ユニーク古典現代訳(大阪弁万葉集改題)

日本の古典を訳します。そのままストンと腑に落ちる訳。なんだ、こうだったのかと分かる訳。これなら分かる納得訳。どうぞどうぞ

ごあいさつ

2013年10月28日 | 日めくり万葉集
■平成25年10月28日■

「大阪弁万葉集」と銘打ちながら 「古事記ものがたり」を掲載してきました。
そして次は「百人一首」「源氏物語」と考えています。
そこで 表題を変えることにしました。
やっと中身と合うことになります。
新規掲載は 近日中公開です。
よろしく ご贔屓下さい。


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日めくり万葉集<12月>(その10)

2010年07月01日 | 日めくり万葉集
■平成22年7月1日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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★防人は 筑紫の空で 家思う はるか彼方の あのあばら家を

いはろには あしけども 住み良けを 筑紫に至りて こふしけはも
あしき すすけ家でも 住み良いで 筑紫着いたら 恋し思うで》
                         ―物部真根もののべのまね―(巻二十・四四一九)

★連れて来た 妻を亡くした 旅人はん 筑紫の空で 空しさ嘆く

世間よのなかは むなしきもの 知る時し いよよますます 悲しかりけり
《人の世は からっぽなんやと 知ったんや おもうてたより ずうっと悲しい》
                         ―大伴旅人―(巻五・七九三) 



日めくり万葉集<12月>(その9)

2010年06月24日 | 日めくり万葉集
■平成22年6月24日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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★他の人 大赦許され 帰ったに うち、、のあの人 居らへんやんか

帰りける 人来れりと 言ひしかば ほとほと死にき 君かと思ひて
ゆるされて 帰る人来る 聞いた時 心臓しんぞ止まった あんたやおもて》
                         ―狭野弟上娘子さののおとかみのおとめ―<巻十五・三七七二>

姉妹あねいもと みたい住んでた 仲やのに 離れた暮らし ごなって仕舞

沫雪の 消ぬべきものを 今までに 流らへぬるは 妹に逢はむとぞ
《雪みたい 消えになって 生きてるは あんたに会おと 思うよってや》
                         ―大伴田村大嬢おおとものたむらのおおいらつめ―<巻八・一六六二>

★せめてもと 逢うたら治る 恋やない 逢たら逢うたで また恋しなる

人のる 味寝うまいずて はしきやし 君が目すらを りし嘆かむ
《皆してる 共寝もせんで 可愛い児に せめて一目と 切ない恋や》
                         ―柿本人麻呂歌集―<巻十一・二三六九> 


日めくり万葉集<12月>(その8)

2010年06月17日 | 日めくり万葉集
■平成22年6月17日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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★因幡国 新年祝う 年賀宴 家待詠う 止めの歌
あらたしき 年の初めの 初春の 今日降る雪の いやしけ吉事よごと
新年しんねんと 立春はつはる重なり 雪までも こんなえこと ますます積もれ》
                         ―大伴家持―(巻二十・四五一六) 

★別れです 旅人旦那に 長い日々 仕えしてきた 明軍詠う
かくのみに  ありけるものを 萩の花 咲きてありやと 問ひし君はも
《萩の花  咲いてるやろかと 聞いてたに これが定めと 言うもんやろか》
                         ―余明軍―(巻三・四五五) 

★月に住む 水汲み人が 汲む水の 雫落ち来い 口開け待とう
天橋あまはしも 長くもがも 高山も 高くもがも 月読つくよみの 持てるみづ
 い取り来て 君に奉りて 得てしかも

《天昇る橋  高うあれ 背ぇ高い山 もっと高こ 月の神さん 持ってはる 若返り水
 取りに行き あんたあげたい 若返り水》 
                         ―作者未詳―(巻十三・三二四五) 


日めくり万葉集<12月>(その7)

