田中眞紀子(シンガー・ソング・ライター)

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小川屋で過ごす最後の日

2015-04-28 01:51:27 | Weblog
あぁ、もう1か月経っちゃったな。
あの日、小川屋で集った皆さん、元気でやってますか?
多分、一生の思い出になりそうな、あの日の記録です。


3月29日(日)

カーテン越しに入る朝日と、それまでの興奮状態に、もう眠れるものではない。
3時間だけ横になって9時にベッドを抜け出し、小川屋へ向かうべくホテルを出た。
前日以上の暖かさ。十王の駅でベンチに座って、お日様のお布団にくるまってるみたいな、あまりの気持ち良さに15分位うたた寝をした。(笑)
それから駅にやって来たタクシーに乗って小川屋に着いたのは、10時45分。既に20人近く客がいる。
春の日差し眩しきポカポカ陽気の朝の空から、小川屋の夜の世界へ、また戻ってきた。

頑張って起きだして来たのは、トップバッターのgeruさんを見たかったから。やっと見ることができた。
8時間ほど前、若者シンガー達の中で気を吐いていた反逆ブルーさんと、日立の2大親父シンガーってとこなのかしら。お二人とも名前は知っていたし、顔も合わせていたと思うけど、聞くのは初めて。
geruさんは最初から泣いていた。お客さんは全員、本気モード。
小川屋で過ごせるのはこれが最後だという緊張感が、客席にもあったのだ。

いわきソニック&バロウズのスタッフ、アベマンセイ君が、自分のライブのあと、声をかけてきてくれた。
多分いわきで何度も顔を合わせているのだろうが、私に認識がなくてごめんなさい。でも、これからもよろしくね!良いギタリストだ。

何しろ寝てないからね。しかも年だしね。
パイプ椅子をマイチェアーとして1つゲットし、申し訳ないが昼過ぎまで何度も気絶した。
映像としては脳裏に残っているんだけど、その映像のどれが誰だかよくわかんない。
ごめんなさ~い!

大分意識がはっきりしてきたのは(笑)、いわきの‘虫唾が走る’から。志賀淳二君は以前から知ってるけど、やっとバンドで見ることができた。ボーカルとして、メンバーの兄貴分として、バンドを引っ張って行こうとする、凄い気迫で歌っていたし、非常にシャープな演奏で、それまでと空気が変わったステージだった。

次は我らが東京組、田中雅紀!とにかく前日から驚くのは、コールアンドレスポンスが多くのバンドやシンガーで成立していて、つまり皆が皆の歌を把握しているという事で、東京の田中マー君の歌もサビを客席の皆が歌っているのである。マー君、人気者なんだ~。1年ぶり位に聞いたが、メリハリも良くって、若い子が成長するのを見るのっていいなと思った。

申し訳ないが、ここで私は‘しらかばタイム’(笑)。
小川屋の隣の食堂‘しらかば’に行くのが、日立に来る楽しみの一つだったけど、これが最後だ~。
腹も減ったし、深夜まで持たせなきゃならないので、かつ丼をいただきました。
結構な量だったが、ぺろりと食べた。睡眠不足で疲労すると、食べ続けて乗り切るんです、私。

高萩BACK STREET、カッコ良いロックバンドで、尚且つメロウな歌詞で胸を突く。前の晩、酔っぱらってソファーで寝ていたお兄さんがボーカルだった。バンドでやるのが久しぶりとのこと、今後もやらないみたいだけど、もったいないなぁ。

音楽的な意味で、この2DAYS、一番衝撃的だったのが、東前塵芥君。とうまえ・ちりあくた、と読む。
こんな凄い若い子が、こんな日立の片田舎の隅っこに存在していたのか~!ギターも上手いし、歌詞も尖っている。
この子、本当に小川屋が無くなるのが、悲しいんだな。時間をいっぱい使って、いつまでもステージに居座ろうとしていた。最初は彼の音楽性に感嘆したが、最後は、その居座ろうとする姿に観客が愛情を持って付き合ってる空気になって、それが切ないのであった。

これまた、やっと聞けた、いわきのミーワムーラ。
ずっと立ちっぱなしで腰が想到辛くなっていたので、客席の一番後ろのマイチェアーに座って聞いた。
座ってる、という事は、ニョキニョキの人の林に目の前をおおわれて、ステージが全然見えないという事なのだが、実に美しい、清らかな2本のギターの旋律が絡み合って聞こえてくる。1本は透明感のあるボーカルの女の子、ミーワさん、1本は村重さんという、おっちゃん。
時々、人の林の隙間からステージをのぞくと、やっぱりあのおっちゃんが、あの清らかで美しい音を奏でてるんだわ。
以前、いわきでの共演をお願いしたが、叶わなかった。是非共演して、じっくり聞かせてもらおう。

REVENGE CORE。このバンドで、この日一番、感動的な言葉が飛び出した。
バリバリのハードコアバンドなんだが、最後の曲の演奏中にボーカルの男の子が、
「小川さん、シバちゃん、こっち来て! 音なんかどうでもいいから、ここ来て!」
と叫び、PAの二人が客席最前列に飛び出していって、周りの連中と肩を組みながら音楽に乗って騒ぎ出したのだ。これには泣いた。

竹原ピストルは、さすがの貫録だった。やっぱりこの人の歌詞には掴まれる。歌うことなんかもう無いのに、歌うのをやめようと思ったことはない、とかね。悔しいが結局やられちゃうのだ。腕からボタボタ汗をたらして全力投球。

だが、谷井大介はもっと凄かった。
アピア的な言い方で「歌に体重が乗る」っていうのがあるんだけど、まさにこの言葉がどんぴしゃり!
それこそ、1音1音、1文字1文字を、あの、結構デカい体躯の全体重をかけて繰り出していた。
邪念が全くない、‘小川屋で歌う’事のみがそこにあった。
これほど重量感があり、これほど純粋な谷井大介を見たことはない。
この時のステージの感覚を、これからも追い続けて行けば間違いないよ。
プリンちゃんの一番弟子の仕事は、いつまでも、どこまでも小川屋魂を拡散していくことだ!

