ユニーク古典現代訳(大阪弁万葉集改題)

日本の古典を訳します。そのままストンと腑に落ちる訳。なんだ、こうだったのかと分かる訳。これなら分かる納得訳。どうぞどうぞ

古事記ものがたり・下つ巻(23)暴き為すのは 天皇為ならず

2013年09月09日 | 古事記ものがたり

うらうらみて 余りある
雄略ゆうりゃく天皇おおきみ 如何いかにせん

墓をあばきて やつ霊魂みたま
報復ほうふくせずに 置くべきや








顕宗けんぞう天皇おおきみ 積年せきねん
墓をこわせの めい出すに
兄の意祁命おけみこ 申し出る

うらみ抱くは 我れもまた
 墓をあばくは 我が役目
 屹度きっとの果たし 約束やくすにて」









行きて意祁命おけみこ みささぎ
かたわらら少し 取りこぼ
帰り 「役目を 果たせり」と

報告すに 顕宗天皇おおきみ
「早き帰りは いぶかしや
 如何いかこぼちし 兄者人あにじゃひと

「少しこぼち」と 意祁命おけみこと

「父があだなる 墓なるぞ
 ことごこぼち 何故なぜん」

聞きて兄意祁命あにみこ さとすには
うらみ晴らすは 孝行こうこう

 したが父上 従弟いとこにて
 国の天皇おおきみ なれる方
 ことごこぼち のちの世の
 人の誹謗そしりを 受けずかや

 如何いかがなるかや 天皇すめらみこ

兄のじょう 道理どうりなと
顕宗天皇すめらみことは うなずけり








顕宗けんぞう天皇おおきみ 後受けて
兄の意祁命おけみこ 即位して
仁賢にんけん天皇おおきみ 御代みよとなる

続きその皇子みこ 小長谷おはつせの
若雀命わかささぎみこ 即位され
武烈ぶれつ天皇おおきみ なるぞかし

武烈ぶれつ天皇おおきみ 御子なしに
近江国おうみお住みの 袁本杼命おおどみこ
応神おいじん天皇おおきみ 五世子孫まご

上京のぼらせ申し 皇后きさきにと
武烈ぶれつ天皇おおきみ 姉君の
手白髪郎女たしからいらつめ お迎えし
継体けいたい天皇おおきみ お成りなる















以下にと続く 天皇おおきみ
安閑あんかん天皇おおきみ
宣化せんか天皇きみ
欽明きんめい天皇おおきみ
敏達びだつ天皇きみ
用命ようめい天皇おおきみ
崇峻すしゅん天皇きみ
最後推古すいこの 天皇おおきみ
継がれるちて 巻とじじる

ここに縷々るるとぞ 語り
古事記ふることふみの ものがたり 
全巻まさに 完結おわりなり









古事記ものがたり・下つ巻(22)優し天皇にて 厳し天皇

2013年09月02日 | 古事記ものがたり
やさ天皇きみにて きび天皇きみ

兄のゆずるを 受け入れて
袁祁命おけのみことが 皇位くらい継ぐ
顕宗けんぞう天皇おおきみ その人ぞ

無念思いで 身罷みまかりし
父の市辺之いちのへ 忍歯王おしはみこ
近江の国に 御骨みかばね
探すに老媼おうな で来たり

御骨みかばね場所を 我れ知れり
 特徴なみなき歯にて 知れるべし」

老媼おうな言葉に 土掘れば
まがいも無しに 御骨みかばね
老媼おうな見知りを 誉めたた
置目おきめ老媼おうなと 名付け
(見覚え老女)








