★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ブレンデル&マリナーのモーツァルト:ピアノ協奏曲第25番/ジェッシー・ノーマンのモーツァルト:レシタティーヴォとアリア

2022-02-28 11:05:35 | 協奏曲(ピアノ)


モーツァルト:ピアノ協奏曲第25番          
      :レシタティーヴォ「どおしてあなたを忘れましょう」と
       アリア「恐れずに、いとしいあなた」(歌劇「イドメネオ」から)K.505

ピアノ:アルフレッド・ブレンデル

ソプラノ:ジェッシー・ノーマン

指揮:ネヴィル・マリナー

管弦楽:アカデミー室内管弦楽団

録音:1978年1月27日、仏ストラスブール(ライヴ録音)

発売:1979年

LP:日本フォノグラフ(PHILIPS) X‐7931(9500 538)

 1978年1月27日と28日の両日、モーツァルトの生誕222年を記念するコンサートがフランスのストラスブールで、国際音楽家互助財団(FIEM)の主催で行われた。これは、このときのライヴ録音をLPレコード化したものである。FIEMは、ヴァイオリニストのユーディ・メニューイン(1916年―1999年)を会長とし、若手演奏家の育成、音楽の国際交流、さらに伝統芸術の保護などを掲げた、ユネスコ傘下の財団であった。当時、資金源獲得のためFIEMは、しばしばコンサートを開催していたが、今回は、ピアノのアルフレッド・ブレンデル(1931年生まれ)、ソプラノのジェッシー・ノーマン(1945年―2019年)、指揮のネヴィル・マリナー(1924年―1916年)が馳せ参じて開催されたもの。その出来栄えはというと、このLPレコードの解説の大木正純氏が「歴史に残る名ライヴ盤」と記している通り、その演奏内容が最上の仕上がりを見せており、ライヴ盤独特の緊張感がひしひしと伝わってくる。しかもLPレコードなので、温かみのある音色で臨場感が存分に味わえるのである。このLPレコードでピアノの独奏をしているアルフレッド・ブレンデルは、チェコスロヴァキアの北モラヴィア生まれ。1943年にグラーツに移り、グラーツ音楽院で学ぶ。その後ウィーンへ行き、ウィーン音楽院でも学ぶ。国際的なコンクールの受賞歴はないものの、1960年代以降は、その中庸を行く知的で正統的な演奏で、次第に国際的な名声を得るようになる。ベートーヴェン、シューベルトをはじめとするドイツ・オーストリア系の作曲家の作品を得意としていた。一方では新ウィーン楽派の作品やジャズにも取り組むこともあった。ブレンデルは2008年に現役を引退したが、このLPレコードが録音された当時はまだ47歳の若さで、将来のホープとして大いに嘱望されていた時の演奏である。演奏内容は、繊細さに満ち溢れ、感性豊かな、万人を納得させるにあまりある秀演となっている。一方、ソプラノのジェシー・ノーマンは、アメリカを代表するオペラ歌手。1969年に「ミュンヘンARD国際音楽コンクール」の覇者となり、ベルリン国立歌劇場にてリヒャルト・ワーグナーの「タンホイザー」のエリザベート役により、オペラ歌手としてデビューを果たした。2006年「グラミー賞」、2015年「ウルフ賞」芸術部門を受賞。このLPレコードでのジェシー・ノーマンは、奥深く劇的な要素を多分に含んだ、見事な歌唱力を披露している。この時、ジェシー・ノーマン33歳、絶頂期の歌声がライヴ録音で聴ける貴重な記録だ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇名ソプラノ エリザベート・シュワルツコップのR.シュトラウス:四つの最後の歌 ほか

2022-02-24 09:45:29 | 歌曲(女声)


R.シュトラウス:四つの最後の歌(春/九月/眠りにつこうとして/夕映えの中で)

モーツァルト:夕べの想い/魔法使い
シューマン:くるみの木/ことづて
ヴォルフ:夏の子守歌(「女声のための六つの歌」より)/鼠とりのおまじない
R.シュトラウス:父がいいました(「子供の不思議な角笛」より)/あらしの日

ソプラノ:エリザベート・シュワルツコップ

指揮:オットー・アッカーマン

管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団(四つの最後の歌)

