【掲載日:平成23年1月7日】
咲けりとも 知らずしあらば 黙もあらむ
この山吹を 見せつつもとな
《昨日 晩春遊覧の詩 確かに拝見
また 今朝 重ねてのお便り
さらに 野遊びのお誘い歌まで
ご厚意 有難く
お陰さまにて 気も晴れ
心の愁いも 除かれ申した
心のびやかにさせるは
春の風光を眺め 楽しむ以外 有りますまい
重ね重ねの気遣い 痛み入ります》
晩春の残り日 明媚の風光は 目に麗し
吹く風は 和やかにして 頬をなぞるに軽い
遠来の燕 泥を口にして 家に来たり
帰る雁は 葦を咥えて 大海を目指す
君友と連れ立ち 詩歌に耽りて 曲水に遊び
弥生の酒宴 飲を促して 盃を浮かべし由
訪ね行き 臨席せんと 欲すれど
悔むべし 病み上り身の 脚のよろめき
咲けりとも 知らずしあらば 黙もあらむ この山吹を 見せつつもとな
《咲いてるて 知らんかったら 済んだのに 見せたら山吹を 見となるやんか》
―大伴家持―〔巻十七・三九七六〕
葦垣の 外にも君が 寄り立たし 恋ひけれこそば 夢に見えけれ
《垣外で 池主が立って わしのこと 慕てるよって 夢に出たんや》
―大伴家持―〔巻十七・三九七七〕
ここまでを 認めた家待
身心共の 漲りを覚えた
〔この 沸々と湧いてくるものは・・・
そうか 歌作りじゃ
奈良の都での
政争の匂い芬々の宴
付き合い歌の 空しさ
ために封印しておいた 歌作り
それが
いつの間にか 歌を作って居るではないか
天離かる 鄙への赴任
慣れぬ任務遂行
大嬢と離れての生活
書持の訃報
心の 納め所を失うた日々が 病呼んだか
そうか
池主殿が 得手の漢詩で
わしの歌心を 呼び醒ましてくれたのか
そうじゃ そうじゃ
歌作りじゃ
父上遺稿の類が 役に立つ
改めて 人麻呂殿 赤人殿に 学ぶ時じゃ
それには 花を詠み 鳥を詠み 景を詠み・・・
とりわけ 長歌を 心掛けずばなるまい
おお なるほど
越赴任は これが為であったか》
天平十九年〔747〕三月から四月
人麻呂 赤人 学びが
堰を切った如くの長歌連作へと
家持を駆り立てる
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