♦️388『世界の歴史と世界市民』利子率の決定理論(ケインズ、1936)

2021-02-28 07:24:44 | Weblog
388『世界の歴史と世界市民』利子率の決定理論(ケインズ、1936)

 経済学で新古典派というのは、スミスやリカードといった古典派と呼ばれる経済学者の後に活躍した人々だ。その代表といえば、あの「経済学者は冷徹な頭脳と温かなハートを」を持たねばならないと説いたイギリスのマーシャルあたりだろうか。その彼らは、利子率(金利)は、どうきまるだろうかと考えた。その結果、貨幣の需要側の投資と供給側の貯蓄との交点でフロー的に利子率が決まるとしていた。

 ところが、投資にしても、所得にしても、利子率と一意的にむすびつくものではあるまい。投資は限界効率(投資を限界的に1単位ふやした時に、企業の利潤が現在から将来にかけてどのくらい増えるかを示す一つの指標をいう)などといった利潤の因子と結びつくであろうし、貯蓄は所得と関係している。

 それからしばらく後にこの問題に直面したイギリスの経済学者のケインズは、『流動性』という概念を用いて、新しい利子率の決定理論を構築した。

 ここに流動性とは、交換の容易性や安全性を意味する。流動性が最も高い資産は貨幣であり、その限りでは利子(i)を生まない。一方、債券や株式などは利子・収益を生む。けれども、将来、資産の価格がどうなるか不確実だと感じるなら、人々は安全資産として貨幣を保有する。

 ケインズは、こうした性向を、「流動性選好(liquidity preference)」と呼んだ。集団としての人々の心理傾向が、貨幣や債券・株式などの動きを、大きく左右すると考えたのだ。

 具体的には、債券や株の価格が高くなると予想する人は、預金を手放して債券を購入する。債券や株の価格が下がると予想する場合は、債券や株を売り、貨幣に換えたい。

 前者の場合は、債券の価格は上がり、逆の場合は下がる。期待や不安、衝動や直感といった心の動きさえもが、人々の予測となりうる。そして市場における需要と供給が均衡したところで、債券の価格が決まる。また、それによって示された利回りで、短期の利子率が決まると考えた。

 ケインズは、このような理屈から、「利子率は特定期間、流動性を手放すことに対する報酬である」という。これは、流動性選好すなわち貨幣需要を表す関数を(L(i))とすれば、利子率は、M(貨幣の供給量)=L(i)という方程式から決まるとした訳だ。


(続く)

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♦️956『自然と人間の歴史・世界篇』プラグマティズム(アメリカなど)

2021-02-25 21:07:40 | Weblog
956『自然と人間の歴史・世界篇』プラグマティズム(アメリカなど)


 その名前をかぶせた哲学の潮流の一つをつくったシカゴ大学哲学教授ミードは、アメリカ人の信念と行動の中に、こんな傾向のあることを主張している。

 「アメリカ人のことばのやりとりだの、ゼスチュアだのは、さしあたり試験的なものだ。アメリカ人は、互いの関係が深くなれば、誤解もうまれるだろう、と覚悟しているが、同時におおざっぱに、当座の用をたすだけの、てっとり早い関係をお互いにつくりあげることも可能だと考えている。
 つまり、相手を直感的にかぎわけ、ごく簡単で、不完全で、しかし、直接的なコミュニケーションをつく必要を感じているのである。」(ミードの著作「男性と女性」を加藤秀俊「アメリカ人」講談社現代新書、1967)において邦訳された箇所から引用)



(続く)


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♦️953『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの消費者物価の動向(2021年1月)

2021-02-24 19:46:38 | Weblog
953『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの消費者物価の動向(2021年1月)

 ここでは、アメリカの物価の動きと、その背景にあるものを考えてみよう。まずは、2021年1月の統計が出ていて、それにはこうある。

「Table A. Percent changes in CPI for All Urban Consumers (CPI-U): U.S. city average Seasonally adjusted changes from preceding month

July.2020、Aug.2020、Sep.2020、Oct.2020、Nov. 2020、Dec.2020、Jan.2021、(Un- adjusted 12-mos. ended Jan.2021)

All items.................. .5 .、.4 、.2、 .1 、.2、 .2、 .3 、1.4。
Food...................... -.3、 .1、 .1 、.2、 .0、 .3 、.1、 3.8 。
Food at home............. -.9、 .0 、-.3 、.1、 -.2 、.3 、-.1 、3.7 。
Food away from home (1).. .5 、.3、 .6 、.3 、.1 、.4、 .3、 3.9。 Energy.................... 2.1、 .9 、1.4、 .6、 .7、 2.6、 3.5、 -3.6。 
Energy commodities....... 4.5、 2.1、 1.4 、.7 、.5、 5.1 、7.3、 -8.7 。
Gasoline (all types).... 4.8、 2.1、 1.7、 .7 、.5 、5.2 、7.4 、-8.6。
Fuel oil (1)............ 4.5 、2.2 、-3.0、 .7、 3.3、 10.2 、5.4 、-16.5。
Energy services.......... .0、 -.2 、1.3、 .5、 .9、 .2、 -.3、 2.1。 
Electricity............. .2 -.2 .8 .6 .3 .4 -.2 1.5 
Utility (piped) gas service.............. -.7、 -.1、 3.1 、.4、 3.0、 -.4、 -.4 、4.3。
All items less food and energy................. .5、 .3、 .2 、.1 、.2 、
.0、 .0 、1.4 。
Commodities less food and energy commodities.... .7 、1.0、 .5、 .0、 .0、 .1、 .1 、1.7 。
New vehicles............ .7 、.0 、.3 、.3 、.0、 .4 、-.5 、1.4。
Used cars and trucks.... 2.8 、5.7 、5.3、.9 、-1.4 、-.9 、-.9 、10.0。 Apparel................. .7 、.4 、-.4 、-.9、 .7 、.9 、2.2 、-2.5 。
Medical care commodities (1)...... .0 、.3 、-.6 、-.7、 -.4、 -.2 、-.1、 -2.3。
Services less energy services.............. .5 、.1 、.1 、.1 、.2、 .0 、.0、 1.3。
Shelter................. .2、 .1、 .1、 .1 、.1、 .1 、.1 、1.6 。
Transportation services 2.8、 -.7 -、.3 、.2 、1.3 、-.6 、-.3 、-4.1。 
Medical care services... .5、 .1 、.0 、-.3 、-.1 、-.1、 .5 、2.9 。
(1)1 Not seasonally adjuste」

 見られるように、アメリカ労働省が、1月の消費者物価指数を発表した。それによると、1月の消費者物価指数(季節調整済み)は、前月より0.3%上昇した。前年同月比では、1.4%の上昇となった。

 前月に比べての上昇率は、昨年12月(改定後)の0.2%から僅かながら拡大した。2021年1月のエネルギー価格は同3.5%上がり、全体を押し上げた形だ。エネルギーのうち、ガソリン価格は、同7.4%値上がりした。他の品目では食品も、同0.1%上昇した。

 なお、変動が激しいエネルギーと食品を除いたコア指数は前月から横ばいだった。前年同月比では1・4%上がったという。

🔺🔺🔺

 そこで、政策当局などは、これをどのように見ているかを少し紹介しておこう。物価の番人でもあるFRB(連邦準備制度理事会)が掲げるのは、これまでのところでは「2%のインフレ目標には程遠い」ということになるだろう。

 そのFRBが議会に提出した、「Monetary Policy Report submitted to the Congress on February 19, 2021, pursuant to section 2B of the Federal Reserve Act」の一節には、こうある。
 「Inflation. After declining sharply as the pandemic struck, consumer price inflation rebounded along with economic activity, but inflation remains below pre-COVID levels and the FOMC's longer-run objective of 2 percent.

