【掲載日:平成23年1月4日】
・・・・・紅の 赤裳裾引き
少女らは 思ひ乱れて
君待つと うら恋すなり
〔はてさて 困ったお人じゃ
この上は 羨ましく思わす他ないか〕
晩春の日差し 麗らかにして 誉めるに値し
弥生三日の 風光景色 遊覧に足る
堤の柳は 入り江に並びて 美服彩り
桃源の流れ 海へと通じて 仙船浮かぶ
雲型の酒壷に 香り葉浮かべて 清酒を満たし
鳥羽根の杯 好飲を促して 曲水を廻る
酒に酔いて 心陶然 あれこれを忘れ
酩酊すれど 飽き足らず なおも留まる
〔いやいや これでは足らぬ
遠回しでは 埒あかぬ
連れ出すべし 連れ出すべし〕
大君の 命畏み あしひきの 山野障らず 天離る 鄙も治むる 大夫や 何かもの思ふ
《天皇の 任命受けて 山や野原を 越え来てここの 国を治める 大夫守殿 何を思うて 煩い居るか》
青丹よし 奈良路来通ふ 玉梓の 使絶えめや 籠り恋ひ 息づき渡り 下思に 嘆かふわが背
《都行き来の 使いの者が 絶えることなど 有る訳ないぞ 家に籠って 思いに耽り 溜息ばかり 衝いてる守殿》
古ゆ 言ひ継ぎ来らし 世間は 数無きものそ 慰むる こともあらむと 里人の 吾に告ぐらく
《昔の人は 世の中なんて 痴れたもんやと 良えこと言てる 里の人かて こう思たなら 気晴らしなると このわし言うた》
山傍には 桜花散り 貌鳥の 間無くしば鳴く 春の野に 菫を摘むと 白妙の 袖折り反し 紅の 赤裳裾引き 少女らは 思ひ乱れて 君待つと うら恋すなり
《「山に桜花散り 郭公鳴くよ 春の野原で 菫を摘もと 袖を絡げて 裳裾を引いて 遊ぶ乙女ら 守殿を待って 心躍らせ わくわくしてる」》
心ぐし いざ見に行かな 事はたなゆひ
《ぐずぐずせんと さあ見に行こや 事は決まった 約束したで》
―大伴池主―〔巻十七・三九七三〕
山吹は 日に日に咲きぬ 愛しと 吾が思ふ君は しくしく思ほゆ
《山吹の 花は日に日に 咲き揃う 見て思うんは 守殿ばっかり》
―大伴池主―〔巻十七・三九七四〕
わが背子に 恋ひすべながり 葦垣の 外に嘆かふ 吾し悲しも
《垣外で 守殿思うて 立つだけでで 嘆くしかない わし可哀想や》
―大伴池主―〔巻十七・三九七五〕
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