前夜、イベント2日目の出演者の解説をプリンちゃんがしてくれたんだけど、チバ大三については、「ここで、妖怪登場なんすよ!」とのことであった。
この日の妖怪さんは、実に爽やかであった。地元組などの重たいステージが続いた後で、さぞや、やり難かったことと思うが、Tシャツを3枚着込んでの楽しいステージは、一服の清涼剤となって、少し肩の力を抜かせてもらった。
チバ君をご存知の方には、彼のステージが‘爽やか’で‘楽しい’‘清涼剤’と感じられるほどの、この日のイベントの猛烈な凄まじさを想像して頂ければ、と思います。
最後に「トキメキニシス」を歌いだすと、PA席でプリンちゃんが「やった!」と叫んでいた。

この後「鉄魂」というバンドが出演するはずだった。前夜のプリンちゃんの解説によると、かなり大きな怪我をしたらしく、残念ながら欠席となったそうだ。
このバンドに予定されていた時間は休憩となった。休憩は確かに必要でもあったが、私には「鉄魂」が演奏するはずだった時間を「鉄魂」の為にそのまま残したい、というプリンちゃんの思いなのかなと思った。彼の中では「鉄魂」がその時演奏していたんじゃないかしら。
と、センチメンタルな勝手な想像。。

さぁ、後3組しかない。
NO WEYというバンドも、これで解散らしい。「でも、また歌いたいと思った時、俺はどこで歌えばいいんだろう」とボーカルさん。彼からも名言が飛び出す。最後の歌の前、いつまでもしゃべっている彼は「だって歌ったら終わっちゃうから。」
良いバンドじゃないか!
また歌おうよ!

そして中村兄。
「俺はみんなの歌が好きだから、2日間ずっと歌ってたら、肝心の今、声が出ねえ。」
「でも、王様のライブ、見せてやるぜ。」
最初は足が痒い、とか言ってごまかしてたが、兄ぃは泣きながら、歯を食いしばるように歌っていた。プライベートでヘビーな事があったらしく、「本当に俺には、ここしかなかったんだ」と呟きながら。それでも絞り出すようにラブソングを歌い続ける彼は、本当に王様のライブをやってのけた。
客は一言も発しない。ただ一人、小川斉だけが、PA席から「兄!」と声をかける。
店内にはぎゅうぎゅう詰めの人で埋め尽くされているのに、そこには小川斉と中村兄しか存在していなかった。
そして、
「この店にこんなに人が集まっているなんて、最後にこんな光景が見れるとは思わなかった。
やったな、小川さん!」
とPA席に向かって拳をあげた。

こんな素晴らしいドラマを生み出せる、日立小川屋という存在。
世知辛い、切ない現実の外側で、ここはどんなに辛くても苦しくても悲しくても、幸せな世界なんだと私は思うのだ。
歌、音楽、そしてステージに出会った私たちは、自ら幸せをクリエイトしているのだ、
だから。こんなに感動的な時間に出会えるのだ。
私は、中村兄の美しい横顔を見つめ続け号泣しながら、この時間、この空間に存在する権利を、現実と戦って勝ち取った幸せを噛みしめていた。
この勝利は一瞬にして消え去るが、この一瞬を勝ち取れるのは、バカみたいにやりたい事を追及しているバカだけなのだ。
バカでよかったよ、アタシ!

四畳半のライブは、熱く、しかしどこか爽やかだった。
自分の作り上げた世界、思いをかけたミュージシャンたちの集大成を見届けて、観客から胴上げされていた時の、彼の心の内の充実と寂寥は、いかばかりであったろうか。
私はこれからも、四畳半プリンこと小川斉の生き様を見続けたいと思う。
小川斉は、これからもどんどん先を走って行くだろう。
表現者に絶対的に必要なものは‘次’だ。
2日間、彼の涙を吸い取り続けた黒いタオルを巻いて、彼はどんな‘次’を見せてくれるだろう。
そして小川屋に集ったミュージシャン達もまた、小川屋魂を抱えて、どんな‘次’を描いていくだろう。
私が誇りを持って生きるアンダーグラウンドの世界に、彼らは希望を感じさせてくれるのだ。
私もまた、彼らに恥じないような表現者であり続けたい。

ありがとう、小川屋!


29日の深夜、というより、30日の早朝まで、皆んな去りがたく店にいたが、前日と同じ4時半に、私は小川屋と別れを告げた。
プリンちゃんの奥さん、キヨミさんホテルまで送ってもらった。
「大変だったと思うけど、小川屋は楽しかったですか?」と訊ねたら、「楽しかった!」と言ってくれた。出演者としては、胸を撫で下ろす。
プリンちゃんは凄い男だが、もっと凄いのは、いつも最高の笑顔で裏方を受け持っていたこの奥さんだね。
プリンちゃんとは一緒のツアーが決まっているけど、キヨミさんにまた会える日が来るかしら?
そしてその日が来るってことは、どんなにか素晴らしい状況に発展してるってことだ。
その日が来るまで、引退しないように頑張らなきゃ♪

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