ユニーク古典現代訳(大阪弁万葉集改題)

日本の古典を訳します。そのままストンと腑に落ちる訳。なんだ、こうだったのかと分かる訳。これなら分かる納得訳。どうぞどうぞ

古事記ものがたり・下つ巻(09)穴穂御子捕える 軽太子

2013年05月30日 | 古事記ものがたり
穴穂御子あなほ捕える 軽太子かるのみこ

軽太子かるのみこする 言動おこない
官人みやびとたみは 背を向けて
何方どなた頼りと べしやと
心寄せたは 穴穂御子あなほみこ 

世情せじょう嵐の 激しさに
恐れしたる 軽太子かるのみこ
大前おおまえ小前おまえ 宿祢すくね
助け求めて  逃げ込みき

穴穂御子あなほぐんて 家囲み
時の大氷雨ひさめに 謡う歌










大前おおまえ小前こまえ 門に出て
我れに降参くだれや 観念し
氷雨あめ止ますぞよ 一捻ひとひね

   (乱鎮めるは)

  大前おおまえ小前おまえ宿祢すくねが 金門かなとかげ
  く寄り
  雨立ちめん
                ―古事記歌謡(八十一)―

大前おおまえ小前おまえ たり
手挙げひざ打ち 舞い踊り
穴穂御子あなほもと来て 謡う歌








宮廷人みやひと足の さい鈴
落ちたくらいで 大騒ぎ
皆も静まれ 大事おおごとすな

  宮人みやひとの 足結あゆいの小鈴
  落ちにきと 宮人みやひととよ
  里人さとびともゆめ
                ―古事記歌謡(八十二)―


穴穂御子みこ兄太子あにみこ 攻めたれば
 世人よひと穴穂御子みこをば 冷笑わらうにて
  我れが補えて 連れ出すに」

大前おおまえ小前おまえ 軽太子かるみこ
捕え門外もんそと 引き立つに
軽太子みこが嘆きて 謡う歌

軽大郎女おおいらつめよ いとし児よ
はげしに泣けば 人が知る
鳩が鳴くに 声殺し
 れを偲びて そっと泣け

  天む 軽の娘子おとめ
  いた泣かぱ 人知りぬべし
  波佐はさの山の 鳩の
  した泣きに泣く
                ―古事記歌謡(八十三)―

軽大郎女
おおいらつめ
よ いとし児よ
 確かに 我れ信じ
待ち軽大郎女
かる
よ いとし児よ

  天む 軽娘子かるおとめ
  したたにも り寝て通れ
  軽娘子かるおとめども
                ―古事記歌謡(八十四)

古事記ものがたり・下つ巻(08)木梨之軽王 禁忌を犯す

2013年05月27日 | 古事記ものがたり
木梨之軽王きなしかるみこ 禁忌きんきを犯す

反正はんぜい天皇おおきみ 後継ぐは
仁にんとく天皇おおきみ そのお子の
履中天皇りちゅう四弟おとうと 男浅津間おあさつま
若子宿祢わくごすくねの みことなる
允恭いんぎょう天皇おおきみ 申し















若子宿祢わくごすくねは やまい勝ち
天皇おおきみ継ぐは かなわじと
辞退ことわりするを 何卒なにとぞ

時に新羅しらぎの 使者つかいなか
薬剤処方しょほう けし人
治療ほどこし 壮健おじょうぶ
無事お役目を え果たす





あとの皇位を 継ぐ太子
木梨之軽王きなしかるみこ 禁犯す 

同母妹いもうとかるの 大郎女おおいらつめ
禁断恋に え切れず
妹思い  謡う歌

山の上にて 田を作り 
水管みずくだ地下に くぐらせる
くぐり隠れて かよいも
したい忍んで 泣く妹妻つま
い抱きめたぞ 今夜こよいこそ

   あしひきの 山田をつくり
  山高み 下樋したびわし
  下いに 我がいも
   下泣きに 我が泣く妻を
  今夜こぞこそは 安く肌
                ―古事記歌謡(七十九)―








あられ笹葉ささばを 打つさま
しかと確かに 共寝たならば
人の心が 離れ
いといとしと 共寝られたら
この世乱れに 乱れ
我れは知るかや 共寝たならば

  笹葉ささばに 打つやあられ
  確々たしだしに 率寝いねてんのち
  人はゆとも
  うるわしと さしさてば
  刈薦かりこもの 乱れば乱れ
  さしさてば
                ―古事記歌謡(八十)―

