ユニーク古典現代訳(大阪弁万葉集改題)

日本の古典を訳します。そのままストンと腑に落ちる訳。なんだ、こうだったのかと分かる訳。これなら分かる納得訳。どうぞどうぞ

坂上郎女編(18)鄙への赴任 大丈夫やろか

2011年06月20日 | 坂上郎女編
■平成23年6月20日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★家待の 越への赴任 思い遣る 郎女思い 家待腐心

草枕 旅行く君を さきくあれと 斎瓮いはひべゑつ とこ
《赴任旅 どうか無事でと とこに 陰膳かげぜんえて 祈っておるで》
今のごと  恋しく君が 思ほえば いかにかもせむ するすべのなさ
《今更の  ようにあんたが 思われる どしたらえんか わからへんがな》
旅ににし 君しもぎて いめに見ゆ が片恋の 繁ければかも
《旅った あんたしょっちゅう 夢に見る 一人思いが 激しいからか》
道のなか 国つ御神みかみは 旅行きも らぬ君を 恵みたまはな
《越中の  国の神さん 守ってや この子あんまり 旅知らんから》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻十七・三九二七~三〇〉 

常人つねひとの 恋ふといふよりは あまりにて 我れは死ぬべく なりにたらずや
《恋しさは  普通のもんと 違うんや この恋しさは 死んでまうほど》 
片思かたおもひを 馬にふつまに おほて 越辺こしべらば 人かたはむかも
《この思い  馬の背中に 全部乗せ 送れば誰ぞ 知ってくれるか》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻十八・四〇八〇~一〉 

天離あまざかる ひなやっこに 天人あめひとし かく恋すらば 生けるしるしあり
《越にる わしをこんなに 恋慕う 天女おるんや 嬉しいかぎり》
常のこひ いまだまぬに みやこより 馬に恋ば になへむかも
《恋心  募ってるのに 更にまた 馬の恋荷で 潰れてしまう》
                         ―大伴家持―〈巻十八・四〇八二~三〉 

あかときに 名告なのり鳴くなる 霍公鳥ほととぎす いやめづらしく 思ほゆるかも
《朝やでと うて鳴いてた ホトトギス 常より一層 うるわし思う》 
                         ―大伴家持―〈巻十八・四〇八四〉 



斎瓮いはひべゑつ 】へ


坂上郎女編(17)幼いあの子 大丈夫やろか

2011年06月16日 | 坂上郎女編
■平成23年6月16日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★嫁に遣り 気遣う親の 郎女は 帰しともあり 帰しともなし

ひさかたの あま露霜つゆじも 置きにけり 家なる人も 待ち恋ひぬらむ
《もう帰り  露や霜かて 置くよって 家で待つ人 心配しとる》

玉主たまもりに 玉はさづけて かつがつも 枕と我れは いざ二人寝む
《ご主人に  お前返して もうわたし 枕と一緒に 寝さしてもらう》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻四・六五一~二〉 

常世とこよにと 我が行かなくに 小金門をかなとに もの悲しらに 思へりし わが児の刀自とじを 
ぬばたまの 夜昼よるひるといはず 思ふにし 我が身はせぬ なげくにし 袖さへ濡れぬ
かくばかり もとなし恋ひば 古郷ふるさとに この月ごろも 有りかつましじ

《帰らへん 旅でもないに もんに立ち 別れ悲しむ 我が娘
 夜るだけちごて 昼間でも 思い出したら 身は痩せる 嘆く涙は 袖濡らす
 こんな心に かるなら この故郷さとひとり 幾月も じっと出けへん 心配で》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻四・七二三〉 
朝髪の 思ひ乱れて かくばかり 汝姉なねが恋ふれぞ いめに見えける
《髪乱し 寝られんほどに うちのこと 恋しがるから 夢見るやんか》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻四・七二四〉 

うち渡す 竹田の原に 鳴くたづの ときし 我が恋ふらくは
《鳴くつるは 引っ切り無しや それみたい あんた思うん 絶え間あれへん》
早河はやかはの 瀬にる鳥の よしを無み おもひてありし 我が児はもあはれ
《瀬早よて 羽根休めどこ ない鳥か あんた心配 気ぃ休まらん》 
                         ―大伴坂上郎女―〈巻四・七六〇~一〉 




