ユニーク古典現代訳(大阪弁万葉集改題)

日本の古典を訳します。そのままストンと腑に落ちる訳。なんだ、こうだったのかと分かる訳。これなら分かる納得訳。どうぞどうぞ

蟲麻呂編(15)お前もかいな ほととぎす

2010年12月23日 | 蟲麻呂編
■平成22年12月23日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★生まれての 習性悲し ほととぎす わしも独りや 仲良う仕様しょう

うぐひす生卵かひこの中に 霍公鳥ほととぎす ひとり生まれて 
が父に ては鳴かず が母に 似ては鳴かず

《鶯の 卵にじり 霍公鳥ほととぎす 生まれてみたが 独りぼち
 鳴き声父に  似て居らん 母の声にも 似とらへん》
の花の 咲きたる野辺のへゆ 飛びかけり 鳴きとよもし
たちばなの 花を散らし 終日ひねもすに 鳴けど聞きよし 
まひはせむ とほくな行きそ わが屋戸やどの 花橘に 住み渡れ烏

《卯の花咲いてる 野原飛び たちばなはなを 散らし鳴く
 ほんまええ声 礼するで 何処どこも行かんと うちの庭 はなたちばなに 住んどくれ》
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七五五〕 

かきらし 雨の降るを 霍公鳥ほととぎす 鳴きて行くなり あはれその鳥
霍公鳥ほととぎす 霧雨きりさめ降る 鳴いてった 住んで欲しいと 頼んでみたに》
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七五六 




【似ては鳴かず】へ


蟲麻呂編(14)ほんま阿呆やで 浦島はん

2010年12月20日 | 蟲麻呂編
■平成22年12月20日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★この話 どう聞いたやろ 蟲麻呂は 面白聞くか 悲しに聞くか

春の日の かすめる時に 
墨吉すみのえの 岸に出でゐて 
釣船つりぶねの とをらふ見れば 
いにしへの 事ぞ思ほゆる

《春の霞に  岸に出て
 釣り船見てたら 思い出す》 
水江みづのえの 浦島うらしまの子が 堅魚かつを釣り たい釣りほこり 七日なぬかまで 家にもずて 
《浦島はんは 魚釣る あんまり沢山ようけ 釣れるんで 七日も家に かえらんと》
海界うなさかを 過ぎて漕ぎ行くに 
海若わたつみの 神のをとめに たまさかに いぎ向い あひあとらひ ことりしかば

《沖いでたら 偶然に 海神娘おとひめさんに うたんや どっちとものう 一目ぼれ》
かきむすび 常世とこよに至り 海若わたつみの 神の宮の うちの たへなる殿に 
たづさはり 二人入りゐて ひもせず 死にもせずして 永き世に ありけるものを 

《手に手を取って 海神宮りゅうぐうに 甘い暮らしの 日が続く そのまま死なんと 暮らせたに》 
世の中の 愚人おろかひとの 吾妹子わぎもこに りてかたらく 
須臾しましくは うちに帰りて 父母ちちははに 事もかたらひ 
明日あすごと われはなむと 言ひければ

《あほやで浦島 言うたんや 一寸ちょっと帰って 親に言い じきに帰るて 言うたんや》 
いもがいへらく 
常世辺とこよべに また帰りきて いまごと はむとならば 
このくしげ 開くなゆめと そこらくに かためしこと

海神娘おとひめさんは 言うたんや
 帰って来たい 思うたら この箱開けたら あかんでと
 きつきつうに 言うたんや》
墨吉すみのえに 帰りきたりて 
家見れど 家も見かねて 里見れど 里も見かねて あやしみと そこに思はく 
家ゆ出でて 三歳みとせほとに 垣も無く いえせめやと

《帰って来たら 家はない 村もあれへん 奇怪おっかし
 家を出てから 三年で 家がうなる 筈はない》
この箱を 開きて見てば もとのごと 家はあらむと  玉篋たまくしげ 少し開くに 
白雲の 箱より出でて 常世辺とこよべに たな引きぬれば
 
もしやこの箱  開けたなら 元戻らんかと 箱開けた
 湧きでる煙 白煙 海神宮りゅうぐう殿じょうへと 流れてく》
立ち走り 叫び袖振り 反側こひまろび 足ずりしつつ たちまちに こころ消失けうせぬ 
若かりし はだもしわみぬ 黒かりし かみしらけぬ 
ゆなゆなは いきさへ絶えて のちつひに いのち死にける