ぐうすに参内さんだい 許すにと
宮殿みやそば住まい 与え

顕宗天皇きみ老媼おうなを 気に入りて
日毎ひごとしの 合図あいずにと
釣鐘つりがねすずを るし下げ
呼ぶに鳴らせば 老媼おうな来る










顕宗天皇すめらみことの 謡う歌

浅茅あさじ響きて 小谷おだに越え
遠く 届けと 鈴が鳴る
置目おきめ老媼おうなが 来るぞかし

  浅茅原あさじはら 小谷おだにを過ぎて
  百伝ももづたう ぬてゆらくも
  置目おきめらしも
               ―古事記歌謡(百十一)―

月日がって とある日の
置目おきめ老媼おうなが 申し出は
「我が身老いしに 故郷さと恋し」
未練顕宗天皇おおきみ 別れにと
帰るをしみ 謡う歌

近江置目おきめや ああ置目おきめ
明日 が来たなら 山隠れ
見えはんぞよ 逢えも

  置目おきめもや 淡海おうみ置目おきめ
  明日よりは み山がくりて
   見えずかもあらん
               ―古事記歌謡(百十二)―










父が殺され 危害きがい避け
逃げて変姿やつした 辛苦しんくをば
思うに付けて うらめしは

途中山城やましろ 刈羽井かりはい
かてを食すに 奪われし
あだを返さで なんとする

思い返しの り取りは
かてを惜しいと 思わねど
  名告れ盗賊 名は何と」
返る答は 「猪飼いかい」とぞ

さがせやその名 草別けて
顕宗天皇おおきみめいの 探索たんさく
遂に捕えた 猪飼いかいをば
飛鳥川あすか河原で 斬り殺す

残る眷属けんぞく ことごとく
ひざすじ切りの 刑に処す

古事記ものがたり・下つ巻(21)おのれ小癪な 志毘臣め

2013年08月26日 | 古事記ものがたり
おのれ小癪こしゃくな 志毘しびおみ

歌垣競う 海石榴市つばいち
志毘しびおみ立ちて 手を取るは
袁祁命おけのみことが めとるとて
 思いし 乙女にて
菟田うだのおびとの 大魚おおうお

られなるかと 袁祁命おけみこと
 で競いと 受けて立つ






先ずに志毘しびおみ 謡う歌

王家の宮殿みやの あの軒端のきば
            (勢力)
傾きるぞ つぶれるぞ

  大宮の おと端手はたで すみかたぶけり
                ―古事記歌謡(百五)―

応え袁祁命おけみこ 謡う歌

大工だいく下手へたで 傾けり
(大工=王家支える臣の志毘)
王家わが所為せいならず お前こそ

  大匠おおたくみ 拙劣おじなみこそ すみかたぶけれ
                ―古事記歌謡(百六)―

重ね志毘しびおみ 謡う歌

王家勢い 衰えて
われが築きし 柴垣に
         (勢力)
はいることなど 出来ようか
(凌ぐ)

  おおきみの 心をゆら
  おみの子の 八重の柴垣
  り立たずあり
                ―古事記歌謡(百七)―

また袁祁命おけみこの 謡う歌

浅瀬寄り来る 岸波へ 
泳ぎ来た志毘しび そのはた
我れが恋しの つま立ち居るぞ

  潮瀬しおせの 波折なおりを見れば
  遊び来る しび鰭手はたで
   妻立てり見ゆ
                ―古事記歌謡(百八)―

怒り志毘しびおみ 謡う歌

王家の宮殿みやの 柴垣は
          (勢力)
堅固かた幾重いくえに 結ぶとも
やすに切れる 焼け落ちる

  大君の みこの柴垣
  八節やふじまり しまもとほ
   切れる柴垣 焼ける柴垣
                ―古事記歌謡(百九)―








更に袁祁命おけみこ 謡う歌

しび(大魚)取ろねらう 志毘しび海人あま
しび(大魚)が逃げらば 悲しかろ
しび(大魚)狙う志毘しび 覚悟しや

  大魚おうおよし しび突く海人あま
  れば うらこおしけん
  しび突く志毘しび
                ―古事記歌謡(百十)―

丁々発止ちょうちょうはっし 掛け合いは
よるを徹して 明けるまで








帰り弟袁祁命おとうと 兄意祁命あにみこ
談じはかりて 策を

「宮に仕える 宮人みやびと
 朝に参内さんだい 昼志毘宅しび

 勢力ちから着けしは のぞくべし
 禍根かこんつは 今ぞかし

 寝入る志毘宅しびへと 攻め込めば
 容易討ち取り たがい無し」

軍をおこすや たちまちに
屋敷包囲かこみて 殺し








身中しんちゅう虫を 除き
皇位こういてきすは いずれかと
互い 譲りて その果てに

 我れ兄なれど 今あるは
 れが播磨国はりまの 志自牟しじむ屋敷
 名を明かしたが もといなり
 天下統治おさむは れぞかし」



古事記ものがたり・下つ巻(20)我ら隠れの 王なるぞ

2013年08月19日 | 古事記ものがたり
我らかくれの みこなるぞ

雄略ゆうりゃく天皇おおきみ 崩御みまかりて
お子の白髪しらかの 大倭おおやまと
根子命ねこのみことが 即位して
清寧せいねい天皇おおきみ お成りなる









清寧せいねい天皇おおきみ 皇后きさき無く
御子御座おわさずて 崩御みまかられ
皇位くらいぐべき みこ探す

時に市辺之いちのへ 忍歯王おしはみこ
いもうと飯豊いいどよ みこすを
政務せいむなすべく 皇位くらいにと
















折しも播磨国はりま 長官に
山部連やまべのむらじ 小楯おだて成り
任地に於ける 新築あらたや
うたげ臨席おでまし 願うとて
招かれたるは 志自牟しじむ

うたげさかりの たけなわ
順次つなぎの 舞となる

そこに火焚ひたきの かまどそば
二人わらわに 舞うべしの
うながし来るに 途惑とまどいて









 兄上どうか お先に」と
 いいやお前が 先舞え」と

互い讓るを 宴人うたげびと
いやしのわらわ 似合わぬ」と
声上げはやし 笑う中

 が舞い終え さればとて
弟立ちて 朗誦うたいなす






武人ますらお腰に ける 
大刀柄たちつかみこの しゅに塗りて
下げひもみこの 赤布あか飾り
立てる旗これ みこの赤
目立つよそおい したとても
繁れる竹藪やぶの 中れば
隠れ見えず の 日を過ごす









