ユニーク古典現代訳(大阪弁万葉集改題)

日本の古典を訳します。そのままストンと腑に落ちる訳。なんだ、こうだったのかと分かる訳。これなら分かる納得訳。どうぞどうぞ

源氏:桐壺(09)目も見え侍らぬに

2014年01月27日 | 七五調 源氏物語



目も見えはべらぬに
     ―みかど願うの皇子みこお召し―










押し頂きて 桐壺更衣こうい
 涙に曇る この目しも
  光りお言葉 頼りにと」
開く便りに したたむは

《時過ぎ行かば まぎれると
  思いて過ごす 月日やに
  忍び難きの 増々ぞ

 幼き人は 如何いかにとぞ
  共の育ての 出来無くの
 気掛かりなるに 如何いかがやな
 桐壺更衣こうい形見と 参内さんだいを》

こと 細やかと 書きたるに
添えたる 歌ぞ これぞかし

  宮中に
   居りし桐壺
       露と消え
   里ある皇子みこ
      思うははる

                          宮城野みやぎの
                            露吹き結ぶ
                              風の
                            小萩こはぎがもとぞ
                              思いやられる









御文おふみ涙で 読み切れず

「生きておるさえ つらき身に
 松が思うも はずかしの
  この身宮中 参るなど
  憚り多き ことにてぞ

                           【松が思うも】
                           いかでなほ
                            有りと知らせじ
                           高砂の
                            松の思はむ
                             事も恥づかし
                              ―古今集―
                          (長寿なる
                            高砂松も
                              驚くの
                           長らえ為すの
                            知られ恥ずかし)


 重ねお言葉 たまわるも
 内裏だいり参内さんだい とてもにて

 若宮胸は 如何いかなるや
 思うに直ぐに 参内さんだい
 したきようやの うべなるも
  この身とりては 悲しゅうに
 見はべりおると お伝えを

 桐壺更衣むすめ先立て 不吉ふきつ身と
 共のお過ごし おそ
 思えど桐壺更衣むすめ 形見にて・・・」


若宮既に お就寝やすみ

「お目に掛かりて くわしくに
  ご様子なりと 思いしも
 みかど帰りを お待ちかね
 も更け行くに そろそろと」

源氏:桐壺(08)門引き入るるより

2014年01月23日 | 七五調 源氏物語



 門引き入るるより
    ―来たる屋敷に野分吹き―


靫負命婦みょうぶ着きにて くぐる門
哀れ 気配の 漂いは

未亡人やもめ暮らしに ありしかど
桐壺更衣むすめ支えの 為にとぞ
手入れ怠り 無きなも

泣きの涙の 気落ち
生えたる草背くさせ 高きをば
野分のわき吹く風 荒したに
昇りたる月 雑草くさ越しと
射しし明かりの びにてぞ





庭過ぎ牛車ぎっしゃ 寝殿の
正面おもてに るに
出でし桐壺更衣こういの 母君は
しば黙然もくぜん ややあって

いまだ長らえ 居るにての
  心苦しと 覚えしに
 草深くさふか宿の 露分けて
 勅使つかいお越しは 身も縮む」
難気がたげにぞ 泣き給う






靫負命婦ゆげいのみょうぶ うなづきて

「先にこちらに まいられし
 典侍ないしのすけの 奏上の
   『いと気の毒と お見受けし
    心消え果つ 心地にて』
  なるお言葉を 漏れ聞くに
 情趣なさけの薄き この身とて
 辛さこらえも し得ず」と

                          【典侍】
                           内侍司(ないしのつかさ)の次官
                          ※内侍司=帝に常侍しその身辺奉
                           仕や女官の管理などを行う


先ずの訪問おとない 挨拶に
続きみかどの 仰せ言


  「『しばしは夢と 覚えしが
   ようよう心静しずむ 今にては
   めぬうつつに 堪えられず
   辛さ晴らすの すべなんぞ
    語り掛くべき 人無きに
   忍び参内さんだい かなわぬか