《慌て走って 叫び転倒こけ 地団太踏んで 悔しがる みるみる元気 うなって
 しわくちゃ顔で 白髪しらがなり 息えで 死んでもた》
水江みづのえの 浦島の子が 家地いへどころ見ゆ 
《あのあたり 昔に浦島 住んでたところ》 
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七四〇〕 
常世辺とこよべに 住むべきものを 剣太刀つるぎたち が心から おそやこの君
海神娘おとひめと 死なんとなごう 暮せたに ほんまアホやで 浦島はんは》 
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七四一〕 






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蟲麻呂編(13)何を思うか 蟲麻呂さんよ

2010年12月16日 | 蟲麻呂編
■平成22年12月16日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★恋競い 憐れ留める この話 うない処女おとめの 墓処はかどころ

葦屋あしのやの うなひ処女をとめ
八年児やとせごの 片生かたおひの時ゆ 
小放髪をはなりに 髪たくまでに 
並びる 家にも見えず 
虚木綿うつゆふの こもりてませば 
見てしかと 悒憤いぶせむ時の 垣ほなす 人のふ時

芦屋あしやに住まう うないの処女おとめ
 つの歳から 年頃までも 隣も見せへん 箱入り娘
 見たいもんやと  胸焼き焦がし 引きも切らない 求婚話》 
血沼壮士ちぬをとこ うなひ壮士をとこの 盧屋ふせやく すすしきほひ あひ結婚よばひ しける時は 
やき太刀たちの 手柄たがみ押しねり 白檀弓しらまゆみ ゆぎ取りひて 
水に入り 火にも入らむと 立ち向ひ きほひし時に
 
血沼ちぬ壮士おとこと うなひの壮士おとこ 火花を散らす 嫁取りきそ
 こなた太刀たちげ かなたは弓で 水中みずなか火の中 いといもしない》
吾妹子わぎもこが 母に語らく 
まき いやしきわがゆゑ 大夫ますらをの 争ふ見れば 
生けるとも 逢ふべくあれや  ししくしろ 黄泉よみに待たむと 
隠沼こもりぬの 下延したはへ置きて うち嘆き 妹がるぬれば

《優しい処女おとめ 嘆きて母に
 こんな詰まらん 私のことで  あたら男が 命を賭ける
 生きての結ばれ 考えせずに  あの世で待つと 言い告げおいて
 本心隠し あの世の旅へ》 
血沼壮士ちぬをとこ その夜いめに 見取りつつき 追ひ行きければ 
後れたる 菟原壮士うはらをとこい あめあふぎ 叫びおらぴ 足ずりし たけびて 
如己男もころをに 負けてはあらじと 懸佩かけはきの 小剣をだち取りき ところづら め行きければ
 
血沼ちぬ壮士おとこは 夢見て知って 遅れてなるかと 死出追い旅に
 
 後で気の付く 菟原うはら壮士おとこ 叫び足ずり 歯ぎしりわめ
 負けるものかと おっとり刀 あの世までもと 後追いかける》 
親族うからどち い行きつどひ 永き代に しるしにせむと 遠き代に 語り継がむと 
処女墓をとめづか 中に造り置き 壮士墓をとこづか 此方こなた彼方かなたに 造り置ける
 
《残る家族は 悲しみ集い
 処女おとめの塚を 真ん中挟み 右と左に 壮士おとこの塚を 悲劇伝えに 造ってまつる》
故縁ゆゑよし聞きて 知られども 新喪にひもごとも きつるかも
《身内びとでは 無い者なのに いわれ聞いたら 泣かずにおれぬ》
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一八〇九〕 
葦屋あしのやの うなひ処女の 奥津城おくつきを と見れば のみし泣かゆ
芦屋あしのやの 菟原処女うないおとめの 墓のとこ 通るたんびに 悲して泣ける》
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一八一〇〕 
はかうへの なびけり 聞きしごと 血沼壮士ちぬをとこにし 寄りにけらしも
《墓の上 木の枝なびく やっぱりな 血沼壮士ちぬのおとこに 気があったんや》
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一八一一〕 




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蟲麻呂編(12)節度使に出向く ご主人 お別れや

2010年12月13日 | 蟲麻呂編
■平成22年12月13日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★主人との 別れの辛い 蟲麻呂に 黄葉錦が 降りそそぎ来る

