【掲載日:平成21年7月31日】
埴安の 池の堤の 隠沼の 行方を知らに 舎人はまとふ
【埴安池の址 香具山中腹より】
壬申の乱
高市皇子の 勇ましくも 雄々しい姿 それを思うたび
皇子の居られた 香具山の宮を覆う悲しみ
戸惑う舎人の嘆き
人麻呂は 続けて詠う〈前半は「不破山越えて」〉
・・・わご大君 皇子の御門を 神宮に 装ひまつりて
使はしし 御門の人も 白拷の 麻衣着
《(亡くなりはった)皇子の御殿を 飾って祀り 白装束の 仕えの人は》
埴安の 御門の原に 茜さす 日のことごと 鹿じもの い匍ひ伏しつつ
ぬばたまの 夕になれば 大殿を ふり放け見つつ 鶉なす い匍ひもとほり
《日中一日 腹這い伏して 夕べ来たなら 這いずり回る》
侍へど 侍ひ得ねば 春鳥の さまよひぬれば 嘆きも いまだ過ぎぬに
憶ひも いまだ尽きねば
《心虚に 狼狽えばかり 嘆きは消えず 思いも尽きず》
言さへく 百済の原ゆ 神葬り 葬りいませて 麻裳よし 城上の宮を
常宮と 高くしまつりて 神ながら 鎮まりましぬ
《野辺の送りに 百済原を通り 城上に常宮 高々作り 御霊鎮めと お祀り申す》
然れども わご大君の 万代と 思ほしめして 作らしし 香具山の宮 万代に 過ぎむと思へや 天の如 ふり放け見つつ 玉襷 かけて偲はむ 恐くありとも
《祀りしつつも 万世までと 思うて作った 香具山宮を
いついつまでも 心に懸けて 皇子を偲んで 振り仰ぎ見ん》
―柿本人麻呂―(巻二・一九九後半)
ひさかたの 天知らしぬる 君ゆゑに 日月も知らに 恋ひ渡るかも
《高市皇子 天昇られた 思うても 何日経っても 諦めきれん》
―柿本人麻呂―(巻二・二〇〇)
埴安の 池の堤の 隠沼の 行方を知らに 舎人はまとふ
《埴安の 池の淀んだ 水みたい お付きの舎人 行き所ない》
―柿本人麻呂―(巻二・二〇一)
哭沢の 神社に神酒すゑ 祷祈れども わご大君は 高日知らしぬ
《哭沢の 神さんの前 酒据えて 祈ったけども 甲斐ないこっちゃ》
―桧隈女王―(巻二・二〇二)
持統十年(696)七月のことであった
人麻呂の 嘆きも 尽きない
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