ユニーク古典現代訳(大阪弁万葉集改題)

日本の古典を訳します。そのままストンと腑に落ちる訳。なんだ、こうだったのかと分かる訳。これなら分かる納得訳。どうぞどうぞ

日めくり万葉集<10月>(その2)

2009年12月28日 | 日めくり万葉集
■平成21年12月28日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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★召すという ことでは無しに されると 知らんと蟹は 出かけてみたが

おしてるや 難波の小江に いほ作り 隠りて居る 葦蟹を 大君召すと
何せむに  我を召すらめや 明けく 我が知ることを
歌人と  我を召すらめや 笛吹きと 我を召すらめや 琴弾きと 我を召すらめや
かもかくも  命受けむと・・・

《難波入り江に  庵を作り 住まいしておる 葦蟹めをば 天皇様が  お召しになると  
 何の御用で  蟹めを召すか 召すはずないと 思ては見るが
 歌人として  お召しじゃろうか 笛吹き人と 思うて召すか 琴弾くために お召しになるか
 何はともあれ  受けてもみよと・・・》
                         ―乞食者―〔巻十六・三八八六〕 


人麻呂編(05)一緒来た磯懐かし限り

2009年12月24日 | 人麻呂編
■平成21年12月24日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★紀州路を たどる人麻呂 ひとり旅 おどる黒潮 躍らぬこころ

玉津島たまつしま いそ浦廻うらみの 真砂まさごにも にほひて行かな いもふれけむ
《玉津島 海辺の磯の 砂きれえ 昔にお前 さわったからか》
                         ―柿本人麻呂―〔巻九・一七九九〕 

いにしへに いもとわが見し ぬばたまの 黒牛くろうしかたを 見ればさぶしも
《前のとき お前と見たな 黒牛くろうしかた 独り見るんは 淋しいこっちゃ》
                         ―柿本人麻呂―〔巻九・一七九八〕 

黄葉もみちばの 過ぎにしと たづさはり 遊びしいそを 見れば悲しも
《手ぇつなぎ お前と一緒に 来た磯や 見たら悲して どうにもならん》
                         ―柿本人麻呂―〔巻九・一七九六〕 

のち見むと 君が結べる 磐代いはしろの 子松こまつがうれを また見けむかも
有間皇子おおじさん あんた結んだ 松の枝 帰りの道で また見たやろか》
                         ―柿本人麻呂―〔巻二・一四六〕 

潮気しほけ立つ 荒磯ありそにはあれど 行く水の 過ぎにしいもが 形見かたみとそ
さみし磯 思うたけども お前との 思い出場所と おもうて来たで》
                         ―柿本人麻呂―〔巻九・一七九七〕 







【形見とそ来し】へ


日めくり万葉集<10月>(その1)

2009年12月22日 | 日めくり万葉集
■平成21年12月22日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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★子を思う 母の心根 ここにあり 焼野の雉子きぎす 夜の鶴やな
旅人の 宿りせむ野に 霜降らば 我が子羽ぐくめ 天の鶴群たづむら
《宿る野に 霜が降ったら 天の鶴 羽根を広げて うちの子かぼて》
                         ―遣唐使の母―〔巻九・一七九一〕 

★連れ合いを よう見つけへん 雄鹿は 朝まで鳴いて 寝えへんのかな
夕されば 小倉の山に 鳴く鹿は 今夜こよひは鳴かず ねにけらしも
《夕暮れに  妻呼び鳴く鹿 鳴かへんな 連れを見つけて 寝たんやきっと》
                         ―舒明天皇―〔巻八・一五一一〕 

★防人に 行く自分すら 気にせんと 父母の息災 祈る健気けなげ
父母が 殿のしりへの ももよ草 百代ももよいでませ 我が来るまで
《父と母 住んでる家の 百代草ももよぐさ 百まで生きて わし帰るまで》
                         ―壬生部足國みぶべのたるくに―〔巻二十・四三二六〕