竹藪やぶり取りて 割りきて
並べ作りし 八弦やつおこと
かなで調べの でたきに
天下の統治おさめ なされた
伊耶本和気命いざほわけみこ 天皇すめらみこ
御子おこ市辺之いちのへ 忍歯王おしはみこ
その子なるぞよ このやっこ







驚く小楯おだて 床転ころげ落ち
うたげ集人つどいを 追い出すや
二柱ふたはしらを 膝に抱き
辛苦しんく経緯いきさつ 聞きて泣く

直ち人民ひと寄せ 仮宮みや造り
住まわせなさり 早馬うま

叔母おば飯豊王いいどよ これ聞きて
歓喜よろこ宮殿みやへ 呼び寄せる



古事記ものがたり・下つ巻(19)雄略天皇は励ます 袁杼比売注ぐに

2013年07月25日 | 古事記ものがたり
雄略天皇きみは励ます 袁杼比売おどひめぐに

続き雄略天皇おおきみ 謡う歌

宮殿みやどの集う 宮人みやびと
うずら斑点もようの 領巾ひれ肩に
鶺鴒せきれい羽尾はおに 裾引いて
庭雀すずめ集いに むらがりて
びたりかや 今日もまた
神の御子孫おこなる 宮人みやびと
 故事いにしえごとは くのごと

  百磯城ももしきの 大宮人は
  鶉鳥うずらとり 領巾ひれ取りけて
  鶺鴒まなばしら 行き
  庭雀にわすずめ うずすまり
  今日もかも 酒水漬みずくらし
  高光る 日の宮人みやひと
   事の 語りごとも をば
                ―古事記歌謡(百二)―










同じきうたげ 添いいま
袁杼比売おどひめ御酒みきを ささげるに
心許こころもとない 仕草しぐさ見て
雄略天皇すめらみことの 謡う歌

おみの娘の 袁杼比売おどひめ
徳利とくり手にして ぐとかや
持つなら徳利とくり 手をえて
心して持て しかと持て
徳利とくり手にする 袁杼比売おどひめ

  みなそそぐ おみ娘子おとめ
  秀酒瓶ほだり取らすも
  秀酒瓶ほだり取り 堅く取らせ
  したがたく がたく取らせ
  秀酒瓶ほだり取らす子
                ―古事記歌謡(百三)―








こた袁杼比売おどひめ 謡う歌

うやまい申す 天皇おおきみ
朝に身あずけ 寄り掛かり
 にそのお身 お寄せなる
脇の肘掛ひじかけ その下の
板になりたや いとしの天皇きみ

   やすみしし 我が大君の
  朝とには いり立たし
  タとには いり立たす
  わきづきが下の
  板にもが 吾兄あせ
                ―古事記歌謡(百四)―

古事記ものがたり・下つ巻(18)欅葉浮かし 酒杯献げるに

2013年07月22日 | 古事記ものがたり
欅葉けやきば浮きし 酒杯はいささげるに

雄略天皇すめらみことが めと
丸迩わに佐都紀さつきおみ 娘なる
袁杼比売おどひめ訪ね 春日かすが行き
道の途中すがらで 出遇であいしに

幼さ残る 袁杼比売rt>おどひめ
雄略天皇おおきみ見るや 岡ふもと
姿かくすに 謡う歌

岡に乙女が 隠れしに 
鉄のすき欲し 五百ほど
すきで岡ね 見付けてやるに

  娘子おとめの いかくる岡を
  金鉏かなすきも 五百箇いおちもがも
  ぬるもの
                ―古事記歌謡(九十九)―










長谷はつせけやきの 繁るした
新嘗にいなめうたげ 開く時

伊勢国いせくに三重の 采女うねめ
雄略天皇きみ酒杯さかづき ささげるに
浮いた欅葉けやきば 気付かずて
勘気かんきこうむり えに
まさ刀刃やいばの 首るを
しばし」と采女うねめ 謡う歌