    若宮とても 気に掛かる
   露深つゆふか涙 満つる中
   過ごすは如何いかが 思うにて
   願う参内さんだい くにてぞ』

 涙せつつ おっしゃるも
 気弱見せじと はばかるを
 皆まで聞かず 参りし」

言いて御文おふみを 差しいだ


源氏:桐壺(07)儚く日ごろすぎて

2014年01月20日 | 七五調 源氏物語



はかなく日ごろ過ぎて
     ―弔問ちょうもん向かう靫負命婦ゆげいのみょうぶ




日々がはかなく 過ぎて行く
桐壺更衣こうい実家さとなる 法要に
みかど忠実まめやか 弔問おつかい



時はつれど 増す悲哀
女御にょうご更衣こういも されずの
 に濡れる 明け暮れの
尊顔かお拝する 女房ひと胸に
 ぞ積もれる 秋の日々

みかど悲嘆ひたんの ご様子も
「憎しの寵愛おぼえ 死しあと
 我が胸みだす ひとぞかし」
容赦ようしゃ無きなは 弘徽殿女御こきでん



づかい訪ね 弘徽殿こきでん
第一いち皇子みこご覧 目の底に
浮かぶ若宮 みかどにて

忘れ形見 の 恋しさに
腹心女房にょうぼ 乳母めのと
様子 伺い 遣い為す









秋の野分のわきの 風が吹き
肌寒さむさ覚える 夕暮れに

みかど偲びの 思い増し
靫負命婦ゆげいのみょうぶ つかわさる
 懸かれるは 夕月夜

                          【命婦】
                          ・後宮の中級の女官
                          ・夫や父の官名を付けて呼ぶ
                          ※靫負=衛門府の官人
                          ※衛門府=宮城諸門の警護任務





靫負命婦みょうぶいだした そのあと
みかどしみじみ 月眺め
思わず 沈む 物思い

かる月き 夕暮れは
 管弦遊び したるに
  床し響くの 琴の音や
  取り留め無きの 言葉にも
 常のひととは 異なりて・・・)

浮かぶ面影 容貌かお姿形かたち
見るにはかなき 幻ぞ

 さても及ばず ありし日の
 例え闇中やみなか なりとても
 この手いだきし 現実姿すがたには)
 〈歌に云うなは たがいぞな〉

                          【例え闇中】
                           ぬばたまの
                            闇のうつつ
                           定かなる
                            夢にいくらも
                             勝らざりけり
                              ―古今集―
                          (確かとて
                            真っ暗闇の
                              現実は
                            はるか勝らず
                             さやかな夢に)




源氏:桐壺(06)同じ煙に上りなむと

2014年01月16日 | 七五調 源氏物語



同じけぶりに上りなむと
 ―桐壺更衣こうい死後にて三位を賜う―




身内葬場そうばを 避くべきを
桐壺更衣こうい母君 泣きがれ
同じ 煙に 我れもとて

葬送牛車ぎっしゃ 追いて乗り
葬場そうば愛宕おたぎへ 向かいたる

おごそか極む 葬場そうば着き
火葬 儀式に 臨みたる
胸中むねなかなるや 如何いかばかり







亡骸なきがら見ても 生けるがに
  見えるも甲斐の 無きし故
 灰成るさまを 見つれなば
 あきらめきっと 付くもの」と

気丈きじょう言うたも 裏腹と
牛車ぎっしゃ落ちの 狼狽うろたえ
も」と手焼きの 女房らし



内裏だいり使者つかいぞ まいりての
追贈ついぞう三位さんみ 今悲し

せめて前以まえもて 女御にょうごにと
思う 心も 果たせずの
悔やみみかどの あと贈り

女御にょうご相当 三位さんみをば
「この及びの またぞろや」
改め憎み 数多あまた


                          【更衣の位階】
                          ・女御は三位以上
                          ・更衣は通常五位
                          ・この時桐壺更衣は四位


されどなおなる ひと胸に
立ち居振る舞い その美貌きりょう
気立ておだやで 短所きずなしの
憎みがたきの 性質さが女人ひと
ありし の思い 浮かびくる



過分かぶん寵愛おぼえ それ故の
素気すげなきねたみ 受けたれど

情け の深き お人柄
みかどお付きの 女房にょうぼらも
懐かし思い 偲び


 亡くてぞ人の」 言うなるは
くなる時の ことならし
   
                       【亡くてぞ】
                           在るときは
                           在りのすさびに
                              憎くかりき
                           亡くてぞ人の
                             恋しかるける
                          (居りし時
                            ただ居るだけで
                              憎きやに
                           死するに何故か
                             思われるにて)



