ユニーク古典現代訳(大阪弁万葉集改題)

日本の古典を訳します。そのままストンと腑に落ちる訳。なんだ、こうだったのかと分かる訳。これなら分かる納得訳。どうぞどうぞ

源氏:桐壺(17)御息所の御ことを

2014年02月27日 | 七五調 源氏物語



御息所みやすんどころの御ことを
 ―桐壺更衣こういに似たる姫宮ひめをとて―


                          【御息所】
                          ・皇子・皇女を産んだ女御・更衣を言う
                          ・ここは桐壺更衣のこと


年月つも みかど
桐壺更衣こうい面影 去りらず

みかど慰め さんとの
相応ふさわしひとを 入内じゅだい

桐壺更衣こうい並ぶの ひとなし」と
憂い 増々 募る中
先々帝の の宮ぞ
     (四番目皇女)
候補如何いかにと 浮かび来る


みかど仕えの 女房にて
典侍ないしのすけの奏ずるに

 四の宮姫と 申さるは
 先々帝の 母妃おきさき
 大切だいじ養育 為なされし
 すぐれ器量と 評判の
 高き姫宮ひめにて 我れ知れり

 姫宮ひめ幼きに 母妃宮みやさん
 馴染なじたるの 姫君で

  今に垣間見 するなれば
 桐壺更衣こうい様 ご美貌きりょう
  似たも似たるや 瓜二つ

  我れ三代に 仕えしも
 かるに似ての ご成長
 世にもまれなる ご美貌きりょう
 いまだ知らずと 見受けす」

真実まことなりや」と 心
礼尽くしての 入内じゅだいなを
要請もうしで為すも 母妃おきさき

「あな恐ろしや 次春宮とうぐう
 母の弘徽殿こきでん 気性さがしく
 桐壺更衣こうい露骨の きものの
 例証ためしありしを 忌々ゆゆしとぞ」

お思いなさり 如何いかが
わずらう間にぞ せたりき


心細 なる 四の宮に

わが皇女みこなりと 思う故
 心安きの 入内じゅだいを」の
言葉あつきの 要請に

姫宮みやの女房ら 後見人こうけん
兄の兵部卿ひょうぶの 親王は

                          【兵部卿】
                           兵部省の長官
                          ※兵部省=諸国の兵士・軍事に関する一切を管轄する部署


「心細きの 生活くらしより
 内裏うちにて 暮らすなら
  寂し心も 慰むに」
とて入内じゅだいをば 決めしつ

これぞ 藤壺 女御なり


容貌かんばせ正に 生き写し
身分 格段 高きにて
それ故ことに 目も引きて
おとしめすらも 受け無くの
さわり不足の 無きにてぞ

思えば桐壺更衣こうい その身分
さして 高きの 無きにてか
周囲ひとの許しの 無きが故
寵愛おぼえあだと なりしかや

桐壺更衣こうい思うの 残りしも
みかどこころの 新宮あたらし
移り慰み  覚えるは
人のこころの 性質さがなるや

源氏:桐壺(16)かしこき相人

2014年02月24日 | 七五調 源氏物語



かしこき相人そうひと
      ―高麗こま観相かんそうかしげ―





来たる高麗人こまびと その中に
すぐ観相人かんそう ある聞くも

宇多てい決めし いましめの
異人 宮中 禁じ故

お世話使いの 右大弁うだいべん
子なりとして ひそやかに
鴻臚館こうろかんへと お連れ

                          【右大弁】
                          ・太政官右弁官局の長
                          ・従四位相当
                          ※太政官=国政の最高機関
                          ※右弁官=兵部、刑部、大蔵、宮内を管轄
                          【鴻臚館】
                          ・外国使節を接待する館
                          ・京都・太宰府に設けられた



観相人かんそう驚愕がくし 首かし

 国の治めの 親となり
 帝王ていおう位 昇り為す
 そう持ちたるの 人と見る

 く成るものと 占えば
  民は苦しみ 国乱る

  そうは成らずと 朝廷の
 柱石はしらとなりて あめの下
 政治まつり補佐人ほさと 占うに

 斯様かような相は 見え来ずて
  これも無きやに 思われる」


博識なりし 右大弁うだいべん
肝胆かんたん互い 照らすにて
かさなる通い 交わしごと
興味 深きの 多かりし

文のわしの 重なるに
帰国日取りの 近きて

高麗人こまびと若君わかへ 作りたる
稀相きそう御子みこなに 逢いたるの
  嬉しに別れ 惜しかる」の
詩文 渡すに 若宮は
床しき 詩句を 作り為し
高麗人こまびとめて 贈り物

