【掲載日:平成23年1月25日】
白波の 寄せ来る玉藻
世の間も 継ぎて見に来む 清き浜辺を
〔おう これは 先を越された
わしが 先と思うたに さすが守殿
ようし 負けてなるものか〕
藤波は 咲きて散りにき 卯の花は 今そ盛りと あしひきの 山にも野にも 霍公鳥 鳴きし響めば
《藤の花 咲いて散ったで 卯の花は 今盛りやと ほととぎす 鳴き知らせとる 山や野で》
うち靡く 心もしのに そこをしも うら恋しみと 思ふどち 馬うち群れて 携はり 出で立ち見れば
《その声聞いて 胸躍り 野山の盛り 見たいなと 友達同士 連れ立って 馬駆けさせて 来て見たら》
射水川 湊の洲鳥 朝凪に 潟にあさりし 潮満てば 妻呼び交す 羨しきに 見つつ過ぎ行き
《射水の川の 洲の鳥は 朝凪潟で 餌漁り 潮が満ちたら 連れ呼ぶよ 見てたいけども 先急ぐ》
渋谿の 荒磯の崎に 沖つ波 寄せ来る玉藻 片縒りに 蘰に作り 妹がため 手に巻き持ちて
《渋谿崎の 荒磯では 沖波寄せた 玉藻採り 撚り合わせして 蘰にし お前にやろと 手に巻いて》
うらぐはし 布勢の水海に 海人船に 真楫櫂貫き 白栲の 袖振り返し 率て わが漕ぎ行けば
《布勢水海で 海人船に 梶取りつけて 皆して 袖靡かして 漕いでくと》
乎布の崎 花散り乱ひ 渚には 葦鴨騒き さざれ波 立ちても居ても 漕ぎ廻り 見れども飽かず
《乎布の崎では 花散って 渚味鴨 騒いどる 気持ち昂ぶり 見る景色 何処を漕いでも 見飽けへん》
秋さらば 黄葉の時に 春さらば 花の盛りに かもかくも 君がまにまと かくしこそ 見も明らめめ 絶ゆる日あらめや
《秋になったら 黄葉時 春が来たなら 花時に 守殿良え時 此処へ来て 楽しみ遊び 仕様やないか 飽きること無い この景色》
―大伴池主―〔巻十七・三九九三〕
白波の 寄せ来る玉藻 世の間も 継ぎて見に来む 清き浜辺を
《白波が 運ぶ玉藻の この浜辺 生きてる限り ずっと見に来よ》
―大伴池主―〔巻十七・三九九四〕
【四月二十六日】
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