ユニーク古典現代訳(大阪弁万葉集改題)

日本の古典を訳します。そのままストンと腑に落ちる訳。なんだ、こうだったのかと分かる訳。これなら分かる納得訳。どうぞどうぞ

日めくり万葉集<11月>(その5)

2010年03月29日 | 日めくり万葉集
■平成22年3月29日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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★悔しいて 家持はんは 夢に見る 大黒鷹の 行く先何処

大君の とほ朝廷みかどそ み雪降る こしと名にへる 天離あまざかる ひなにしあれば 
山高み 川雄大とほしろし 野を広み 草こそしげ
 
《国の役所の この越国こしくには み雪降る越 言われる様に 遠く離れた くにではあるが
 山は高いし 川幅広い 野原広うて 草多数よけ茂る》
鮎走る 夏の盛りと 島つ鳥 かひともは く川の 清き瀬ごとに 
かがりさし なづさひのぼる つゆしもの 秋に至れば 野もさはに 鳥多集すだけりと 
大夫ますらをの ともいざなひて
 
《鮎が跳ね飛ぶ  真夏が来たら 鵜の手綱取る 鵜飼の漁師 清い瀬毎に
 かがり焚いて 流れしのいで 川さかのぼる 霜置く秋の 季節になると
 野原いっぱい 鳥集うので 仲間誘うて 鷹狩りに出る 
鷹はしも 数多あまたあれども 矢形やかたの 大黒おほぐろに しらぬりの 鈴取り付けて 
朝猟あさかりに 五百いほくつ鳥立て 夕猟ゆふかりに 千鳥踏み立て 追ふ毎に 許すこと無く ばなれも をちもかやすき
  
鷹と云うても  いろいろあるが 矢形の尾持つ わが大黒は 銀の鈴付け 翔ばしてみると
 朝追いたてた 五百の鳥も 夕に駆りだす 千もの鳥も 狙いたがわず 射とめて捕って
 放ち舞い降り 自在の鳥や 
これをきて またはあり難し さ並べる 鷹は無けむとこころには 思ひ誇りて 
ゑまひつつ 渡るあひだに たぶれたる しこおきなの ことだにも われには告げず 
とのぐもり 雨の降る日を 鷹狩とかりすと 名のみをりて 三島野を 背向そがひに見つつ 
二上ふたがみの 山飛び越えて 雲がくり かけにきと 帰り来て しはぶぐれ
 
この鷹措いて  同じの鷹は 滅多に無いと 内心思い ほくそ笑みして 誇っていたが
 間抜けじじいの 大馬鹿者が わしに一言 断りなしに 雲立ち込める 雨降る日ィに
 鷹狩り行くと 出かけた挙句あげく 「三島野あとに 二上山の 山飛び越えて
 雲に隠れて 去って仕舞しもた」と 息せき切って 告げ言う始末 
よしの そこに無ければ 言ふすべの たどきを知らに 心には 火さへ燃えつつ 
思ひ恋ひ 息あまり けだしくも 逢ふことありやと あしひきの 彼面をても此面このもに 
鳥網となみ張り 守部もりべゑて ちはやぶる 神のやしろに 照る鏡 倭文しつに取り添へ 
みて が待つ時に 少女をとめらが いめに告ぐらく
 
呼び寄せ手立て  何にもうて 何を言うても 詮無いことで 怒り炎が 心で燃える
 惜しい気持ちが 心底湧いて  ひょっとしたなら 見つかることも ありはせんかと 山あちこちに
 鳥網とりあみ張って 見張りを付けて 神の社に 輝く鏡 ぬさ添えて お祈りしつつ
 待って居る時 一人の娘 わしの夢出て 次の告げる》
が恋ふる そのつ鷹は 松田江の 浜ぐらし つなし捕る 氷見ひみの江過ぎて 
多祜たこの島 飛び徘徊たもとほり 葦鴨あしがもの 多集すだ古江ふるえに 一昨日をとつひも 昨日きのふもありつ 
近くあらば 今二日ふつかだみ 遠くあらば 七日なぬかのをちは 過ぎめやも なむわが背子せこ 
ねもころに な恋ひそよとそ いめに告げつる
 
「あんた待ってる  立派な鷹は 松田江浜で 晩までって 氷見の浜越え 多祜たこうえ
 飛び廻りして あしがも群れる 古江にりて そこで一昨日おととい 昨日きのうと居った
 早くて二日 おそても七日 待ったら帰る 心配しな」と 告げてくれたで 夢の中やが》 
                         ―大伴家持―(巻十七・四〇一一) 


黒人編(6)湖西を辿り越しへと向かう

2010年03月25日 | 黒人編
■平成22年3月25日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★漂泊の 魂連れて 黒人は 近江湖西と 越へと辿る

いそさき 漕ぎみ行けば 近江あふみうみ 八十やそみなとに たづさはに鳴く
《磯の崎 漕いで回ると うみひらけ あちこち湊に 鶴の群鳴く》 
                         ―高市黒人―〔巻三・二七三〕 

