組みを補完するための財源部分を担う。具体的には、法人税率の28%への引き上げ、企業に対する最低税率の21%への引き上げにより、多国籍企業向け海外収益課税免除の扱いを無効化、企業による海外タックスヘイブンの活用の制限、オフショア費用控除制度の廃止、それに企業の会計上の所得に対する15%の最低税率の導入を掲げている。



 これについては、共和党が反対しており、議会で論戦が始まっている。しかも、民主党の中にも反対意見があり、また、同党内の左派は環境への投資が少ないなどの批判があるほか、民間からも様々な反応が寄せられている。次に紹介するのは、民間調査機関からのものである。

「This plan of expanding expenditure will undoubtedly further complicate the expansion of the U.S. fiscal deficit and bring about more uncertainties to the future U.S. government debt problem. Regarding the source of funding for the new infrastructure plan, Biden hopes to fund the American Jobs Plan by increasing corporate taxes.

He also announced a corporate tax reform plan, proposing to increase the federal corporate income tax rate from the current 21% to 28%, and raise the minimum tax rate for U.S. companies’ overseas profits from 10.5% to 21% in order to restrict U.S. companies’ from using overseas tax avoidance methods and to encourage them to expand investments in the United States. The Biden administration stated that this tax increase plan will add approximately USD 2 trillion in revenue to the U.S. treasury within 15 years to make up for the expansion of expenditures.

 以上は概要説明で、問題点の指摘はこれからである。

「However, some analysts believe that this plan will actually still bring about a USD 500 billion fiscal deficit. At the same time, many market institutions estimate that under the opposition of the Republican Party and the corporate world, this tax increase plan may have to make compromise and will be greatly discounted in the future.

Therefore, once this plan is really implemented, it would mean that the debt burden of the U.S. government will be further aggravated, which will also have a realistic and long-term impact on the U.S. Treasury bond market, further impeding the independence of the Federal Reserve’s monetary policy.
Of course, under the Biden-Harris administration’s continuous fiscal stimulus plan, there is very little disagreement regarding the short-term optimistic prospects of economic recovery.」

 この「there is very little disagreement regarding the short-term optimistic prospects of economic recovery.」という下りでもって、このプランでは現下の経済を回復させるには短期的かつ楽観的過ぎて役に立たないというのである。続いて、こうある。

「Federal Reserve officials have recently repeatedly emphasized that they will push inflation levels back to how it was before the pandemic as soon as possible, so as to reach the policy target of 2%. In such a case, with the enhancement of the fiscal stimulus, the recovery of the U.S. economy will be faster when the pandemic is brought under control.

 Currently, the yield of U.S. long-term Treasury bonds has risen significantly in the first quarter, which means that the market has gradually adapted to the expectation of rising inflation in the short and medium term.

The market’s divergence lies in whether the rate of inflation rises moderately in the case of rapid demand growth.

Many institutions worry that the rapid rise in demand will cause inflation to far exceed the Fed’s policy goals and cause changes in the Fed’s policy. The Fed’s chair Jerome Powell’s previous talk about reducing the scale of QE has exacerbated the concern.」
 
 と、色々と重ね合わせて述べられているのが、財政膨張から来るインフレ懸念であって、金融政策のゴールとも整合しないと結論づけている。

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 2021年4月28日には、政府は、「米国の家族のための計画」と題した約1兆8000億ドル規模のプログラムを発表した。
 10年のプログラム期間を見込んでいて、1兆ドルの支出と低所得・中間層向け減税および税額控除分の8000億ドルから成り立っていて、子育てや有給休暇、教育などへの支出を大幅に拡大する。
 
 もう少しいうと、(1)無償教育拡充(幼児教育、コミュニティカレッジ)、大学進学・卒業支援拡充に約5,000億ドル、(2)保育支援拡充に2,250億ドル、(3)有給休暇、病気休暇などの拡充支援に2,250億ドル、(4)子育て世帯、低所得者世帯に対する減税枠拡充に約8,000億ドルなどを充てる。財政支出は約1兆ドル、減税措置は8,000億ドルで、対策の全体規模は約1兆8,000億ドルとなる。
 
 こちらの財源としては、何が目玉になるのだろうか、報道によると、具体的には、個人所得税の最高税率は37%から39.6%に引き上げる。年間所得40万ドル以下は増税対象とならない。また、年間所得100万ドル以上であればキャピタルゲイン(金融関連所得)税の税率を39.6%と現行の20%から引き上げる。これにより、医療保険制度改革(オバマケア)の資金への充当を目的とした投資収入への付加税(税率3.8%)と合わせ、最高43.4%となる。さらに、相続資産の売却益を計算するベースを該当資産を取得した当時の価格ではなく、相続時の市場価格に修正する「ステップアップ」方式が廃止される。それから、プライベートエクイティ(PE、未公開株)投資会社やヘッジファンドの運用マネジャーが受け取る成功報酬「キャリードインタレスト」への税優遇措置を廃止する。
 およそそういう訳で、当該支出の一部に富裕層に対する総額1兆5000億ドルの増税による税収を充てる計画だという。



(続く)

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