♦️1155『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの労働運動(新型コロナ下)

2021-10-15 20:49:23 | Weblog
1155『自然と人間の歴史・世界篇』アメリカの労働運動(新型コロナ下)

 

 アメリカの労働運動が、いま熱い。2020年からの新型コロナ禍において、アメリカの各地で、労働運動が、新境地を拓(ひら)きつつあるようだ。
 2021年1月、アメリカの「GAFA」と呼ばれる巨大会社の一角、グーグル社をはじめとするグーグル・グループを統括する持株会社である、アルファベットの従業員たちは、労働組合を結成した。その際、アメリカ国内とカナダの通信・メディア業界の労働者らでつくるCWA(米国通信労働者組合)の支援を受けたというから、用意周到な話に違いあるまい。
 同月4日時点で226人が参加を決めたという。規約によると、報酬総額の1%を組合費として拠出すれば、契約社員や派遣社員らも組合員として受け入れられる。
 とはいえ、アメリカの労働法では、労組が雇用主との団体交渉権を獲得するには、一般に各州や連邦政府の労働当局の管理下で従業員らによる投票を行い、一定割合の賛成を得る必要がある。グーグルは、労務担当者の声明の中で「これまでと同様、我々は全従業員と直接交渉を持ち続ける」と述べ、新設された労組との団体交渉には応じない考えを示した。
 そういう訳なので、この労組の設立は直ちにグーグルの労務・経営に物申すことには結びつかないにしても、報道によれば、同社では2018年にセクハラ隠蔽疑惑が発覚したことがある、その際、世界各国の拠点で合わせて2万人を超える従業員が抗議集会に参加し、会社が問題を秘密裏かつ強制的に仲裁する制度を撤回させた実績がある。

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 この運動をさらに進めたのが、これまた同系統の巨大会社、米インターネット通販大手アマゾン・ドット・コムのうち、アラバマ州ベッセマーで運営する物流倉庫の従業員たちが、労働組合の結成に立ち上がった。
 彼らか、この運動に立ち上がったのには、元からの過酷な労働環境と、新型コロナウイルス禍で加速した巣ごもり消費を追い風に利益を伸ばす一方で、感染対策の強化が不十分な姿勢をなんとか是正させたいとの、切実な要求があったという。その労働の過酷さたるや、「瓶に排尿したこともある」と、ある議員か指摘したのを、会社側も渋々ながら認めざるを得なかったという。

 2021年2月5日には、NLRB(独立行政機関の全米労働関係委員会)が、アマゾンからの反対を押し切って、アラバマ州のアマゾンの倉庫従業員らが労組の組織化の是非を問う投票を8日から始動することを認めた。
 
 かくて、全米で第2位となる80万人超の従業員規模を誇るアマゾンで、労組が結成されるか注目されていた、結成の賛否を問う投票が3月29日までに実施され、独立政府機関のNLRB(全米労働関係委員)が、4月9日、反対が1798票となり、賛成738票を大きく上回り、反対多数で否決された(従業員投票を管轄したNLRBが4月9日までに集計したもの)。
 
 同施設では約6000人が働いており、投票率は約55%だったとしている。ただし、同施設での労組結成の活動を主導した小売り産業の労組「RWDSU」(小売り・卸売り・百貨店組合)は投票結果に異議を申し立てる方針で、労働争議の調停を行う政府機関のNLRB(全米労働関係委員会)に調停を行うよう要求しており、そうなれぱ最終決着にはさらに時間がかかる見通しだという。

 はたして、同社の労組結成は、賃金見劣りで募る不満を力に、経済のデジタル化が進む米国で格差是正をめざす動きとして業界の枠を越えて注目を集めてきていたことから、今後どうなっていくかが見守りたい。
 
 
 
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 それから、広い意味での芸能界で働く人たち、ハリウッド映画やドラマ、演劇、コンサートなどを支えるクルーの労働組合であるIATSE(国際舞台演劇・映画従事者同盟)が、ストライキを実施する可能性があると、現地から報道が寄せられている。
 IATSEは、カメラマンや衣装担当者をはじめ、映像制作に不可欠なスタッフが多く所属している団体だ。このコロナ禍において、いわゆるエッセンシャル・ワーカーではないものの、15万人以上の所属会員を擁しているのは、流石に芸能の殿堂に働く人々の意識の高さからなのだろう。
 きっかけになったのは、映画会社やテレビ局、Netflixやアマゾンなどが所属する業界団体AMPTP(全米映画テレビ製作者協会)と、映画とテレビ番組の製作に関する契約更改交渉を過去4カ月間にわたって行ってきたものの、現在(2021.10.10)はまだ膠着状態にあるという。
 そこで、要求を貫徹すべく、ストライキ発動の権限を求める投票を行ったところ、約9割が回答したという。なんとその98%が承認に投票したというのだから、驚きだ。
  IATSEのマシュー・ローブ会長は、「今回の投票は、映画、テレビ業界で働く人々の生活の質、そして健康と安全に関わるものです。私たちは、食事休憩、十分な睡眠、週末といった人間の基本的な権利を求めています。また、給与水準の低い人たちも、まっとうな生活を営むことができる給与を与えられるべきなのです」と述べている。 
 
 
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 さらに、民主党は、バイデン政権の方針と銘打って、支援の基盤として、次のような労働組合を支援する方針を打ち出している。


「Biden is proposing a plan to grow a stronger, more inclusive middle class – the backbone of the American economy – by strengthening public and private sector unions and helping all workers bargain successfully for what they deserve. 

As president, Biden will:

Check the abuse of corporate power over labor and hold corporate executives personally accountable for violations of labor laws;

Encourage and incentivize unionization and collective bargaining; and

Ensure that workers are treated with dignity and receive the pay, benefits, and workplace protections they deserve.」(サイト「民主党・ジョー・バイデン」から、2021.10.17閲覧・引用)

 

 2021年3月9日、アメリカの下院は、民主党が目している団結権保護法案を、賛成225、反対206の僅差で、可決した。同法案は、昨年、民主党が多数派を占める下院で可決されたものの、共和党が多数派の上院において否決されていた。今回どうなるかは、議席数が50対50で拮抗しており、未知数だ。
 同法案は、労働組合の結成や団体交渉に対する労働側への保護を強化するもの。とりわけ、NAM(全米製造業協会、政府機関)が労使問題を扱う際に、その命令に従わない企業にはペナルティを科すことができる場合があるという。
 なぜ法制化なのかというと、政府統計でみると、アメリカで労働組合に加入するには、相当複雑な手続きをクリアしなければならない。そのためか、全体での組織率は、1980年代以降長期低落が止まっていない。2020年時点での労働組合に加入する賃金・給与は、全体の約10.8%だとされ、これは1980年代の半分程度になってしまっていると報道される。

 


(続く)

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