【掲載日:平成22年12月31日】
山吹の 繁み飛びくく 鴬の
声を聞くらむ 君は羨しも
あくる日 早速の返しが 池主に
行間 弱気の虫が覗く
大君の 任けのまにまに 級離る 越を治めに 出でて来し 大夫われすら
世間の 常し無ければ うち靡き 床に臥伏し 痛けくの 日に異に増せば
《天皇の 任命受けて 越の国 治めに来たが このわしも
無情世の中 逆らえず 病罹って 床伏して 日に日に苦痛 増えてきた》
悲しけく 此処に思ひ出 いらなけく 其処に思ひ出
嘆くそら 安けく無くに 思ふそら 苦しきものを
《悲しいことや 辛いこと あれやこれやと 思い出す
嘆いてみても 安まらん 思いつめても 苦しだけ》
あしひきの 山き隔りて 玉桙の 道の遠けば
間使も 遣る縁も無み 思ほしき 言も通はず
たまきはる 命惜しけど 為むすべの たどきを知らに
籠り居て 思ひ嘆かひ 慰むる 心は無しに
《山を隔てて 道遠て 使い遣る術 無いよって 思てることも 伝わらん
生命惜しけど ども出来ん 家に籠って 嘆いても 心安らぐ ことはない》
春花の 咲ける盛りに 思ふどち 手折り插頭さず
春の野の 茂み飛びくく 鴬の 声だに聞かず
《春の盛りの 野の花も 友と一緒に 髪挿せん
春の野原で しきり飛ぶ 鶯声も 聞かれへん》
少女らが 春菜摘ますと 紅の 赤裳の裾の 春雨に にほひひづちて
通ふらむ 時の盛りを 徒に 過し遣りつれ
《春菜摘みする 乙女らの 赤い裳裾が 春雨に 綺麗に濡れる この季節
意味無過ごすか 空しいに》
偲はせる 君が心を 愛はしみ この夜すがらに
寝も寝ずに 今日もしめらに 恋ひつつそ居る
《こんな気持ちを 知りぬいて 気遣いくれる 池主はん
有難思い 昼も夜も 感謝してます ほんまおおきに》
―大伴家持―〔巻十七・三九六九〕
あしひきの 山桜花 ひと目だに 君とし見てば 吾恋ひめやも
《山桜 池主一緒に 見られたら 一目だけでも 満足やのに》
―大伴家持―〔巻十七・三九七〇〕
山吹の 繁み飛びくく 鴬の 声を聞くらむ 君は羨しも
《山吹の 繁み飛び交う 鶯を 聞ける池主は 羨ましいな》
―大伴家持―〔巻十七・三九七一〕
出で立たむ 力を無みと 籠り居て 君に恋ふるに 心神もなし
《出歩ける 力無いんで 家籠り 池主偲ぶん 遣り切れんがな》
―大伴家持―〔巻十七・三九七二〕
身体の萎えは 心の萎え
池主 苦肉の励まし 届かない
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