【掲載日:平成22年12月10日】
秋の田の 穂向見がてり
わが背子が ふさ手折りける 女郎花かも
天平十八年〔746〕三月
家持は 宮内少輔に昇進した
待望の任官である
朝廷内にあって 名門誉れ高い大伴氏
文雅の士としての 自負持つ家待
適所の地位得 内心の満足を抱いていた
任務に励む 家待
六月二十一日 突如の任が下りる
北陸道 越中 国守
天平十三年〔741〕能登を併合し 上国の越中
国に 不足はない
一度は 地方官としての務め果たすが 昇進筋道
とは言え 宮内少輔にも未練が残る
まして 任地は 天離る鄙
しかし 官人にとり 任に否やはない
越中では 同族 大伴池主が 待っていた
池主は 先年 三等官掾として 赴任
秋も深まる八月
守家持の館 参集するは 主だった役目の面々
歓迎の宴である
宴席は 季節の花 女郎花が溢れていた
宴の口火は 新任国守 家持
秋の田の 穂向見がてり わが背子が ふさ手折りける 女郎花かも
《女郎花 秋の実りの 見聞で 池主どっさり これ採ったんや》
―大伴家持―〔巻十七・三九四三〕
受けて 応じる 大伴池主
女郎花 咲きたる野辺を 行き廻り 君を思ひ出 たもとほり来ぬ
《女郎花 咲く野歩いて 花好きの 守殿思うて 摘み摘み来たで》
―大伴池主―〔巻十七・三九四四〕
四等官目 秦八千島が 『女郎花』を引き継ぐ
ひぐらしの 鳴きぬる時は 女郎花 咲きたる野辺を 行きつつ見べし
《蜩が 切無う鳴くよ 女郎花 咲いてる野原 見ながら行こや》
―秦八千島―〔巻十七・三九五一〕
更に 玄勝が 続ける
妹が家に 伊久里の森の 藤の花 今来む春も 常如此し見む
《妹家に行く 伊久里の森の 藤花を 又来る春も 愛で様やないか》
―玄勝―〔巻十七・三九五二〕
「これは なんたること 秋に藤は合わぬが」
咎める 池主に 玄勝
「この一首 大原高安〔高安王〕の作りし歌
合わぬとあれば 籐花を女郎花に 春を秋に変えて 吾輩の歌と致そう」
玄勝の図りに 座は一挙寛ぐ
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