2010年06月10日 | 日めくり万葉集
■平成22年6月10日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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意吉麻呂おきまろよ 次の言葉で 歌詠めや 鐉具せんぐ雑器ぞうき 狐声こせい河橋かきょう
さし鍋に 湯沸かせ子ども 櫟津いちひつの ばしより来む 狐にむさむ
《鍋で湯を 沸かせよ皆 檜橋ひのきばし 渡る狐に 湯ぅかぶしたろ》
                         ―長意吉麻呂ながのおきまろ―<巻十六・三八二四>

軽皇子かるのみこ 付いて安騎野の 狩り来たが 思い出すのは 父の草壁皇子くさかべ
ひむがしの 野にかぎろひの 立つ見えて かへり見すれば 月かたぶきぬ
《日が昇る 月沈んでく 西空に 草壁皇子みこの面影 浮かんで消える》
                         ―柿本人麻呂―<巻一・四八> 

★覚悟して 池佇めば 鴨つがい 水輪みなわ残して 草陰消える
百伝ももづたふ 磐余いはれの池に 鳴く鴨を 今日のみ見てや 雲隠りなむ
磐余いわれいけ 鳴く鴨見るん 今日だけや 定めやおもて この世を去るか》
                         ―大津皇子―<巻三・四一六> 


日めくり万葉集<12月>(その6)

2010年06月03日 | 日めくり万葉集
■平成22年6月3日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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★夕日背に たたずむ人に 啼く千鳥 何を語るか 寄せ来る波は
近江の海  夕波千鳥 汝が鳴けば 心もしのに いにしへ思ほゆ
《おい千鳥 そんなに啼きな 啼くたんび 古都むかし思うて たまらんよって》
                         ―柿本人麻呂―(巻三・二六六) 

★自慢鷹 「大黒」失くし 手に入れた 真白の鷹や 大事にしいや
矢形尾の  真白の鷹を 宿に据ゑ 掻き撫で見つつ 飼はくしよしも
《矢の形 した尾の白鷹たかを 家で飼い 撫でたり見たり 嬉しいかぎり》
                         ―大伴家持―(巻十九・四一五五) 

いかずちの 丘ちっちゃいが その名前 いかにもかみなり 住んでるみたい
大君は  神にしませば 天雲の 雷の上に 廬りせるかも
《天皇は 神さんやから 雲の上 いかずちおかに 住んではるんや》
                         ―柿本人麻呂―(巻三・二三五) 


日めくり万葉集<12月>(その5)

2010年05月27日 | 日めくり万葉集
■平成22年5月27日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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★春と秋 どっちがえか 歌競い 判定任され 額田王おおきみ詠う

冬こもり  春さり来れば    
    鳴かざりし 鳥も鳴きぬ
        咲かざりし  花も咲けれど
    山をしげみ 入りても取らず
        草ふかみ 取りても見ず

秋山の  木の葉を見ては
    黄葉もみちをば 取りてぞしの
        青きをば 置きてぞなげ
           そこしうらめし

    秋山われは 

≪冬ってもて 春来たら
   鳴けへんかった 鳥も鳴く 
      咲けへんかった 花も咲く 
 そやけども      山茂ってて はいられん
       草深いから 取られへん 
 秋山はいって 葉ぁ見たら
    紅葉こうようした葉は え思う
       けど青い葉は つまらへん               そこが かなんな 
 うう~ん・・・秋やな うちは 

                          ―額田王―(巻一・一六)

日めくり万葉集<12月>(その4)

2010年05月20日 | 日めくり万葉集
■平成22年5月20日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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★初々し 嫁前にして 戯れる 男の顔が だらし見える
はねかづら 今する妹が うら若み みみいかりみ 付けし紐解く
《やっとこさ 大人になった お前ちゃん ねて笑うて 帯ほどくんや》
                         ―作者未詳―<巻十一・二六二七> 

★吉野川 宮滝上の 夏実川 山迫ってて すぐ日ィ暮れる
吉野なる  夏実の川の 川淀に 鴨ぞ鳴くなる 山蔭にして
《夏実川  淀む川辺で 鴨鳴くよ 夕暮早い 山陰あたり》
                         ―湯原王―<巻三・三七五> 

