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View of the World

世界と日本をつなぎあなたと世界を近づける

紳士たちの胸の内(フェアプレイ・貴人の義務・約束の順守)

2019-05-04 18:03:04 | 知的スケールが一段と広がる情報
 英国のジェントルマンたちの胸の内(価値観・行動基準など)を長いあいだ見続けてきました。「これとよく似ているものが他国にあるのか」という質問にもたびたび出会いました。この問いに対する答えは「ある」です。紳士道と最も共通するのは日本の「武士道」です。これは日本でも理性的にものを考え、フェアな心を持った人々の間では、異論の余地がないほどの「常識」となっていますが、欧米でも日本文化に精通した人々のほぼ一致した意見です。

 ではジェントルマンシップ(「紳士道」という日本語が現実をよく言い表しています)の精髄ともいうべきものは何か? 見出しには載せきれませんが、フェアプレイの精神がまず挙げられます。「貴人の義務」という日本語も、原語である「ノブレスオブリージュ」というフランス語と並んで、だいぶ普及してきました。身分高き者は公の幸せのために尽くす義務があるという思想です。この価値観があればこそ、欧米の民主主義はなんとか機能しているのです。「約束の順守」というのは「当たり前すぎる」とお思いでしょうが、一国の政府がそれを守らない現状を見れば、どうしてもここに挙げる必要を感じてしまいます。

 「ところで日本以外のアジアの国々で紳士道(ジェントルマンシップ)に当る文化・価値基準を持つ国はないのか?」とお思いでしょう。だが国際的な視野が広ければ広い人ほど「そんな国はない」と断定的に言います。日本政府の首脳陣も、外務省も、国会議員も、マスコミ人も、このことをよくよく胸に刻んでおかないとひどい目に会うことは必定(ひつじょう)です。日本人の一番の欠点は、「なに、みんな同じ人間だろ。こちらが誠意をもって話せば相手は必ず理解してくれるよ」と思い込んでおり、この思想をいたる所で撒き続けることです。そんな安易な「人間はみな同じ」論がどれほどのダメージを国・企業・個人に与えてきたことか! この安易な思い込みを捨てて、「世界に冠たるすぐれた文化でも、理解できず、ましてや実行もできない民族や国家はいっぱいある。そのことをよくよくわきまえておこうじゃないか」という発想に切り替えないと本当に危ないと思います。近隣の国で最も異質の国はどこか、彼らと対峙するときはどういう心がけで臨むべきか。もういい加減に国民の大多数が悟るべきです。

植物の知識は紳士に不可欠(ジェントルマンのイメージ 3)

2019-05-01 15:45:24 | 知的スケールが一段と広がる情報
 パリで同郷出身の女流作家に植物の名前を聞かれ、答えがしどろもどろになった私に向かって、彼女はずばっと言いました。「あなた本当のジェントルマンじゃないわね!」と。この前の晩は、有名な鴨料理の店で、開業以来たしか2万何千番目かの鴨を味わい、ボルドーの赤についての質問にも一応の受け答えができていたのが、このザマです。しかしせめてもの救いは、植物についての無知を挽回しようとして、ジタバタと言い訳をしなかったことでしょう。彼女はこの態度が気に入ったらしく、自分の「紳士論」をぶち始めました。
 
 「イギリスの紳士というのはね、広大な土地を持ってるの。そこに樹木や、ハーブや、野菜を植えてるわけ。使用人も何人かいて、「植え替えはいつにしますか」とか「剪定(せんてい)はどうしますか」とかいろんなことを次々に聞いてくるの。ご主人であるあなたは、そうした質問に的確に答え、適切な指示を与えなくちゃいけないのよ。そのためには、植物についての正確な知識が必要なの。まずは植物の名前と特徴を憶えることからスタートすべきね」。

 そこから先は彼女は言いませんでしたが、勝手に推測して補うと「それをなによ! いままでの答えはなっちゃいないじゃないの。もっと勉強してちょうだい」といったことになるのでしょう。彼女の頭にある「紳士」は、だいぶ前の英国紳士だと思いましたが、あれこれ言わず黙って敗北を認めることから始めようと思った次第です。なにしろこちらは日本にある家もまさに猫の額くらいの庭しかなく、ロンドンのフラットには緑の「み」の字もない有り様ですが、ここでジタバタするのは見苦しいという理性が働いた例でした。

 この2年後に私は東京に帰りました。この作家から学んだことは本当に大きく、以後の発想と行動の指針となりました。彼女にはどんなに感謝してもしきれません。

 「この作家って誰なの?」とお思いでしょう。名作「紀ノ川」を書き、「華岡青洲の妻」「恍惚の人」「複合汚染」など話題作を次々と世に問うた有吉佐和子さんです。残念なことにパリでの会話から10年を経た猛暑の夏、50を少し過ぎたころに亡くなりました。私も世田谷のカトリック教会での告別式で参列者の末席を汚させていただきました。植物についての知識はほとんど進歩していませんでした。もう一度コテンパンにやっつけられてみたかったという思いは今も残っています。

紳士は植物がお好き(ジェントルマンのイメージ 2)