人麻呂編(04)遠慮してたら逢えんよなった

2009年12月21日 | 人麻呂編
■平成21年12月21日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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軽郎女いらつめを 死なせ人麻呂 うろたえる なり振りなしに 人目もなしに

あまぶや かるみちは 吾妹子わぎもこが 里にしあれば ねもころに 見まくしけど 
まず行かば 人目を多み 数多まねく行かば 人知りぬべみ
 
《あの児の家は 軽の里 逢いたい気持ち いっぱいや 度々たびたび行ったら うわさ立つ》
狭根葛さねかずら のちはむと 大船の 思ひたのみて
玉かぎる 磐垣淵いはかきふちの こもりのみ 恋ひつつあるに
 
あとで逢える日 来るおもて 恋しさ我慢で 送る日に》
渡る日の れぬるが如 照る月の 雲かくる如 沖つ藻の なびきし妹は 
黄葉もみちばの 過ぎてにきと たまづさの 使つかひの言へば
 
《照る日や月を 隠すよに もみじの葉っぱ 散るみたい お前ったと 言う知らせ》
梓弓あづさゆみ おとに聞きて はむすべ むすべ知らに おとのみを 聞きてありねば 
《どない言うたら えんやろ どしたらえか 分かれへん》
わが恋ふる 千重ちえ一重ひとえも なぐさもる こころもありやと 吾妹子わぎもこが まず出で見し 
軽のいちに わが立ち聞けば
 
えた気持ちを しずめよと お前のった 軽の市 行ってたずねて 探したが》
玉襷たまたすき 畝火うねびの山に 鳴く鳥の こゑも聞えず 
玉桙たまほこの 道行く人も 一人だに 似てし行かねば
 
《行き交う人中ひとなか 声聞こえん 人多数よけるに 影見えん》
すべをみ 妹が名びて そでぞ振りつる
うろてしもて 名ぁ呼んで わめき回って 袖振りまわす》
                         ―柿本人麻呂―〔巻二・二〇七〕 

秋山あきやまの 黄葉もみちしげみ まとひぬる いもを求めむ 山道やまぢ知らずも
《茂ってる 黄葉もみじの山へ まよてもた お前探すに 道分れへん》
                         ―柿本人麻呂―〔巻二・二〇八〕 
黄葉もみちばの りゆくなへに 玉梓たまづさの 使つかひを見れば ひし日思ほゆ
《あの使い 黄葉もみじ時分じぶんに また見たら 一緒った日 思いすんや》
                         ―柿本人麻呂―〔巻二・二〇九〕 






【妹が名呼びて】へ


日めくり万葉集<9月>(その8)

2009年12月18日 | 日めくり万葉集
■平成21年12月18日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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志貴皇子しきのみこ 身罷ってもて 高円は 寂しなったな 誰も居らんで

高円たかまとの 野辺のへの秋萩 いたづらに 咲きか散るらむ 見る人なしに
《高円の  野に咲く萩は 虚しいに 咲いて散ってる 見る人おらんで》
                         ―笠金村―〔巻二・二三一〕 

★働き手 娘取られて なるもんか おっかあ監視の 眼ぇ盗まんか

等夜とやの野に 兎ねらはり をさをさも 寝なへゆゑに 母にころはえ
《野に伏せて  兎捕るよに 忍んだが 寝もせんうちに 母どやされた》
                         ―作者未詳―〔巻十四・三五二九〕 

★置いてきた お前恋しい 花見ても みんなお前の 笑顔に見える

なでしこが 花見るごとに 娘子をとめらが まひのにほひ おもほゆるかも
《撫子の 花見るたんび お前ちゃん 可愛かいらし笑顔 思いだされる》
                         ―大伴家持―〔巻十八・四一一四〕 