巻向まきむく日代ひしろ 宮処みやどこ
朝日照る宮 御座おわしまし
夕日 輝く 宮にして

  纏向まきむくの 日代宮ひしろのみや
  朝日の 日る宮
  夕日の 日ける宮










竹根垂れぶ 宮にても
木の根蔓延はびこる 宮にても
土台赤土あかつち 築き宮
ひのき御殿の この宮で

  竹の根の 根足ねだる宮
  の根の 根延ねばう宮
  八百土やおによし いきづきの宮
  真木まきく 御門みかど
新嘗にいなめうたげ 催すに
い繁りたる ひのき
上なる枝は 天おお
中なる枝は 東国とうごく
下枝おおう 西の国

  新嘗にいなえに い立てる
  百足ももだる つき
  は あめおおえり
  中つは あずまおおえり
  下枝しずえは ひなおおえり








上の枝葉は 中枝なかに落ち
中の枝葉は 下枝したに落つ
下の枝葉は 三重采女うねめ
捧げ高貴な 酒杯はいに落ち

  の 末葉うらば
  中つに 落ちらばえ
  中つの 末葉うらば
  下つに 落ちらばえ
  下枝しずえの 末葉うらば
  ありきぬの 三重の子が
  ささがせる 瑞玉みずたまうき





あぶら浮く様に ただよいて
 こおろこおろ」と 造らせし
島さながらに 浮きれり

  浮きしあぶら 落ちなづさい
  みなこおろこおろに








真実まことおそれの 多きかな
神の御子孫おこなる 天皇おおきみ
 故事いにしえごとは くのごと

  しも 極度あやかしこ
  高光る 日の御子みこ
   事の 語りごとも をば
                ―古事記歌謡(百)―

聞きて雄略天皇おおきみ 三重采女うねめ
気転 の良きを お気に召し
よくぞ 歌うと 罪許し
与える褒美ほうび 三重采女うねめ

時に皇后おきさき 謡う歌

大和高市たけちの 高処たかどこ
海石榴市つばいち繁る 椿
新嘗にいなめ御殿ごてん 繁り立つ
神聖きよら椿の 葉の如く
広き心の 天皇すめらみこ
輝く心 天皇すめらみこ
神の御子孫おこなる 天皇おおきみ
お勧めあれや 豊御酒とよみき
 故事いにしえごとは くのごと

  やまとの この高市たけち
  小高こだかる いち高処つかさ
  新嘗にいなえに い立てる
  葉広はびろ 椿つばき
  が葉の 広りいま
  の花の 照りいま
  高光る 日の御子みこ
  豊御酒とよみき たてまつらせ
   事の 語りごとも をば
                ―古事記歌謡(百一)―

古事記ものがたり・下つ巻(17)一言主の お出ましなるぞ

2013年07月18日 | 古事記ものがたり
一言主ひとことぬしの おましなるぞ

雄略天皇すめらみことが 葛城山かつらぎ
行幸みゆき登りの 折りも折り

現れたる 大猪おおしし
雄略天皇きみ鏑矢かぶらや 射たるやに
射られ大猪おおしし こたえずて
うなきばき 迫り来る





雄略天皇きみは恐れて はんの木に
登り木 の上 謡う歌

われで来て 狩りするに
射たるししが 手負いまま
追い来る様子さまを 恐れ
逃げて 登りし この丘の
はんの木の枝 われ救いたり

   やすみしし 我が大君の
  遊ばしし しし
  ししの 咆吼うたきかしこ
  我が逃げ登りし あり
  はりの木の枝
                ―古事記歌謡(九十八)―











またのある時 雄略天皇すめらみこ
葛城山かつらぎやまを 登り

大勢連れた とも皆に
青染め衣服ふくに あかひも
着させ列し 登りしに

行く先尾根を 目指めざすにと
同じく登る 隊列れつ見える

あろう事かや 装束しょうぞく
並ぶ人数ひとかず 皆同じ











不審雄略天皇おおきみ 問いただ
「ここ大和国やまとくに われきて
 おうたるものの 存在あれぞかし
  そは何者の 行くなるぞ」

責めといに 来る答え
同じとい 返り来る

何ぞといかり 雄略天皇すめらみこ
弓に矢つがえ とも皆に
つがえさせて 射んと

同じかまえの 尾根向こう
こちら を射んと 弓を引く

あやしと雄略天皇きみは 問い掛ける
「名れや御名みなを 射の前に」

さきに問われし 我れなれば
 ずの名りは 我さん
 悪事まがごと善事よごと 何事も
 我が託宣たくせんの 一言ひとこと
 決す神ぞよ 葛城かずらき
 一言主ひとことぬしの 大神おおかみぞ」