応えるかにや 朝廷みかどより
たまわり物の 数多あまたかず

みかど経緯いきさつ 漏らさねど
おのずと噂 広がりて
次春宮とうぐう祖父の 右大臣みぎおとど
思惑ありや 疑念




「さすが高麗人こまびと 観相人かんそうぞ」

以前さきに我国 観相人かんそう
同じき見立て すにより
若宮わかの親王 宣下せんげの儀
控え 居りしが 「やはりかや」

                          【親王宣下】
                           正式の皇族の一員たるべき「親王」を称することを許す宣旨を下すこと










後見こうけん無しの 身にしての
 無品親王むぼんしんのう 忍びない
 われの治世も 分からぬに
 臣下として 朝廷みかど補佐
 為すが将来ゆくすえ 守護まもる道」

決断だんみかど 若宮に
多方面なる 学奨励すすむ

才能さいの聡明 こうじるに
 臣下くだすは 惜しかれど
 親王たらば 次春宮とうぐう
 さん疑念の 招くにて

 宿曜道すくようどうの 秀人すぐれにも
  (占星術)
 占わせしに 高麗人こまびと
 同じきとに 出たからは)

思い決して 「みなもと」の
かばね授けを お決心きめ

源氏:桐壺(15)七つになり給へば

2014年02月20日 | 七五調 源氏物語



七つになり給へば
     ―七歳なりて読書ふみ始め―



今や若宮 内裏うち
七つ迎えて されるは
漢籍 講義 聞く儀式
読書ふみ始めにと 臨まるの
たぐいも無しの 聡明を
途轍とてつもなしと みかど見つ













「母の無い子の 不憫ふびんにて
  憎む人なぞ 無きぞかし」
言いて引き連れ 内裏うち
弘徽殿こきでんなかも 御簾みすうち

美なるいとしさ 見るにつけ
たけ武士もののふ 仇敵きゅうてき
おのずとみの こぼれるに
弘徽殿女御こきでんさえも 遠離けも得ず


弘徽殿女御こきでんせし 二皇女ふたひめ
及びも付かぬ 美貌きりょう
数多あまたきさきの 女御にょうごらも
姿隠さで 若宮みこの前

七歳ななつおさなと 思われぬ
近付き難き 美男きりょう見て
惹かれ 危うさ 思いつも
誰も誰もと あそび為す



漢籍たぐい 学問も
琴や笛音ふえねも 驚嘆おどろき
すにことごと ひいわざ
並の優れの 才能さいならず


源氏:桐壺(14)いとど現世の

2014年02月17日 | 七五調 源氏物語




いとど現世このよ
      ―成長皇子みこは参内に―



月日がちて 参内さんだい
若宮対面おあい みかど目に
現世このよとも無き 高貴なる
清ら美貌きりょうの 成長は
目映まばゆきまでと 映り為す








明けて若宮 四つのとし
次春宮とうぐう定め すにつけ
みかどひそかの 胸うち
第一皇子いちみこ越して 若宮と

されど後見こうけん 無しにして
世間 承知の 筈も無く
受ける 危害の 無く無しを
思いて気配 さずとに

寵愛おぼえ極みと 思いしに
  及び着かずも あるぞかし」
世人よひとささやく 声聞きて
安堵会心かいしん みたるは

弘徽殿女御こきでんにょうご その人ぞ

悲嘆に暮れる 桐壺更衣こうい
慰む 無しに 送る日々
桐壺更衣むすめもとへ くだにと
尋ね 行かんの 願いなの
届きしかやの おくなり

 長のお慕い 若宮を
  残し先立つ 悲しみは
 返すがえす」と 申しつつ

伝え 知らせを 聞きたるの
みかど嘆きも 限り無く

六歳 なりし 若宮は
 に着きたる もの心
嘆き 慕うて 泣き給う

源氏:桐壺(13)いみじき絵師と

2014年02月13日 | 七五調 源氏物語



いみじき絵師と
     ―偲ぶみかどの憂いは深く―



類稀たぐいまれなる 絵師描く
楊貴妃ようきひにして 容貌かんばせ
生気 無かりし 止む無しか


大液池たいえきいけの 蓮花はちすばな(顔)
未央宮びおうきゅうなる 柳とぞ(眉)
たたえられたる 容貌かんばせ
唐風衣装 まといしの
麗し絵姿すがた ご覧ずも

 ここには あらずして




 惹かれる 優しさと
気高けだか可愛かわいげ 思い出し
 の色やの 鳥の声
たとえるものの あらばこそ

朝夕毎に 「比翼鳥ひよくとり
連理枝れんりえだに」と 誓いしに
叶う 無きかの 命とは
 めしなるの 限りにて

庭に吹く風 虫の
いや 更増して 迫る胸



みかど御局上おのぼり 久しきに
無きのお過ごし 弘徽殿女御こきでん
管弦遊あそび されしの
深夜よふけと云うに 興じ声

め聞くみかど 不愉快ふゆかげを
みかどこの頃 お気持ちを
察し給える 女房輩にょうぼども
殿上人てんじょうびとも にがと聴く

弘徽殿女御こきでん性質さがの 傲慢ごうまん
みかど嘆きも 知らぬ
無視されしの わざなるを
くも耐えずと 月も


  宮にても
    涙曇らす
      秋の月
  浅茅あさじの里で
    澄むはずも無き

                           雲の上も
                           涙にくる