源氏:桐壺(05)いたう面痩せ

2014年01月13日 | 七五調 源氏物語



いたう面痩せ
  ―下がりし桐壺更衣こうい身罷みまかりて―







まかり出到る 経緯いきさつ
 更ながら 見返るに

照りうばかり 美しく
愛らし女人ひとの おも痩せて
辛さはかなさ あふ胸中むね
伝え果たしも 随意ままならず
今も消えな 耐え姿

ご覧みかどは お狼狽うろたえ
前後見境 さらずと

ああもさんに こうも
 ながらに 誓えども

こたえ気力 さえ無しに
目差まなざだるげ 力
朦朧もうろう意識 れば
みかどは暮れる 途方にぞ




随意ままの歩みも ならずとに
輦車てぐるま用意 宣旨のたまい
許可ゆるしの心 早やつぶ

退出いではならぬと 桐壺更衣こうい抱き

 限り命の 世なれども
 遅れ先立ち はせぬと
  誓いしものを 我れ残し
 行けるべきかや なれひとり」





桐壺更衣こうい絶え絶え 息いて

 この命
   果てんとするの
      今際いまわやに
    生き長らえを
       願うに悲し

                           限りとて
                            別れる道の
                              悲しきに
                            生かま欲しきは
                               命なりけり


こう なる身とは 知らませば・・・」

尚も言わんも 苦し
あえあえぎを 前にして

宮中きゅうちゅ亡骸なきがら 禁忌きんきなを
みかどそれすら 構わずと
最期さいご見定む 積りとぞ






見たる桐壺更衣こういの 仕え人

「今日の祈祷いのりの 始めるに
  僧等集いし 刻限が
 よいに迫れり なにとぞ」と

き立て言うに これまでと
みかど止む無く 許し






桐壺更衣こういまかりし あとからも
みかどの胸は ふさがりて
まどろみ無しの 終夜よもすがら
使者つかい行きの 待つさえ
絶えずのらし お気掛かり

行きし使者つかいが 門口かどぐち
着くや 着かずに 聞こえしは
 夜半過ぎに・・・」の 叫び泣き

すべ無しの 立ち戻り
悲嘆ひたん報告しらせを 聞くみかど
懊悩おうのう心惑まどい こも




みたるの 時なるも
みかど皇子みこをば 手許にと
思われ 為すの 心なも

亡きのえにしを 留めたる
前例ためしこれまで 無かりせば
実家さとへ戻りの 支度したく

仕え人の 泣き惑い
みかど絶え無き ほほ
無心 見上げの ご様子は

死別れ 悲し さら増しの
いとけなさにぞ 胸迫り
言う べく無しの 哀れにて


源氏:桐壺(04)この御子三つに

2014年01月09日 | 七五調 源氏物語



この御子三つに
    ―袴着はかまぎ後に桐壺更衣こうい病む―



生まれし皇子みこも 三歳みつとなり

袴着はかまぎ儀式 第一いち皇子みこ
負けず 劣らず 豪華にて

貯蔵 宝物 総出しの
みかどご意志の 盛大さ

世人よひとそしりの 声あれど
皇子みこ容貌かんばせ 心映こころば
比類ひるい無きにて おのず止む

またの世人よひとは 目見張りて
うっとり ばかり 言うことに

「未だわれ見ず く如き
 人の俗世このよに 生まれを」


                          【袴着】
                           幼児から少年への成長を祝う儀式


この年夏に 桐壺更衣こうい病み
実家さとまかり出を 願い
みかどならじと め置かる

病勝やまいがちなは 常と見て
しばし様子」の 仰せぞも
日に日病患わずらい 重み増し
五、六日に 重篤じゅうとく


桐壺更衣こうい母君 泣く泣くに
みかど願い出 退出まかで許可

退出まかで当たりて 共に
如何いかおとしめ 皇子みこ及び
災禍さいか受くやと め置きて

人目しのびに で給う








とどめ置きたき 思えども
あつきを 宮中に
置いて 置けぬは 道理にて

更衣こうい身分に ありしかば
見送り さえも ならぬ身を
 し思えど 定めにて


源氏:桐壺(03)畏(かしこ)きお陰をば

2014年01月06日 | 七五調 源氏物語



かしこきお陰をば
   ―重なるいじ桐壺更衣こういにと―







みかど庇護ひごを 一身に