古事記ものがたり・下つ巻(07)危難履中天皇は 石上神宮に

2013年05月23日 | 古事記ものがたり
危難きなん履中天皇りちゅうは 石上いそかみ神宮みや

仁にんとく天皇おおきみ そのお子の
伊耶本和気命いざほわけみこ 即位して
履中りちゅう天皇おおきみ お成りなる












履中りちゅう天皇おおきみ 難波宮なにわにて
うたげ御酒みきを お過ごしに








宮殿中みやうち寝るに 火の手立つ
履中天皇きみき者と 次弟おとうと
墨江之中津すみのえなかつ みこ仕業しわざ

阿知直あちのあたいの 気転にて
履中天皇きみのがれて 丹比野たじひの
め驚き 子細しさい聞き
落ち着き 戻し 謡う歌

丹比野たじひの野宿のじゅく 知るならば
屏風びょうぶ 持ち来たに
野宿のじゅくするなら 持ち来たに

  丹比野たじひのに 寝んと知りせば
  防薦たづごもも 持ちてましもの
   寝んと知りせば
                ―古事記歌謡(七十六)―

埴生坂はにゅう来たりて 振り向けば
遥か難波宮殿なにわは 赤と燃ゆ








埴生はにゅうの坂に 立ち見れば
宮殿みやどの屋敷やしき 火と燃える
あれあのあたり 妻の家

  波迩布はにゅう坂 我が立ち見れば
  燃炎かぎろいの 燃ゆる家群いえむら
  妻がいえのあたり
                ―古事記歌謡(七十七)―

大坂山の 山ふもと
う女の 言うことに
「山に武器持つ 伏せ手
 当麻たいま行く道 御出おいでませ」








出遭であう大坂 乙女児おとめご
たづねるに ただかず
当麻道たぎまみちをと 申しなる

  大坂に うや娘子おとめ
  道問えば ただにはらず
  当岐麻路たぎまじ
                ―古事記歌謡(七十八)―

娘子おとめ申すに 従いて
当麻たいま通って 大和着き
石上神宮いそかみみやに 宿りなす








石上神宮いそかみ訪ね 三弟おとうと
水歯別命みずはわけみこ 訪ね来て
どううと 言いたるを

怪し思いて ただすには
「もしやそなたも あだなすの
 同じ心や 墨江之中津すみのえと」

しかあらず」の 返答に
真実まこと言葉の あかしにと
 難波なにわ戻りて 殺害ころし
 目どうす」と 履中天皇すめらみこ

戻り難波なにわで 水歯別命みずはわけ
墨江之中津すみのえなかつ 側近の
隼人はやと曽婆加里そばかり ひそか呼び
主君あるじ消すべし しかあらば
 我れは天皇おおきみ 手柄たる
 そちは大臣おおおみ 如何いかなるや」

委細いさい承知と 曽婆加里そばかり
墨江之中津すみのえなかつ かわやなか
るを見定め ほこちて
して仕留しとめて 戻り来る








経緯いきさつ思う 水歯別命みずはわけ
曽婆加里そばかり我れに 功せり
 主君あるじ殺しは 不義なりし
 功むくいなば 信たらず
  したが不義者は またぞろぞ」

大坂山の 山ふもと
戦勝うたげ 酒の席
隼人はやと曽婆加里そばかり 大臣おおおみに」

宣言せんを行ない 祝杯と
酒杯さかづきに 御酒みき満たし
水歯別命みずは口付け 酒杯はい手渡わた

曽婆加里そばかりの 顔おお
酒杯はいに隠れて けん光る






石上神宮いそかみみやに 参上し
「仰せ通りの 仕儀しぎしき」

昇る宮殿みやどの 履中天皇きみ水歯別命みこ
論功ろんこう如何いかに 相語る

阿知直あちのあたいの 手柄には
蔵のつかさの 役職おやくめ
田地でんち授けて むくいたり

履中りちゅう天皇おおきみ 崩御みまかられ
仁にんとく天皇おおきみ そのお子の
履中りちゅう天皇おおきみ 三弟おとうと
墨江之中津すみのえなかつ 誅殺ちゅうしたる
皇太子たいしとなりし 水歯別命みずはわけ
反正はんぜい天皇おおきみ お成りなる

反正はんぜい天皇おおきみ お高で
九尺くしゃく二寸にすんと なかばなり
またに立派よき歯も お持ちにて
長さ一寸いっすん 幅は二分にぶ
上下 並びの 整いて
たまつらねる ごとくなり