The 12-month measure of PCE (personal consumption expenditures) inflation was 1.3 percent in December, while the measure that excludes food and energy items—so-called core inflation, which is typically less volatile than total inflation—was 1.5 percent.

Both total and core inflation were held down in part by prices for services adversely affected by the pandemic, and indicators of longer-run inflation expectations are now at similar levels to those seen in recent years.」
 要は、この1年間をみる限り、物価目標は未だ達成されていないことになり、そもそもインフレーションと呼べる状況にはなりそうにない、という訳だ。

🔺🔺🔺
 折しも、米商務省のとりまとめによる、2021年1月の小売売上高は、季節調整済みで前月比5.3%の増となった。この中のコア売上高は、GDP(国内総生産)の個人消費の構成要素と密接に連動するもので、先行指標の意味あいもあろう。
 これが増加したのは4カ月ぶりのこと。大幅増ということでは、7か月ぶりで、注目を集めているようだ。
 増加の主因は、政府の新型コロナウイルス対策支援金で消費が押し上げられたと見られる。経済活動は昨年末に感染再拡大を受け停滞したが、年明け以降は盛り返しているようだ。
 そこで大幅増の内訳を見るとしよう。その一部は、季節調整要因によるテクニカルなものだと考えられる、自動車を中心に広範な部門で売上高が、前年同月比で7.4%の増。2020年12月は、前月比1.0%減と、当初発表の0.7%減から下方修正された。
 また、2021年1月の自動車・ガソリン・建設資材・外食を除くコア小売売上高は、転換点を越したというべきか、6.0%と大きく増加した。ちなみに、前月は2.4%の減少(改定後)であった。

(続く)


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(続く)


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♦️269の5『自然と人間の歴史・世界篇』ジャズとブルース(19世紀のアメリカ)

2021-02-24 16:28:12 | Weblog
269の5『自然と人間の歴史・世界篇』ジャズとブルース(19世紀のアメリカ)

 まずは、ジャズから、どのような経緯で演奏が始まったのだろうか。諸説があるという。その中でも、主体としては、南北戦争の前から、アメリカの南部ニューオリンズには、クレオールとよばれる人々がいた。

 クレオールとは、フランス、もしくはスペインの入植者と黒人との間に生まれた人々のこどで、彼らは普通の黒人よりも肌の色が白く、白人と同じ身分を与えられ、他の黒人たちよりも暮らし向きが安定していたという。。

 加えて、当時からこの地方は、「デキシーランド」と呼ばれていた。これは、ニューオーリンズ(現在のルイジアナ州、アメリカに組み入れられる前はフランスの植民地の一部であった)を筆頭とするアメリカ南部諸州の別称である。

 そんな中、ある機会が訪れた。1861年4月、とうアメリカを二分する南北戦争が勃発すると、彼らもまた兵士に駆り出されていった。そして迎えた戦後、軍隊が所有していた軍楽隊の楽器が質屋などに払い下げられた。   
 ということは、そうなると、トランペットやサックス、ピアノ、ドラムといったそれまで黒人に普及しなかった楽器がかなり安くなり、かなり簡単に手に入るようになった訳なのだ。

 クレオールたちの中の音楽好きは、元々がアフリカの音楽とヨーロッパの音楽両方に関心を抱いていたから、手頃な楽器を手にした彼らによって、盛り場や広場、ちょっとした場での演奏が可能になっていく。
 そんな環境だから、指揮者などはいなくてかまわない。あらかじめ楽譜があるものをピアノや金管楽器のトランペットなども動員して演奏するのもよし、それだから、楽譜なしで即興的に演奏するのもよし、自由な雰囲気がそこには生まれよう。

 そのうちに、ファンができて、演奏を聞きに来たり、その場その場でなくてはならぬものになっていったらしい。やがて、楽器演奏をして生活できる人までが、ニューオリンズで現れてくる。

 しかして、、この地方で育まれ、盛んになったスタイルのジャズが「デキシーランド・ジャズ 」と呼ばれる。
 そんな中においても、一説には、19世紀末に誕生した「紅灯街」という歓楽街が営業していた。そこにダンスをしにやって来る客のために演奏するようになると、類が類を呼んでのことなのだろう、多くのミュージシャンやファンが集まるようになる。 

🔺🔺🔺

 かたや、ブルースとは、これまた19世紀のアメリカで生まれた。いつの頃からだろうか、アメリカ南部に住む黒人が奴隷としてアフリカから連れてこられた、そんな人々の黒人奴隷の身として、その他にも様々な事情から苦しい生活を余儀なくされた。
 そういうことだから、自らの境遇への憂いや嘆きを歌にしていく。その語源は、 blue(青)の複数形であるという。英語の意味合いは、「憂鬱」も含まれるという。
 曲調としては、「ブルー・ノート・スケール」(blue note scale)と呼ばれる音階、第3音(ミ)・第5音(ソ)・第7音(シ)が半音下がった音階であるのが、特徴的だという。
 例えていうと、ギターの弾き語りで自分や自分たちの境遇を語り口調で歌い継いでいくものがあれば、そのギターもエレキを利かせつつ、ぶつけるように歌うのは、多分に聴衆が身悶えするのを待ち望んでいるかのよう、そうなればまさに圧巻だろう。

(続く)


♠️
 やがての1917年に紅灯街が閉鎖されると、ミュージシャンたちはミシシッピ川を北上しアメリカ全土へ、中でもシカゴに優れた演奏家が集まり、さらに世界にジャズが広がっていく。曲調も広がり、カラフルかつビートのきいた「モダンジャズ」の時代がやってくる。

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♦️950『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの対新型コロナの追加経済対策(2020. 9~)

2021-02-23 22:37:13 | Weblog
950『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの対新型コロナの追加経済対策(2020.
9~)


 2020年12月に成立した第二次経済対策(総額約9000億ドル)の主な内容は、次の通り。

1.現金給付として、家計に600億ドルを直接給付。これで、1660億ドル。

2.失業給付として、失業給付週300ドルを、3月まで加算。それに、通常の失業保険の延長プログラム(PEUC)・自営業者などへの支給対象者拡大プログラム(PUA)の期間を11週間延長。これらで、1200億ドル。

3.中小企業に対する政策としては、まず、従業員500人以下の企業などを対象にPPPの第2弾として、2860億ドルをあてる。次いで、低所得者地域の事業を支援するために、200億ドルをあてる。さらに、ライブ会場、映画館などのイベント事業を支援するために、150億ドルをあてる。

4.教育対策としては、小中学校へ543億ドルを、高等教育に227億ドルを、政府緊急教育救済基金に41億ドルなどをあてる。これらの総額は820億ドル。

5.新型コロナ対策を主眼としたヘルスケアとして、総額で690億ドルの医療支援を行う。その内訳でいうと、州の対新型コロナ検査・追跡・鎮静措置に220億ドルを、生物医学先端研究開発局(BARDA)に200億ドルを、疾病予防管理センター(CDC)向けに90億ドルを、医療機関などへ支援を行うための90億ドルなどを各々計上。これらの総額は820億ドル。