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坂上郎女編(16)やっと念願 叶うか今宵

2011年06月13日 | 坂上郎女編
■平成23年6月13日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★家待が とうとう来るぞ 我が娘 大嬢おおいらつめと 結ばれせんと

月立ちて ただ三日月の 眉根まよねき 長く恋ひし 君に逢へるかも
《三日月の ような眉毛まゆげを いたんで 恋焦がれてた あんたに逢えた》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻六・九九三〉 
振仰ふりさけて 若月みかづき見れば 一目見し 人の眉引まよびき 思ほゆるかも
《振り仰ぎ  三日月見たら 一目見た おまえの眉を 思い出したで》
                         ―大伴家持―〈巻六・九九四〉 

我が背子せこが きぬ薄し 佐保風は いたくな吹きそ 家に至るまで
《あんた着る  服薄いから 佐保の風 えろ吹いたんな 家帰るまで》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻六・九七九〉 

我が背子が 見らむ佐保道さほぢの 青柳をおやぎを 手折たをりてだにも 見むよしもがも
《佐保みちの あんた見ておる 青柳 せめて一枝 見たいもんやな》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻八・一四三二〉 
うち上る  佐保の川原の 青柳は 今は春へと なりにけるかも
《佐保川の  河原の柳 青々と 春が来たんや 春やで春が》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻八・一四三三〉 

まじり 雪は降るとも 実にならぬ 吾家わぎへの梅を 花に散らすな
《風吹いて  雪が降っても 散らしなや まだ実ィ着けへん うちの梅花》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻八・一四四五〉 

玉桙たまほこの 道は遠けど はしきやし 妹を相見に 出でてぞ
《遠い道 苦にもせんとに いとおしい 叔母あんたに逢いに 出かけて来たで》
                         ―大伴家持―〈巻八・一六一九〉 
あらたまの 月立つまでに まさねば いめにし見つつ 思ひぞがせし
《ひと月が ってもあんた んよって 夢にまで見て 待ってたんやで》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻八・一六二〇〉 




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坂上郎女編(15)うちが頑張り 精出しせんと

2011年06月09日 | 坂上郎女編
■平成23年6月9日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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天皇おおきみの よすが通じて 大伴の 家の栄えを 成し遂げみたい

橘を 屋前やどおほし 立ちてゐて のちゆとも しるしあらめやも
《高級な 橘庭に 植えたんで 上手じょうず育てな 悔いが残るで》 
吾妹子わぎもこが 屋前やどの橘 いと近く ゑてしからに 成らずはまじ
貴女あんたはん 植えた橘 うち身近 きっと一緒に 実のらせましょや》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻三・四一〇~一〉 
木綿畳ゆふたたみ 手向たむけの山を 今日けふ越えて いづれの野辺のへに いほりせむ我れ
木綿布ゆうぬのを 畳み手向ける 手向け山 越えて泊まりは どこの野辺やろ》 
                         ―大伴坂上郎女―〈巻六・一〇一七〉 

あしひきの 山にしをれば 風流みやびなみ 我がするわざを とがめたまふな
《山里で 無粋ぶすいな暮らし してるんで つまらんもんで 御免なさいね》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻四・七二一〉 
にほ鳥の かづ池水いけみづ こころあらば 君に我が恋ふる こころ示さね
《にほ鳥の もぐる水さん 知ってたら うちの気持ちを 天皇きみに伝えて》
よそに居て 恋ひつつあらずは 君がいへの 池に住むといふ 鴨にあらましを
《宮中の 外で恋しと 思うより 天皇きみ住む池の 鴨なりたいな》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻四・七二五~六〉 

大夫ますらをの 高円山たかまとやまに めたれば 里にる むざさびそこれ
狩勇士ますらおが 高円山で 追うたので 里逃げりた むささびやこれ》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻六・一〇二八〉 



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坂上郎女編(14)身より無い身に 憐れが寄せる

2011年06月06日 | 坂上郎女編
■平成23年6月6日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★佐保邸に 寄宿の理願 うなった 留守居郎女 嘆きの挽歌