古事記ものがたり・下つ巻(06)北鳥雁の 産みたる卵

2013年05月20日 | 古事記ものがたり
北鳥きたとり雁の 産みたる卵

行幸みゆきうたげと 姫島に
島でかり鳥 卵産む






渡りの雁が 何故なぜにかと
建内宿祢すくねたずねの 歌ぞこれ

建内宿祢すくねそなたに 尋ねるが
き故に 知りおるか
ここの大和の 国中くになか
雁の産卵うむのを 聞きしや建内宿祢すくね

  たまきはる 内の朝臣あそ
  こそは 世の長人ながひと
  そらみつ やまとの国に
  かりと 聞くや
                ―古事記歌謡(七十二)―

建内宿祢すくね答えて 謡う歌

我れがあがめる 天皇すめらみこ
よくぞお尋ね なされし
まこと よくぞの お尋ねで
ごに生きたる この我れも
ここの大和の 国中くになか
雁が産卵うむとは 知り申さぬが

  高光る 日の御子みこ
  うべしこそ 問いたまえ
  こそに 問いたまえ
  我こそは 世の長人ながひと
  そらみつ やまとの国に
  かりと いまだ聞かず
                ―古事記歌謡(七十三)―

天皇きみのご子孫 長々の 
統治おさむ証左しるしと 雁たまご産む

  御子みこや 永遠つい統治しらんと
  かりらし
               ―古事記歌謡(七十四)―

仁天皇おおきみ御代みよに 兎寸川とのきがわ
西の岸辺に 巨大おおきの樹















朝日当たるに 影淡路島あわじ
夕日照らすに 高安山たかやす

この 樹で造る 船速し
名付け軽野からのと 申すなり

朝夕淡路島あわじ 清水しみず汲み
天皇みこ飲料水おみずと 運びたる






ちたる船材ふねで 塩を焼き
残る船材ちて 琴作る

 の音響く 七里先
誉めて仁天皇おおきみ 謡う歌

廃船くちぶね軽野からの 塩焼きに
残る軽野からので 琴作る
くに響きて 由良海峡ゆらのと
水中みずなか岩礁いわに ゆうらゆら
響く 琴の音 さあやさや

  軽野からのを 塩に焼き
  あまり 琴に作り
  くや 由良ゆら
  門中となかの 海石いくり
  振れ立つ 浸漬なずの木の さやさや
                ―古事記歌謡(七十五)―




古事記ものがたり・下つ巻(05)大雀命取れとは 許せぬぞ

2013年05月16日 | 古事記ものがたり
大雀命さざき取れとは 許せぬぞ

仁徳にんとく天皇おおきみ 異母妹いもうと
女鳥王めどりのみこを 得んとして 
異母弟おとうと速総はやぶさ 別王わけのみこ
使者つかいに立てて 女鳥王めどりへと

速総別王はやぶさ前に 女鳥王めどりみこ
こわ石之日売命いわひめ あの嫉妬そねみ
 見たかや八田若郎女いらつめ 経緯いきさつ
 むしろわらわが 好むのは
 そなたなるぞよ 速総別王はやぶさよ」