6.交通分野では、航空会社に150億ドルを、交通に140億ドルを、高速道路への支援に100億ドルを、空港に20億ドルを、空港建設に10億ドルなどを計上、これらの総額は450億ドル。

8.食料としては、補助的栄養支援プログラム(SMAP)などへの資金拠出として、130億ドルをあてる。

9.住宅支援としては、立ち退き猶予措置の延長、借家補助にあてるため、250億ドルを拠出。

9.その他として、育児に100億ドルを、郵便事業支援に100億ドル、一部の納税猶予を2021年4月から年末まで延長することなどに、総額で550億ドルを計上。

 なお、州・地方政府への支援はなし。
🔺🔺🔺
 次の展開として、2021年2月現在、議会にバイデン政権(民主党)に提出されている追加経済対策の概要は、次の通り。

「The proposal does not state a cost estimate for every category of assistance, but the nonpartisan Committee for a Responsible Federal Budget has compiled the following list.


Provision


Deficit Impact


Provide $1,400 per person “Recovery Rebates” on top of the $600 already issued


$465 billion


Provide aid to state and local governments


$350 billion


Increase Unemployment Insurance supplement to $400/week and extend emergency UI provisions through September


~$350 billion


Provide funding for a national vaccination program, testing, and other COVID containment efforts


$160 billion


Fund school reopening and increase funding to schools and colleges


$170 billion


Expand the Child Tax Credit to a refundable $3,000 per child, $3,600 for children under 6 (assuming one year)


~$120 billion


Provide rental and small landlord support


$30 billion


Provide support to childcare providers


$25 billion


Other policy changes


~$200 billion


Total Reported Cost


$1.9 trillion」(Source: Committee for a Responsible Federal Budget)



 これらを簡単な形にまとめると、こうなっている。

1.家計への現金給付に、高所得層を除き最大で1400ドルを支給。

2.失業給付の特例加算に、9月までの延長と週400ドルの上乗せ。これには、PEUC(通常の失業保険の支援拡充措置)や、PUA(自営業者、ギグワーカーなど向けの通常の失業保険の支援拡充措置)


3.新型コロナ対策として、ワクチンの配布(接種)支援に200億ドル、検査の拡充に500億ドルを支出。

4.州・地方政府への財政支援策に、3500億ドルを支出。

5.中小企業対策に、500億ドルを支出。

6.最低賃金につき、現行の2倍にあたる時給15ドルに引き上げ。

7.学校再開への支援として、1300億ドルを充てる。

6.その他として、住宅差し押さえの猶予措置を2021年9月30日まで延長することなど。


(続く)

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♦️951『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの経済・社会政策の行方(2021政権交代に際して)

2021-02-23 19:24:39 | Weblog
951『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの経済・社会政策の行方(2021政権交代に際して)

🔺🔺🔺(2021.2上旬時点)

 アメリカ大統領選挙後の方向性は、まだどうなるかわからない。とはいうものの、やや乱暴ながら、2021年1月の大統領の交代局面におけるトランプ政権の経済政策とバイデン新政権の経済政策(予想)との比較を試みてみよう。


(1)まずは、財政政策から。そのなかでは、1月中旬には、ドライバー政権下で決まった2次にわたる対新型コロナ経済対策(計約4兆ドル規模)に加え、新たに約1.9兆ドルの追加経済対策をまとめる、よう議会にその法案を提出した。

 また、税制改革はどうだろうか。連邦法人税率を見よう。こちらは、トランプ政権による2018年からの実施改正で一律21%(その前の最高税率は35%)となってから現在にいたるも、同政権の公約は現状維持、中国から撤退したアメリカ企業に対する税制優遇あり。
 これに対してバイデン新政権は、この最高税率を28%へ引き上げることを公約。工場を海外移転したアメリカ企業への課税強化をうたい、かたや国内で雇用創出、投資を行った企業には税を優遇を行う。


 現在のキャピタルゲイン課税の最高税率が最高23.8%であるのを、トランプ政権の公約によると、15%ないしは18.8%へ引き下げるという。これに対し、バイデン新政権は、同率を39.6%へ引き上げるという。


 現在の個人所得税率の最高は37%となっている。これは、トランプ政権が前述の法人税改正と合わせ、2018年から実施させた改正であって、この時最高税率を39.6%から37%に引き下げることなどを行っており、これを維持することをいう。
 一方のバイデン新政権の公約は、40万ドル超の課税所得に対しては39.6%の税率を復活して適用する。また、各種の税額控除を縮小する方針。



(2) 医療では、「オバマケア」を無効化し、薬価を引き下げる。一方、バイデン新政権は、「オバマケア」を拡充するとともに、薬価を引き下げるという。



(3) 雇用・労働では、トランプ政権は、1000万人の雇用を創出するという。一方、バイデン新政権は、アメリカ製品の政府調達や老朽化したインフラの改修などに4000億ドルを、研究開発に3000ドルを投資することで500万人の雇用創出を目指す。また、時間当たり最低賃金を、現在の7.25ドルから15ドルへ引き上げる。


(4)教育への投資について、トランプ政権は特段の政策をうたわなかったのに対して、バイデン新政権は、チャイルドケアやフレスクールの拡充を行うとともに、学生ローンの減免を行う。さらに、中間所得層以下の家計に対する州立大学学費の免除を行う。



(5)環境問題としては、トランプ政権においては、気候変動に対する国連の政策は中国寄りだと批判して、パリ協定からの離脱を表明し、通告していた。バイデン新政権はこれを批判し、国際協調の観点からパリ協定への復帰すると明言している。
 巨大パイプライン計画の中止。環境規制緩和の見直し。代表的なのは、「」キーストーンXLパイプライン」(既にあるのは、「キーストーンパイプライン」)の建設問題で、大統領令をだして建設許可の取り消しを行った。カナダで採掘した原油を南部テキサス州まで運ぶのを拡張しようとするものだ。距離は約1900キロメートル、建設費は9000億円規模。「化石燃料に依存しない社会を目指す」「パイプラインは温暖化対策を進めるうえで好ましくない」とする。
これについては、同じ理由でオバマ政権で取り止めていた敷設計画を、トランプ政権が「2万8000人の雇用を生む」ということで復活させた、それを大統領令でまた建設を中する決定を行った。これに対しては、「エネルギー移行はそんなに簡単ではない」などの批判がある。


(6)独占禁止政策について、トランプ政権は、GAFAの市場支配力をそぐために反トラスト法に基づく調査を進めていた。一方、バイデン新政権は、GAFAにデジタル課税を検討するとのこと。


(7)(1)とやや重なるが、国内の経済を回復されようと、あれやこれやの対策が目白押しだ。
 消費の拡大ということでは、政府調達で米国製品を購入する「バイ・アメリカン」の強化。学生向けには、学生ローンの返済猶予や住宅の強制立ち退き停止を延長。マスク着用キャンペーンやワクチン配布の迅速化。
 