聞いた雄略天皇おおきみ 驚きて
「神なりしやに 人姿ひとすがた
  誤り見てり 気付かずて」

弓矢はずして とも着たる
衣服ふくことごとく ぎ取らせ
一言主ひとことぬしのに 献上ささげな

雄略天皇きみが帰るに 一言主大神ぬしのかみ
山の端まで 行列れつ組みて
長谷口はせぐち迄も 送られし

古事記ものがたり・下つ巻(16)愛い奴蜻蛉 名にし負う

2013年07月15日 | 古事記ものがたり
やつ蜻蛉あきず 名にし

とある行幸おでまし 雄略天皇すめらみこ

吉野離宮みやへの 川ほと
岸辺たたずむ 童乙女わかおとめ
眉目みめうるわしを 共寝ともねする

またの吉野の 行幸みゆき

同じ岸辺に 童乙女おとめ呼び
床几しょうぎえて 琴きて
童乙女おとめに舞を 舞わせしに
華麗かれいなる見て 謡う歌








床几しょうぎして 手ずからに
く琴合わせ 舞う童乙女おとめ
神仙かみよ仕業しわざ 永久とわあれかしも

  呉床あぐらの 神の御手みてもち
  く琴に 舞するおみな
  常世とこよにもがも
                ―古事記歌謡(九十六)―






またまた行幸みゆき 吉野離宮みや
阿岐豆野あきずの野辺の 御狩みかり時

床几しょうぎお座り 雄略天皇すめらみこ
かいなまりし あぶむに
蜻蛉あきず来たりて くわえ翔ぶ
やつなりと 謡う歌

吉野小室おむろの 山陰やまかげ
鹿やいのしし ひそむとぞ
申したるは 誰なるや

  み吉野の 小室おむろたけ
  猪鹿しし伏すと
  たれぞ 大前おおまえもう
鹿やいのしし で来るを
床几しょうぎして 待つわれ
けたる袖に 虻虫あぶむし
まり我がうで すに
素早すばや蜻蛉あきず 来たり食う

   やすみしし 我が大君の
  猪鹿しし待つと 呉床あぐらいま
  白栲しろたえの 袖そな
  こむらに あぶき着き
  そのあぶ 蜻蛉あきず
その名さすがに 相応ふさわしや 
ここ の大和の 国をして
蜻蛉あきずしまとは 言い得たり