今やおそしと 待つ仁徳天皇きみ
届かぬ報告しらせ れ果てて
女鳥王めどりもとへと 歩を運ぶ

時に女鳥王めどりが はたるに
われふくかと 謡い問う

われの可愛や 女鳥王<>rt>めどりみこ
そちふくは だれふく

  女鳥めどりの 我が大君の ろすはた
  たねろかも
                ―古事記歌謡(六十七)―








こた女鳥王めどりが 申すには

我れがしたいし 速総別王はやぶさ
お召し上衣うわぎと りまする

  高行くや 速総別はやぶさわけ
  襲衣おすいがね
                ―古事記歌謡(六十八)―

聞いた仁徳天皇にんとく それと察知
悔心こころ隠して 宮殿みや帰る

戻る仁徳天皇おおきみ 尻目しりめ追い
そこに来たれる 速総別王はやぶさ
女鳥王めどりけしかけ 謡う歌

ぶは 雲雀ひばり
もっと高こぶ はやぶさ(速総別王)よ
捕ってお仕舞しまい さざき(大雀命)なぞ

  雲雀ひばりは あめかけ
  高行くや 速総別はやぶさわけ
  さざき取らさね
                ―古事記歌謡(六十九)―

いか心頭しんとう 仁徳天皇にんとく
大楯連おおたてむらじ ひきいたる
軍隊ぐん差し向けて 生かすかと








逃げる速総別王はやぶさ 女鳥王めどり連れ
倉橋山くらはし目指し 謡う歌 

登る倉橋山くらはし けわし山
岩掴つかめで女鳥王めどり すがるかこの手

  はしての 倉橋山くらはしやまを さがしみと
  岩きかねて 我が手取らすも
                ―古事記歌謡(七十)―

登る倉橋山くらはし けわしくも
二人登れば 平坦道ひらみちなるぞ

  はしての 倉橋山くらはしやまを さがしけど
  妹と登れば さがしくもあらず
                ―古事記歌謡(七十一)―

倉橋山くらはし越えて 曽爾そに着くに
っ手追い着き とらまりて
速総別王はやぶさ女鳥王めどり 最期さいご

軍をひきいた 大楯連たてむらじ
女鳥王めどり手にする 腕飾り 
土産みやげにと がし






のち新嘗祭にいなめ うたげ
石之日売命ひめたまわる 御綱柏かしわ御酒ざけ
配り配り て ふと見るは
大楯連むらじ妻持つ 腕飾り
酒配くばりなるかと 退席さがらせる








され伏すのは 大楯連たてむらじ
なんじが討ちし 女鳥王めどりみこ
 無礼あったで ほろぼせし

 したがみこたる 人の手の
 ぬくき残るに ぎ取りて
 妻あたうとは 不埒ふらちなり」

くて大楯連むらじは 死罪受く




古事記ものがたり・下つ巻(04)奇妙の虫の 見たさに来れり

2013年05月13日 | 古事記ものがたり
奇妙きみょうの虫の 見たさにれり

奴理能美ぬりのみ屋敷 至りたる
丸迩臣口子くちこ御殿へや前 ひれ伏すに

時に土砂降どしゃぶり 雨嵐








雨も避けずと 伏す丸迩臣口子くちこ
石之日売命ひめ知らぬに 裏戸口
裏戸口うらで伏せれば 表へと
会えぬ 時過ぎ 雨しとど

降り来る雨は 腰ひた
紅紐あかひも溶けて いだ
着る青衣あおふくは べに

丸迩臣口子くちこ妹 口比売くちひめ
たまさか石之日売命ひめに 仕え
 を嘆きて 謡う歌

筒木つつきの宮に 御座おわします
石之日売命ひめ様申す 我が兄は
見るにあわれな 涙がこぼ

  山城やましろの 筒木つつきの宮に 
  物申す 我がの君は
   涙ぐましも
                ―古事記歌謡(六十三)―

「兄と申すは だれがこと」
雨中あめなか伏すが 我が兄に」

訳聞き委細いさい 承知
われが戻るは 天皇きみ次第しだい

丸迩臣口子くちこ口比売くちひめ 奴理能美ぬりのみ
練り し策持ち 使い飛ぶ

石之日売命ひめ筒木つつきに とどまるは
 奴理能美ぬりのみ飼いし 不思議むし
 うているやに 繭殻からとなり 
  やがて羽虫に なりて飛ぶ
 これが見たさの 逗留とどまりぞ」






聞いた仁徳天皇おおきみ み込みて
「見たや奇妙きみょうの その虫を」

群臣むれおみ連れて 淀川かわのぼ
奴理能美ぬりのみ屋敷 門の前
仁徳天皇にんとくおおきみ 謡う歌

山城やましろおみな 木鍬くわ持ちて
たがやし作る 大根葉だいこば
ざわざわわめく 声聞きて
す桑の 葉のさま
群臣みな引き連れて 参ったぞ

  次峰経つぎねふ 山城女やましろめ
  木鍬こくわ持ち 打ちし大根おおね
  さわさわに が言えせこそ
  うち渡す 八桑枝やぐわえなす
  来入きいまい
                ―古事記歌謡(六十四)―








難波なにわ戻りし 仁徳天皇すめらみこ
八田若郎女いらつめ辞去いとま 取らせしが
ひそか偲びて 謡う歌

八田やたえおる すげ一本ひとつ
立ち枯れ 行くか 子も無しに
ああ 枯らすには 忍びない
菅原すがわら菅原すがわら その響き
ああ清々すがすがし 八田若郎女いらつめ

  八田やたの 一本菅ひともとすげ
   子持たず 立ちか荒れなん
  あたら菅原すがわら
  ことをこそ 菅原すがわらと言わめ
  あたらすが
                ―古事記歌謡(六十五)―