★防人に 行く道すがら 見る花に 母の思影 またまた浮かぶ
時々の  花は咲けども 何すれぞ 母とふ花の 咲き出来ずけむ
《時期時期に 花咲くのんに なんでまた おぁいう名の 花咲かんのや》
                         ―丈部真麻呂はせつかべのままろ―<巻二十・四三二三>


日めくり万葉集<12月>(その3)

2010年05月13日 | 日めくり万葉集
■平成22年5月13日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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★良え浦や 浜はうても 構めへんで お前居ったら わし満足や

石見いはみうみ つの浦廻うらみを 浦しと 人こそ見らめ かたしと 人こそ見らめ よしゑやし 浦は無くとも よしゑやし 潟は無くとも 
《石見の国の 都野つのの浦 よろし湊も 浜もない
 かまへんえで 湊なし 浜はうても この海は》
鯨魚いなさ取り 海辺をさして 和多豆にきたづの 荒磯ありその上に か青なる 玉藻おきつ藻 
朝羽振あさはふるる 風こそ寄せめ 夕羽振ゆふはふる 浪こそ来寄れ

《魚捕れるし 磯の上 朝には風が 夕べ波 青い玉藻を 持って来る》 
浪のむた か寄りかく寄り 玉藻なす 寄り寝し妹を 露霜つゆしもの 置きてしれば
《その藻みたいに 寄りうて 寝てたお前を 置いてきた》
この道の 八十隈やそくまごとに よろづたび かへりみすれど
いやとほに 里はさかりぬ いや高に 山も越え来ぬ

《振り向き振り向き 来たけども お前る里 遠なるし 山たこなって へだたるし》
夏草の 思ひしなえて しのふらむ いもかど見む
《胸のつぶれる 思いして お前のるとこ 見たなった》
なびけこの山
《邪魔する山よ 飛んでまえ》 
                         ―柿本人麻呂―(巻二・一三一)

日めくり万葉集<12月>(その2)

2010年05月06日 | 日めくり万葉集
■平成22年5月6日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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★どんな良え 宝物たからもんかて 飽きくるで なんぼ飲んでも 酒飽けへんで

あたひ無き たからといふとも 一坏つきの にごれる酒に あにさめやも
《極上の  高値の宝 なんかより 酒一杯が わしにはええで》
                         ―大伴旅人―〔巻三・三四五〕 

★ただ単に 鶴の飛んでく 景色やに 黒人詠うと 寂し聞こえる

桜田さくらたへ たづ鳴き渡る 年魚市潟あゆちかた 潮干しほひにけらし 鶴鳴き渡る
年魚市潟あゆちかた 潮引いたんや 桜田へ 鶴鳴きながら 飛んで行くがな》 
                         ―高市黒人―〔巻三・二七一〕 

少咋おくいはん ちょっと加減を しとかんと 偉い目合うで わしは知らんで

くれなゐは うつろふものそ つるはみの 馴れにしきぬに なほかめやも
くれないは すぐ色あせる 地味じみ色の 着なれたふくに まさるもんない》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四一〇九〕


日めくり万葉集<12月>(その1)

2010年04月26日 | 日めくり万葉集
■平成22年4月26日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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★怖いんや 女惚れたら 命がけ 心してから 掛からなあかん
今さらに  何をか思はむ うち靡き 心は君に 寄りにしものを
《ここへ来て 悩むことなぞ あれへんわ うちはあんたに 惚れて仕舞しもたのに》
                         ―安倍女郎―<巻四・五〇五> 

★浮世絵の 薩埵峠さったとうげに 見る富士は パッと見る富士 そのまま景色

田子の浦ゆ うち出でて見れば 真白にぞ 富士の高嶺に 雪は降りける
《田子の浦  回って見たら パッと富士 山のてっぺん 雪降ってるで》
                         ―山部赤人―<巻三・三一八> 

★大袈裟に 言うてかもたが 切り返し 受けて天武は 兜をぬぐよ

我が里に 大雪降れり 大原の りにし里に らまくは後のち
《わしの里 大雪降った お前る そっちの田舎 まだまだやろな》
                         ―天武天皇―<巻二・一〇三> 


日めくり万葉集<11月>(その8)

