令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

家待・越中編(一)(03)かねて知りせば

2011年04月12日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成22年12月17日】

かからむと かねて知りせば
        越の海の 荒磯ありその波も 見せましものを



家持は 今は廃都となった みや
泉川の岸辺ほとりを 思っていた
〔あの日 書持ふみもち面持おももち 悲痛であったな
佐保邸を出た  見送りは 
皆々 奈良山のふもとで別れしに
ひとり  泉川まで 同道
あぁ あの時の 書持ふみもちの言葉〕
《いつも 兄上は 私をひとりにさせる
 父上が  筑紫へ下られた折
 帰任後の  女通い
 聖武帝の 関東行幸みゆき
 ここ恭仁宮での  ご任務
 あの折 お送りした 霍公鳥ほととぎすの歌
 覚えておいででしょうか 
 そして 今度は 遥かなこし・・・》
〔思えば 独りの鬱々うつうつが こうじたか〕

天離あまざかる ひなをさめにと 大君おほきみの まけけのまにまに 出でてし われを送ると 
青丹あをによし 奈良山過ぎて 泉川 清き川原かはらに 馬とどめ 別れし時に
 
《都から 離れた越を おさめよと 天皇すめらみことの めい受けて 都出て来た このわしを
 送るてうて 付いてきて 奈良山越えて 泉川いずみがわ 清い川原に 馬めて》 
真幸まさきくて あれ帰りむ たひらけく いはひて待てと かたらひて し日のきは 
《わし無事帰る それまでは お前達者たっしゃで れよとて 言葉かわわして 別れたが》
玉桙たまほこの 道をたどほみ 山川の へなりてあれば 恋しけく 長きものを 
見まくり 思ふあひだに 玉梓たまづさの 使つかひれば
 
《道はとおうて 山川は 遥かへだてて 日ィった
 恋しゅうなって 逢いたいと おもてた時に 使い来た》 
うれしみと が待ち問ふに 
逆言およづれの 狂言たはこととかも しきよし おとみこと 何しかも 時しはあらむを
 
《ああ嬉しいと 用聞くと
 嘘やそんなん 阿呆あほ言いな いとおととに 何事や 時期うもんが あるやろに》 
はだすすき 穂にづる秋の 萩の花 にほへる屋戸やどを 
朝庭に 出で立ちならし 夕庭に 踏みたひらげず
 
すすき穂揺れる 秋の日に 萩花咲いた 朝庭に 
 出てもせんと 夕庭も 姿見せんで そのままや》 
佐保の内の 里を行き過ぎ あしひきの 山の木末こぬれに 白雲しらくもに 立ちたなびくと あれに告げつる
《佐保の屋敷の 里過ぎて 山の梢の 白雲しらくもに なって仕舞しもたと 知らせが言うた》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九五七〕

真幸まさきくと 言ひてしものを 白雲しらくもに 立ちたなびくと 聞けば悲しも
《達者でと 言うて来たのに 白雲しらくもに 成った言うんか 悲しいことに》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九五八〕
かからむと かねて知りせば 越の海の 荒磯ありその波も 見せましものを
《こんなこと 成るんやったら こしうみの 荒磯ありその波を 見せたったのに》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九五九〕

花好きの 心優しい 書持ふみもち
縁薄き弟を思う  家持の歌
むせぶか ぎこちない


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