【掲載日:平成23年1月11日】
・・・ぬえ鳥の うら泣けしつつ 下恋に 思ひうらぶれ
門に立ち 夕占問ひつつ
吾を待つと 寝すらむ妹を 逢ひて早見む
歌づくりの思い 先ずは大嬢へと飛ぶ
妹もわれも 心は同じ 副へれど いや懐しく 相見れば 常初花に
心ぐし めぐしもなしに 愛しけやし 吾が奥妻
《お前とわしの 思いは同じ 傍に居ったら 心が引かれ 顔合わしたら 初々しいて
憂い気苦労 何にも無うて 愛し思てた 心の妻に》
大君の 命畏み あしひきの 山越え野行き 天離る 鄙治めにと 別れ来し
その日の極み あらたまの 年往き返り 春花の 移ろふまでに
《国の任命 畏み受けて 遠い越国 治めるために 野山を越えて 別れて来たが
その日限りで 逢うこと無うて 年が変わって 春花散って仕舞た》
相見ねば 甚もすべ無み 敷栲の 袖反しつつ 寝る夜落ちず 夢には見れど
現にし 直にあらねば 恋しけく 千重に積もりぬ
《どうも出来んで 袖折り返し 独りで寝たら 夢には出るが
逢われんよって 焦がれが募る》
近くあらば 帰りにだにも うち行きて 妹が手枕 指し交へて 寝ても来ましを
玉桙の 路はし遠く 関さへに 隔りてあれこそ
《もしも都が 近うにあれば ちょっと帰って 手枕をして お前一緒に 寝られるものを
道は遠いし 関まであって 間隔てて 逢うこと出来ん》
よしゑやし 縁はあらむそ
霍公鳥 来鳴かむ月に 何時しかも 早くなりなむ
卯の花の にほへる山を 外のみも 振り放け見つつ
近江路に い行き乗り立ち 青丹よし 奈良の吾家に
《きっと何処かに 手立てはあるぞ
ほととぎす鳴く 四月が来たら 卯の花咲いた 山見もせんと
近江路辿り 家まで行くぞ》
ぬえ鳥の うら泣けしつつ 下恋に 思ひうらぶれ
門に立ち 夕占問ひつつ 吾を待つと 寝すらむ妹を 逢ひて早見む
《嘆く心で 恋くたびれて
家の外立ち 占いをして わし待ちながら 独り寝してる お前に逢いに 早よ早よ行くぞ》
―大伴家持―〔巻十七・三九七八〕
あらたまの 年かへるまで 相見ねば 心もしのに 思ほゆるかも
《逢われんで 新し年が 来て仕舞た こんな逢えんと 心萎むわ》
―大伴家持―〔巻十七・三九七九〕
ぬばたまの 夢にはもとな 相見れど 直にあらねば 恋ひ止まずけり
《寝てたなら 夢に見るけど 空しいで 直に逢わんと 焦がれ止まらん》
―大伴家持―〔巻十七・三九八〇〕
あしひきの 山き隔りて 遠けども 心し行けば 夢に見えけり
《山隔て 奈良遠いけど こころ中 通てるよって 夢出て来んや》
―大伴家持―〔巻十七・三九八一〕
春花の 移ろふまでに 相見ねば 月日数みつつ 妹待つらむそ
《春花が 散って仕舞うまで 逢われへん 指折り数え 待ってるやろに》
―大伴家持―〔巻十七・三九八二〕
【三月二十日】
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