  くのごと 名にわんと
  そらみつ やまとの国を 蜻蛉島あきずしまとう
                ―古事記歌謡(九十七)―

古事記ものがたり・下つ巻(15)八十年待つに お召しは無くて

2013年07月11日 | 古事記ものがたり
八十年やそとせ待つに おしはくて■

雄略ゆうりゃく天皇おおきみ 遊行おでまし
行きて美和川みわがわに 至るとき
きぬ洗う 眉目みめ乙女

なれ誰なるや 名を申せ」
「我が名引田部ひきたべ 赤猪子あかいこぞ」
われ召すにより とつな」








たよりに 待つ月日
早や八十年やそとせが 過ぎ去りき

 待ちも待ったり 長々と
 身は痩せしぼみ かんばせ
 見る影無しの しわ老女おうな

  待ちにし思い 述べざれば
 うれい悔しは 晴れやらぬ」








輿こし入れ支度じたく 進物しんもつ
たずさ宮殿みやを 訪問おとなうに

いずおうなぞ そこなるは」

「昔々に お目留めとまり
 雄略天皇きみの申すを 頼みとて
 おし今かと 待ちるに
 八十年やそとせ過ぐも 言葉なし

  身は衰えて 老い果てて
  頼む心は 捨てたれど
 一途いちず思いを 伝えにと」

聞いた雄略天皇おおきみ 仰天ぎょうてん
 済まぬぞ昔 覚え無し
  したが一念 守り来て
 娘ざかりを 甲斐かいなしに
 過ごししやな 哀れにも」

とこを用意と 思えども
老いたるしみ 謡う歌

三輪山みわ白樫しらかし 神宿る
白樫もとに 立つ乙女
神聖ゆゆしの乙女 近寄りかた

  御諸みもろの いつ白樫かしがもと
  白樫かしがもと 神聖ゆゆしきかも
  白樫原かしはら娘子おとめ
                ―古事記歌謡(九十二)―








引田ひけた栗栖くるすの 若栗を
共寝ともねすべしに 若実わかみどき
我れもおいいしや 甲斐かい無きまでも

  引田ひけたの わか栗栖くるすはら
  若くえに 率寝いねてましもの 
  いにけるかも
                ―古事記歌謡(九十三)―






天皇おおきみ老いの ゆえなりと
聞いて赤猪子あかいこ 泣く涙
あふり赤 染めふく
袖かき 濡らし 謡う歌

三輪山みわきずける 玉垣に
つかえ続けて 年を
寄るも無しの 巫女みこかや我れは

  御諸みもろに くや玉垣たまかき
  あまし にかもらん
  神の宮人みやひと
                ―古事記歌謡(九十四)―






日下くさか入江の はすの花
咲きのさかりの 乙女児おとめご
うらやましやな 老いしの我が身

  日下江くさかえの 入り江のはちす
  花蓮はなはちす 身の盛りびと
  ともしきろかも
                ―古事記歌謡(九十五)―








下賜物くだされ多く さずけ為し
美和みわへと老女おうな 送らせる



古事記ものがたり・下つ巻(14)婚儀固めと 訪問するが

2013年06月20日 | 古事記ものがたり
婚儀こんぎ固めと 訪問おとないするが

安康あんこう天皇おおきみ 後継いで
大長谷王子おおはつせ 天皇おおきみ
雄略天皇ゆうりゃくおおきみ その人ぞ

わか日下くさかみこ 日下くさかの地
られし時に 雄略天皇すめらみこ
婚儀こんぎ固めの 訪問おとない
暗峠くらがりとうげ 越え行くに

河内へ向かう 道中みちなか
むねうえ高く 鰹木かつおぎ
乗せて 造れる 屋敷あり








「何ぞわれ住む 宮殿みやどの
  似せて造るは 不敬なり
 火を掛け燃やせ ことごとく」

聞いた家主いえぬし 戦慄おののき
卑賎ひせんなる身の 知らずにて
 平の容赦おゆるし たまわらば
  珍し犬を お手元に」

白布しらぬの掛けて 鈴着けた
けんじるに 沙汰さた

若日下王わかくさか住む 門至り
たずね来たりし 土産みやげぞと
使者つかいりて 犬けん

わか日下くさかみこ ずて
使者つかい返すに 伝言つたえあり








「昇る日にし 来たれるは
 日高きうちの 訪問たずねにて
 共寝ともね求めの 時間ときならず
 えんぐみ求め お越しなら
 天皇きみのお出まし おそ
 のちみずから まかるにて」

戻る日下くさかの 坂の上
雄略天皇おおきみ立ちて 謡う歌








こちら連なる 日下くさか
あちら連ねる 平群へぐり
山と山との 谷間たにあい
繁る葉広はびろの 熊樫くまがしわ

  日下部くさかべの 此方こちの山と
  畳薦たたみこも 平群へぐりの山の
  此方此方こちごちの 山のかい
  立ちさかゆる 葉広はびろ熊白樫くまかし








根本ねもと竹の根 からみ合う
木末こずえ竹の葉 重ね合う
根のからみ寝 ずおるが
葉の重ね寝 はせぬが
後の共寝ともねを 待つとしょう 
恋し我が妻 いとし妻

  もとには いみ竹
  すえには たみ竹
  いみ竹 いみは寝ず
  たみ竹 たみは率寝いね
  のちみ寝ん その思い妻 あわれ
                ―古事記歌謡(九十一)―