栲綱たくつのの 新羅しらきの国ゆ 人言ひとごとを よしと聞かして 問ひくる 親族うから兄弟はらから 無き国に 渡りまして
《新羅から 日本の国が ええ聞いて 親兄弟も れへんに 渡り来られた この国の》
大君の 敷きます国に うち日さす みやこしみみに 里家さといへは さはにあれども 
いかさまに 思ひけめかも つれもなき 佐保さほ山辺やまへに 泣く児なす したまして 
敷栲しきたへの いへをも造り あらたまの 年の長く 住まひつつ いまししものを
 
《都に家は 多いのに どない思たか 縁もない この佐保山に したい来て
 家作られて 年月を 住まい暮らして 来られたが》 
生ける者 死ぬといふことに まぬかれぬ ものにしあれば 
たのめりし 人のことごと 草枕 旅なるほど
佐保河さほかはを 朝川あさかは渡り 春日野かすがのを 背向そがひに見つつ
あしひきの 山辺やまへをさして くれくれと かくりましぬれ
 
《世の中定め  人いつか 死ぬと決まった ことやけど
 頼りうてた 人みんな たまたま旅で 留守のうち
 佐保の川瀬を 朝渡り 春日かすがの野原 背ぇ向けて 山の闇へと 隠られた》
言はむすべ むすべ知らに たもとほり ただひとりして 
白栲しろたへの 衣手ころもでさず 嘆きつつ 我が泣く涙 有間山ありまやま 雲居たなびき 雨に降りきや

《何もでけへん 言われへん あちこち彷徨さまよい 一人して 
 喪服の袖を 泣き濡らす 流す涙は 雲となり 有間山へと 雨降らす》     
                         ―大伴坂上郎女―〈巻三・四六〇〉 
とどめ得ぬ 命にしあれば 敷栲しきたへの 家ゆはでて 雲隠くもがくりにき
《永遠の 命ちゃうから 住み慣れた 家を出ていき 雲なりはった》 
                         ―大伴坂上郎女―〈巻三・四六一〉 




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坂上郎女編(13)うちが音頭の 宴の席じゃ

2011年06月02日 | 坂上郎女編
■平成23年6月2日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★身内での 宴席続く 昨日今日 梅に酒杯さかづき 酔うのはどっち

かくしつつ  遊び飲みこそ 草木すら 春は咲きつつ 秋は散りゆく
《草木かて 春に花咲き 秋は散る 飲んで遊んで たのしに暮らそ》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻六・九九五〉 

酒杯さかづきに 梅の花け 思ふどち 飲みてののちは 散りぬともよし
梅花うめはなを 酒杯さかづき浮かべ 友どうし 飲んで仕舞しもたら 散ってええやん》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻八・一六五六〉 
つかさにも 許したまへり 今夜こよひのみ 飲まむ酒かも 散りこすなゆめ
《おかみかて かめへんてる 宴会や 酒のみ明かそ 梅散らさんと》
                         ―こたふる人―〈巻八・一六五七〉

山守やまもりの ありける知らに その山に しめひ立てて ひのはぢしつ
《山番が るの知らんと 山はいり しるし付けたで 恥ずかしことに》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻三・四〇一〉 
山主やまもりは けだしありとも 吾妹子わぎもこが ひけむしめを 人かめやも
《山番が ってもええで あんた来て 付けたしるしや 誰ほどくかい》
                         ―大伴駿河麻呂―〈巻三・四〇二〉 





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坂上郎女編(12)今ひとつ その気湧かんな 身内の恋は

2011年05月30日 | 坂上郎女編
■平成23年5月30日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★一族が 交す相聞 遣り取りは ほんに恋かや 歌修練か
~大伴稲公の田村大嬢への相聞〈郎女代作〉~ 
あひ見ずは 恋ひずあらましを 妹を見て もとなかくのみ 恋ひばいかにせむ
《せえへんで 逢わんかったら こんな恋 うたこの胸 どう仕様しょうもない》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻四・五八六〉 

~大伴駿河麻呂と坂上郎女との相聞~ 
大夫ますらをの 思ひびつつ たびまねく なげく嘆きを はぬものかも
わびしゅうに 男嘆くか 何べんも 女のあんた どうなんやろか》
                         ―大伴駿河麻呂―〈巻四・六四六〉 
心には 忘るる日なく おもへども 人のことこそ しげき君にあれ
《いついつも 心にかかる あんたはん 他人ひとうるそうて 逢われへんがな》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻四・六四七〉 
あひ見ずて 長くなりぬ この頃は いかにさきくや いふかし吾妹わぎも
《この頃は なごう逢わんと るけども あんたどしてる ちょっと気になる》
                         ―大伴駿河麻呂―〈巻四・六四八〉 
くずの 絶えぬ使の よどめれば 事しもあるごと 思ひつるかも
《絶えず来た 使いこのごろ 来えへんな あんたに何か あったんちゃうか》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻四・六四九〉 