(8)通商では、トランプ政権はアメリカ第一主義をとり、とくに貿易赤字が大きい中国との交渉に強硬姿勢をとり、譲歩を引き出す。一方、バイデン新政権は、国際協調路線に戻るも、「戦略的競争関係」の中国に対しては、引き続き厳しい態度で臨む姿勢を見せている。アメリカからの技術流出については、トランプ政権の時と当面さほど違わない、かなり強硬な姿勢をとるのではないだろうか。
 とはいうものの、新政権は、中国相手に強硬姿勢ばかりでは実効が上がらないことを見越しているかのようで、地球温暖化対策のパリ協定絡みやWTO(世界保健機関)に復帰する中では、協力関係を築いていくことが十分に考えられる。


(9)その他の政策ということでは、トランスジェンダーの人々の米軍受け入れの再開など。イランとの核問題協議に復帰。
 メキシコ国境の壁建設の中止、難民受け入れの拡大の大統領令を出した。こちらは、オバマ政権が強制送還を猶予していたのをトランプ政権が中止の命令を出すものの、連邦裁判所がこれを認めなかった経緯がある。
 ドイツやアフガニスタンの米軍削減の見直し。ロシアとの新戦略兵器削減条約(新START)を延長。

(10)その他として、「大統領令の乱発」という向きに対しては、バイデン大統領は、「法律を作っていたのではない、間違った政策を排除しているだけだ」と反論。背景には、議会での勢力拮抗があるという。
 


🔺🔺🔺(2021.2中旬以降)


(続く)

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♦️392の4『自然と人間の歴史・世界篇』イタリアのファシズム(国会廃止(1939)まで)

2021-02-22 16:42:14 | Weblog
392の4『自然と人間の歴史・世界篇』イタリアのファシズム(国会廃止(1939)まで)

 イタリアのファシズムの歴史は、1919年3月の戦闘ファッショ団の結成に始まる。1920年9月には、トリノ地方の金属産業労働組合の占拠が起こる。これにより、それまでの保守連合のニッティ政権が倒れ、1920年6月にはジョリッチ内閣か成立する。そして、このストライキに対して資本家側はロックアウトで対抗したことで双方の間に溝ができている件につき、軍隊と警察による労働者弾圧の見返りとして、労働者参加をちらつかせて、占拠ストライキ解除の協定を結び、資本家側に有利な決着を実現する。それに加え、同年11月以降は、ファシストの武装襲撃の活動が拡大する。

 その前の1915年5月、イタリア政府は、第一次世界大戦に参戦するのではなく、それまで中立の立場をとっていたのが、この時イギリス、フランス、それにロシア側に立って参戦に転じた。
 あわせてその少し前の1914年秋のこと、それまで反戦中立の立場で平和運動後の先頭に立っていたイタリア社会党内で、それまで党機関誌「前進(アヴァンティ)」の編集者を務めていたベニート・ムッソリーニ(1883~1945)は参戦論に成り変わり、これを問題視した党中央により除名処分をうける。

 ここで話をイタリア参戦後に戻そう。1921年1月に開催された社会党大会では、イタリア共産党が結成される。5月には総選挙が実施され、ボノミ内閣が成立する。8月には、ファシスト突撃隊と人民突撃隊とが、武力衝突を停止する協定を締結するも、9月にはファシスト側が同協定を破棄する。さらに11月には、戦闘ファッショ団の第三回大会が開催され、「ファシスト党」と党名を改称する。この時は、ファクタ内閣。

 1922年8月には、「政治ゼネスト」が行われる。そして迎えた10月3日、ムッソリーニは、ファシズスト義勇軍の創設を宣言する。24日のファシスト党ナポリ集会に臨んだ彼は、「政府がわれわれに与えられるか、われわれがローマへ進軍して政府を乗っ取るか、いずれをえらぶべきかの時期がきた。(中略)その進軍は時間の問題であろう、」と演説した。
 これに煽(あお)られたファシスト義勇軍は、大挙してローマを目指して進軍を開始する。その際の彼らの心得としては、政府軍に敬意を払うこと、働く人々は、4年もの無政府状態をもたらした旧支配階級に反対して立ち上がった自分たちファシストを恐れるべきでないという宣伝を行うとともに、国王側には王制支持の態度をよそおうという用意周到さであった。
 これに対して、ファクタ内閣は戒厳令を敷き、政府軍に彼らを鎮圧させようとするのであったが、王はそのための署名を拒否した。その実、29日には、ファシスト党に組閣を命じる。
 これを受けたファシスト党よ主導により、連立内閣が発足する。その構成としては、ファシスト党、人民党、ブルジョア派(民主派、自由派)、国家主義党、民主社会派、それに無所属を束ねていた。その狙いとしては、社会党と共産党を排除することであった。
 この組閣の後に、ムッソリーニらは、新内閣の独裁を1年1か月半の期限つきで認める法案を国会に提出し、議会に認めさせる。1922年11月16日には、これが公布された、それには、こうあった。

 「税法を制定し、国家諸機関の権限を制限し、公務員を任免し、産業を興(おこ)し、国家の経費を節減するために、1923年12月31日まで、それに必要な措置をとる権能を与えられる。この措置は、そのみ法律としての効力をもつ。」

 これにより、ローマを支配下におくのに成功し、ムッソリーニ内閣は全権を奮うにいたる。12月には、ファシスト大評議会が設置される。

 そのファシスト党だが、自らの立ち位置をわかっていて、多数派工作を行う。イタリア労働総同盟系以外の組合に働きかけ、工業労働省組合団体など5団体が1922年1月に全国組織「組合団体総同盟」をつくるのを誘導した。こうした下地の上に、1923年12月には資本家団体イタリア工業連盟との間に、政府主導により両者が協調していくことを確約した協定を結ばせる。
 その他にも、1923年2月には、競合する中間政党の国家主義党との合同を働きかけ、これを実現することにより保守本流の官僚や独占資本家の支持も取り付けていく。ファシスト党は、労働者や農民、小市民の多かったのが、これ以後は急速に資本家との連合へと傾斜していく。
 さらに人民党に対しては、邪魔だてをする目的で同党の法王派をそそのかし、同党の中にいる反ファシズム勢力に打撃を与えるのに成功し、同党の牙を奪うのに成功した(詳しくは、塚本健「ファシズム」日本社会党労働大学新書、1986)。

 1923年7月には、選挙法が改正される。その内容は、最多得票の政党が議席の3分の2を獲得し、それ以外の政党は残り3分の1を得票数に応じて議席を割り当てられるという、破天荒なものであった。

 その翌年の1924年4月の総選挙では、ファシスト党が第一党にのし上がる。この選挙でのファシスト党の得票率は66.3%にして、彼らは全535議席のうち374議席を獲得した。ちなみに、最大の競争相手の社会党と共産党に対しては、選挙期間中に野放しのテロリを含んだ弾圧が加えられたという。
 6月には、マテオッティ事件が起こる。アヴェンティーノ連合が、国会をボイコットする。

 1925年1月には、社会党、共産党、そして民主主義諸党にたいするあからさまな弾圧が始まる。10月には、ヴイドーニ宮協定。11月になると、反ファッショ議員が、その議会資格を剥奪される。

 明けて1926年には、議会を無用にする運動が国内を席巻していく。11月には、ファッシスト党以外の政党に解散命令が出される。政権は、ここに他政党を解散させ、独裁を完成させた。イタリア労働総同盟については、自主解散となる。

