★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇オイストラフ&オボーリンのベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ全集(第1番~第10番)

2021-08-19 09:53:51 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

 

ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ全集(第1番~第10番)

ヴァイオリン:ダヴィッド・オイストラフ

ピアノ:レフ・オボーリン

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) 15PC‐7~10

 このLPコードは、ダヴィッド・オイストラフ(1908年―1974年)のヴァイオリン、レフ・オボーリン(1907年―1974年)のピアノという、旧ソ連時代の名コンビによるベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ全集(4枚組)である。滋味あふれるオイストラフのヴァイオリン独奏と格調高いオボーリンのピアノ伴奏は、ベートーヴェンが切り開いた新しいヴァイオリンソナタの世界を見事に描き切っており、比類のない高みに達した名録音盤である。現在に至るまで、この録音を凌駕するベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ全集は出現してないとさえ言っても過言でないほどの出来栄えなのである。ベートーヴェンのヴァイオリンソナタは、大きく4つの時代に分けることができる。第1の時代は、作品12の3曲、第2の時代は、作品23と24の2曲、第3の時代は、作品30の3曲と作品47の1曲、第4の時代は、作品96の1曲である。第1の時代の作品12の3曲は、次に来る作品に比べまだ未熟さは残るが、既にベートーヴェン以前のヴァイオリンソナタに比べ、精神的内容の深い作品となっている点に注目すべきであろう。第2の時代の作品23と24の2曲になると、ベートーヴェンの個性が作品にはっきりと影を落とし、ベートーヴェンはここでヴァイオリンソナタの歴史に新たなページを付け加えたと言える。そして第3の時代の作品30の3曲と作品47の1曲は、中期の頂点とも言えるベートーヴェンにしか書けないような作品で、中でも「クロイツェル」は、古今のヴァイオリンソナタの中でも、その存在感は圧倒的で、交響曲にも劣らない深みとスケールの大きさを備えている。最後の第4の時代の作品96の1曲となると、それまでの作品とは少々位置づけが異なり、肩の力を抜き、一人ロマンの世界に浸るような感覚が濃厚であり、何か懐古調的な気分も付きまとう。それにしてもダヴィッド・オイストラフのヴァイオリンの音色の伸びやかさと温かみには脱帽させられる。全体に柔らかい感覚が覆い尽くすが、決して茫洋としておらず、むしろ歯切れの良い、明確な弓捌きと言える。ヴァイオリン自体の持つの美音は尊重するが、それに埋没することなく、メリハリの良い演奏に終始しているところにダヴィッド・オイストラフの真骨頂が聴いて取れる。一方、レフ・オボーリンのピアノ伴奏も柔らかさと明快さが同居しており、オイストラフのヴァイオリン演奏に相通じるところがある。オボーリンが生まれた翌年にオイストラフが生まれ、そして同じ年に2人はこの世を去っている。(LPC)


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