【掲載日:平成23年1月21日】
布勢の海の 沖つ白波
あり通ひ いや毎年に 見つつ偲はむ
二上山の山裾を 南に見
北と西を 低く伸びる丘陵に 囲まれ
東 有磯の海とは 松田江浜が隔てる 一帯
そこは 波静かな 湖水の広がり
水鳥浮かび 潜き
霍公鳥鳴き飛ぶ 水海
風光 この上なしの 布勢水海
岸々に 藤波
官人たち 格好の遊覧地
家持
気心知れた友引き連れ 遊び宴する
物部の 八十伴の緒の 思ふどち 心遣らむと 馬並めて
うちくちぶりの 白波の 荒磯に寄する 渋谿の 崎徘徊り 松田江の 長浜過ぎて
宇奈比川 清き瀬ごとに 鵜川立ち か行きかく行き 見つれども そこも飽かにと
《お仕えの 友達同士 打ち揃い 楽しみ求め 馬並べ
白波寄せる 荒磯の 渋谿崎を 行き廻り 松田江浜を 後にして
宇奈比の川の 清い瀬で 鵜飼いしながら あちこちと 見て来たけども まだ足りん》
布勢の海に 船浮け据ゑて 沖辺漕ぎ 辺に漕ぎ見れば
渚には あぢ群騒き 島廻には 木末花咲き 許多も 見の清けきか
《布勢の水海 船浮かべ 沖や岸辺を漕ぎ見ると
渚味鴨 群れ騒ぎ 島の梢に 花が咲き 見事な景色 目に映る》
玉匣 二上山に 延ふ蔦の 行きは別れず
あり通ひ いや毎年に 思ふどち かくし遊ばむ 今も見るごと
《二上山の 蔦の様に ずっと一緒に 連れ逢うて
友と毎年 来ると仕様 また来て遊ぼ 今年みたいに》
―大伴家持―〔巻十七・三九九一〕
布勢の海の 沖つ白波 あり通ひ いや毎年に 見つつ偲はむ
《布勢の海 沖の白波 寄せる様に ここへ毎年 また見に来うや》
―大伴家持―〔巻十七・三九九二〕
【四月二十四日】
遊覧の感懐を すぐさまの歌に結んだ 家持
池主の 心映えや如何にと 歌を遣る