 1927年7月には、労働憲章が発布される。その第三条は、こうなっている。

 「労働組合、職業団体を組織することは自由だが、法律上承認され国家統制下にある組合だけが、それに加入している同一部門のすべての雇用主、労働者を代表し、国家またはすべての他の職業団体にたいして、その職業利益を守り、その部門のすべての者を拘束する労働協約をむすび、彼らから組合費をとり、全体の利益に合致した行動をする権利をもつ。」

 続いての第6条としては、こうある。
 
 「組合団体は生産組織であり、生産の利益は国家の利益であるから、組合団体は法律により国家機関と認められる。」

 ということで、もはや、ファシズムに立ち向かう、これといった勢力は国内にいなくなった。1928年には、ファシズム大評議会が国家の最高機関となる。具体的には、1929年12月に制定の法律で、ファシズム大評議会の構成が決まる。それによると、首長や閣僚、上下両院議長、組合団体省次官、外務次官、内務次官、外務次官、国民義勇軍司令官、ファシスト党幹部、旧閣僚その他となっており、いわば党と政府が一体化した訳だ。
 一方、国会は、1929年3月の総選挙以降は、その議員の全員がファシスト党員からの者たちで占められることで、いわば翼讃議会となり変わる。

 そして迎えた1939年10月には、国会そのものが廃止となる。かかる議会制度の廃止により、イタリアの議会制度は、事実上の終止符をうたれるのである。

(続く)

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♦️952『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの雇用・労働(2021)

2021-02-21 22:17:23 | Weblog
952『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの雇用・労働(2021)

 まずは、2021年1月8日(毎月第1金曜日(米国時間)に発表の慣例)のアメリカ労働省は、2020年12月の雇用統計をら発表した。それによると、非農業部門の雇用者数が前月比で14万人減少した。8カ月ぶりの前月比減だった。
 あわせて、発表済みの10月分が61.0万人増から65.4万人増へ、同じく11月分が24.5万人増から33.6万人増へと、2カ月分の合計が58.1万人増に上方修正されたという。
 とはいうものの、新型コロナウイルスの感染拡大から1年が過ぎようとしているこの時期に、まだ雇用が減るという話であって、雇用回復には程遠い内容だ。

 続けて、アメリカの2021年1月の雇用者は、非農業部門雇用者数ベース(事業所調査、季節調整済み)で、前月比4万9000人増で、大方の予想を下回った。ちなみに、前月も大幅に下方修正であったから、労働市場の回復は2カ月連続で期待外れとなったことになる。
 これから窺えるのは、多くの失業者にとって見通しは依然厳しく、一段の景気刺激策が必要との見方を裏付ける結果だといえる。

 また、家計調査に基づく失業率(U3)は6.3%に低下した、ただし、「真の失業率」とされる潜在失業を加味した失業率(U6)は11.1%であり、こちらで考えると、かなり意味合いが異なってこよう。

 ちなみに、労働省のホームページにおいて、「Not in the labor force」の定義付けがなされていて、それにはこうある。

 「Persons who are neither employed nor unemployed are not in the labor force. This category includes retired persons, students, those taking care of children or other family members, and others who are neither working nor seeking work. Information is collected on their desire for and availability for work, job search activity in the prior year, and reasons for not currently searching. See also Labor force and Discouraged workers.」

 そのことはさておき、通常の失業率でいうと、前月は6.7%であったのだが、これは、労働市場から退出した人が増加したことが大きいというから、驚きだ。

 とはいうものの、1年前の3.5%に対し2.8ポイントの悪化だ。そこで、前月比4.9万人の増加の中身だが、レジャー・宿泊飲食業が6万人の減少、健康・社会支援業が同4万人、小売り業も同4万人、輸送・倉庫業は同3万人。製造業は、1万人の減少、建設業は0.3万人の減少だったのに対し、プロ・ビジネスサービスはプラス10万人だ。

 この間の推移については、10月が68万人の増加であったのに対して、11月は26万人の増加。12月には23万人の減少、2021年に5万人の増加ということであり、雇用回復の足取りは弱い。

 顧みると、リーマンショックからの回復を示す2010年1月からの10年間に2283万人の雇用が増加した。ところが、今回の新型コロナショックは2020年3月~4月の2か月間だけで2236万人もの雇用を減らしている。10年間の雇用の増加分が、極めて短期間で失われるという、前代未聞の出来事であった訳だ。

 それにしても、一方で、2020年5月から2021年1月までの9か月間の雇用増加は1238万人とされている。なので、差し引き、まだ998万人が職を失ったままとなっている。
 それというのも、2020年5月中旬からの経済活動再会により雇用が少し盛り返した形だ。だか、経済活動再開に合わせ、感染者が増えた。再度経済活動の停止をした州でも感染者が増え、雇用改善が鈍化した。今回の2021年1月になっては、は、ほとんどの業種で雇用が減少に転じた。

 また、同月の時間当たりの前年比賃金上昇率は、前月比で5.4%のプラスであった。

(続く)

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♦️392の3『自然と人間の歴史・世界篇』ナチズムの人間的基盤

2021-02-21 10:10:58 | Weblog
392の3『自然と人間の歴史・世界篇』ナチズムの人間的基盤

 ナチズム支持の中心となったのは小さな商店主、職人、ホワイトカラー労働者などから成る下層中産階級であった。
 それでは、なぜ、これらの人々がナチズムへとなびいていったのだろうか。さしあたり、二つの見解を紹介しておきたい。
 その一つは、彼らの生活が依って立つ経済基盤と民族主義を一義的にいうもので、例えば、塚本健氏はこう述べておられる。


 「折から、ヤング賠償案反対運動とともに民族主義運動が高揚しました。同時に、不況下に中小企業の倒産がつづき、失業者が132万人(29年9月)から300万人(30年9月)へと急増しました。ナチス党は、不況や失業をもヤング賠償案、ベルサイユ体制のせいにして民族主義を煽動しました。
 その、さいナチス党は、民族主義の顔と反資本主義というもう一つの顔で、中間層、大衆をひきつけたといわれます。ここで中間層と呼ばれているのは、百貨店進出におびやかされる町の中小商店主、債務負担にあえぐ農民、大企業に圧迫され賃金切り下げによってかろうじて生きのびる道を求めようとする中小企業主、失業者、新規学卒で就職口のないまま失業保険給付もうけられない若者労働者、出稼ぎ労働者などの縁辺労働者層です。
 資本家階級の一部、自営業主=旧中間層、労働者階級の一部と分類できますが、全体として、反独占・反労働組合という心情を共通にもっている人々です。」(塚本健「ファシズム」労働大学新書、1986)」


 みられるように、インフレ、独占資本主義の発展、大恐慌の不安、そして戦後賠償の負担などが経済生活を脅かし、労働者階級の台頭が下層中産階級の威信を下落させた。
 二つ目は、「社会心理的アプローチ」とよばれるもので、こちらも、インフレ、独占資本主義の発展、大恐慌の不安が経済生活を脅かし、労働者階級の台頭が下層中産階級の威信を下落させたのをいう、けれども、それだけではないと考える。
 後者に目を向けると、第一次世界大戦後のワイマール共和制下によって、敗戦から立ち直る中でドイツ社会に自由な空気が育まれた。
 しかしながら、そのことは、君主制の崩壊、宗教や伝統的な道徳の衰弱、家父長的な家族制度の解体、そして敗戦といった心理的な変革を伴うものであった。それらの出来事は、特に集団の中で「安全感と自己満足的な誇りを獲得していた」下層中産階級の人々を動揺させ、不安に陥れたのだという。
 