人麻呂編(03)初心(うぶ)なあの児に惚れたがどした

2009年12月17日 | 人麻呂編
■平成21年12月17日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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初心うぶな子を 見染め人麻呂 作る歌 初心うぶが移って 純情あふる 
み熊野の 浦の浜木綿はまゆふ 百重ももへなす こころへど ただはぬかも
浜木綿はまゆうの 葉いっぱいに 茂ってる 思いもそやが よう逢い行かん》
                         ―柿本人麻呂―〔巻四・四九六〕 

いにしへに ありけむ人も わがごとか いもに恋ひつつ ねかてずけむ
おんなじか 昔の人も ワシみたい 焦がれ恋して 寝られへんのは》
                         ―柿本人麻呂―〔巻四・四九七〕 

★純情 作った自分 照れくさく 返し歌まで 自分で作る
今のみの 行事わざにはあらず いにしへの 人そまさりて にさへ泣きし
《今だけの こととはちごて 昔かて 恋して泣いた 今よりもっと》
                         ―柿本人麻呂―〔巻四・四九八〕 

百重ももへにも 来及きしかぬかもと 思へかも 君が使つかひの 見れどかざらむ
何遍なんべんも 来て欲し思う あんたから 使い来るたび 見るたびずっと》
                         ―柿本人麻呂―〔巻四・四九九〕 






【浦の浜木綿】へ


日めくり万葉集<9月>(その7)

2009年12月16日 | 日めくり万葉集
■平成21年12月16日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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★待つことに 慣れた額田王おおきみ もう来ぬと 思えどもしや 来ることあるか
君待つと 我が恋ひ居れば 我が宿の すだれ動かし 秋の風吹く
《あっすだれ 動いたおもたら 風やんか あんまりうちが 焦がれるよって》
                         ―額田王―〔巻四・四八八〕 

★連れ合いが 居るのに誘う 人あるか 昔馴染みや 云うてもあかん
あかねさす 紫野行き 標野しめの行き 野守は見ずや 君が袖振る
《春野摘み  野守りが見るで 行き来して こっちを向いて 袖振ってたら》
                         ―額田王―〔巻一・二〇〕 

宅守やかもりの ”恋苦くるしいよって 死んでまお” 言うのいさめて 娘子おとめは気丈
命あらば  逢ふこともあらむ 我がゆゑに はだな思ひそ 命だに経ば
《そう言いな  命あったら 逢えるやん 思い詰めなや うち気に病んで》
                         ―狭野弟上娘子さののおとがみのをとめ―〔巻十五・三七四五〕


人麻呂編(02)かわいい女房亡くしてしもた

2009年12月15日 | 人麻呂編
■平成21年12月15日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★巻向の 郎女恋し 引手山 草分け探す 乳飲み子連れて

うつせみと 思ひし時に たづさへて わが二人見し 
走出はしりでの つつみに立てる つきの木の こちどちのの 
春の葉の しげきが如く 思へりし いもにはあれど 
たのめりし らにはあれど
 
《元気でる時 二人で見たな 若葉のいっぱい 茂ったけやき
 そんないっぱい 好きたお前 末おもてた お前やけども》
世の中を そむきし得ねば かぎろひの 燃ゆる荒野あらのに 
白拷しろたへの 天領巾あまひれがくり 鳥じもの 朝ちいまして 入日いりひなす かくりにしかば
 
《世の中ならいに 逆らいできず 陽炎かげろう消えて 天行くみたい
 鳥飛び立って 帰らんみたい  太陽ィ沈むよに 隠れてしもた》
吾妹子わぎもこが 形見かたみに置ける みどり児の ひ泣くごとに 
取りあたふ 物し無ければ をとこじもの わきはさみ持ち
 
《残った赤ん 泣くたびごとに 乳もんのに 胸抱きかかえ》
吾妹子わぎもこと 二人わが宿し まくらつく 嬬屋つまやの内に 
昼はも  うらさび暮し 夜はも 息づき明し 嘆けども せむすべ知らに 
恋ふれども よしを無み