                               秋の月
                            いかで澄むらむ
                              浅茅生あさじふの宿


桐壺更衣こうい実家さとを 思いつつ
かか灯火あかりの つくまでと
みかどせ無く お過ごしに

聞こえ来たるは 右近衛府うこのえ
宿直とのいもうしの 丑の刻
 巡回警護の名告り)(午前二時)
周囲ひとめ憚り 寝御殿おとどへも
みかど微睡まどろみ さぬまま


                          【右近衛府】
                             近衛府(帝親衛軍)の一つ






起床おおきされの お思いは
「明くるも知らで」の さきの日々

先の怠り 政務まつりごと
 も怠り 続くにて

 もからきし 進まずて
朝餉あさげ膳箸 形のみ
昼餉ひるげ膳には 見向きすら
はべりし給仕きゅうじ 気の毒な
様子拝見つつに 嘆くのみ



そば仕えの 男女みなみな

「嘆かわしやな くなるも
 前世ぜんせ宿縁しゅくえん なりしかや

 周囲ひとの非難も 恨みをも
 はばかげに 女人ひと
 分別ふんべつ無しの されよう

 今また政務まつり 怠りは
 沙汰さたの限りや 嘆かわし」

ひそひそ 声の 到りしは
またも唐土もろこし くとぞに


源氏:桐壺(12)御前の壺前栽の

2014年02月10日 | 七五調 源氏物語



御前の壺前栽つぼせんざい
     ―みかど就寝やすまずお待ちにて―



役目果たした 靫負命婦ゆげみょうぶ
みかどいまだの 就寝やすまずを
お痛 ましやと ご覧なる




帰り待つ間の 所在無しょざいな
前栽せんざいさかる 花眺め
気心 知りの 女房らの
四、五人そばに お置きなり
しめやか語り 御座おわしなる

今夜こよい語りと 聞こゆるは
ここ明け暮れの おさだまり

絵巻に為した 長恨歌ちょうごんか
これ宇多うだみかど かせしに
伊勢いせ 貫之つらゆきの 和歌わか添えぞ

                          【長恨歌】
                           唐の白居易作の玄宗皇帝と楊貴妃を題材とした長編叙事詩


加え 和歌やら 漢詩なぞ
悲恋かなしの筋の ものなるの
重ね語り の 繰返し








戻り来たれる 靫負命婦みょうぶにと
細々こまごま様子 問われるに
身につまされし 事共ことども
言葉深沈しめやに 申し上ぐ

ご覧返書に したたむは



おそれ多きの 御文にて
 身の置きどこの さも無きに
  お申し越しを 見るにつけ
 闇の心は 乱れ

 この吾子あこ
  守る桐壺更衣むすめ
     亡くしては
    先々不安
     言う方ぞ無き」

                           荒き風
                           ふせぎし木陰かげ
                               枯れしより
                              小萩が上ぞ
                                静心なき


みかど皇子みこなは 小萩にて
木陰かげとなれるは みかどなを
これを枯れしと うたいにし
不謹慎ふきんしんなる もの言いも
(心静まり いまだしか)
お思い なされ 許し為す


みかどみずから 我れしもや
心乱みだれ見せじの てい為すも
こらえ心に 浮かぶのは
初の桐壺更衣こういの お目見えの
あれこれ 月日 思い草

 片時離れ ならじとぞ
  思いしものを 長き日ぞ」
死後の月日の ち行くを
ほうけに 思われる












 君哀れ 思われて
漏らすお言葉 ひそやかに

「亡き大納言 遺志いしちて
 宮仕つかえ宿願 果たせしの
 甲斐あるさまも 詮無きに

  されど長らえ 若宮の
 成人ひとなる待てば 良きことも
  命長くと 伝え為せ」

桐壺更衣こうい母君 持たせたる
贈物もの見てみかど つぶやくに

「亡き人住処すみか 尋ね当て
 得たる証拠あかしの かざしなら」


                          【釵】=二本足のかんざし
                          玄宗皇帝が道士に命じて楊貴妃の魂の所在を探させ見付けた印に持ち帰った金のかざし

はかなき思い 甲斐も


  探し当て
    形見得たらば
   亡き人の
   たましいそこに
      宿るを知るに

                           尋ね行く
                           幻術士まぼろしもがな
                             得物つてにても
                           たま在処ありか
                             そこと知るべく