白雲の 龍田たつたの山の つゆしもに 色づく時に うち越えて 旅行く君は 
《木々が色づく 龍田を越えて いくさの旅に 出られるあなた》
五百重いほへ山 い行きさくみ あた守る 筑紫に至り 
山のそき 野のそき見よと ともを あかつかは

《山々越えて 筑紫に行って 監視の家来 あちこちって》
山彦やまびこの こたへむきはみ 谷蟇たにくぐの さ渡るきはみ 国形くにかたを し給ひて 
冬こもり 春さり行かば 飛ぶ烏の 早く来まさね 
 
《国の隅々すみずみ 巡視させて回り 任務を終えて また春来たら どうぞ早くに お戻りなさい》 
龍田道たつたぢの 丘辺をかへの道に つつじの にほはむ時の 桜花 咲きなむ時に 
山たづの 迎へ参出まゐでむ 君がまさば

《龍田の道に 紅花べにばなツツジ 桜の花の 咲く山道に 迎えに来ます 戻られたなら》 
                         ―高橋虫麻呂―〔巻六・九七一〕 
千万ちよろづの いくさなりとも ことげせず 取りてぬべき をのことそ思ふ
敵方てきがたが 幾千万でも 世迷言よまいごと 言わず討ち取る 男やあんた》
                         ―高橋虫麻呂―〔巻六・九七二〕 




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蟲麻呂編(11)声掛けたいが わしシャイやねん

2010年12月09日 | 蟲麻呂編
■平成22年12月9日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★目に付いた あの児可愛らし 独り身か 旦那居るんか わし見てるだけ
  
しな  片足羽川かたしはがはの さ丹塗にぬりの 大橋の上ゆ 
くれなゐの あか裾引き 山藍やまあゐもち れるきぬ着て ただ独り い渡らす児は 
 
塗りの綺麗きれえな 橋の上 あか穿いて あいの服 とおって来る児 可愛かいらしな》 
若草の つまかあるらむ 橿かしの実の 独りからむ 
はまくの しき我妹わぎもが 家の知らなく

《旦那るんか ひとり身か 口説きたいけど 伝手つてあれへん》
                         ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七四二〕 
大橋の つめあらば うらがなしく 独り行く児に 宿やど貸さましを
《橋のそば 家があったら さみな あの児を連れて 泊まれるのにな》
                         ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七四三〕 




片足羽川かたしはがはの】へ


蟲麻呂編(10)今年も咲くか桜花

2010年12月06日 | 蟲麻呂編
■平成22年12月6日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★昨日見た 桜花さくらは今日は 早やも散る 風よ吹くなよ 帰る日までは

島山を い行きめぐれる 川副かはぞひの 丘辺をかへの道ゆ 
昨日きのふこそ わがしか 一夜ひとよのみ たりしからに
 
《島山の 川沿い丘を 昨日きのう越え 一晩泊まった だけやのに》  
うへの 桜の花は たぎの瀬ゆ たぎちて流る 
君が見む その日までには 山下やまおろしの 風な吹きそと 
うち越えて 名にへるもりに 風祭かざまつりせな

《咲いてた桜 峯上みねうえの 花びら散って 激流ながれてく
 あんた見るまで  風吹くな
 風をしずめる まつりしょう 竜田の神さん 頼みます》
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七五一〕 
ゆきひの 坂のふもとに 咲きををる 桜の花を 見せむ児もがも
国境くにざかい 坂に咲いてる 桜花さくらばな 見せたりたい児 ったらええな》
                       高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七五二〕 




【風祭せな】へ


蟲麻呂編(09)わしも主人も 桜が好きや

2010年12月02日 | 蟲麻呂編
■平成22年12月2日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★主従行く 難波往還 通いの道に 咲くは桜か 互いの心

白雲しらくもの 竜田の山の たぎの 小鞍をぐらみねに 咲きををる 桜の花は 
山高み 風しまねば 春雨はるあめの ぎてし降れば
 
《竜田の山の 激流ながれの上の 小鞍おぐらの桜 見頃やゆうに 風がつようて 春雨続き》
は 散り過ぎにけり 下枝しづえに 残れる花は 須臾しましくは 散りな乱れそ 
草枕くさまくら 旅行く君が かへり来るまで

