♦️1165『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの家計債務と企業債務(2020~2021)

2021-10-27 07:54:56 | Weblog
1165『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの家計債務と企業債務(2020~2021)

 

 2021年2月2日時点でのセントルイス連銀の報告によれば、2020年9月末における家計の債務残高は16兆4,064億ドルで、2019年末と比べ4,049億ドル増加していた。その内訳でいうと、消費者信用残高は237億ドル減ったのに対し、大規模金融緩和下での低金利下でモーゲージ(抵当・抵当権の意味))が3,161億ドル増えた。それでも、この時の対名目GDP比率は77.5%に留まり、住宅バブルでモーゲージが急増していた2008年3月の98.3%のレベルには達していない。

 一方、家計の債務の内訳ては、住宅ローンの動向が中心となろう。そこで、全米の住宅価格の指標となる、「S&Pコアロジック・ケース・シラー指数」(スタンダード・アンド・プアーズ社が全米の住宅価格の指標となる指数を取りまとめたもの)によると、2020年10月以降、前年同月比の上昇率が平均で10%を超えた。それからも、2021年3月時点の米国の住宅価格の水準になると、前回の住宅バブルのピークだった2006年4月の住宅価格を16.8%も上回った。

 

 それが2021年6月29日に発表された2021年4月時点の同指数では、前年同月比で14.6%上昇し、過去30年あまりで最大の伸びとなった。
 背景には、住宅ローン金利が10回以上も史上最低を更新したことに加え、コロナ禍を避けるための在宅勤務が増え、郊外への住み替え需が増加したことがあろう。かたや供給側も、米国の木材価格が高騰し、他にも材料不足に加え、おまけに資材を運ぶトラック運転手をはじめ労働力不足が顕著であることから、幅広く供給制約が出たことが挙げられている。


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 次には、企業の債務がどのくらい積み上ってきているかをみよう。まずは、セントルイス連銀調べでの2020年9月末のアメリカ企業の債務残高は、10兆9056億だった。これは、同年6月末の11兆80億ドルからはやや減少し、対名目GDP比率も56.4%から51.5%へ低下した。
 経済規模に対する企業債務ということでは、以前は対GDP比率で45%はバブルのシグナルだった。今回、その水準を大きく上回った背景は、FRBによる大規模金融緩和があったためと考えられている。

 これと相まっての数字として、2020年7月に入り、米企業の社債発行残高は10兆ドルを超え、アメリカの2019年のGDP21.5兆ドルの半分近くに上っている。フィナンシャル・タイムズによると、提携による融資や中小企業向け融資など、他の形態の債務も加えると、企業の債務残高は17兆ドルに上るとのこと。

 こうした社債の発行には、次の見方もある。そういうのは、2020年2月12日の米株式市場ではダウ工業株30種平均の終値が前日比275ドル高の2万9551ドルと過去最高を更新し、史上初の3万ドルに迫った。新型肺炎への過度の警戒感が薄らいだことが背景にあるが、自社株買いや配当など年1兆ドル(約110兆円)を超える株主還元が株高を勢いづけている面もある。
 そんな中でも代表格なのが、2019年に最も自社株買いをしたIT大手企業のアップルだ。788億ドルと純利益(575億ドル)の1.4倍もの資金を自社株買いに回した。アップル株は年間で80%あまり値上がりし、米国株全体をけん引した。有望な投資機会が減るなかで、利益以上の金額を株主還元に回す企業はなお多い。

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 こうした家計と企業の債務増加の継続に対し、警鐘を鳴らしてきたFRBは、最新の2021年5月に「金融安定報告書」発表した。その中で、前回の報告書以降、両者の債務による脆弱性は低下している。それでも、企業と家計の債務が最近横ばいでの推移に変化していることに触れて、新型コロナの影響を強く受けている企業と家計が抱える潜在的なリスクには、引き続き注意が必要だとしている。
 とはいえ、両方ともに、低金利や、賃金保護プログラムなど政府の継続的支援などの効果が薄れていくと、弱いところから債務返済能力の低下が顕在化していく可能性があるのは否めない。
 
(続く)

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