源氏:桐壺(11)風いと涼しくなりて

2014年02月06日 | 七五調 源氏物語




風いと涼しくなりて
    ―皇子みこ参内さんだいえずとて―









 傾きて 空澄みて
 収りて 涼やかに
 誘うに 虫の声
去りがたきやの 風情ふぜい





牛車ぎっしゃ乗りかね 靫負命婦みょうぶ

  鈴虫が
   声尽くし果て
     泣いたとて
    夜長尽きずと
        涙が流る

                           鈴虫の
                            声を限りを
                               尽くしても
                            長き夜かず
                              る涙かな



靫負命婦みょうぶ詠うは おの
代りみかどの 涙かや


み掛けられし 母君は
女房使いて 伝え

 只でさえ
   泣きの涙の
    この荒宿やど
   つかいが持て
       更なる涙

                           いとどしく
                           虫の音しげ
                             浅茅生あさじう
                             露置き添ふる
                               雲の上人うえひと


 恨みごとにと 成りにしか」

時が時やで ゆかしきの
品差し上げも 如何いかがとて
桐壺更衣こうい形見と 斯様かようなる
 にと残し 置きたるの
一揃いなる 装束しょうぞく
髪上げ調度ちょうど 添え持たす


靫負命婦みょうぶ帰りし 後からも
桐壺更衣こうい付きてし 女房にょうぼらは
悲し思いを いだきつも
朝夕あさゆに慣れた 内裏うち生活くらし
思うに実家さとは 寂しくて

みかどご様子 思いつつ
早やの若宮 参内さんだい
すすすやに 母君は

いまわし身う 参内さんだい
 世間聞こえの しきにて
  若宮お顔 見ずにては
 え切れ無しの 心地」とぞ

思い切りての 参内さんだい
させさるさえ 出来ずとに


源氏:桐壺(10)暮れ惑ふ心の闇も

2014年02月03日 | 七五調 源氏物語



暮れまどふ心の闇も
     ―桐壺更衣こうい母君恨み言―



急ぐ靫負命婦みょうぶに 母君は
あふれ思いを 次々と

くしまどう 心闇こころやみ
 片端かたはしとての 晴らしとに
 話す相手と おでませ
 おおやけ遣い ならずとも

 なにかとうれし 晴れがまし
 お訪ねしげく ありしやに
 打って変わって ごと
 つかい迎えの 運命さだめとは




 桐壺更衣むすめといえば 生まれにし
 時より嘱望のぞみ 掛けし子で

 亡き大納言 今際いまわにぞ
 『桐壺更衣むすめ宮仕つかえの 宿願を
  屹度きっとに叶え 申すべし
   我れ先立つも 気落ちせず
  めげずこころを 果たせよや』

 重ねがさねに 申せしを
 後楯うしろだて無き 宮仕つかえなぞ
 ずが良きかと 思いつも

 遺言いごんたがえを さじとて
 出仕しゅっしさせたを 覚えずと
 寵愛おぼえ目出度めでたに お受けして
 勿体もったい無くも 有り難く
 後楯うしろだて無き はじの身を
 おさ宮仕つかえに 励みしを

 ねたそねみの 重なりて
 心痛みの こうじ末
 横死おうしの羽目と なり果つは

 あつ寵愛おぼえぞ 恨めしと
  割り切れ果てぬ 親心
 迷い心の 愚痴ぐちにてぞ」

せ返え言うに 夜ぞ更けぬ




聞きし靫負命婦みょうぶは 口開き

みかど御心 同じにて
  『我が心根に でしかも
   傍目はため驚く 寵愛おぼえをぞ
    掛けたは長く 続かぬの
   前世ぜんせえにしの せるかや
   今に思うと つらきなの
   えにしなりける 女人ひとにてぞ』

  『みかどたるもの いささかも
   世人よひと傷つけ かなわじに
   桐壺更衣こういえにしが 原因もといにて
   恨みうたが 果てにてぞ

   あと残されて 心晴れもせず
   おろわらわれ 身となるは
   前世ぜんせ因縁いんねん 如何いかなるぞ』
  とぞ繰返し お涙を」



尽きぬ 語りも 泣く泣くに

「夜も更けたれば 今夜こよい
 報告もうしまいらに 帰らば」と

急ぎ靫負命婦みょうぶは 席を立つ