《上の花びら  もう散ったけど せめて下のは 残って欲しい
 行って帰って 来るまでは》
                        ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七四七〕 
わがゆきは 七日なぬかぎじ 竜田彦 ゆめ此の花を 風にな散らし
《すぐ帰る  七日と掛からん 桜花 竜田の神さん 散らさんといて》
                        ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七四八〕 

白雲しらくもの 龍田たつたの山を 夕暮ゆふぐれに うち越え行けば たぎの上の 桜の花は 
咲きたるは 散り過ぎにけり ふふめるは 咲きぎぬべし
 
《竜田山 越える夕暮 激流さわの上
 いた桜は 散ってもた 蕾の花は これからよ》  
彼方こち此方ごちの 花の盛りに 見えねども 君が御行みゆきは 今にしあるべし
《全部満開 ちゃうけども ほんま時期とき 行かれるこっちゃ》
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七四九〕 
いとまあらば なづさひ渡り むかの 桜の花も らましものを
《暇ないが 川を渡って 桜花はな取りに 行ってきたいな 向こうの峯の》
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七五〇〕 




【七日は過ぎじ】へ


蟲麻呂編(08)わしも成りたや 孤高の富士に

2010年11月29日 | 蟲麻呂編
■平成22年11月29日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★高名な 富士を生き生き 詠うのは 赤人なりや 蟲麻呂なりや

なまよみの 甲斐かひの国 うち寄する 駿河するがの国と こちごちの 国のみなか
出で立てる 不尽ふじ高嶺たかね
 
《甲斐のお国と 駿河国するがくに 二つの国の まん中に デンと控える 富士の山》 
天雲あまぐもも い行きはばかり 飛ぶ鳥も 飛びものぼらず 
燃ゆる火を 雪もちち 降る雪を 火もちちつつ 
言ひもえず づけも知らず くすしくも います神かも
 
てん行く雲も 行きよどみ 空飛ぶ鳥も のぼられん
 噴火の炎  雪が消す 降り来る雪も 火が溶かす
 言うことなしの 神の山》 
石花の海と 名づけてあるも その山の つつめる海そ 
不尽河ふじがはと 人の渡るも その山の 水のたぎちそ
 
石花の海うんも せき止め湖 富士川流れも き水や》
もとの 大和やまとの国の しづめとも います神かも たからとも 
れる山かも 駿河なる 不尽の高嶺は 見れどかぬかも

《鎮めの山や この国の 宝物たからもんやで この国の ほんまえ山 富士の山》
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻三・三一九〕 

不尽ふじに 降り置く雪は 六月みなつきの 十五日もちゆれば その降りけり
富士山ふじさんの 積もった雪は 真夏日に 消えたらその晩 もう降るんやで》 
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻三・三二〇〕 
不尽の嶺を 高みかしこみ 天雲あまぐもも い行きはばかり たなびくものを
《雲行かず 棚引たなびいてるは 富士山を 高こうて偉い おもてるよって》
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻三・三二一〕 





【火もち消ちつつ】へ


蟲麻呂編(07)これこれ 一人で来たかったのじゃ

2010年11月25日 | 蟲麻呂編
■平成22年11月25日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★誰一人 居らん筑波嶺 登り来て 孤愁蟲麻呂 心を癒す
 
草枕くさまくら 旅のうれへを          《赴任の旅の 気ふさぎを 
なぐさもる 事もありやと         ちょっとの間でも 晴らそうと  
筑波嶺つくばねに 登りて見れば       筑波の山に やってきた  
尾花散る 師付しづく田居たゐ      ススキ田んぼで 揺れとおる 
かりがねも 寒く来鳴きなきぬ       雁もさむそに 鳴いとおる 
新治にひばりの 鳥羽とば淡海あふみ        鳥羽の湖 風吹いて  
秋風に 白浪立ちぬ           寒々白波 立っとおる 
筑波嶺の よけくを見れば       それでも お山は ええ景色 
ながきけに 思ひ積み       いっぱいまった
うれへはみぬ              気鬱きうつは消えた》
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七五七〕 

筑波嶺つくばねの 裾廻すそみ田居たゐに 秋田あきたる 妹許いもがりらむ 黄葉もみぢ折らな
《筑波嶺の 山の麓で 田刈りする あの児にやりたい 黄葉もみじを採って》
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七五八〕 





【師付(しづく)の田居(たゐ)に】へ


蟲麻呂編(06)行きとうないが 帰しとないが

2010年11月22日 | 蟲麻呂編
■平成22年11月22日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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都人みやこびと 送る心の 切なさは 残る浜辺に 打ち寄る波か

