松茸の話だけを3回も続けたにもかかわらず、多くの方にお読みいただき恐縮しています。
「アルジェのアラブ首脳会議を取材せよ」という命令が、本社から届いた時、日本のメディアのパリ特派員たちは、すでに『アルジェの松茸はうまいのだ』という情報を掴んでいました。さすがはフランスに駐在する記者たちで、フランスの旧植民地アルジェリアについての知識は正確でした。そうした特派員たちが、アラブの首脳会議のあまりの単調さに飽きて、名にしおうご当地の松茸を食べにゆこうと誘ってくれたのですから、我らうまいもの情報にはうといロンドン特派員も、もろ手を挙げての賛成しました。
アルジェには「松の木クラブ(クリュブ・ド・パン)」と呼ばれる建物があり、その周囲には松の木が豊かに生い茂る林があります。松茸が生えるには絶好の環境のようでした。そこへタクシーを連ねた日本人記者団が乗り付けました。フランス語に堪能な記者たちの代表格が、松茸を採取している現地の親父さんたちと掛け合い、大量の松茸を仕入れてきました。値段は忘れましたが、きわめてリーズナブルだったことはよく覚えています。一同から集めた会費は、驚くほど安いものでした。幹事役はこれを、「焼いてくれ」と交渉しました。
あつあつに焼けたきのこに、なんと持参の「醤油(しょうゆ)と、レモン汁をかけて頬ばるのは、まさに「至福」のひとときでした。そんなに手回しよく、醤油が用意されていたとは! と驚かれると思いますが、用意周到なパリ特派員たちは、あの魚の形をした小さなプラスチックに入った醤油(駅弁なんかに入っているやつです)をしこたま持ってきていたのです。
落語に出てくる殿さまは、目黒の農家で食べたサンマの味が忘れられず、家来たちに「サンマは目黒にかぎるぞ」とのたまったそうですが、我々もまた「松茸はアルジジェにかぎるよ」と言いたい心境でした。
「グルメ評論家でもあるまいに、なぜそんなに松茸に力こぶを入れるのだ?」とお思いでしょうが、これにはわけがあります。中東はたえず戦闘が続き、イスラエルに対する憎悪が渦巻いている地域です。国のトップリーダーたちには、民を豊かにし、国を富ませ、ハイテクなどで国を発展させようという、理念もヴィジョンもありません。ひたすら憎悪を煽り、闘争を奨励しています。しかし有力な産業はなく、国も民もいつまで経っても貧しいのが現状です。そこでせめてアルジェリアだけでも松茸の対日輸出などを試みてはどうか。あるいはヨーロッパ在住の日本人相手に「松茸狩りツアー」などを企画してはどうかと、そのころ私は真剣に考えたものでした。そのためには「平和」が絶対の条件になります。残念ながらアラブ一帯は安全からほど遠く、私の夢は夢のままに終わりそうです。
「アルジェのアラブ首脳会議を取材せよ」という命令が、本社から届いた時、日本のメディアのパリ特派員たちは、すでに『アルジェの松茸はうまいのだ』という情報を掴んでいました。さすがはフランスに駐在する記者たちで、フランスの旧植民地アルジェリアについての知識は正確でした。そうした特派員たちが、アラブの首脳会議のあまりの単調さに飽きて、名にしおうご当地の松茸を食べにゆこうと誘ってくれたのですから、我らうまいもの情報にはうといロンドン特派員も、もろ手を挙げての賛成しました。
アルジェには「松の木クラブ(クリュブ・ド・パン)」と呼ばれる建物があり、その周囲には松の木が豊かに生い茂る林があります。松茸が生えるには絶好の環境のようでした。そこへタクシーを連ねた日本人記者団が乗り付けました。フランス語に堪能な記者たちの代表格が、松茸を採取している現地の親父さんたちと掛け合い、大量の松茸を仕入れてきました。値段は忘れましたが、きわめてリーズナブルだったことはよく覚えています。一同から集めた会費は、驚くほど安いものでした。幹事役はこれを、「焼いてくれ」と交渉しました。
あつあつに焼けたきのこに、なんと持参の「醤油(しょうゆ)と、レモン汁をかけて頬ばるのは、まさに「至福」のひとときでした。そんなに手回しよく、醤油が用意されていたとは! と驚かれると思いますが、用意周到なパリ特派員たちは、あの魚の形をした小さなプラスチックに入った醤油(駅弁なんかに入っているやつです)をしこたま持ってきていたのです。
落語に出てくる殿さまは、目黒の農家で食べたサンマの味が忘れられず、家来たちに「サンマは目黒にかぎるぞ」とのたまったそうですが、我々もまた「松茸はアルジジェにかぎるよ」と言いたい心境でした。
「グルメ評論家でもあるまいに、なぜそんなに松茸に力こぶを入れるのだ?」とお思いでしょうが、これにはわけがあります。中東はたえず戦闘が続き、イスラエルに対する憎悪が渦巻いている地域です。国のトップリーダーたちには、民を豊かにし、国を富ませ、ハイテクなどで国を発展させようという、理念もヴィジョンもありません。ひたすら憎悪を煽り、闘争を奨励しています。しかし有力な産業はなく、国も民もいつまで経っても貧しいのが現状です。そこでせめてアルジェリアだけでも松茸の対日輸出などを試みてはどうか。あるいはヨーロッパ在住の日本人相手に「松茸狩りツアー」などを企画してはどうかと、そのころ私は真剣に考えたものでした。そのためには「平和」が絶対の条件になります。残念ながらアラブ一帯は安全からほど遠く、私の夢は夢のままに終わりそうです。