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View of the World

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不倫とユーモアのコラボレーション 

2019-06-18 17:42:41 | 世代間のギャップを埋めるために
 いま講演などで1世代(30年)くらい若い人たちが聴講者の中にいる場合、年長者の講師が迷うのは話すべきテーマにピタリと合う映画などの話をしてよいものかどうかだそうです。昔のアメリカ映画やフランス映画には、世代を超えて通用する名作がいくつもありました。「風と共に去りぬ」「「シェーン」「荒野の決闘」「卒業」「ゴッドファーザー」「カサブランカ」「ショコラ」「シェルブールの雨傘」といった作品は、現在もケーブルテレビなどでときどき放送されていますが、若者はまず観ていないようです。
 しかし「なんとも言えぬおかしさが入っている作品もあるよ」というふうに話をもっていけば、「そうですか、じゃ観よう」というポジティブな反応が返ってくる場合もあります。実は先週、映画「卒業」の主題曲になっている「ミセス・ロビンソン」と関係の深い会社の首脳部と会った際に、ロビンソン夫人に誘惑される若者(演じるのはダスティン・ホフマン)の話をしました。「この映画にはなんとも言えぬおかしさのある会話が入っているのに気づかれましたか?」と私。「いや」とその首脳。ダスティン・ホフマンの青年が、ロビンソン夫人に誘惑されて初めてホテルに行きます。夫人が衣類を脱いでこれをコートハンガーに吊るそうとします。「コートハンガー取ってくださる?」と夫人。すると生まれて初めての経験を前に、コチンコチンに緊張しアガッてしまっている青年は、「ウッド? オア・アイアン?」と聞き返すのです。

 まさに愚問中の愚問です。数時間かせいぜい数十分間衣類を掛けておくだけのコートハンガーについて、「木のほですか? それとも金(かね)ですか?」と聞き返すのですから、観客は「そんなもん、どっちだっていいじゃんか」と思うでしょう。しかしこの愚問が、作品に与える影響・効果といったものはかぎりなく大きいと私は思います。緊張して舌もカラカラに乾いている青年の心理状態がみごとに描き出されているひとことでした。しかも「ウッド・オア・アイアン?」という言葉は、ゴルフで使われる言葉です。「3番を頼む」と客が言えば、キャディーは「木のほうですか、それとも金にしますか?」と聞き返します。ダスティン・ホフマンの青年がこのせりふを言ったとたんに、観客はゴルフの場面を塑像して笑うのです。青年と夫人がこれからしようとしていることは、謹厳な牧師さんなどには、けっして許されることではないのでしょうが、このせりふ一つを入れただけで、作品の画面にはなんとも言えぬあたたかい空気がかもしだされるように感じた観客は多いと思います。監督はそこまで計算してこのせりふを加えたのでしょう。たまにはこういう観点から映画を観る若者がふえて、年長者あるいは外国人とのコミュニケーション・ギャップを埋めてほしいものです。ちなみに、私が「ウッド・オア・アイアン?」というせりふを紹介したとたんに、先述の会社のトップは大笑いしました。これがゴルフの用語だということもただちに理解したようでした。