牡牛ことひうしの 三宅みやけかたに さし向ふ 鹿島のさきに 
丹塗にぬの 小船をぶねけ 玉纒たままきの 小揖をかぢ繁貫しじぬき 
しほの ちのとどみに 御船子おふなごを あともひ立てて 
呼び立てて  御船出でなば
 
三宅潟みやけの向い 鹿島の崎に お役目船に かじ付け回し
 夕潮満ちて  頃あい来たと 船頭集めて 船出をしたら》
浜もに 後れて 反側こひまろび 恋ひかもらむ 
足ずりし のみや泣かむ 海上うなかみの その津を指して 君がぎ行かば

《狭い浜辺に  見送る人は 心乱して 地団駄踏んで
 あんた恋しと 泣き叫ぶやろ あんた乗る船 ちいそうなると》
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七八〇〕 

うみの ぎなむ時も 渡らなむ かく立つ波に 船出ふなですべしや
《波こんな 高いに船出 するんかい 静かな時に したらえのに》
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七八一〕 




【君が漕ぎ行かば】へ


蟲麻呂編(05)行きたかったで このわしも

2010年11月18日 | 蟲麻呂編
■平成22年11月18日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★筑波嶺に 登る客人 思い遣り 詠う蟲麻呂 我れもの思い

衣手ころもで 常陸ひたちの国に ふたならぶ 筑波の山を 見まくり 君ませりと 
あつけくに 汗かきなけ の根取り うそむき登り うへを 君に見すれば
 
《常陸の国の 二つのみねの 筑波のお山 見たいと言うた
 お前さまとの 連れ立ち登り 汗もしとどに 息はずませて
 登りたった 峯から見たら》
の神も 許したまひ の神も ちはひ給ひて 時となく 雲居くもゐ雨降る 
筑波つくはを さやかに照らし いふかりし 国のまらを 委曲つばらかに 示し賜へば

男神おがみ女神の 加護得たからか いつも雲立ち 雨降る嶺を
 ものの見事に 澄み渡らせて 国の隅々すみずみ ひらけて見せる》
うれしみと ひもきて 家のごと 解けてそ遊ぶ 
うちなびく 春見ましゆは 夏草の 茂くはあれど 今日けふの楽しさ

《喜びくつろぎ 打ち解けうて 春もえけど 真夏もえで
 なんと楽しい この日の登山やまは》
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七五三〕 

今日けふの日に いかにかかむ 筑波つくはに 昔の人の けむその日も
《これまでに 仰山ぎょうさんの人 来た筑波 一番え日は 今日ちゃうやろか》
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七五四〕 


筑波嶺つくはねに わが行かりせば 霍公鳥ほととぎす 山彦とよめ 鳴かましやそれ
霍公鳥ほととぎす わし筑波嶺に 行ってたら 鳴いてくれたか 山ひびくほど》
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻八・一四九七〕 






【今日の楽しさ】へ


蟲麻呂編(04)来たでとうとう 筑波のかがい

2010年11月15日 | 蟲麻呂編
■平成22年11月15日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★筑波嶺に おとこおんなが 集うてる 見てる蟲麻呂 歌作ってる

わしの住む 筑波の山の 裳羽服津もはきつの その津のうへに 
あともひて 未通女をとめ壮士をとこの 行きつどひ かがふ嬥歌かがひ
 
《筑波の山の の泉
 連れもちつどう 女や男 歌の掛け合い 袖引く催事まつり
人妻ひとづまに われも交らむ わが妻に ひとこと
この山を うしはく神の 昔より いさめぬ行事わざぞ 
今日けふのみは めぐしもな見そ 言もとがむな

《よその嫁はん  わし口説きたい うちの嫁はん 口説いてえで
 神さん認めた この日の催事まつり 何も言わんと 目ぇつぶってよ》
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七五九〕 
の神に 雲立ちのぼり 時雨しぐれ降り とほるとも われ帰らめや
《雲湧いて  時雨が降って 濡れたかて つれ出来るまで ワシいねへんぞ》
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七六〇〕 





【かがふ嬥歌かがひに】へ


蟲麻呂編(03)胸大きいて 腰細い

2010年11月11日 | 蟲麻呂編
■平成22年11月11日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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自堕落じだらくな 女の噂 聞きつけて 男蟲麻呂 心が騒ぐ