《お前と暮らした 住まいにこもり 昼間ひるまぼっとし よるためいきし 
なげいてみても どうにもならん 恋しがっても うことでけん》
大鳥おほとりの 羽易はがひの山に わが恋ふる いもすと 
人の言へば 石根いはねさくみて なづみ

《後ろの山で お前の姿 見たと聞いたら いわみち分けて
 らんもんかと 探しに行った》
けくもそなき うつせみと 思ひし妹が 玉かぎる ほのかにだにも 見えぬ思へぱ
《生きてるはずと おもてたお前 影も形も 見えんよなった あってえんか こんなこと》
                         ―柿本人麻呂―〔巻二・二一〇〕 
衾道ふすまぢを 引手ひきての山に いもを置きて 山路やまぢを行けば 生けりともなし
引手ひきて山 お前まつって 降りてきた ひとり生きてく 気ィならんがな》
                         ―柿本人麻呂―〔巻二・二一二〕 
去年こぞ見てし 秋の月夜つくよは 照らせども あひ見しいもは いや年さかる
去年きょねん見た 秋のえ月 今もええ 一緒いっしょ眺めた お前らんが》
                         ―柿本人麻呂―〔巻二・二一一〕 





【引手の山に】へ


日めくり万葉集<9月>(その6)

2009年12月14日 | 日めくり万葉集
■平成21年12月14日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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陸奥みちのくに 金出きんで寿ぐ 帝詔書しょうしょ 族の誉れに いたく感じて


大伴の 遠つ神祖かむおやの その名をば 大久米主おほくめぬしと 負ひ持ちて 仕へしつかさ
海行かば 水漬みづかばね 山行かば 草かばね 大君の にこそ死なめ
かへり見は せじと言立ことた大夫ますらをの 清きその名を いにしへよ 今のをつつに 流さへる
おやの子どもぞ 大伴と 佐伯さへきうぢは〔抜粋〕

《大伴の ご先祖様の 大久米おおくめの ぬしの名前を 背に負いて 朝廷仕えし 家柄で 
「海を行くなら  水に死に 山を行くなら 野に倒る 大君のため 死のうとも 悔いなぞない」と 
言い放つ 武人の心 刻む名を 絶えることなく 今昔いまむかし 
続く氏族の 末裔まつえいぞ 大伴一族 佐伯族・・・》
                         ―大伴家持―〔巻十八・四〇九四〕 


人麻呂編(01)新婚女房待ってるよって

2009年12月11日 | 人麻呂編
■平成21年12月11日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★新妻の 待つ巻向は 雨もよい 気はくけども 馬足のろい

巻向まきむくの 檜原ひばらに立てる 春霞 おぼにしおもはば なづみめやも
《霧みたい すぐ消えるよな 思いちゃう そんな気ィなら 無理して来んわ》
                       ―柿本人麻呂歌集―〔巻一〇・一八一三〕 

痛足川あなしがは 川波立ちぬ 巻目まきもくの 由槻ゆつきたけに くも立てるらし
《穴師川 波立ってるで ざわざわと 由槻ゆつきたけに 雲出てるがな》
                       ―柿本人麻呂歌集―〔巻七・一〇八七〕 

あしひきの 山川やまかわの瀬の るなべに弓月ゆつきたけに 雲立ち渡る
《山筋の 川瀬鳴ってる やっぱりな つきたけに 雨雲あめぐもでてる》
                       ―柿本人麻呂歌集―〔巻七・一〇八八〕 

ぬばたまの 夜さりれば 巻向まきむくの 川音かはと高しも 嵐かも
よるけた 川の水音 こなった 今に一荒ひとあれ じき来るみたい》
                       ―柿本人麻呂歌集―〔巻七・一一〇一〕 





【川音高しも】へ


日めくり万葉集<9月>(その5)

