御息所の御ことを
―桐壺更衣に似たる姫宮をとて―
【御息所】
・皇子・皇女を産んだ女御・更衣を言う
・ここは桐壺更衣のこと
年月経つも 帝胸
桐壺更衣面影 去り遣らず
帝慰め 為さんとの
相応女を 入内為も
「桐壺更衣並ぶの 女なし」と
憂い増々 募る中
先々帝の 四の宮ぞ
(四番目皇女)
候補如何にと 浮かび来る
帝仕えの 女房にて
典侍の奏ずるに
「四の宮姫と 申さるは
先々帝の 母妃が
大切養育 為なされし
優れ器量と 評判の
高き姫宮にて 我れ知れり
姫宮幼きに 母妃宮参じ
馴染み為たるの 姫君で
今に垣間見 するなれば
亡き桐壺更衣様 ご美貌に
似たも似たるや 瓜二つ
我れ三代に 仕えしも
斯かるに似ての ご成長
世にも稀なる ご美貌を
未だ知らずと 見受け為す」
「真実なりや」と 心留め
礼尽くしての 入内なを
要請為すも 母妃は
「あな恐ろしや 次春宮の
母の弘徽殿 気性悪しく
桐壺更衣露骨の 亡きものの
例証ありしを 忌々しとぞ」
お思いなさり 如何為と
悩う間にぞ 亡せたりき
心細なる 四の宮に
「朕皇女なりと 思う故
心安きの 入内を」の
言葉篤きの 要請に
姫宮の女房ら 後見人や
兄の兵部卿の 親王は
【兵部卿】
兵部省の長官
※兵部省=諸国の兵士・軍事に関する一切を管轄する部署
「心細きの 生活より
内裏内にて 暮らすなら
寂し心も 慰むに」
とて入内をば 決め為しつ
これぞ藤壺 女御なり
容貌正に 生き写し
身分格段 高きにて
それ故殊に 目も引きて
貶めすらも 受け無くの
障り不足の 無きにてぞ
思えば桐壺更衣 その身分
さして高きの 無きにてか
周囲の許しの 無きが故
寵愛が仇と なりしかや
桐壺更衣思うの 残りしも
帝こころの 新宮に
移り慰み 覚えるは
人の情の 性質なるや