~安倍虫麻呂と坂上郎女との相聞~ 
向ひて 見れどもかぬ 吾妹子わぎもこに 立ち別れ行かむ たづき知らずも
《一緒て 見飽きん お前別れるて そんな方法 思い着かんで》
                         ―安倍虫麿―〈巻四・六六五〉 
あひ見ぬは 幾ひささにも あらなくに ここだく我れは 恋ひつつもあるか
《このあいだ うたとこやに なんでまた 逢いたなるんや 恋しなるんや》
恋ひ恋ひて 逢ひたるものを 月しあれば こもるらむ しましはあり待て
《久し振り うたんやから ゆっくりし 夜明けまだやし 道暗いから》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻四・六六六~七〉 




【しましはあり待て】へ


坂上郎女編(11)神さん頼む この恋叶え

2011年05月26日 | 坂上郎女編
■平成23年5月26日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★都ぶる 平城ならに戻った このうち、、は 恋に生きるで 女やからに

故郷ふるさとの 飛鳥あすかはあれど あをによし 平城なら明日香あすかを 見らくし好しも
故郷ふるさとの 飛鳥ええけど ここ平城ならの 明日香もええな なんぼ見てても》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻六・九九二〉 
尋常よのつねに 聞けば苦しき 呼子鳥よぶこどり 声なつかしき 時にはなりぬ
《いつもなら 聞く気せえへん 郭公鳥かっこどり 気持ち聞ける 季節なったで》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻八・一四四七〉 

こころぐき ものにそありける 春霞 たなびく時に 恋のしげきは
《恋心 つのってるとき 春霞 ぼやっと棚引たなびき うっとしなるわ》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻八・一四五〇〉 
いとまみ ざりし君に 霍公鳥ほととぎす 我れかく恋ふと 行きて告げこそ
ひまいて ん人に ホトトギス 恋しがってる 言うて来てんか》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻八・一四九八〉 
五月さつきの 花橘を 君がため たまにこそけ 散らまく惜しみ
《散らすんが 惜しい橘 花つなぎ 薬玉たまにしてるで あんた思うて》 
                         ―大伴坂上郎女―〈巻八・一五〇二〉 
夏の野の  繁みに咲ける 姫百合の 知らえぬ恋は 苦しきものぞ
《知られんで  ひとり思てる 恋苦し 夏の繁みで 咲く百合みたい》 
                         ―大伴坂上郎女―〈巻八・一五〇〇〉 

ひさかたの あまの原より たる 神のみこと 奥山の 賢木さかきの枝に 
白香しらか付け 木綿ゆふ取り付けて 斎瓮いはひべを いはひほりすゑ 竹玉たかだまを しじき垂れ 
猪鹿ししじもの ひざ折り伏して 手弱女たわやめの 襲衣おすひ取り懸け
 
《雲分けて はるかな天の 高みから くだりこられた 神さんに 山からった 榊枝さかきえだ
 白髪しらが木綿ゆうと 取り付けて 清い酒壷 掘ってえ 竹玉いっぱい つり下げて
 けものみたいに ひれ伏して か弱いうちが 祈布ぬのを掛け》
かくだにも 我れはひなむ 君に逢はじかも
《こんないっぱい  祈ります どうかあの人 逢わして欲しい》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻三・三七九〉 
木綿畳ゆふだたみ 手に取り持ちて かくだにも 我れはひなむ 君に逢はじかも
木綿布ゆうぬのを 手にし祈るよ 懸命に どうかあの人 逢わせて欲しい》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻三・三八〇〉 



【平城の明日香を】へ


坂上郎女編(10)気丈や云ても うちかて女

2011年05月23日 | 坂上郎女編
■平成23年5月23日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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故郷くに帰り 旅人亡くした 寂しさに 移ろう季節ときは 皆侘びしいわ