古事記ものがたり・下つ巻(13)謀りたるは 何れの王か

2013年06月17日 | 古事記ものがたり
たばかりたるは いずれのみこ

近江国おうみに住まう 韓袋からぶくろ
吉報しらせを持って まい来たる

「近江蚊屋野かやのに ししや鹿
 つどい集り その様は
 脚は林で つの枯松まつぞ」








受け聞きはやる 大長谷王子おおはつせ
従兄いとこ市辺之いちのへ 忍歯王おしはみこ
誘い 狩りへと 出で立ちて
互い仮宮かりみや 夜明け待つ

まだ明けらぬ 朝まだき
忍歯王おしは馬乗り 仮宮みや訪ね
「早や明けたれば いざでん
 しし鹿しか待つに 起きぬかや
 我れ先行く」と 馬を

聞きし仕人つかえは 大長谷王子みこに告ぐ
 何や気掛かり 物言いぞ
 心とどめて 行かれませ」

着込むよろいを ふくの中
弓矢いだきて 馬を
先行く忍歯王おしは 追いつくや
つがえた矢て 射殺せり






馬落ちたおる 忍歯王おしはをば
切りてきざみて 穴める

顛末てんまつ聞きし 忍歯王おしはの子
意祁王おけみこ並び 袁祁王おけのみこ
危害きがい及ぶを 恐れてや
大和をでて 他国へと

山城やましろ越えて 河内かわち抜け
播磨国はりま至りて その地にて
馬牛飼いに 身を変姿やつ
志自牟しじむが家に 住まう身に

古事記ものがたり・下つ巻(12)腑抜け兄よと 大長谷王子

2013年06月13日 | 古事記ものがたり
腑抜ふぬけ兄よと 大長谷王子おおはつせみこ

允恭いんぎょう天皇おおきみ そのお子の
軽太子かるのたいしの 弟の
穴穂御子あなほのみこが 即位して
安康あんこう天皇おおきみ お成りなる

















安康あんこう天皇おおきみ 弟の
大長谷王子おおはつせみこ 妻にをと
おお日下くさかみこ 妹の
わか日下くさかみこ めとるとて
使者つかい根臣ねのおみ つかわすに

かねてご下命かめい あればとて
 家め置きし 甲斐かいありて
 かしこな申し 有難や」

縁談承知 礼物れいもつ
豪華 飾りの 冠を
託し持たすに 不埒ふらちにも

根臣ねのおみこれを 取り込みて
帰り安康天皇おおきみ 告げたるは

おお日下くさかみこ 無礼にも
 同じ親族うからの 下立つは
 心得ずとて 大刀柄つかに手を」






いか安康天皇おおきみ 「不届ふとどきな
生かし置くか」と 刺客しかく
殺し腹 いせ 見せしめと
大日下王くさかの妻を 我がものに
昼寝微睡まどろむ 安康天皇すめらみこ
盗みたる妻 皇后おきさき
日頃気掛きがかり 聞きて問う

なんじおっとを 成敗せいばい
 わがしを うらみにて
 心みたる ことありや」

「心一途いちずの 寵愛ちょうあい
 くもる心の あらばこそ」

れと大日下王くさかの したる子
 目弱王めよわのみこが 大人おとななり
 父が死の理由わけ 知りたれば
 われねらうに 相違たがいなし」

たまさか遊ぶ ゆかの下
一部始終すべて聞きたる 目弱王まよわみこ

寝所ねやうかがいて 安康天皇おおきみ
寝入り たるをば 見定めて
立てたる大刀たちの さやはら
 打ち落し 姿消す






逃げたる先は 葛城かつらぎ
都夫良意富美つぶらおおみの 屋敷なか

事件憤慨ふんがい 大長谷王子おおはつせ
事態 兄へと 注進も
黒日子王くろひこのみこ 聞きたれど
事を起こすの 気配けはい無し

兄弟いろせ安康天皇きみが しかあるに
 おこたすは 人でなし」
襟首つかみ 引きいだ
大刀たちを振るいて 打ち殺す

取って返して  また兄の
白日子王しろひこのみこ 告げたるに
またの懈怠けたいに 憤怒ふんぬして
首取り引摺ひきて 穴の中
 で埋めるに 飛ぶ目玉

死にたる捨てて 軍おこ
我れが成敗せいばい さんとて
都夫良意富美つぶらおおみの 屋敷いえ包囲かこ









射掛いかける矢数やかず 葦のむれ
見計みはりて 呼ばわるは
「先に求婚もとめし 韓比売からひめ
 屋敷うちかや 返答へん如何いかに」






聞いた都夫良意富美おおみは 武具いて
韓比売からひめまつる 否やなし
 したが我が身は 降参くだらぬぞ

 しんみこ宮殿みや 隠れるは
  常の事にて ありしかど
 みこしん屋敷いえ 隠れたる
  今に及ぶも 聞くに無し

 いくさは我れに 無けれど
 きみそむくは 信たらず」
言いて武具着け 屋敷いえうち

追い詰められし 目弱王みこしん
「身に矢傷やきず 数知れず
 持てる矢数やかずも 果てたるに
 如何いかがすかや 我がきみや」








最早もはやこれまで 我れせ」に
従いたちを 突きして
我が首切り 絶命す




古事記ものがたり・下つ巻(11)女一年 伊予へと走る

2013年06月10日 | 古事記ものがたり
おみな一念いちねん 伊予いよへと走る

一途いちず思いの 軽大郎女いらつめ
野越え 山越え 追いに追う

至れる伊予いよに 待つは軽太子みこ
やれなつかしと 謡う歌

こも初瀬はつせの 山の上
大きな 峰に 旗立てて
さな峰にも 旗を立て
おのこおみな ちぎりたる
いとしの妻よ 我が妻よ

  隠口こもりくの 初瀬はつせの山の
  大峰おおねには はた張り立て
  さ小峰おねには はた張り立て
  おおよし 仲さだめる
   思い妻 あわれ
し寝るときも 心して
立ちるときも ひたすらに
いだかばいて 守るぞよ
いとしの妻よ 我が妻よ

