goo blog サービス終了のお知らせ 

View of the World

世界と日本をつなぎあなたと世界を近づける

「名訳」と呼べる通訳

2018-08-16 10:12:31 | 比較文化

 外国語に訳しようがない日本語を、いまだに記者会見などで使っている政治家や「お偉方」がいます。通訳者はほとほと困り果てていますが、通訳のプロとしての誇りから、弱音は吐きません。こういう人々の労をねぎらい、「今日の訳し方は本当によかった」といった言葉をかけるのも、記者会見に出席する我々ジャーナリストの務めだろうと思います。それによって通訳者の皆さんが、励まされたと感じ、さらによい仕事をされるようになってほしいと願って、私は時々励ましの言葉をかけるようにしています。

 今日は今までに「これは名訳だ」と感じた例をご紹介したいと思います。
今から38年前のこと。笹川良一さん(日本船舶振興会会長)が、日本外国特派員協会(FCCJ)で講演と記者会見をしました。その時に「私は毎年お盆の時期になると、むかし面倒みた女たちの霊をなぐさめる法要をしています」と言ったのです。問題はこの「むかし面倒をみた女の霊」をどう訳すかでした。最も素朴な訳だと、Souls of the women whom I took care of とでもなりますか? しかしこれでは直訳すぎて、「面倒をみる」という日本語が含む微妙な大人同士の関係を言い表せていません。もっとも今の若い通訳者でしたら、そういう「微妙な」男女の機微などというものが、はじめから分からず、味もそっけもない訳をしてしまう恐れがあります。そうなると、これは翻訳以前の問題で、「そもそも日本語が分かっていない」ということになりますが、今日はそこまでは心配しないことにしましょう。この日の女性通訳者二人は、日本の文化にもよく通じていました。お金も地位もある戦前の日本男子が、「面倒をみた女」といえばどういうことを指すかが十分わかった大人たちでした。

 では「むかし面倒をみた女たちの霊」をこのベテラン通訳はどう訳したのでしょうか?
 
 Souls of the ladies whose acquaintances I have enjoyed.

と訳したのです。私の傍にいたフジテレビの山川千秋キャスターと思わず顔を見合わせて、「参った。大したもんだね」という思いをこめてうなずき合ったものでした。少しこの訳に注釈を加えます。最もセンスがあるなと思うのは、「彼女たちとの知己(=ちき acquaintances アククエインタンス)を私が楽しんだ淑女たち」と訳した点です。これで、二号夫人だか三号夫人とかと笹川さんとの関係がはっきりと浮かび上がります。金銭的に面倒をみただけではない。心が通いあうものがあったはずです。自分も彼女たちに会えて楽しかった、という思いがこもった発言でした。今の価値基準が絶対に正しいと思う人は、「正夫人以外の女性たちの面倒をみるというのは許せない」ということになるのでしょうが、ここで私が語っているのはあくまで「翻訳しにくい日本語をいかに原語の味わいを損なわずに英語に訳すか」という問題なのです。分かり切ったことでしょうが、念のために。

  廣淵升彦

  Masuhiko Hirobuchi
 

ロストボールを売る少年たち Boys selling your lost balls

2018-07-31 17:08:26 | 比較文化
こう暑いとゴルフ好きの方はイライラしておられるのではと拝察します。いくらなんでもこの炎暑の下でのプレーは危険ですから。シンガポールでは年間を通して「午後のプレーは一切禁止」です。それに比べれば、あとひと月もすればプレーできる日本は恵まれていると言えるのではないでしょうか。
 さて今日はゴルファーの皆様にロストボールを売りにくる少年たちのお話です。

 アメリカやイギリスでプレーされた方は、ほぼ経験されていると思いますが、皆さんが池に打ち込んだり、OBしたニユーボールをすばしこく拾ってきて、売り付けようとする少年たちに出会ったことがおありと思います。こうした少年たちを見て、どうお感じになりましたか? 十人気は十色と言いますから、感じ方は自由ですが、まずは大方の日本人紳士の受け止め方は、「親に小遣いをねだらず、自分の才覚で金もうけをしようとするえらい坊やたちだ。若き日のヴァンダービルトみたいだとまでは言わないが、一個の事業家ではないか。言い値で買うのは子供を甘やかすことになるし、だいいちしゃくにさわる。ここは駆け引きで値段を決めることだ。その駆け引きを楽しもう」という、まずは肯定的・好意的な反応を示す人が大半です。
 中にはアメリカやイギリスの資本主義の原型を見る思いで、少年たちとの「価格交渉」を楽しむ人もいます。「買う」ことが、小さな実業家を応援することになるという思いです。

 ところが、アメリカでの勤務経験を持たない、ある大新聞のロンドン特派員は、はじめてこうした光景に出くわして、にわかに怒りがこみ上げてきました。人さまの無くしたボールを拾ってそれを売りつけるとは許せない! 大英帝国も落ちたものだ! 胸がむかつく思いだった。その日から、私はゴルフをやめたーー。ということを、ご自分の処女作(単行本)に書いたのです。この人は基本的には正義感の強い、いい人です。しかしロストボールをめぐる解釈では、決定的な過ちを犯した、と思います。世の中には自分の受け止め方とは全く違う解釈をする人が多数いて、しかも少年たちのこういう行為を英米社会の底流にある「独立の精神」と見る見方もあるらしい。そこに自分は気が付くべきだった。「その日から私はゴルフをやめた」というのは、いかにも軽率だったーーという思いが一度も胸をよぎらなかったようです。

 まあ、ロストボールの話ぐらいならまだいいのですが、外交やもっと大きな問題について、真実とは180度も違った報道をしているメディアに、その後私も何度か出会ったものです。

女性の容ぼうをほめてはいけない

2018-07-03 10:33:24 | 比較文化
日本には女性の容貌(ようぼう)を褒めるのは「よいことだ」と思い込んでいる人がたくさんいます。この人たちにとっては、私のような考えは「非常識」であり、「許せない」と映るかも知れません。NHKテレビの「鶴瓶の家族に乾杯!」の中では、笑福亭鶴瓶氏が、しょっちゅう「きれいな奥さんですね」と、インタビュー相手の男性に語りかけています。視聴者は、彼の価値観にひきずられているのがありありです。奥さんがほめられれば亭主も喜ぶし、ほめられた当人も悪い気はしない。だから人妻をほめるのはいいことだーーというふうに信じ込まされている日本人が累計で何千万人もいることなります。だが国際的に見た場合、これは常識はずれのきわめて危険な行為です。時には怒りに燃えた亭主から、命さえ奪われかねない目にあった日本人留学生もいます。エジプトのカイロでの実体験です。詳しくは次回でご紹介します。さらに「自分たちが正しいと思っていることが、実はそうではないのだ」という実例も、これから少し続けるつもりです。
廣淵升彦

Saying "She is really pretty" is quite a dangerous business. Doubting what you believe common sense is indispensable to survive in this complicated world.
by Masuhiko Hirobuchi

ヨーロッパでのキツネ

2018-06-07 13:21:41 | 比較文化
キツネはヨーロッパでもかなり「ずるい」「人をだます」というイメージで見られています。「フォクシー」という英語はかなり広く使われていて、日本語の響きと大きくは変わりません。問題は「タヌキ」です。これはちょっと英語やフランス語では言い表せません。これもdんだんご説明していきます。どうぞお楽しみに。