2009年12月10日 | 日めくり万葉集
■平成21年12月10日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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★きのこ類 香り松茸 味しめじ 山いっぱいの 香り嗅ぎたや
高松の このみねに 笠立てて 満ちさかりたる 秋ののよさ
《まつたけが 高松山の 峰覆い え盛ってる 秋の香りや》
                         ―作者未詳―〔巻十・二二三三〕 

★持つ人が 居るか居らんか 判らんが すること無けりゃ 寝るしかないで
あしひきの  山鳥の尾の しだり尾の 長々し夜を ひとりかも寝む
《長い夜は 山鳥尻尾しっぽと おんなじや 所在しょざいないから 寝ると仕様しょうかい》
                         ―作者未詳―〔巻十一・二八〇二〕 

★酒飲んで ええこころもち 旅人はん 覚めたらしゅんと するんとちゃうか
この世にし 楽しくあらば む世には 虫に鳥にも 我れはなりなむ
《この世さえ  楽しできたら 次の世は 虫とか鳥に 成ってもええで》
                         ―大伴旅人―〔巻三・三四八〕 


歴史編(37)あの皇子が ああ あの皇子が

2009年12月09日 | 歴史編
■平成21年12月9日■
万葉集に詠われた歌を 歴史の流れに沿って 採り上げ 「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★壬申の 乱を制した 高市皇子たけちみこ 身罷り歴史 区切りをつける 

〈前半は「歴史編〔18〕天下分け目の決戦や」〉
・・・わご大君 皇子みこ御門みかど神宮かむみやよそひまつりて 使はしし
御門みかどの人も 白拷しろたへの 麻衣あさごろも

《〔亡くなりはった〕皇子おうじ御殿みやを 飾ってまつり  白装束しろしょうぞくの つかえの人は》
埴安はにやすの 御門の原に あかねさす 日のことごと 鹿ししじもの いしつつ
ぬばたまの ゆふへになれば 大殿を ふりけ見つつ うづらなす いひもとほり

日中ひなか一日 はらい伏して 夕べ来たなら いずり回る》
さもらへど さもらねば 春鳥はるとりの さまよひぬれば 
なげきも いまだ過ぎぬに おもひも いまだきねば

《心うつろに 狼狽うろたえばかり 嘆きは消えず 思いも尽きず》
ことさへく 百済くだらの原ゆ 神葬かみはふはふりいませて 麻裳あさもよし 城上きのへの宮を 
常宮とこみやと 高くしまつりて 神ながら しづまりましぬ

《野辺の送りに 百済原くだらを通り 城上きのえ常宮とこみや 高々作り 御霊みたま鎮めと おまつり申す》
しかれども わご大君の 万代よろづよと 思ほしめして 作らしし 香具山の宮
万代に 過ぎむと思へや あめの如 ふり放け見つつ 玉襷たまだすき かけてしのはむ かしこくありとも

まつりしつつも 万世よろずよまでと おもうて作った 香具山宮を
 いついつまでも 心に懸けて 皇子みこを偲んで 振り仰ぎ見ん》
―柿本人麻呂― (巻二・一九九後半)

ひさかたの あめらしぬる 君ゆゑに 日月ひつきも知らに 恋ひ渡るかも
高市たけち皇子みこ 天昇られた おもうても 何日っても 諦めきれん》
                        ―柿本人麻呂― (巻二・二〇〇)
埴安はにやすの 池のつつみの 隠沼こもりぬの 行方ゆくへを知らに 舎人とねりはまとふ
《埴安の 池の淀んだ 水みたい お付きの舎人 行きどころない》
                       ―柿本人麻呂― (巻二・二〇一)
哭沢なきさわの 神社もり神酒みわすゑ 祷祈いのれども わご大君は 高日知らしぬ
《哭沢の 神さんの前 酒えて 祈ったけども 甲斐かいないこっちゃ》
                         ―桧隈女王ひのくまのおほきみ―(巻二・二〇二)





【舎人はまどふ】へ


日めくり万葉集<9月>(その4)