霍公鳥ほととぎす いたくな鳴きそ ひとり居て らえぬに 聞けば苦しも
《ホトトギス そないに鳴きな 聞いてたら ひとり悶々もんもん 寝られへんがな》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻八・一四八四〉 
咲く花も をそろはいとはし おくてなる 長き心に なほかずけり
見頃みごろ前 あわて咲く花 きらいやな おそに咲くんが うちええ思う》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻八・一五四八〉 
妹が目を 始見はつみの崎の 秋萩は この月ごろは 散りこすなゆめ
《よう咲いた 始見はつみの崎の 秋萩よ ここ一月ひとつきは 散らんといてや》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻八・一五六〇〉 
隠口こもりくの 泊瀬はつせの山は 色づきぬ 時雨しぐれの雨は 降りにけらしも
泊瀬山はつせやま 黄葉もみじの色に 染まってる 時雨しぐれも降って 秋くんやな》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻八・一五九三〉 
吉隠よなばりの 猪養いかひの山に 伏す鹿の 妻呼ぶ声を 聞くがともしさ
猪養山いかいやま んでる鹿が 妻呼んで 鳴くの聞いたら けてくるがな》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻八・一五六一〉 
沫雪あわゆきの この頃ぎて かく降らば 梅の初花はつはな 散りか過ぎなむ
沫雪あわゆきが 続き毎日 降って来る 咲いた梅花 散って仕舞まううがな》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻八・一六五一〉 
松蔭まつかげの 浅茅あさぢの上の 白雪を たずて置かむ ことはかも無き
松蔭まつかげの かやに積もった 白雪を そっと置いとく すべないやろか》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻八・一六五四〉 
しかとあらぬ 五百代いほしろ小田をだを 刈りみだり 田廬たぶせれば 都し思ほゆ
ひろもない 田圃たんぼ耕し 暮らしてる 田舎ったら 都懐かし》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻八・一五九二〉 





田廬たぶせれば】へ


坂上郎女編(09)何処に居っても うち人気(もて)るんや

2011年05月19日 | 坂上郎女編
■平成23年5月19日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★筑紫来て 同族言うて 言い寄りな うちはそち殿 従妹いとこやねんで

事も無く 生きしものを おいなみに かかる恋にも 我れはへるかも
《平凡に  生きてきたのに 年取って こんなせつない 恋するかワシ》
恋ひ死なむ のちは何せむ ける日の ためこそ妹を 見まくりすれ
《恋狂い  して死んだかて 意味ないで 生きてるうちに 逢いたいもんや》
おもはぬを 思ふと言はば 大野おほのなる 三笠のもりの 神し知らさむ
《嘘ついて 愛してるやて 言うたなら 三笠の神さん ばち当てはるで》
                       〈嘘やないから  罰当たらんで〉
いとま無く 人の眉根まよねを いたづらに かしめつつも 逢はぬ妹かも
《人のまゆ しょっちゅかせて その気させ うてくれんと 悪いひとやで》
                         ―大伴百代おおとものももよ―〈巻四・五五九~六二〉

黒髪に 白髪しらかみまじり ゆるまで かかる恋には いまだ逢はなくに
《黒髪に 白髪しらがじる 年なって こんな恋した ことあれへんわ》
山菅やますげの 実成らぬことを 我れにせ 言はれし君は たれとからむ
《うちのこと  思てるなんて 嘘言いな あんた誰かと 寝てるくせして》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻四・五六三~四〉 

大汝おほなむち 少彦名すくなひこなの 神こそば 名付けめけめ 
名のみを 名児山なごやまひて 我が恋の 千重ちへ一重ひとへも 慰めなくに

大汝おおなむち 少彦名すくなひこなの 神さんが 名前を付けた 名児山は
 名前倒れや うちの恋 万に一つも なごめへんがな》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻六・九六三〉 
我が背子に 恋ふれば苦し いとまあらば ひりひて行かむ 恋忘貝こひわすれがひ
《貝拾ろお  あんた思たら 胸苦し 恋を忘れる 片貝拾ろお》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻六・九六四〉 

