【掲載日:平成23年1月18日】
射水川 い行き廻れる 玉匣 二上山は
春花の 咲ける盛りに 秋の葉の にほへる時に
出で立ちて 振り放け見れば 神柄や 許多貴き
『二上山』
なんと 心ときめく名であろう
家持は 深く感じ入っていた
往古の 藤原の宮 大和三山の地西方
葛城の峰々へと続く 雄岳雌岳の山
その里は 奈良人にとって
自らの出自に関わる 心の故郷
それと 同じ名の山
ここ越にも
ましてや 国庁のある台地そのものが
お山 東麓高地ともあれば
床しさも 一入
〔これが 詠わずに おれようか〕
射水川 い行き廻れる 玉匣 二上山は
春花の 咲ける盛りに 秋の葉の にほへる時に 出で立ちて 振り放け見れば
神柄や 許多貴き 山柄や 見が欲しからむ
《射水川 裾廻ってる 二上山は
春花の盛んな 時見ても 照る黄葉葉の 時見ても
神さんやから 貴うて 山そのものが 良え景色》
統め神の 裾廻の山の 渋谿の 崎の荒磯に
朝凪に 寄する白波 夕凪に 満ち来る潮の いや増しに 絶ゆること無く
《神さん山の 裾廻る 渋谿崎の 荒磯に
朝の凪には 白波寄せて 夕の凪には 潮満ちる》
古ゆ 今の現に かくしこそ 見る人ごとに 懸けて偲はめ
《遠い昔から この日まで この良え景色 続き来た
見る人皆 こころ懸け 誉め続けるで この山を》
―大伴家持―〔巻十七・三九八五〕
渋谿の 崎の荒磯に 寄する波 いやしくしくに 古思ほゆ
《渋谿の 荒磯次々 寄せる波 次々思う 古来の景色》
―大伴家持―〔巻十七・三九八六〕
玉匣 二上山に 鳴く鳥の 声の恋しき 時は来にけり
《とうと来た 二上山で 鳴く鳥の ゆかしい季節 とうと来たんや》
―大伴家持―〔巻十七・三九八七〕
【三月三十日】