  槻弓つくゆみの こやこやりも
  梓弓あずさゆみ 立てり立てりも
  のちも取り見る 思い妻 あわれ
                ―古事記歌謡(八十九)―








こも初瀬はつせの 川の中
かみの瀬打つは きよめ杭
しもの瀬打つは まさし杭
きよめ杭には 鏡懸け
まさし杭には 真玉たま懸けて

  隠口こもりくの 初瀬の川の
  かみつ瀬に 斎杭いくいを打ち
  しもつ瀬に 真杭まくいを打ち
  斎杭いくいには 鏡を懸け
  真杭まくいには 真玉またまを懸け
真玉たまとも思う 我がいも
 と思う 我が妻よ
初瀬はつせ居るなら 家たず
故郷くにを思うて 偲び
なん の二人で 今ここ居るに

  真玉またまなす 我が思ういも
   鏡なす 我が思う妻
   有りと 言わばこそよ
   家にも行かめ 国をも偲ばめ
                ―古事記歌謡(九十)―





いし二人は 胸晴れて
未練はしと 命




古事記ものがたり・下つ巻(10)伊予流刑れる 軽太子

2013年06月03日 | 古事記ものがたり
■伊予流刑ながされる 軽太子かるのみこ

ばつ受け流刑るけい 伊予いよの湯へ
で発つ軽太子かるの 謡う歌

空飛ぶ鳥は 使者つかいぞよ
 の鳴き声 聞こえたら
我が使者つかいかと 聞きただせよや

  天飛ぶ 鳥も使つかい
  鶴がの 聞こえる時は
  我が名とわさね
                ―古事記歌謡(八十五)―








我れを島へと 放逐はなつとも
 を戻して 帰り来る
我が敷物に れるなよ
敷物言うは たとえなり
れな我が妻 指一本ひとつなと

  おおきみを 島にほうらぱ
  船余ふなあまり い帰りんぞ
  我がたたみゆめ
  言をこそ たたみと言わめ
   我が妻はゆめ
                ―古事記歌謡(八十六)―








行きし軽太子かるみこ 気遣きづかいて
軽大郎女おおいらつめが 謡う歌

あいねの浜を 行く時は 
蠣殻かきがら踏まず お気を付け
りんたる心 持て行かせ

   夏草の あいねの浜の
  蠣貝かきがいに 足踏ますな
   明かして通れ
                ―古事記歌謡(八十七)―








ち月ち 戻らぬに
焦がれ軽大郎女いらつめ 謡う歌

軽太子かるみこ行かれ 長い日々
迎え行 きたや 迎え行く
待つ か待たんぞ 待つもんか

  君が行き 長くなりぬ
   山たづの 迎えを行かん
   待つには待たじ
                ―古事記歌謡(八十八)―

古事記ものがたり・下つ巻(09)穴穂御子捕える 軽太子

2013年05月30日 | 古事記ものがたり
穴穂御子あなほ捕える 軽太子かるのみこ

軽太子かるのみこする 言動おこない
官人みやびとたみは 背を向けて
何方どなた頼りと べしやと
心寄せたは 穴穂御子あなほみこ 

世情せじょう嵐の 激しさに
恐れしたる 軽太子かるのみこ
大前おおまえ小前おまえ 宿祢すくね
助け求めて  逃げ込みき

穴穂御子あなほぐんて 家囲み
時の大氷雨ひさめに 謡う歌










大前おおまえ小前こまえ 門に出て
我れに降参くだれや 観念し
氷雨あめ止ますぞよ 一捻ひとひね

   (乱鎮めるは)

  大前おおまえ小前おまえ宿祢すくねが 金門かなとかげ
  く寄り
  雨立ちめん
                ―古事記歌謡(八十一)―

大前おおまえ小前おまえ たり
手挙げひざ打ち 舞い踊り
穴穂御子あなほもと来て 謡う歌








宮廷人みやひと足の さい鈴
落ちたくらいで 大騒ぎ
皆も静まれ 大事おおごとすな

  宮人みやひとの 足結あゆいの小鈴
  落ちにきと 宮人みやひととよ
  里人さとびともゆめ
                ―古事記歌謡(八十二)―


穴穂御子みこ兄太子あにみこ 攻めたれば
 世人よひと穴穂御子みこをば 冷笑わらうにて
  我れが補えて 連れ出すに」

大前おおまえ小前おまえ 軽太子かるみこ
捕え門外もんそと 引き立つに
軽太子みこが嘆きて 謡う歌

軽大郎女おおいらつめよ いとし児よ
はげしに泣けば 人が知る
鳩が鳴くに 声殺し
 れを偲びて そっと泣け

  天む 軽の娘子おとめ
  いた泣かぱ 人知りぬべし
  波佐はさの山の 鳩の
  した泣きに泣く
                ―古事記歌謡(八十三)―

軽大郎女
おおいらつめ
よ いとし児よ
 確かに 我れ信じ
待ち軽大郎女
かる
よ いとし児よ

  天む 軽娘子かるおとめ
  したたにも り寝て通れ
  軽娘子かるおとめども
                ―古事記歌謡(八十四)