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View of the World

世界と日本をつなぎあなたと世界を近づける

恐怖のジョブ・ハンティング行進

2018-10-30 18:20:33 | 国民の成熟の度合い
 ドイツのメルケル首相が退任するーーといったニュースを聞いても、大部分の日本人は「ふーん、そうなの」と思うだけで、それ以上のことは考えません。ドイツのリーダーが替わろうが替わるまいが、自分の生活にはまず変化は起こらないと安心しきっていうからです。しかし、これだけ安心して暮らせる国というのは、広い世界を見渡してもそう沢山あるわけではありません。
私たち日本人はそうした安定に慣れきって、べつにそれを「ありがたい」とも思わず日々を過ごしていますが、明日が今日と同じという安心感を抱いて生きられるというのは、本当に稀有(けう)なことです。
 メルケル退陣で、運命が大きく変わる人は何百万人もいます。とりわけ苦労ばかりで希望がないアラブの国々から、安定したヨーロッパに早く移住したいと思っていた人々は、自分たちの運命を理解し、一番頼りにしていた政治家が「抜ける」のですから、その衝撃の度合いははかり知れません。
 
 彼らの多くは国際機関から「難民」と認定されています。安定した職に就く能力もない人々です。難民の子供は自動的に難民になるので、その数は間もなく1000万人に達するだろうと、中東問題の専門家滝川義人氏は言っています(隔月誌「みるとす」10月号)。これだけの人数を先進国は国民の税金で養わねばならない。単なる同情やヒューマニズムで解決できる問題ではないのです。

 目をアメリカ大陸に転じると、もっと差し迫った恐怖のデモ行進が続いています。
 自分たちの国ホンジュラスでは、働こうにも職がないので、とにかく「北へ行こう」という数千人が、アメリカ合衆国を目指して徒歩で行進中です。これに加えてメキシコ人の一団もアメリカを目指しています。トランプ大統領は、国境に5000人強の軍隊を配置し、彼らを「追い返す」と息巻いています。はたしてどういうことになるのか、目が離せない緊張の時が刻々と近づいています。

「国会はあらゆる嘘をつく所」 タクシー運転手の名言

2018-10-21 18:16:26 | 国民の成熟の度合い

 初めての土地へ行って取材をする場合、タクシーの運転手にその地の人情、風俗、流行、景気の良し悪し、政府に対する不満などを聞くとかなり参考になるよーーということを、マスコミ各社の先輩たちは後輩にアドバイスするようです。そうしたアドバイスを直接聞かなくても、いわば「常識」として記者たちの多くは実践しています。私の場合、そうした聞き取りは、異国の地が専ら(もっぱら)でした。

 勤務先のテレビ局の、ヨーロッパ支局を開設するためにロンドンに赴任して間もなくのこと。土地勘を養うためにいくつかの有名な場所を見て回りました。その中で最も重要な場所のひとつが、ビッグベンでおなじみの国会議事堂でした。タクシーを拾い、運転手に行く先を告げました。目的地までの15,6分の間に、気さくで会話好きな運転手といろいろなことを話しました。景気の話、当今の若者の好み、イギリスがEC(ヨーロッパ共同体、EUの前身)に加盟して以来、フランスやイタリア料理の店が増えていることについてなど、会話はけっこう弾みました。目的の議事堂前広場へは、それこそあっという間に着きました。英語に訛りがなく、よく聞き取れるように話してくれるので、この15分ドライブの収穫はかなり大きなものがありました。

 ロンドンのタクシー運転手は、市内にある3万以上のストリートの名前を全部暗記していないと、試験には合格しません。しかも「Aという地点からBという地点に達するための最短コースを答えよ」というような、大変むずかしい質問にとっさに答える必要があります。何年か掛けて、ようやく手にしたタクシーの運転免許証は、きわめて価値の高いもので、ドライバーの誇りが沁みこんでいます。彼らはこの仕事を天職と心得て、客との応対も愛想よく、話題も豊富です。60代とおぼしき人が多く、人生の酸いも甘いも噛み分けている感じです。もちろんユーモア感覚も豊かです。運転技術や街の地理に詳しいだけでは立派な運転手とはいえません。ユーモア感覚があり、客との中身のある会話ができてこそ、接客業にたづさわれるというものでしょう。
 
 議事堂前広場は、雨上がりで水をたっぷり吸った芝生が青々と美しく、チャーチルの銅像の頭の上にハトが一羽ちょこんととまっていました。運転手は私を降ろしながら、いたずらそうな目をくりくりと動かして言いました。
 
 「ここですよ、先生方(彼ら)があらゆる嘘をついているのは」
  
  This is where they are telling all the lies.

 「参った!」と思いました。私が今までに出会った最高のユーモアの見本です。これをイギリスの国会議員たちに話せば、彼らは大笑いしながら、「そうだよ。この通りだ。痛いところを突かれた」と上機嫌で賛成するでしょう。与野党を問わずこういう反応になることは目に見えています。日本の場合はどうでしょうか? まず予測できるのは、「俺たちは議場で絶対に嘘なんかついていない。こういう指摘をうけるとは心外だ。許せない!」といった、怒りのリアクションになることはほぼ確実です。「嘘なんかついていない」ということ自体が嘘なのです。成熟し、人生が分かった大人なら、この運転手の意見に同調するでしょう。
 では同調しない議員の多い国として、どことどこが頭に浮かびますか? 武力は一人前でも、国民に自由はなく、言論も統制されている国々、世界の多くの人々から「ああいう国にはなりたくない」と思われている国々でしょう。日本の議員が、この運転手の意見に怒りの反応を示しているようでは、日本の民主主義もまだまだ未成熟と言えるのではないでしょうか?