あとだしなしよ

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海と毒薬

2006年12月18日 | 
海と毒薬
遠藤周作 昭和32年

戦争末期に空襲が続く中、無差別爆撃を行った米軍捕虜に対して行われた生体解剖事件を小説化したもの。オペに立ち会った末端の見習い医師や看護婦の心理、生活が描かれていた。生体解剖の描写以外にも、満州の貧富差の激しい植民地支配の様子や昭和初期の日本の子供たち、小説の冒頭の昭和30年代の地方都市のさびれた描写も興味深かった。医学生戸田の理屈を並べたてるご都合主義と利己主義は、こんな医者や政治家や夫などに身を預けることになったら本当に嫌だと思わせるものだった。小説中の解剖は肺結核の実験のためのもので、遠藤周作自身も肺結核を患っていたらしいのでそのへんの引っかかりもあったのだろうか…捕虜に対して無機的に行われるオペのシーンは、医師に対する不信感さえ抱いてしまった…中国での日本兵の様子もチラチラ描かれています。主人公の学生、勝呂医師は無理に強制されたわけでは無い形で助手としてオペに参加する。意志薄弱な性格として描かれる彼は、良心の呵責から実行後に人間味を失ってしまう…好きだった詩も心に響かなくなる。いやだのひと言が言えなかった為に…
肝心の執刀医の心理や背景が描かれていないのが物足りない気がしたが、実話を元にしているので障害も多かったのだろうか。「悲しみの歌」がこれの続編だとのこと。



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