受けるに増して 桐壺更衣こういをば
おとしめなして あら探す
ひとの多くに なるにては

弱き 身なるの 更増すに
寵愛ちょうあい無くば 斯くもやと
勿体もったい無きに 悩み為す

桐壺更衣こうい部屋なる 桐壺は
宮の東北うしとら 北の端

みかどお渡り かよ
数多あまた部屋なる 女御にょうごらの
なき通いの 胸つぶ
そねふくれも うべなりし

しに桐壺更衣こうい こたえ行く
通い 度々 なるにつれ
打橋うちはしなるや 渡殿わたどの
通り道なる 此処ここ彼処かしこ
不浄なる物 き散らし
送迎人おくりむかえの 衣裾ころもすそ
耐え難 きにの 台無しに

                     打橋】
                      殿舎と殿舎の間に渡した板の通路
                     渡殿】
                      寝殿造の建物と建物とを繋ぐ屋根のある廊下
































またもある時 け無しの
馬道めどうを行くに 双方で
示し合わせの 戸ふさぎで
きまり悪 きに 困らせる

重なるいじめ 苦しみに
悩みわずらう 桐壺更衣こういをば

みかど不憫ふびんと 思い為し
宮中 殿舎 我が住まう
清涼殿せいりょうでんの すぐ脇の
後涼殿こうりょうでんに 住む更衣こうい
追いり部屋を 与えしに
元更衣こうい恨むは 一入ひとしお

                     馬道】
                     殿舎の中を貫通している長廊下
                     元々は殿舎と殿舎の間に厚板を渡した通路、馬を中庭に入れるときに取外せる簡単な物
                     清涼殿】
                     ・内裏の殿舎の一つ
                     ・帝の日常の居所


源氏:桐壺(02)御契(おんちぎ)りや深かりけむ

2014年01月01日 | 七五調 源氏物語

御契おんちぎりや深かりけむ
    ―玲瓏れいろう皇子みこの生まれ為す―



みかど 桐壺更衣こういの 前世まええにし
深くあるらし 証左あかしにや

玲瓏れいろう玉の 如くなる
うるわ皇子みこの お産まれに


みかど心の はやるにて
いまだ赤児の 皇子みこなるを
急ぎ参らせ らんずるに
類稀たぐいまれなる 美貌きりょうなり



先に生まれし 第一いち皇子みこ
母の女御にょうごの 父なるは
権勢 誇る 右大臣

重き後楯ささえに この皇子みこ
次の春宮とうぐう 言われ為し
うやまわれしは 並ならで
みかど第一皇子このみこ 大切だいじ為す

                          【春宮】=東宮
                          ・皇太子を称して言う
                          ・皇太子の宮殿が皇居の東にあった
                          ※五行説で春は東に当たる
                          ※この時の春宮は帝の弟君

した が新たに 生まれしの
若宮美貌きりょう 勝るにて
みかど若宮このみこ 秘蔵だいじ子と
あつき育ての 限りなし


桐壺更衣きりつぼこうい 元々は
 の女官と 同じくの
軽き扱い 受くる
性格さがひとには あらずして
周辺ひとの覚えも 涼やかな
高貴身分の 風格たたずまい

したがみかどの ちょうあつ
管弦うたげ 始めとし
重き儀式も 先ずの

一夜過ごせし 夜の寝所おとど
下がらせず もの ご執心

しかる扱い 重なるに
軽き性格さがなる ひとなりと
周辺ひとの目さえに 見えたるも



皇子みこの生まれし のちにては
みかど扱い お変えなり
重々 しにと 成りしかば

「もしやこの皇子みこ 次春宮とうぐうや」
第一いち皇子みこ女御ははぞ 疑念ぎねん抱く

これなる女御にょうご 宮中きゅうちゅう
やかた弘徽殿こきでん 住まうにて
弘徽殿女御こきでんにょうご 申しなる





弘徽殿女御こきでんにょうご 入内じゅだい
右大臣みぎのおとどの 権勢を
後楯たてしての 一番まず入内

若きみかどは この弘徽殿女御にょうご
配慮 深きに 扱われ
皇女こうじょもすでに されしの
言葉 重きの 故にてぞ

弘徽殿女御にょうごいさめ たぐいなを
しと思いつ お受け為す