戦争にしても終戦時の皮膚感覚による現実感についても、みずから体験した人が毎年減っていきます。しかし体験者でない人も、あの戦争について語ることが多いのが昨今です。ところが勉強不足のせいもあり、もともと謙虚さが足りないゆえもあって、「自分は真実とはだいぶかけ離れたことを伝えているのかも知れないな」という反省さえしません。いちばんたちの悪いのは、戦時中や戦後の生活を扱ったドラマの制作者たちです。戦時下で離ればなれになっている男女が、何年ぶりかで再会します。万感胸に迫る思いが、双方にあるのは分かります。二人きりで再会をはたせた場合なら、どういう言葉を交わし、どういう行動にでるかはともかく、このドラマは男女双方の家族や友人が数人ずつそばにいるのです。ところがディレクターは、恋人同士がさっと歩みよってひしと抱き合わせるのです。昔の日本人は、人目もはばからず抱き合うなどと言うことはまず絶対にしませんでした。これは階級を問わず、普遍的な常識でした。ところが最近のドラマは、常識もなにもあればこそ、「ここで抱き合わないというのは不自然だ」と思い込んでいる、無教養なディレクターたちが、ひたすら自分の「好み」ゆえに、やたらに「ハグ」とやらをさせたがるのです。日本の伝統や文化、男女の位置関係などは無視したこういうドラマを作っている局(NHKを筆頭に)は、つぎにドキュメンタリー物で終戦特集を作ろうとすると、救いようのない誤謬だらけの番組が出来上がるものです。8月15日前後の「特番をご覧になる際には、よくよくご注意ください。