2019-04-29 16:06:00 | 知的スケールが一段と広がる情報
 イギリスのジェントリーさらにはジェントルマンたる者は「植物に強くなければならない」ということは、どこかでお読みになったか、あるいは耳にされた方が多いと思います。私もそのことは重々承知していました。しかし一個人として、ぐうの音も出ないほどそれを思い知らされたのはヨーロッパ支局(在ロンドン)勤務時代でした。40歳を少し過ぎたころです。東京本社からの電話で、「モーニングショーのコメンテーターをお願いしている作家のAさんがパリに行っているが、同行している学者の先生方とはどうにも話が合わないらしい。年齢の差も大きいようだ。そこで君にこれからパリに赴いてもらい彼女を元気づけ、取材のアシストをしてもらいたいのだがーー」という、依頼でした。この番組は報道局の担当ではないので、口調は丁寧ですが、これは実質上は「命令」に等しいものです。翌日私は早速パリに飛びました。

 今までおじいさん方とばかり話し、食事といえば「狸うどん」的なものばかりだった彼女の話を聞いて、「こりゃよほど元気の出るものを食べさせないとこの人は参ってしまう」と思った私は、天皇陛下(もちろん昭和天皇です)も召し上がったことで日本中で有名になった鴨料理の店へご案内することにしました。トウールダルジャンでの食事は、彼女を大いに元気づけ、面白い話が次々に出てきました。私の生まれ故郷がご自分と同じ和歌山県だと知った彼女は、打ち解けて話をし、私をかなり高く評価してくれたようでした。

 さて問題はその翌日です。訪仏の目的だった取材も無事終わり、ご自分の親友の家に帰ることになった彼女は、その道中で車窓から見える花の名前を次々に聞いてきました。「マロニエです」とか、「バラです」とか、誰でもが知っていそうな名前を告げていたころはまだよかったのですが、私はたちまち答えに窮してしまいました。すると彼女は厳しい目で私をにらみ、「あなた本当のジェントルマンじゃないわね」ときたものです。なぜでしょうか? 少しずつお伝えするのは本当に申し訳ないのですが、今日の体力はここまでです。この後は彼女の「英国紳士論」になります。傾聴に値する話ですのでできるだけ早くお伝えします。

 

家に先祖の肖像画がある(ジェントルマンのイメージ)

2019-04-26 12:25:38 | 知的スケールが一段と広がる情報
肖像画が示す階級

サッカレーの描くバリー・リンドンは、ジェントルマンになりたくて、痛ましいばかりの努力を重ねました。しかし、彼の家に先祖の肖像画が飾ってあったかどうか、映画はそこまでは映さなかったと思います。おそらくそのような物はなかったのでしょう。私が「これぞイギリスの郷紳(きょうしん、ごうしん)の出だ」と感じたのはニューヨークに住むある女性を久しぶりに訪ねた時でした。90歳にはなっておられたと思いますが、マンハッタンの知的な人々が住む一角に何十年も暮らしておいででした。NY在住の折に、妻に英語を教えてくださった方です。本人あるいは先祖はイングランド出身で典型的なワスプ(WASP)でした。さりげなく飾られている肖像画が目に入りました。意志の強そうな、頑固そうな男でした。彼女は自分の出自について、それまでになにも語ったことはありませんでしたが、私はこの一枚の絵が語ることの重さを直ちに理解しました。家に当主の肖像画があるということは、その人および一族の社会的階層を雄弁に物語るものです。

18、19世紀ごろの物価が安かった時代でも、一枚の肖像画を描かせるにはそれこそ時価換算でで最低100万円はかかったでしょう。一般の庶民には到底無理です。この日以後、ジェントルマンおよびジェントリーについて語る際には、この肖像画から入るのが最適だと考えることにしました。具体的でヴィジュアルだと思っています。次回も「紳士の条件とイメージ」の続きです。

ジェントルマンになるための涙ぐましい努力

2019-04-22 15:31:23 | 知的スケールが一段と広がる情報
 ロンドンーオックスフォード間の街道に出没して、旅人から金品を奪う親子の追い剥ぎが、おそろしく丁寧な口を利くことをお伝えしました。彼らが従事している職業と、こうした言葉づかいの対比(コントラスト、ミスマッチ)は、まさに「笑えてくる」もので、「可笑しさ」の極致と言ってもよいものでした。実はこれ、イギリスの文豪で名作『虚栄の市』(ヴァニティフェア)を書いたウイリアム・サッカレーの代表作『バリー・リンドン』に出てくる話です。主人公のバリーは、どうしてもジェントルマン階級になりたくて、それこそ涙なしでは語れない苦労の連続のような生涯を送る男です。だが現実は厳しく、若年のころの夢はなかなかかないません。なんでそんなにジェントルマンになりたいのか、これは日本人の理解を越えた夢です。しかしユニオンジャックをひるがえらせて、世界の七つの海に覇を唱えた大英帝国のエリートたちの「本質」を理解するためには、ジェントルマンについての知識・歴史・役割といったものは避けては通れません。これがまた複雑きわまりないものと来ています。明治維新以来、イギリスに留学した日本人は夏目漱石をはじめ何千人にものぼるでしょうが、「ジェントルマン」について、素人を満足させるような本はまだ出ていないようです。

 それ(ジェントルマンシップ)についてきちんと体系的に語るのは、私には荷が重すぎますが、映画の主人公たちの言葉や行動を通して「ジェントルマンシップ」のイメージを掴んでいただけるよう努めたいと思います。