 そこでフロムは、ナチズムを支持した人々を理解するために、自由の持つ二面性(理想としての自由・不安、孤独、無力感を生む自由)を見出し、新たな自由を獲得したというよりは、「与えられた」感のある人々にとっては、必ずしもそれを享受し、さらなる前進のための糧(かて)とはならず、その逃げ出そうとする(エーリッヒ・フロム「自由からの逃走」)ことをいう。

 「われわれはドイツにおける数百万の人々が、かれらの父祖たちが自由のために戦ったと同じような熱心さで、自由を捨ててしまったこと、自由を求めるかわりに、自由から逃れる道を探したこと、他の数百万は無関心な人々であり、自由を、そのために戦い、そのために死ぬほどの価値あるものとは信じていなかったこと、などを認めざるをえないようになった」(同)

 また、自由から逃げ出した人々は、権威主義的性格を社会的な集団として有しているともフロムはいう。つまり、二面性を持っていることになる。いうなれび、新しい従属や依存を求めて権威に服従するのをいとわず、自分たちが権威であろうとする傾向を持つ社会集団として登場してくる。
 こうして、人間的な面から言うと、ナチズムはこのような人間の性質が基盤となってその勢力を増し、人々はその支配に喜んで服することとなったとフロムはいう。



(続く)

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♦️951『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの経済見通しと財政赤字(2021年2月時点)

2021-02-20 08:53:01 | Weblog
951『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの経済見通しと財政赤字(2021年2月時点)

 アメリカの経済の現状とこれからの見通し、それに財政の現状および見通しは、どうなっているのだろうか。まずは、それぞれのとりまとめから。

○2020年10月16日、米財務省は、2020会計年度(2019年10月~2020年9月)の財政赤字が、過去最高の3兆1320億ドルで、前年度の3倍強となったと発表した。連邦政府債務も27兆ドル弱と過去最大になる。
 2020年9月までの歳出が6兆5520億ドルと前年度比較で47%も増えたことがある。赤字幅は、金融危機後の2009年度の1.4兆ドルを大幅に上回り、過去最大となった。


○2021年2月1日、米議会予算局(CBO)は、2021年通年の米国経済は前年比4.6%のブラス成長まで回復するとの見通しを発表した。この見通しは、1月12日までに可決された現行法に基づく予想であり、バイデン新政権の対応や景気刺激策は含まれていない。
 その後のGDP(国内総生産)の成長率は、2022年に2.9%のブラス、2023年は同2.2%を見込む。さらに長期的(2026~31年の平均)には、1.7%まで鈍化すると予想している。
 また、2021年の平均失業率は、5.7%まで低下し、インフレ率は2022年にかけて2.1%まで上昇すると想定している。


○2021年2月11日、CBO(米国議会予算局)は2月11日、中長期の財政見通しに関する報告書を公表し、2021年度(2020年10月~2021年9月)の財政赤字は2兆2600億ドル、債務残高は22兆5,000億ドルに達する見込みと試算した。
昨年9月に公表した予測は1兆8100億ドルだった。前年度の財政赤字は3兆1300億ドルで、GDP(国内総生産)比では第2次大戦以来で最大だった。
 これにより、財政赤字は前年度より9,000億ドル縮小する、ただし、2021年2月現在議会に提出されている1兆9,000億ドル規模の経済対策(2021年2月8日記事参照)については未成立なことから反映されていない。このため、今後、同対策が成立すれば、さらにこれらの数値は膨らむことが予想される。
 今回の試算の背景については、昨年12月に議会を通過して成立したコロナ禍対応の経済対策が、その理由だという。ただ向こう10年の期間でみると、より力強い経済成長で赤字は縮小する見込み。具体的には、今後10年間の赤字見通しは比較的楽観的で、21年度から30年度までの累積赤字は従来予測よりも3450億ドル少ない水準を見込む。







(続く)




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◻️268の3『岡山の今昔』岡山人(20~21世紀、稲葉右二)

2021-02-19 21:04:55 | Weblog
268の3『岡山の今昔』岡山人(20~21世紀、稲葉右二)


 稲葉右二(いなばゆうじ、1928~2017)は、獣医師にして、獣医学の大学教官である。津山市の生まれ。
 1945年(昭和20年)には、地元の県立津山高等学校を卒業する、その頃までに自らの歩む道を見定めていたのだろうか、鳥取農林専門学校の獣医畜産科へ進む。その頃は、何しろ敗戦後もまもなくの時であったから、教官その他のその場で教育に携わる人も、学生も、「空腹にてひもじい」というか、双方でさぞかし苦労が重なったのではないだろうか。

 それでも、ある年譜によると、1949年に卒業後は、農林省の家畜衛生試験場の研究員として働く。求めたのは、畜産を科学の立場から支え、発展させること。それからは、生来の研究気質というか、次々と業績を上げていく。

 そのあたり、人間には、その体とそこから醸し出される情念とは、かなりの結びつきが往々にしてあるという。そうであるなら、どこかしら、「何事かなせ、なさざるべからず、生まれたる者は」(経済学者の櫛田民蔵の発した言葉として広く伝わる)といった信念も働いていたのかもしれない。あるいは、富や名声といった世間一般の観念とは一線を画した毎日であり続けた、まるで静かなる「匠(たくみ)」のような人であったのだろうか、

 再びかかる年譜によると、そのともすれば地味だと考えられているだろう分野にて、例えば、「畜産農家に恐れられていた牛の伝染病「牛流行熱」「イバラキ病」「アカバネ病」の原因がアルボウイルスであることを突き詰め、診断法やワクチンを開発した」とあり、かのジェンナーの仕事などの偉業も頭をよぎる。

 その背景にあると見られているのは、地球規模での温室効果や異常気象などの気候変動の介在であって、その影響下での吸血昆虫の生息域の拡大であるとされている。1970年代には、約4万頭からの家畜がかかるウイルスに罹患したとされ、ワクチンの開発が至上課題となる。

 それからは、家畜衛生試験場製剤研究部長、日本ウイルス学会理事、日本大学生物資源科学部教授、獣医師免許審議会委員などを歴任したとあり、この分野での草分けの一人としてある。
 さらに、その頃の岡山、とりわけ美作の辺りは、畜産が盛んであったらしく、人々の情熱さえもが、今さらながら熱く感じられる。


(続く)

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♦️949『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカにおける富の偏在(2019~2020)

2021-02-19 10:11:11 | Weblog
949『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカにおける富の偏在(2019~2020)

 まずは、アメリカにおける富の偏在、所得や財産の保有に大いなる差があることは、様々な研究や調査などがあり、その中から最近のものを幾つか紹介しよう。

 フランスのガブリエル・ズックマンとトマ・ピケティとの合同での研究結果としての「WORLD INEQUALITY REPORT 2018」には、世界を見渡すと、こんな話であるという。

「How has inequality evolved in recent decades among global citizens? We provide the first estimates of how the growth in global income since 1980 has been distributed across the totality of the world population.

