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View of the World

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大根もハムも「下手な役者」を指します

2018-08-10 16:37:59 | 暑気払い
 昔から日本では「大根役者」という言葉がありました。昔といっても江戸時代になってからだろうと思います。顔はそこそこの美男子でも、芝居が下手、演技ができない役者を指したものです。「あれは大根だね」ということを、観客も言い、お芝居の関係者も言いました。その語源を探りましょう。
 
 昔の人は「食い合わせ」ということを強く意識していました。最も有名な一例は、たしか「ウナギと梅干」でした。「この二つは絶対に一緒に食べるな! おなかをこわすから」ということを、子供たちは両親や祖父母から厳しく言われたものです。ところが大根という野菜は、何と一緒に食べても、けっして「あたらない」そうです。まさに協調性があるというのか八方美人というべきなのか、どんな食材と一緒に食べても「中(あた)らないそうで、ここからどんな狂言(歌舞伎芝居)に起用しても、けっしてあたらない(ヒットしない)役者のことを「大根役者」あるいは「大根」というようになったそうです。

 さて舞台は変わってイングランドです。ここには「地球座」の座付き作者として有名な、シェイクスピアがいました。亡くなったのは1616年。「作品をいろいろ(1616)書いて死んだ」と覚えておかれることをおすすめします。この知識は非常に役に立ちます。
 この偉大な作家の作品で最も有名なのが、なんといっても『ハムレット』です。母親が、父である王を毒殺して王位を奪った男と再婚するという、厳しい運命を背負った王子ハムレットは、後世にまで残る有名な台詞(せりふ)を吐きます。
 「生きるべきか 死ぬべきか それが問題じゃ」この台詞を、舞台俳優たる者は一度は言ってみたい、というのが英米カナダなど英語圏の役者の共通の願いとなりました。だが猫も杓子もこれを言い出したらどうなりますか? 皆がみんな、せりふがうまいわけがありません。大半は聞く方が退屈してしまうことを、いつまでもしゃべっているだけです。こういう手合いを、観客も興行主も「ああ、またハム(ハムレット)か!」と嘆くようになりました。しかし今日も、英米などでは明日の名優をめざす何百人もの「ハム」たちが、涙ぐましい努力を続けているのです。

女王の母君のユーモア

2018-08-05 12:55:22 | 暑気払い
 エリザベス女王の母上のお名前もまたエリザベスでした。というよりも、物の順序としては前国王ジョージ6世のお后エリザベスが、自分の長女を「エリザベス」と名付けられたというべきでしょう。この母君は、「クィーンマザー」として、広く英国民から愛され尊敬されていました。数年前に日本でも封切られた映画「英国王のスピーチ」では、夫の吃音(きつおん)をなおすためにみずから名医を探し出し、治療にも立ち会うなど、献身的な努力を続ける姿が感動を呼んだものです。
 このクイーンマザーは、単によくできた王妃というだけでなく、すぐれたユーモア感覚の持ち主でもありました。

 いきなり日本人にはなじみの薄い第二次世界大戦の話です。1940年代に入ると、ロンドン、ブライトン、バースといったイギリスの大都市は、連日ドイツ空軍の猛爆撃にさらされるようになりました。そんな中でも、国家にとって重要な「パーティー」だけは平時下と同じように開かれていました。まさに「ビジネス・アズユージュアル」(なにごとも普段の通りに)を地でゆく感覚が生きていたのです。

 さてここに、サー・トーマス・ビーチャムという音楽家が登場します。ロンドン・フィルハーモニーの常任指揮者です。1950-60年代にNHKラジオでクラシック音楽を聴かれた方には、おなじみの名前です。このサー・トーマスが、いつもパーティーでお見掛けする上品な婦人がいました。「はて、どなただったか? たしかに何度かお会いしたはずなんだが」と彼は悩みました。「そうだ、こういう時は、親戚のだれかあるいは家族の話題などから探りを入れて、次第に核心に迫るといいと聞いている。それで行ってみよう」と彼は決心しました。次のパーティーの際に彼は思い切ってこの貴婦人に近づき、話しかけました。
 「ところでご主人は今も昔のお仕事(ビジネス)をしておられますか?」
 その時、かの貴婦人は少しも慌てず、にっこりとほほ笑みながら答えました。
 「はい、相変わらず国王というビジネスをしております」
 なんとサー・トーマスは、イギリスで最も高貴な女性、国王のお后にご主人の仕事を聞いたのです。彼の内心の動揺はいかばかりだったか。想像するだに同情と笑いがこみ上げてきます。感心するのは、この王妃の落ち着きぶりと、質問者の顔をつぶさぬ「思いやり」「ユーモア感覚」です。こういう馬鹿げた質問をしても、サー・トーマスはなんら咎められることもなく、もちろん失職することもなく、それこそ「いつもの通りの」人生を全うすることができました。ちょっとおとぎ話のように聞こえるかも知れませんが、実際にあった話です。イギリス国民が、世界に誇ってよいエピソードと言えるでしょう。

 廣淵升彦

Masuhiko Hirobuchi

The sense of humour of Queen Mother