今もかも 大城おほきの山に 霍公鳥ほととぎす 鳴きとよむらむ 我れ無けれども
《ホトトギス 今も大城山おおきで 鳴いてるか うち平城こっちきて もうらんのに》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻八・一四七四〉 
何しかも  ここだく恋ふる 霍公鳥 鳴く声聞けば 恋こそまされ
《ホトトギス 鳴く声なんで 待つんやろ 聞いたら余計よけい 恋しなるのに》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻八・一四七五〉 




【誰とか寝らむ】へ


坂上郎女編(08)あんた ほんまに 妹みたい

2011年05月16日 | 坂上郎女編
■平成23年5月16日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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従姉妹いとこやが 田村大嬢たむらいらつめ 面倒めんど見た 大嬢おおいらつめを 終生慕う

そとて 恋ふれば苦し 吾妹子わぎもこを ぎて相見む ことはかりせよ
《別々の 暮らしはつらい ねえあんた 会える手だてを 考えてえな》
遠くあらば わびてもあらむを 里近く りと聞きつつ 見ぬがすべなさ
《遠いとこ るんやったら 仕様しょうないが 近く住んでて 会えんの淋し》
白雲の  たなびく山の 高々に 我が思ふ妹を 見むよしもがも
《首のばし  あんた会える日 待ってるが 会える手だては 無いもんやろか》
いかならむ 時にか妹を 葎生むぐらふの 汚なき屋戸やどに 入りいませてむ
《むさくるし このあばに あんたをば いつになったら 迎えられんや》
                         ―大伴田村大嬢―〈巻四・七五六~九〉 

茅花ちばな抜く 浅茅あさぢが原の つほすみれ 今盛りなり 我が恋ふらくは
《ツボスミレ  花がいっぱい 咲いとおる うちもいっぱい あんた会いたい》
                         ―大伴田村大嬢―〈巻八・一四四九〉 
故郷ふるさとの 奈良思ならしの岡の 霍公鳥ほととぎす ことりし いかに告げきや
奈良思ならし岡 さとホトトギス らしたが ちゃんとあんたに 伝えたやろか》 
                         ―大伴田村大嬢―〈巻八・一五〇六〉 

我が屋戸やどの 秋の萩咲く 夕影ゆふかげに 今も見てしか 妹が姿を
《夕暮れの  咲いた秋萩 見とったら あんたの姿 見とうなったわ》
我が屋戸やどに 黄変もみ鶏冠木かへるで 見るごとに 妹を懸けつつ 恋ひぬ日は無し
《庭先の 赤いかえでを 見るたんび あんたのことを いっつも思う》
                         ―大伴田村大嬢―〈巻八・一六二二~三〉 

沫雪あわゆきの ぬべきものを 今までに 流らへぬるは 妹に逢はむとぞ
《雪みたい 消えになって 生きてるは あんたに会おと 思うよってや》
                         ―大伴田村大嬢―〈巻八・一六六二〉 




【継ぎて相見ん】へ


坂上郎女編(07)手塩に掛けた 娘やけども

2011年05月09日 | 坂上郎女編
■平成23年5月9日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★宮仕え 出す親の気は 複雑や まるで嫁出す みたいやないか

うちひさす 宮に行く児を まがなしみ むれば苦し ればすべなし
宮処みやどこへ 幼気いたいけない子 出すのんは 行かせたいけど 行かせともない》
難波潟なにはがた 潮干しほひ波残なごり くまでに 人の見る児を 我れしともしも
いとに 見飽きるほども 逢える奴 うらやましいで ワシ複雑や》 
                         ―大伴宿奈麿―〈巻四・五三二~三〉 




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坂上郎女編(06)うちはほんまに 悔しいで

2011年05月05日 | 坂上郎女編
■平成23年5月5日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★麻呂様と 交した言葉 侘びしいな うちはこんなに 慕うてたのに

押し照る 難波なにはすげの ねもころに 君がきこして 年深く 長くし言へば 
まそ鏡 ぎしこころを 許してし その日のきはみ 波のむた なびく玉藻の 
かにかくに 心は持たず 大船の 頼める時に 

こまやかな 心づかいで 声掛けて ずっと長うに 付きおと
 言うた言葉に 警戒心けっしんを ゆるめてしもた その日から
 あんた一人と 心決め 頼りに仕様しょうと 決めたのに》
ちはやぶる 神やくらむ うつせみの 人かふらむ 
かよはしし 君も来まさず 玉梓たまづさの 使も見えず なりぬれば