The global top 1% earners has captured twice as much of that growth as the 50% poorest individuals. The bottom 50% has nevertheless enjoyed important growth rates.

The global middle class (which contains all of the poorest 90% income groups in the EU and the United States) has been squeezed.」(WORLD INEQUALITY REPORT 2018)


 それでは、アメリカではどうなっているかというと、こちらは「差別もここまで来れば」の典型ともなっている。

「Income inequality in the United States is among the highest of all rich countries. The share of national income earned by the top 1% of adults in 2014 (20.2%) is much larger than the share earned by the bottom 50% of the adult population (12.5%).

Average pre-tax real national income per adult has increased 60% since 1980, but it has stagnated for the bottom 50% at around $16 500. While post-tax cash incomes of the bottom 50% have also stagnated, a large part of the modest post-tax income growth of this group has been eaten up by increased health spending.」(同)

 見られとおり、総じて、アメリカの納税者のトップ1%の所得が国民所得に占める割合は、1980年に11%だった、それが今では20%を超えているという。
 そればかりではなく、下層半分のアメリカ人の所得が国民所得に占める割合は、1980年は20%だったが、今では12%に減少しているという。


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 二つ目に、「the balance」の論説サイトに、興味深い話が載っている、その結論部分のみを、「さわり」の部分を紹介しよう。

「In 2019, the top 20% of the population earned 51.9% of all U.S. income.Their average household income was $254,449. The richest of the rich, the top 5%, earned 23% of all income. Their average household income was $451,122.

The bottom 20% only earned 3.1% of the nation’s income. The lower earner's average household income was $15,286.

Most low-wage workers receive no health insurance, sick days, or pension plans from their employers. They can't get ill and have no hope of retiring. That creates health care inequality, which increases the cost of medical care for everyone. Also, people who can't afford preventive care will wind up in the hospital emergency room.
In 2014, 15.4% of uninsured patients who visited the ER said they went because they had no other place to go.
They use the emergency room as their primary care physician.」(同社のサイトから、「Income Inequality in America」を選択し、その一部を引用)


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 三番目に紹介するのは、セントルイス連邦準備制度理事会の調査報告であり、この種の研究ではかねてから定評があるところだ。まずは、人種による違いから。

「The wealth gap between Black and white families remains large, despite Black families’ real (i.e., inflation-adjusted) wealth gains in dollar terms.


In 2019, the typical non-Hispanic Black family had about $23,000 of wealth. That’s up 32%, from $17,000 of wealth in 2016 (using unrounded numbers). By “typical,” we mean a family at the middle or median. (The median is a useful approximation of the typical family’s experience because it’s not as likely to be affected as the average by the inclusion of data on extremely high- or low-wealth-holding families.)


That’s also 12 cents per dollar of the typical non-Hispanic white family, which had about $184,000 of wealth in 2019. Non-Hispanic white family wealth was up 4%, from $177,000 in 2016.」(「Has Wealth Inequality in America Changed over Time? Here Are Key Statistics」Wednesday, December 2, 2020)



🔺🔺🔺

 次には、富の分布について、どうなっているのだろうか。


「In 2016, total U.S. household wealth amounted to $92.4 trillion in 2019-adjusted dollars. The 2016 population was about 126 million families. To be in the top 10% of the wealth distribution in 2016, a family needed at least $1.26 million.


In 2019, total wealth had grown to $96.1 trillion. The 2019 population was approximately 129 million families.


To be in the top 10%, a family needed $1.22 million or more (slightly less than in 2016). Together, these roughly 12.9 million wealthy families owned 76% of total household wealth in 2019.


To be in the middle 40%, a family needed at least $122,000 in wealth. Together, these approximately 51.5 million families owned 22% of U.S. wealth in 2019.

To be in the bottom 50% meant a family had less than $122,000 in wealth. That represented about 64.3 million—or half of—families in 2019, owning just 1% of the nation’s wealth. Further, of this group, some 13.4 million families (about 1 in 10) had negative net worth—they didn’t even have a slice of the pie.」(同)


(続く)

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○263の6『自然と人間の歴史・日本篇』「明治の文明開花」色々

2021-02-16 10:35:44 | Weblog
263の6『自然と人間の歴史・日本篇』「明治の文明開花」色々

 「明治の文明開花」を告げる要素としては、風俗や習慣の変化から技術的なものまで、色々なものがあったのだろう。

 まずは、大まかな話から。

○1869年6月には、版籍奉還により、旧藩主を旧領地限りでの藩事(地奉官)に任命される。これにより、かかる土地とそこに住む人民を朝廷に返還したことになっている。また、これに基づき、追ってとりあえず日本国民の新たな身分別な区割りが行われ、公卿および諸侯を「華族」、旧幕臣・旧藩士を「士族および卒」、その他の者を「平民」と呼び習わすことになった。すなわち、きたるべき「四民平等」といいながらも、新たな緩い形での「身分もどき」がいわれだしたというのは、誇張な話ではなかろう。


○1870年9月、「平民」に対し、名字の使用が認められる。

○1871年(明治4年)8月、散髪・脱刀の自由をうたった法令が出される。
 その後の流行歌には、「半髪(はんぱつ)頭をたたいてみれば因循姑息(いんじゅんこそく)の音がする。惣髪(そうはつ)頭をたたいてみれば王政復古の音がする。ジャンギリ頭をたたいてみれば文明開化の音がする」とあるが如く、大方には喜んで受け入れられたようだ。
 その例外は旧士族層の一部であって、長い間の習慣というものは、簡単にはやめられない人もかなりいたようだ。

○1871年8月、平民・士族・華族の間の結婚を認める。同月、「えた・」の称(しょう)を廃止し、身分、職業とも「平民」と同じとするとする身分解放令を発令する。


○1871年12月、華族・士族・卒に対し、農業・工業・商業を営むことを認める。


○1872年1月、明治維新後初めての全国戸籍調査(壬申戸籍(じしんこせき))が実施される。その結果は、男性が1679万6158人、女性が1631万4667人、計3311万825人であった。同月、「卒」を「士族」か「平民」に編入する。


○1872年10月には、「そそくさ」とでもいうべきか、あらゆる人身売買を禁止する。

○1876年には、帯刀禁止令(廃刀令)が出される。これによって軍人、警察官以外は原則禁止となる。

○技術的な進歩との絡みでは、電気による明かりが大きい。この国では、1878年3月25日にアーク灯が初点灯され、のちに「電気記念日」となる。それが、1879年10月21日にエジソンが実用炭素電球を発明すると、これが輸入されていく、この日を日本では1981年に「あかりの日」と制定した。

♠️第二部
 それからは、線引きタングステン電球(1908年)、水銀ランプ(1931年頃)が普及していく。
 戦後になっての1959年には蛍光ランプが、1959年にはハロゲン電球が、1963年にはメタルハライドランプと高圧ナトリウムランプというように光源は多彩なものとなっていき、21世紀に入っては省エネルギーが売り物のLEDやELなども登場している。


(続く)

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♦️948『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカン・ドリームの再建は可能か(2021、フランクリン、フロム、ケインズから学ぶ)

2021-02-15 22:08:41 | Weblog
948『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカン・ドリームの再建は可能か(2021、フランクリン、フロム、ケインズから学ぶ)