 の便りは 届き行き
天皇きみを思うて 八田若郎女いらつめ

八田やたます すげ一本ひとつ
例え一本ひともと 独りでも
天皇きみのお心 おおせなら
独りります 天皇きみ偲び

  八田やたの 一本菅ひともとすげ
  ひとりとも
   大君し 良しと聞こさば
  ひとりとも
                ―古事記歌謡(六十六)―


古事記ものがたり・下つ巻(03)戻れ石之日売命 朕待ち居るに

2013年05月09日 | 古事記ものがたり
■戻れ石之日売命いわひめ われ待ちるに

石之日売命いわひめ宮殿みやに 戻らずて
山城川やましろのぼる 聞きし仁徳天皇きみ
くな石之日売命いわひめ 戻れよと
舎人とねり鳥山とりやま 追わせ










追えよ鳥山とりやま 山城やましろ
 えよ追いつけ 我が妻に
追いつけえよ 鳥山よ

  山城やましろに い鳥山とりやま
  いけいけ 我がづま
  いわんかも
                ―古事記歌謡(六十)―

丸迩わにおみ口子くちこ いで
持たせ託した したい歌






御諸みもろ山上やまうえ 広がれる
大猪子おおいこの原 そこで狩る
おおいのししの 腹肝はらぎもきもに向き合う 胸こころ
せめて通えよ 離れてれど

  御諸みもろの 高城たかきなる
  大猪子おおいこが原
  大猪子おおいこが 腹にある
  きも向かう 心をだにか
  あい思わずあらん
                ―古事記歌謡(六十一)―
        (「肝は心の宿る心臓と向かい合っている」と考えた)

山城やましろおみな 木鍬くわ持ちて
たがやし作る 大根だいこん
負けずに白き かいな
共寝ずての仲と うのなら
知らぬ 人だと 言いもしょう

  次峰経つぎねふ 山城女やましろめ
  木鍬こくわ持ち 打ちし大根おおね
  根白ねじろの しろただむき
  かずけばこそ 知らずとも言わめ
                ―古事記歌謡(六十二)―

古事記ものがたり・下つ巻(02)怒る石之日売命 我れ帰らぬぞ

2013年05月06日 | 古事記ものがたり
いか石之日売命いわひめ 我れ帰らぬぞ

石之日売命いわのひめみこ 紀伊国きのくに
新嘗祭にいなめうたげ 準備そなえにと
御綱みつながしわを 調達てにいれ

戻り難波なにわの 津も間近まじか
船人夫ひとの語るが 耳届く

仁徳天皇すめらみことは 気に入りの
 八田やたわか郎女いらつめ 宮殿みやなか
 夜昼よるひる無しの ご寵愛ちょうあい

聞いた石之日売命いわひめ いきどお
御綱柏かしわ海へと 投棄なげすてて
堀江のぼりて 山城やましろ
くやしみしたい 謡う歌









山城川やましろがわを 遡上さかのぼり 
やって 来たなら 川の岸
繁る烏草樹さしぶの その下に
える葉広はびろの 椿花つばきばな
照る花のに 輝ける
葉広はびろさながら 心持つ
天皇きみ天皇おおきみ 我が天皇おおきみ

  次峰経つぎねふや 山城川やましろがわ
  川のぼり 我がのぼれば
  川のに い立てる
  烏草樹さしぶを 烏草樹さしぶ
  が下に い立てる
  葉広はびろ 椿つばき
  が花の 照りいま
  が葉の ひろいますは
   大君ろかも
                ―古事記歌謡(五十八)―









山城川やましろ辿たどり 木津川きづへ出て
進み奈良山 山ふもと

宮殿みやに寄らずて 山城川やましろ
遡上のぼり来たって ながむるに
はるか奈良向こ 過ぎ行けば
更に 大和を 過ぎ行けば
恋しなつかし 帰りたや
生まれ葛城かつらぎ 高宮の
我家わがやあたりを 見て見たや

  次峰経つぎねふや 山城川やましろがわ
  宮のぼり 我がのぼれば
  青丹あおによし 奈良を過ぎ
  小楯おだて やまとを過ぎ
  我が見がし国は
  葛城かづらき 高宮
  我家わぎえのあたり
                ―古事記歌謡(五十九)―

石之日売命いわのひめみこ 高宮に 
行くをあきらめ 引き戻り
筒木つつきに住まう 奴理能美ぬりのみ
屋敷はいりて とどまれる