かくゆゑに 見じといふものを 楽浪ささなみの ふるみやこを 見せつつもとな
《そうやから 嫌やたのに 近江京ふるみやこ 見せたりしたら 寂しいやんか》 
                         ―高市黒人―〔巻三・三〇五〕 

わが船は 比良ひらみなとに 漕ぎてむ 沖へなさかり さ夜更よふけにけり
《夜も更けた  沖へ出らんと この船は 比良の湊で 泊まりにしょうや》 
                         ―高市黒人―〔巻三・二七四〕 

あともひて 漕ぎ行く船は 高島たかしまの 阿渡あと水門みなとに てにけむかも
《連れ立って 漕ぎ行った船 高島の 安曇あどの湊で 泊まったやろか》 
                         ―高市黒人―〔巻九・一七一八〕 

何処いづくにか われは宿やどらむ 高島たかしまの 勝野かちのの原に この日れなば
《日ィ暮れる 何処どこで泊まれば 良えんやろ 原っぱ続きの 高島たかしま勝野かちの》  
                         ―高市黒人―〔巻三・二七五〕 

婦負めひの野の すすき押しべ 降る雪に 宿やど借る今日し 悲しく思ほゆ
《降る雪が 薄を倒す 婦負めひの野で 宿を借るんは 悲してならん》 
                          ―高市黒人―〔巻十七・四〇一六〕 







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日めくり万葉集<11月>(その4)

2010年03月18日 | 日めくり万葉集
■平成22年3月18日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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★姫島で 死んだ乙女児おとめご 可哀相かわいそや 久米の若殿 その手触れたに

みつみつし 久米の若子わくごが いれけむ 磯の草根くさねの 枯れまく惜しも
《威勢ええ  久米の若殿 触れた云う 磯辺の草の 枯れるん惜しい》
                         ―河辺宮人かわへのみやひと―(巻三・四三五)

大津皇子おおつみこ 胸に無念の 思い秘め 鴨に別れの 水面が揺れる

百伝ももづたふ 磐余いはれの池に 鳴く鴨を 今日けふのみ見てや 雲隠くもがくりなむ
《磐余池  鳴く鴨見るん 今日だけや 定めや思て この世を去るか》
                         ―大津皇子―(巻三・四一六) 

★仰ぎ見る 二上山ふたかみやまに 陽が沈む 独りぽっちの 大伯おおくや哀れ

うつそみの 人なる我れや 明日よりは 二上山を いろせが見む
明日あしたから 二上山を 弟と 思うて暮らそ この世でひとり》
                         ―大伯皇女おおくのひめみこ―(巻二・一六五)


黒人編(5)鶴が鳴いてく干潟向け

2010年03月15日 | 黒人編
■平成22年3月15日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★漂泊の 歌人なりや 黒人は 心ばかりか 身も漂うよ

四極しはつ山 うち越え見れば 笠縫かさぬひの 島漕ぎかくる たな小舟をぶね
四極しはつ山 越えたら見えた 笠縫かさぬひの 島に隠れた 棚なし小舟》 
                         ―高市黒人―〔巻三・二七二〕 

住吉すみのえの 得名津えなつに立ちて 見渡せば 武庫むことまりゆ づる船人ふなびと
武庫むこどまり 船を漕ぎ出す 船頭ら よう見えてるで 住吉浜で》 
                         ―高市黒人―〔巻三・二八三〕 

とくても 見てましものを 山城やましろの 高の槻群つきむら 散りにけるかも
《もっと早よ 来たらかった 山城の 多賀のつきもり 黄葉はァ散ってもた》 
                         ―高市黒人―〔巻三・二七七〕 

いももわれも 一つなれかも 三河みかはなる 二見ふたみの道ゆ 別れかねつる
《二見道 男と女の 別れどこ 離れるもんか お前とわしは》 
                         ―高市黒人―〔巻三・二七六〕 

三河の 二見の道ゆ 別れなば わが背もわれも 独りかも行かむ 《三河国  ここの二見で 別れたら あんたもうちも 一人旅やで》
                         ―高市黒人―〔巻三・二七六、一本云〕 

桜田さくらたへ たづ鳴き渡る 年魚市潟あゆちかた 潮干しほひにけらし 鶴鳴き渡る
年魚市潟あゆちかた 潮引いたんや 桜田へ 鶴鳴きながら 飛んで行くがな》 
                         ―高市黒人―〔巻三・二七一〕 

旅にして 物恋ものこほしきに 山下やましたの あけのそほ船 沖へぐ見ゆ
《なんとなく 物の恋しい 旅やのに あか塗り船が 沖通ってく》 
                         ―高市黒人―〔巻三・二七〇〕 







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日めくり万葉集<11月>(その3)

2010年03月11日 | 日めくり万葉集
■平成22年3月11日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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げん担ぎ 良えこといっぱい 思たんで そうなったがな 思てみるもんや

今日けふなれば 鼻の鼻ひし まよかゆみ 思ひしことは 君にありけり
《くしゃみ出て 眉のいのん 思うたら あんた来る云う 前兆しらせやったで》
                         ―作者未詳―(巻十一・二八〇九) 

