森田思軒(もりたしけん、1861~1897)は、新聞記者であるとともに翻訳家。本名は、文蔵という。備中の笠岡の生まれ。
(続く)
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これにある那須与一(生年は1166~1169の間か、?)なる人物は、「吾妻鏡」などの史料には見えない。その代わり、軍記物である「平家物語」や「源平盛衰記」といった伝承織り交ぜての軍記物に、英雄として華々しくも登場する。
ついては、現在までに実在が立証できていない人には違いないものの、その類いの武士が何らかの形で武勲を立てた可能性は相当程度あるのではないだろうか。その誕生地は、一説ながら、当時の那須氏の居城神田城(現在の栃木県那須郡那珂川町)と推測される。
かかる伝承でいうと、彼は、治承・寿永の乱において、源頼朝方に加わる。源義経に従軍しての屋島の戦いにおいて、平氏方の軍船に掲げられた扇の的を射落としたという。そのことで、「にっちもさっちもゆかなく」なっていた戦局にどのような変化があったのかは、わからない。
ともあれ、それらの軍功を挙げたことにより、与一は後年、源頼朝より丹波・信濃など5カ国(丹後国五賀荘・若狭国東宮荘・武蔵国太田荘・信濃国角豆荘・備中国後月郡荏原荘)の地頭職を賜った旨。
とはいえ、この点の真偽につき、西国での地頭の布置が大々的に行われるのは、承久の変の後、幕府側が朝廷から多くの土地を奪ってのことであった。そのことを考えると、同軍記の書きぶりにはかなりの誇張があるのかもしれない。
232の7『岡山の今昔』岡山人(20世紀、河野進)
河野進(こうのすすむ、1904~1990)は、キリスト教プロテスタントの牧師。
和歌山県の生まれ。満州教育専門学校を経て、神戸中央神学校で学ぶ。よほどの宗教心が培われたのであろう。卒業すると、玉島教会において牧師となる。
やがて、賀川豊彦より、岡山ハンセン病療養所での慰問伝道を勧められたらしい、それ以来長きにわたりたづさわる。
そんな河野には、おりに触れての、素直な心情を吐露したかのような詩がある。その中から、幾つか紹介しておこう。
(続く)
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211の3『岡山の今昔』岡山人(19~20世紀、井手訶六 )
1913年(大正2年)には、福山で水彩画による、初の個展を開く。翌年の第8回文部省美術展覧会に「みなとの曇り日」を出品する。1919年(大正8年)になると、竹内栖鳳の画塾「竹杖会」に入る。そして、第一回帝国美術院展覧会(帝展)において、「南郷の八月」で入選を果たす。昭和に入ると「昭和東海道五十三次」のように清新な画風に変わる。
戦後になると、さらに画風をリニューアルしていく。伝統や慣習にとらわれないのを理想にしたものと考えられる。
232の5『岡山の今昔』岡山人(20世紀、本田文輔)
本田文輔(1910~1936)をご存知だろうか、彼は、大学生にして、共産党の活動家てあった。その後半は、日本が侵略戦争にのめり込んでいく中での、劇的な人生であった。
生まれは、英田郡江見村が原籍なのだが、小学校教師の父親の任地との関係を考えると、断定は難しいようだ(大林秀弥「本田文輔のこと」)。
1927年(昭和2年)には、第一岡山中学校を卒業し、第六高等学校の理科甲類に入学する。そこを1930年(昭和5年)に卒業後は、京都大学の文学部哲学科へとすすむ。と、ここまでは当時の若者の中では、相当に恵まれた境遇であったのであろう。それに、秀才ということでも地方での誉れが高かったようだ。
そんな本田が、学生生活2学年を迎える頃には、マルクス的立場から、社会問題に大きく立ち入るまでになっていた。なお、マルクスをどれだけ読んでいたのかは、わからない。それというのも、1932年(昭和7年)9月7日には、内務省管轄の特別高等警察に検挙されたという。
はたして、当時の世相はといえば、「きな臭さ」を増しつつあった。何らかの政治活動が理由なのであろうか、もしくは、そのような「危険」思想を抱いているか、国策に反対する政党に関係しているのではないか、などでの嫌疑がかかっては、簡単に連行される時代であった。ましてや本田は、もういっぱしの活動家(日本共産同盟京都都市委員会委員長)となっていたのだから、仲間とともにこの日一斉検挙に連座して逮捕される。
そのまま12月には、治安維持法により起訴される。さしあたりの量刑は、「懲役六年又は七年」(大林、前掲書)であったという。それから数年だった1936年(昭和11年)5月8日(推定)には、彼の岡山刑務所内での死亡が伝えられている。そのことから、「非転向」のため、たんなる刑務所暮らしではなくて、拷問をふくむ尋問が続いていたのであろう。この点につき、刑務所の記録は、刑務所内での「自殺」とされているようなのだが、この時期での他の例と同様に信用するに足らない。
(続く)
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