 アメリカでは、元々、アメリカ人たる者、各々の出発点は平等であるべきで、そうであればこそ人々は公正な競争の結果として、成功する者とそうでない者との間に、明白な落差がうまれるのは、やむを得ないと大方考えていたのではないだろうか。

 顧みると、かつての建国に参加した一人であるフランクリンは、「アメリカへ移住しようる人々への情報」に、次のような一文を寄せた。

 「誇るにたるのは家柄だけというような人には、とうていここへの移住はおすすめできない。ヨーロッパでは名門も尊敬されるが、そんなしろものを運んできたところで、アメリカほど不利な市場はどこにもない。
 アメリカでは、ひとの、ことをたずねるばあい、人々は、あの人の身分は何か、とはきかないで、あの人には何ができるのか、ときく。もし有能な技能をもっていれば歓迎されるし、それを実践してうまいことがわかれば、知り合いのすべてから尊敬される。」(ベンジャミン・フランクリン「アメリカの建国思想」)

 ここでフランクリンがいう「家柄」などは、それが発展すれば社会をうまくわたりあるくための特権ともなりうるものなのだろう。だが、彼はそんなことはお構い無く、できたばかりのこの国は、あらゆる種類の特権を原則的に排除する社会だと言いたいのだろう。なにしろ、彼は、建国時の独立宣言の起草委員を務めていた人物なのである。
 とりわけ、人々が生まれながらに受け継ぎ、背負い込むこむ性格の特権、身分のごときものを徹底的に排除することを、建前(たてまえ)としているのだろう。

 そういえば、社会学者のエーリッヒ・フロムは、その有名な著作「自由からの逃走」において、諸国民の間の性格についての社会・心理的アプローチを試みており、「性格の相互作用、社会・経済的状況および観念」の三つの条件を踏まえることで説明できる、としている。

🔺🔺🔺
 もう一つ、ケインズの著作から、経済格差の拡大に関わる部分を少し引用しておこう。

 「われわれの生活している経済社会の顕著な欠陥は、完全雇用を提供することができないということと、富および所得の恣意にして不公平な分配とである。上述の理論が両者のうちの第一の点対する関係は明白である。しかし、なおそれが第二の点に関係を、もつ二つの重要な側面がある。(中略)
 私の考えでは、主として、資本の成長は個人の貯蓄動機の強さに依存するという信念ならびにわれわれはこの成長の大部分を富者の余剰からの貯蓄に仰がなければならないという信念からである。われわれの議論はこれら二つの点の第一のものには影響を与えない。
 しかし、それは第二の点に対するわれわれの態度を著しく修正するであろう。なぜなれば、すでにわれわれの見たように、完全雇用が実現する点に到達するまでは、資本の成長は低い消費性向に全然依存するものではなく、反対に、それによって阻止されるのであって、低い消費性向が資本の成長の助けとなりうるのは完全雇用の状態のもとにおいてのみであるからである。(中略)

 かくてわれわれの議論は次の結論を導く。すなわち、現状にあっては富の成長は、通常考えられているように、富者の欲望制御に依存するどころか、却(かえ)ってそれによって阻止されるということがそれである。したがって、富の大なる不平等を正当化する主たる社会的理由のひとつが取り除かれることになる。(中略)
 私自身としては、所得および富の相当な不平等を正当化することのできる社会的、心理的理由はあるけれども、それは今日存在するほど大きな懸隔(けんかく)を正当化するものではない、と信じている。その完全な達成のために金儲けの動機やと富の私有制度を必要とする価値ある人間活動が存在する。
 そればかりでなく、金儲けと富の私有の機会が存在するために、危険な人間性癖(せいへき)を比較的害のない方向へ導き入れることができるのであって、それらの性癖は、もしこの方法で満足させられないとすると、残忍性とか、個人的な権力や権勢の無謀な追及とか、その他個人的勢力扶置のもろもろの形態にそのはけ口を求めるようになるであろう。」(ジョン・メイナード・ケインズ著、塩野谷九十九訳「雇用・利子および貨幣の一般理論」第24章「一般理論の導くべき社会哲学に関する結論的覚書」)

 この部分の引用で興味深いことには、冒頭で「われわれの生活している経済社会の顕著な欠陥は、完全雇用を提供することができないということと、富および所得の恣意にして不公平な分配とである」」と述べつつも、さらなる下りで「私自身としては、所得および富の相当な不平等を正当化することのできる社会的、心理的理由はあるけれども、それは今日存在するほど大きな懸隔(けんかく)を正当化するものではない、と信じている」と微妙な言い回しになっている。これは、彼ほどの頭脳の持ち主ならそれなりに事の重大性を認識してのことだろう。
 とはいえ、この引用の文面に限っては、ケインズその人は経済格差の問題を問題視しながらも、あえて彼自身がたてなおそうと努力していた資本主義に巣くう重大問題として措定しているのではあるまい。
 だから、その解決策としては、「それは今日存在するほど大きな懸隔(けんかく)を正当化するものではない、と信じている。その完全な達成のために金儲けの動機やと富の私有制度を必要とする価値ある人間活動が存在する。そればかりでなく、金儲けと富の私有の機会が存在するために、危険な人間性癖(せいへき)を比較的害のない方向へ導き入れることができる」という代替案をいうのであって、資本主義本体の機構を根本的に改めるというよりはそのメカニズムをいじるなりして「よりましな方向」へと誘導するにほかなるまい。



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(続く)

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◻️261の5『岡山の今昔』岡山人(20世紀、滝川幸辰)

2021-02-14 21:09:39 | Weblog
261の5『岡山の今昔』岡山人(20世紀、滝川幸辰)

 滝川幸辰(たきかわゆきとき、1891~1962)は、教育家にして、刑法学者だ。日本刑法学会の初代理事長をつとめた。
 岡山の生まれ。1915年に、京都帝国大学独法科を卒業する。学問優秀にて、そのまま大学に残って研究生活に入る。1918年同大学助教授に、1924年には教授となる。
 おりしも、日本はファシズムにのめり込み始めていた。やがての1932年には、満州事変というように、世の中がガラリと変わっていく。
 そして迎えた1933年、その学びの殿堂にいる滝川を標的にした事件が起こる。
 滝川の著書の一つである「刑法読本」や講演内容がの思想的な偏りなどが問題視され、文部大臣の鳩山一郎から辞職要求が出されたのだ(その次には、休職処分に切り替えられたという)。

 それたるや、本人やその同僚たち、ひいては大学当局にとっては予想だにしないような出来事であったろう。さらにいうと、当時、治安維持法改悪の動きがあり、これに反対するようなあらゆる動きを阻止する話になっていた。

 当時の京大法学部の中には、自由主義分子が沢山いたのだろう。これは、学問の自由に対する公権力による弾圧にほかならない。そこで、これを守る見地からこれに反対する学者も多かった。

 しかし、結局は、政府の力に押切られた形となった。これがいわゆる滝川事件である。
 
 その後の滝川だが、第2次世界大戦後に京都大学に復帰する。そして、法学部長を1950年までつとめる。
 その学風としては、刑法における客観主義を徹底した。代表的な著書としては、前述の「刑法読本」(1932) や「犯罪論序説」 (1938) などがある。
 また、このほかに多くの随筆集があるというのだが。


(続く)


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