人麻呂歌集編（13)うたてこのころ

【掲載日：平成24年3月2日】

三日月みかづきの　清さやにも見えず　雲隠くもかくり　見まくぞ欲ほしき　うたてこのころ




雲　霧晴れて　出る月見れば
ここ　照る月を　あの児も見るか
思い映うつして　心は通う
霜　　風　日にも　託して詠う

遠とほき妹いもが　振ふり放さけ見つつ　偲しのふらむ　この月の面おもに　雲なたなびき
《遠く居おり　わしを偲んで　仰いでる　お前見る月　雲懸かかるなよ》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十一・二四六〇）
山の端はを　追ふ三日月みかづきの　はつはつに　妹をぞ見つる　恋ほしきまでに
《　山沈む　三日月みたい　ちらと見た　お前姿に　胸どきどきや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十一・二四六一）
我妹子わぎもこし　我れを思はば　真澄まそ鏡かがみ　照り出いづる月の　影に見え来こね
《　お前ちゃん　思うてるなら　出ておいで　照る月みたい　顔見せてえな》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十一・二四六二）
久方の　天あま照る月の　隠かくりなば　何になそへて　妹いもを偲しのはむ
《空で照る　月が隠れて　仕舞しもうたら　お前偲ぶに　縁よすが無のうなる》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十一・二四六三）
三日月みかづきの　清さやにも見えず　雲隠くもかくり　見まくぞ欲ほしき　うたてこのころ
《雲隠かくれ　三日月見えん　お前にも　逢いとてならん　このごろ妙みょうに》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十一・二四六四）
朝霜しもの　消けなば消けぬべく　思ひつつ　いかにこの夜を　明あかしてむかも
《消えんなら　消えても良ええで　この命　焦がれるこの夜よ　どう明かすんや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十一・二四五八）
我が背子せこが　浜行く風の　いや早に　言ことを急はやみか　いや逢はずあらむ
《浜風が　強つよ吹くみたい　偉えろ早よに　噂うわさ広がり　余計よけ逢われんが》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十一・二四五九）
妹に恋ひ　寝いねぬ朝あしたに　吹く風は　妹にし触ふれば　我れさへに触れ
《恋しいて　寝られん朝に　吹く風よ　あの児触ふれたら　わしにも触れて》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十二・二八五八）
菅すがの根の　ねもころごろに　照る日にも　干ひめや我が袖　妹に逢はずして
《十分に　照る日差ひざしでも　乾かわかへん　お前逢えんで　濡らした袖は》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十二・二八五七）


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