2010年04月19日 | 日めくり万葉集
■平成22年2月日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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★任受けて 誉れの船出 その母は ひたすら祈る 我が子の無事を
旅人の 宿りせむ野に 霜降らば 我が子羽ぐくめ 天の鶴群たづむら
《宿る野に 霜が降ったら 天の鶴 羽根を広げて うちの子かばえ》
                         ―遣唐使母―〈巻九・一七九一〉 

軽皇子かるのみこ 阿騎野の狩は 亡き父の 草壁皇子の 思い出の地ぞ
ひむがしの 野にかぎろひの 立つ見えて かへり見すれば 月かたぶきぬ
《日が昇る 月沈んでく 西空に 草壁皇子みこの面影 浮かんで消える》
                         ―柿本人麻呂―〈巻一・四八〉 

★澄む秋の 景色の中の 萩と鹿 鳴く声遥か 空透き通る
秋萩の 散りのまがひに 呼びたてて 鳴くなる鹿の 声の遥けさ
《萩花が  乱れ散る中 連れ呼んで 鳴く鹿の声 遠くでしてる》
                         ―湯原王―〈巻八・一五五〇〉 

★葛城の おお臣下なり 橘の 諸兄となって 政治動かす
橘は 実さへ花さへ その葉さへ 枝に霜降れど いや常葉とこはの木
《橘は ぃ立派やで 花も葉も えだても 緑のままや》
                         ―聖武天皇―〈巻六・一〇〇九〉 


日めくり万葉集<11月>(その7)

2010年04月12日 | 日めくり万葉集
■平成22年2月日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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★子煩悩 愛妻家かな 憶良はん ほんまは違ごて 恐妻家かな
憶良らは 今はまからむ 子泣くらむ それその母も 我を待つらむぞ
《憶良めは ぼちぼち帰らして もらいます 子供も女房よめも 待ってますんで》
                         ―山上憶良―(巻三・三三七) 

★秋侘びの 気持は今も 万葉の 時代も同じ 不思議な思い
うらさぶる  心さまねし ひさかたの 天のしぐれの 流らふ見れば
時雨しぐれ雨 はらはらはらと 流れ降る 侘しい胸に はらはらはらと》
                         ―長田王ながたのおおきみ―(巻一・八二)

★どっちかな 見えるたくしま 言いたいか 乙女機織はたおり 櫛言いたいか
娘子をとめらが 織るはたうえを まくしもち たくしま 波のよ見ゆ 
《乙女らが 櫛で機糸はたいと たくし上ぐ その栲島が 波間に見える》
                         ―古集―(巻七・一二三三) 


日めくり万葉集<11月>(その6)

2010年04月05日 | 日めくり万葉集
■平成22年2月日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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★夕暮れの 逢魔おうまが時の 占いは 当たる当たらん ゆうら夕占ゆら夕占ゆら夕占

言霊ことだまの 八十やそちまたに 夕占ゆふけ問ふ うらまさに告る 妹相寄らむと
《大勢の 行き交う道で 夕占うらのうた おうおう出たで あの児靡くて》
                         ―柿本人麻呂歌集―〔巻十一・二五〇六〕 

★領布を振る 佐用姫気持ち 分らんで 狭手彦船は 沖遠ざかる
遠つ人 松浦佐用姫まつらさよひめ つま恋ひに 領巾ひれ振りしより へる山の名
《佐用姫はん おっと恋しと 領布振った 付いた山の名 そこから来てる》
                         ―作者未詳―〔巻五・八七一〕 

★酒飲みの 旅人分るか 酒飲まん 人に無理強い 困る気持ちを
あなみにく さかしらをすと 酒飲まぬ 人をよく見ば 猿にかも似む
《ああ嫌や  酒も飲まんと 偉そうに 言う奴の顔 猿そっくりや》
                         ―大伴旅人―〔巻三・三四四〕 




日めくり万葉集<11月>(その5)

2010年03月29日 | 日めくり万葉集
■平成22年3月29日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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★悔しいて 家持はんは 夢に見る 大黒鷹の 行く先何処