しなが鳥 安房あはぎたる 梓弓あずさゆみ 周淮すゑ珠名たまなは 
胸別むなわけの ひろき吾妹わぎも 腰細こしぼその すがる娘子をとめ

《安房の隣の 周淮すえくに そこになさる 珠名ちゃん 胸大きいて 腰細い》 
その姿かほ端正きらきらしきに 花のごと みて立てれば 
玉桙たまほこの 道行く人は おのが行く 道は行かずて ばなくに かどに至りぬ

端正きれえな顔で 笑みこぼしゃ 通る人らは 用忘れ 呼びもせんのに 門くぐる》 
さしならぶ 隣の君は あらかじめ 己妻おのづまれて はなくにかぎさへまつ
隣のおっさん 嫁帰し 言われもせんのに 鍵渡す》 
人皆の かくまどへれば かほきに よりてそいもは たはれてありける
《男がみんな まどうから 美貌きれえ自慢の 珠名ちゃん 増長のぼせ上がって 調子乗る》
                      ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七三八〕 

金門かなとにし 人のてば 夜中にも 身はたな知らず でてそ逢ひける
門口かどぐちへ 男立ったら 引き入れる 気にも懸けんと 夜昼なしに》 
                      ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七三九〕 




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蟲麻呂編(02)とうとう来たで 噂の真間に

2010年11月08日 | 蟲麻呂編
■平成22年11月8日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★訪ね来た 手児奈悲しや いにしえの 伝説はなし言うても 泣けるで今も

とりが鳴く あづまの国に いにしへに ありける事と
今までに 絶えず言ひ
  
あずまの国に 伝わる話 昔を今に 伝える話》
勝鹿の 真間の手児奈てこなが 
麻衣あさぎぬに 青衿あをくびけ ひたを にはて 
髪だにも きはけづらず くつをだに 穿かず行けども 
にしきあやの 中につつめる 斎児いはひごも いもかめや
 
《真間の手児奈てこなと 言う名のむすめ
 粗末な服着て 髪けずらんと くつ穿かんと 暮らしてるに
 にしきの服着て 育った児にも 負けん位に 器量きりょうえ児》
望月もちづきの れるおもわに 花のごと みて立てれば 
夏虫の 火にるが如 水門みなとりに 船漕ぐ如く 行きかぐれ 人のいふ時
 
綺麗きれえ面差おもざし 笑顔で立つと
 火に入る虫か 集まる船か 男が押しかけ  嫁にと騒ぐ》
いくばくも けらじものを 何すとか 身をたな知りて 
波のの さわみなとの 奥津城おくつきに 妹がこやせる
 
《気楽に生きても 人生なのに 私ごときに このよな騒ぎ
 そんな値打ちは うちには無いと 水底みなそこ深く 沈みてすよ》
とほき代に ありける事を 昨日きのふしも 見けむがごとも 思ほゆるかも
《昔のことと 伝えは言うが 昨日きのうのことに 思われる》
                      ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一八〇七〕 

葛飾かつしかの 真間ままを見れば 立ちならし 水ましけむ 手児奈てこなし思ほゆ
真間ままの井を 見てると見える あの手児奈てこな ここで水汲む 可愛かいらし姿》
                      ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一八〇八〕 




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蟲麻呂編(01)常陸風土記の 伝承何処

2010年11月04日 | 蟲麻呂編
■平成22年11月4日■
万葉集に詠われた歌を 作者別に採り上げ 人となりを「大阪弁」で訳します
いわく 「大阪弁万葉集」
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★蟲麻呂は 主人宇合 命により 説話集めに 忙しい

埼玉さきたまの 小埼をさきの沼に 鴨そはねきる
おのが尾に 降り置ける霜を はらふとにあらし

小埼おさき沼 鴨がつばさを 震わしとおる
 尻尾しっぽから 積もった霜を 落としとるんや
〔鴨も寒いんや〕》 
               ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七四四〕

三栗みつくりの 那賀にむかへる 曝井さらしゐの 絶えずかよはむ そこに妻もが 
曝井さらしいの 水絶えへんと 湧いとおる ええ人ったら 絶えずかよたる》
  ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七四五〕 

遠妻とほづまし たかにありせば 知らずとも 手綱たづなの浜の 尋ね来なまし
留守居るすい妻 もしもったら ここ多賀に 道知らんでも 尋ねて来たる
 〔ここはタヅなの浜や〕》 
                    ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七四六〕 





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