2009年12月08日 | 日めくり万葉集
■平成21年12月8日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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★お前との 至福の時を 思い出し ええ月見たら 嬉しなるんや
春日山  おして照らせる この月は 妹が庭にも さやけくありけり
《いっぱいに  春日の山を 照らす月 お前の庭でも きれいやったな》
                         ―作者未詳― 〔巻七・一〇七四〕

★目に入れて 痛うないんが 子供やで 金銀真珠 入れたら痛い
しろかねも くがねも玉も 何せむに まされる宝 子にしかめやも
《金銀も  真珠の玉も そんなもん なんぼのもんじゃ 子供一番》
                         ―山上憶良― 〔巻五・八〇三〕

★外で見る 女はみんな 蓮の葉で うちるのん 芋女房にょうぼやで
蓮葉はちすばは かくこそあるもの 意吉麻呂おきまろが 家なるものは うもの葉にあらし
《蓮の葉は こんな立派な もんなんか それ比べたら うちのは芋葉いもや》
                         ―長意吉麻呂ながのおきまろ―〔巻十六・三八二六〕


歴史編(36)別れたあとで悔いるん男

2009年12月07日 | 歴史編
■平成21年12月7日■
万葉集に詠われた歌を 歴史の流れに沿って 採り上げ 「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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但馬皇女ひめみこの 訃報を聞いて 穂積皇子ほづみみこ 雪降る空に 昔を偲ぶ
降る雪は あはには降りそ 吉隠よなばりの 猪養ゐかひの岡の 寒からまくに
《雪そない 降ったらあかん 猪養いかいおか あの人の墓 寒がるよって》
                         ―穂積皇子―〔巻二・二〇三〕

★鳴く雁の 声に思わず 蘇る 但馬皇女ひめみこ詠う 悲痛の心
ことしげき 里に住まずは 今朝けさ鳴きし かりたぐひて なましものを
《人の口 うるさい里捨て 今朝鳴いた 雁と一緒に てしまいたい》
                         ―但馬皇女―〔巻八・一五一五〕

黄葉葉もみじばの 散るんを見たら 胸痛い 雁の声聞き なお更つらい
今朝けさ朝明あさけ かり聞きつ 春日山かすがやま 黄葉もみちにけらし わがこころいた
《雁の声 明け方聞いた 春日山 黄葉こうようしたんや 胸締めつける》
                         ―穂積皇子―〔巻八・一五一三〕

秋萩は 咲くべくあるらし わが屋戸やどの 浅茅あさぢが花の 散りぬる見れば
《秋萩は もう咲くんやろ うちの庭 浅茅の花は 散って仕舞しもうた》
                         ―穂積皇子―〔巻八・一五一四〕





【雁に副ひて】へ


日めくり万葉集<9月>(その3)

2009年12月04日 | 日めくり万葉集
■平成21年12月4日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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★顔合わす たんび微笑み こぼれるで お前見てたら この世天国

若草の 新手枕にひたまくらを まきそめて 夜をやへだてむ 憎くあらなくに
《初めての とこともしたで 一晩も 離すもんかい 可愛かいらしお前》
                         ―作者未詳―〔巻十一・二五四二〕 

★鵜の鳥を 潜らせ鮎を 捕らせつつ 鄙の暮らしに 和みを寄せる
年のはに 鮎し走らば 辟田川さきたがは 鵜八つかづけて 川瀬尋ねむ
《毎年に 辟田さきたの川で 鵜飼いしょう 鮎飛びねる 季節なったら》
                         ―大伴家持―〔巻十九・四一五八〕 

天皇すめろぎに 捧げる歌に 願い込め 健やかあれと 家持祈る
ときはな いやめづらしも かくしこそ あきらめめ 秋立つごとに
《季節ごと 咲く花々は うるわしい ご覧ください 秋来る度たびに》
                         ―大伴家持―〔巻二十・四四八五〕