大君の とほ朝廷みかどそ み雪降る こしと名にへる 天離あまざかる ひなにしあれば 
山高み 川雄大とほしろし 野を広み 草こそしげ
 
《国の役所の この越国こしくには み雪降る越 言われる様に 遠く離れた くにではあるが
 山は高いし 川幅広い 野原広うて 草多数よけ茂る》
鮎走る 夏の盛りと 島つ鳥 かひともは く川の 清き瀬ごとに 
かがりさし なづさひのぼる つゆしもの 秋に至れば 野もさはに 鳥多集すだけりと 
大夫ますらをの ともいざなひて
 
《鮎が跳ね飛ぶ  真夏が来たら 鵜の手綱取る 鵜飼の漁師 清い瀬毎に
 かがり焚いて 流れしのいで 川さかのぼる 霜置く秋の 季節になると
 野原いっぱい 鳥集うので 仲間誘うて 鷹狩りに出る 
鷹はしも 数多あまたあれども 矢形やかたの 大黒おほぐろに しらぬりの 鈴取り付けて 
朝猟あさかりに 五百いほくつ鳥立て 夕猟ゆふかりに 千鳥踏み立て 追ふ毎に 許すこと無く ばなれも をちもかやすき
  
鷹と云うても  いろいろあるが 矢形の尾持つ わが大黒は 銀の鈴付け 翔ばしてみると
 朝追いたてた 五百の鳥も 夕に駆りだす 千もの鳥も 狙いたがわず 射とめて捕って
 放ち舞い降り 自在の鳥や 
これをきて またはあり難し さ並べる 鷹は無けむとこころには 思ひ誇りて 
ゑまひつつ 渡るあひだに たぶれたる しこおきなの ことだにも われには告げず 
とのぐもり 雨の降る日を 鷹狩とかりすと 名のみをりて 三島野を 背向そがひに見つつ 
二上ふたがみの 山飛び越えて 雲がくり かけにきと 帰り来て しはぶぐれ
 
この鷹措いて  同じの鷹は 滅多に無いと 内心思い ほくそ笑みして 誇っていたが
 間抜けじじいの 大馬鹿者が わしに一言 断りなしに 雲立ち込める 雨降る日ィに
 鷹狩り行くと 出かけた挙句あげく 「三島野あとに 二上山の 山飛び越えて
 雲に隠れて 去って仕舞しもた」と 息せき切って 告げ言う始末 
よしの そこに無ければ 言ふすべの たどきを知らに 心には 火さへ燃えつつ 
思ひ恋ひ 息あまり けだしくも 逢ふことありやと あしひきの 彼面をても此面このもに 
鳥網となみ張り 守部もりべゑて ちはやぶる 神のやしろに 照る鏡 倭文しつに取り添へ 
みて が待つ時に 少女をとめらが いめに告ぐらく
 
呼び寄せ手立て  何にもうて 何を言うても 詮無いことで 怒り炎が 心で燃える
 惜しい気持ちが 心底湧いて  ひょっとしたなら 見つかることも ありはせんかと 山あちこちに
 鳥網とりあみ張って 見張りを付けて 神の社に 輝く鏡 ぬさ添えて お祈りしつつ
 待って居る時 一人の娘 わしの夢出て 次の告げる》
が恋ふる そのつ鷹は 松田江の 浜ぐらし つなし捕る 氷見ひみの江過ぎて 
多祜たこの島 飛び徘徊たもとほり 葦鴨あしがもの 多集すだ古江ふるえに 一昨日をとつひも 昨日きのふもありつ 
近くあらば 今二日ふつかだみ 遠くあらば 七日なぬかのをちは 過ぎめやも なむわが背子せこ 
ねもころに な恋ひそよとそ いめに告げつる
 
「あんた待ってる  立派な鷹は 松田江浜で 晩までって 氷見の浜越え 多祜たこうえ
 飛び廻りして あしがも群れる 古江にりて そこで一昨日おととい 昨日きのうと居った
 早くて二日 おそても七日 待ったら帰る 心配しな」と 告げてくれたで 夢の中やが》 
                         ―大伴家持―(巻十七・四〇一一)