《神さん見放みはなし 世間ひと邪魔し てたあんたも 遠離とおざかり 使いの人も ん始末》
いたもすべみ ぬばたまの よるはすがらに 赤らひく 日も暮るるまで 
嘆けども しるしみ 思へども たづきを知らに
 
《どう仕様しょうて 夜は夜 昼は日中ひなかを 泣き暮らす
 嘆いてみても らちあかん 思案をしても 手弦てづる無い》
幼婦たわやめと 言はくもしるく 手童たわらはの のみ泣きつつ 
たもとほり 君が使を 待ちやかねてむ 

《か弱い女  そのままに 子供みたいに 泣き続け
 うろたえしつつ あんたから 使い来んかと 待ち続けとる》   
                         ―大伴坂上郎女―〈巻四・六一九〉 
初めより 長く言ひつつ 頼めずは かかるおもひに 逢はましものか
《ずっとやの 言葉まともに 受けんときゃ つらい思いは せんかったのに》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻四・六二〇〉 

まそ鏡 ぎし心を ゆるしなば のちに言ふとも しるしあらめやも
《張り詰めた 警戒けいかいごころ 緩めたら 後でいても もう遅いがな》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻四・六七三〉 
真玉またま付く をちこち兼ねて ことは言へど 逢ひて後こそ くいにはありと
心地ここちえ 言葉並べて 口説かれて 許して仕舞たら 悔い残るだけ》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻四・六七四〉 





【長くし言へば】へ


坂上郎女編(05)うち もう知らん

2011年05月02日 | 坂上郎女編
■平成23年5月2日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★諦めて そっぽ向きつつ 待っている 男不実は 戯れかとも

むと言ふも
  ぬ時あるを
    じと言ふを
      むとは待たじ
        じと言ふものを


うて
   ん時もある
     ない
       るの待たんで
         ない言うんを》
                         ―大伴坂上郎女おおとものさかうえのいらつめ―〈巻四・五二七〉



【来んとは待たじ】へ


坂上郎女編(04)うちにこの縁 勿体ないわ

2011年04月28日 | 坂上郎女編
■平成23年4月28日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★藤原の 麻呂とのえにし 深まって 坂上郎女いらつめ胸は 小躍り頻り

むしぶすま なごやが下に せれども 妹とし寝ねば 肌し寒しも
あったかな 布団で寝ても 肌寒い お前と一緒 寝てへんからや》
                         ―藤原麻呂―〈巻四・五二四〉 
よく渡る 人は年にも ありといふを 何時いつの間にそも 我が恋ひにける
辛抱しんぼして 一年逢わへん 彦星ひとあるに 辛抱のできん 恋してしもた》
                         ―藤原麻呂―〈巻四・五二三〉 

佐保河さほがはの 小石踏み渡り ぬばたまの 黒馬くろま来る夜は 年にもあらぬか
ねん一度 それでも嬉し 佐保河原かわら 黒馬乗って あんた来るのん》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻四・五二五〉 
千鳥鳴く 佐保の河門かはとの 瀬を広み 打橋渡す と思へば
《千鳥鳴く  佐保の川の瀬 広いんで うち橋作る あんた来るなら》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻四・五二八〉 

千鳥鳴く 佐保の河瀬かはせの さざれ波 む時もなし 我が恋ふらくは
《千鳥鳴く 佐保の川瀬の 細波なみみたい 寄せる思いが 止まれへんがな》 
                         ―大伴坂上郎女―〈巻四・五二六〉 
娘子をとめらが 玉櫛笥くしげなる 玉櫛の 神さびけむも 妹に逢はずあれば
《美しい 櫛箱みたい 上等な 人間ひとなって仕舞う 逢わんかったら》
                         ―藤原麻呂―〈巻四・五二二〉 
佐保河の 岸のつかさの 柴な刈りそね ありつつも 春しきたらば 立ちかくるがね
《佐保川の  土手に生えてる 草刈らんとき そしたなら 春来たときに 隠れ逢えるで》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻四・五二九〉 
でてなむ 時しはあらむを ことさらに 妻恋つまごひしつつ 立ちていぬべしや
《帰るんは  頃合いあるで 奥さんが 恋しなったて 言う人あるか》
                         ―大伴坂上郎女―〈巻四・五八五〉 




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