★待ち焦がれ 死のと思たり したけども 待ち待ち続け 秋なってもた
秋の田の 穂のらふ 朝霞あさがすみ いつへのかたに こひやまむ
《こんな恋 消えても良えで 霧みたい 行くとこうて ただよう恋は》
                         ―磐姫皇后―(巻二・八八) 

額田王おおきみの 号令一下 船が出る 新羅目指して 月夜の海へ
熟田津にきたつに 船乗りせむと 月待てば しほもかなひぬ 今は漕ぎでな
《熟田津で  月待ち潮待ち 船出待ち きた きた 来たぞ 今こそ行くぞ》
                         ―額田王―(巻一・八) 



黒人編(4)棚無し小船寂しゅう行くよ

2010年03月08日 | 黒人編
■平成22年3月8日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★三河から 行幸戻りの 従駕人 作りし歌の 自慢の披露

引馬野ひくまのに にほふ榛原はりはら 入り乱れ 衣にほはせ 旅のしるしに
《引馬野の はんの林で 木にさわり 衣に色を 染めて土産に》 
                         ―長忌寸奥麿ながのいみきおきまろ―〔巻一・五七〕

大夫ますらをが 得物矢さつや手挿たばさみ 立ち向かひ 射る円方まとかたは 見るに清潔さやけし
的方まとかたの 海はえなあ え男 弓構えたに 清々すがすがしいて》 
                         ―舎人娘子とねりのをとめ―〔巻一・六一〕

ながらふる 妻吹く風の 寒きに わが背の君は 独りからむ
《長い旅 ころもの端に 風吹いて 寒いあんた 一人やろか》 
                         ―誉謝女王よさのおほきみ―〔巻一・五九〕

よひに逢ひて あしたおもみ なばりにか ながき妹が いほりせりけむ
《長旅を  続けたお前 名張来て ここで泊まりの 宿を取ったか》 
                         ―長皇子ながのみこ―〔巻一・六〇〕

何処いづくにか 船泊ふなはてすらむ 安礼あれの崎 漕ぎ廻こ たみ行きし 棚無たなな小舟をぶね
《あの小舟 どこで泊まりを するんやろ さっき安礼崎あれさき 行ったあの舟》 
                         ―高市黒人―〔巻一・五八〕 







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日めくり万葉集<11月>(その2)

2010年03月04日 | 日めくり万葉集
■平成22年3月4日■
NHKテレビ「日めくり万葉集」で取り上げられた 万葉歌を 「大阪弁」で訳します
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田道間守たぢまもり 垂仁天皇 命受けて 橘手にし 戻りしが
       すでに天皇  身罷りて 苗木御陵に お治め植える
 

かけまくも あやにかしこし 皇神祖すめろきの 神の大御代おほみよに 
田道間守たぢまもり 常世とこよに渡り 八矛やほこ持ち まゐ出来でこし時 
時じくの かくの実を かしこくも のこしたまへれ
 
天皇おおきみの ご先祖さんの その昔 田道間守たじまもりさん 常世とこよ行き ほこ捧げて 戻り来て
 香りえ実の 橘を 持って帰られ 残された》 
国もに ひ立ちさかえ 春されば ひこいつつ ほととぎす 鳴く五月さつきには 
初花はつはなを 枝に折りて 少女をとめらに つとにもりみ 白栲しろたへの 袖にも扱入こきれ 
かぐはしみ 置きて枯らしみ あゆる実は 玉にきつつ 手にきて 見れどもかず
 
《今は国中  植えられて 春になったら 枝伸ばし 五月の夏に 咲いた花
 枝を手折たおって 乙女ら贈り 袖入れ香り 楽しんで 大事しすぎて しおれさす
 落ちた花の実 糸通し 手に巻き持って で遊ぶ》 
秋づけば 時雨しぐれの雨降り あしひきの 山の木末こぬれは くれなゐに にほひ散れども 
橘の 成れるそのは ひたりに いや見がしく み雪降る 冬に至れば 
しも置けども その葉も枯れ  常磐ときはなす いやさかえに
 
《時雨の秋は 山の木々 黄葉こうようなって 散ってゆく けど橘の 成った実は
 つやと輝き 人目引く 霜置く冬が 来たとても その葉枯れんと 常緑みどりまま》 
しかれこそ 神の御代より よろしなへ この橘を 
時じくの かくと 名付けけらしも

《それやからこそ  神代から この橘を
 いつまでも 香り続ける やと 言われるのんも もっともや》
                         ―大伴家持―〔巻十八・四一一一〕 



黒人編(3)呼子鳥鳴いて行くのん寂しゅう見える

2010年03月01日 | 黒人編
■平成22年3月1日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★朗々と 詠う人麻呂 付いてけず 夜陰に詠う 独り黒人
持統天皇  吉野宮滝行幸
夕刻 宮滝の淵 独りたたずむ 黒人
郭公かっこうが 一羽 鳴き去ってゆく

大和やまとには 鳴きてからむ 呼子鳥よぶこどり  きさの中山  呼びそ越ゆなる
郭公鳥かっこどり きさの中山 鳴き越えた 大和へ行って 鳴いてんやろか》 
                         ―高市黒人―〔巻一・七〇〕 





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