ピアノ:ジェラルド・ムーア

録音:1953年9月25日~26日<四つの最後の歌>
   1952年/1954年

LP:東芝EMI EAC‐40119

 「四つの最後の歌」は、R.シュトラウス(1864年―1949年)が死の前年の84歳で作曲した管弦楽伴奏とソプラノのための歌曲集。完成した作品では、R.シュトラウスの最後の曲となったものである。詩は、ヘルマン・ヘッセが3曲、アイヒェンドルフが1曲となっているが、いずれも84歳の作曲家が作曲した曲とも思えぬほど、みづみづしさに溢れているのに驚かされる。その湧き出るような響きを聴くと、まだまだ作曲ができるのではないかという感慨に捉われる。恐ろしいほどの創作意欲ではある。第1曲を除き、残りの3曲は死に拘る詩の内容となっている。ただ、決してただ暗いだけの内容ではなく、何か人生の最後に辿りついた静かな安寧な心境が淡々と綴られているようでもある。このR.シュトラウスの「四つの最後の歌」は、数あるドイツ・リートの中でも最高の作品の一つに位置づけられている。このLPレコードは、そんな曲を名ソプラノ歌手のエリザベート・シュワルツコップ(1915年―2006年)が、全身全霊で歌い上げている様子が痛いくらい分る録音だ。シュヴァルツコップは、ドイツ出身のソプラノ歌手で、オペラと歌曲の優れた歌唱で世界にその名を知られた。ベルリン音楽大学で学び、1938年ベルリン・ドイツ・オペラで「パルジファル」の花の乙女を歌い、デビュー。1943年に当時ウィーン国立歌劇場の総監督だったカール・ベームに認められ、同歌劇場と契約し、コロラトゥーラ・ソプラノとして活躍。1947年イギリスのコヴェント・ガーデン王立歌劇場に、1948年ミラノ・スカラ座に、そして1964年ニューヨークのメトロポリタン歌劇場に、次々とデビューを果たした。1992年、イギリス女王エリザベス2世からDBE(女性に与えられる勲章でナイト爵に相当する)の称号が授与された。「四つの最後の歌」では、管弦楽伴奏も充実している。ケルン歌劇場やチューリヒ歌劇場の音楽監督として活躍したオットー・アッカーマン(1909年―1960年)の指揮するフィルハーモニア管弦楽団が、実に素晴らしい演奏を繰り広げている。名唱にして名伴奏ここにありといった伴奏をこのLPレコードで堪能することが出来る。B面に収められた小品についても、シュワルツコップは一曲一曲を丁寧に噛み締めるように歌い上げる。例えばB面の最初の曲であるモーツァルト:夕べの想いは、父レオポルドの死が影響していると言われる作品であるが、シュワルツコップは、伸びやかな美しい歌声で、この曲の持つ深遠さを存分に引き出している。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇クルト・ザンデルリング指揮ベルリン交響楽団のシベリウス:交響曲第5番/第3番

2022-02-21 09:44:47 | 交響曲


シベリウス:交響曲第5番/第3番

指揮:クルト・ザンデルリング

管弦楽:ベルリン交響楽団

録音:1970年12月12日、東ベルリン・イエス・キリスト教会

発売:1979年5月

LP:日本コロムビア OW‐7779‐K

 このLPレコードは、ドイツがまだ東西に隔てられていた時代の中で生まれた録音だ。指揮のクルト・ザンデルリング(1912年―2011年)は東プロイセン(現在のポーランド)出身。ナチスに追われ、1935年ソビエト連邦に亡命し、1937年モスクワでモーツァルトのオペラ「後宮からの誘拐」を指揮してデビュー。1941年レニングラート・フィルハーモニー交響楽団の第一指揮者に就任し、エフゲニー・ムラヴィンスキー(1903年―1988年)の下でさらに研鑚を積む。この間、ショスタコーヴィチと知り合い、親交を結んだという。1958年レニングラート・フィルの来日公演では指揮者の一人として日本を訪れている。ベルリン市立歌劇場の指揮者を経て、モスクワ放送交響楽団、さらにはムラヴィンスキーを助け、レニングラード・フィルハーモニー交響楽団の指揮者を務める。その功績が称えられソヴィエト連邦功労芸術家の地位を贈られた。1960年東ドイツ政府に請われて帰国し、ベルリン交響楽団の芸術監督・首席指揮者に就任した。1964年~1967年シュターツカペレ・ドレスデンの首席指揮者も兼務。さらに1976年から4回、読売日本交響楽団を客演指揮し、その結果読売日本交響楽団の名誉指揮者に任じられている。2002年に高齢を理由に指揮活動からの引退した。シベリウス:交響曲第3番は、1907年に完成。その頃、都会暮らしをしていたシベリウスは、交響曲第2番の成功を受けたこともあり、人々との付き合いに疲れ果てていたようだ。これを見たアイノ夫人らは田舎暮らしを勧め、トゥースラ湖を持つヤルヴェンパーという静かな街に移り、ここで終の棲家となるアイノラ荘を建て住み始めた。アイノラというのは、夫人の名前を取って付けたもので、「アイノの棲むところ」といった意味合いを持つ。シベリウスはこの静寂な森の中で一人交響曲第3番を作曲した。このため交響曲第3番は全体に内省的で、暗く、悲しく、寂しい感情に覆われている。交響曲第1番、第2番を聴いてきた聴衆にとっては、その落差に驚かされたはずである。一方、シベリウス50歳の誕生を記念して1915年に書かれた交響曲第5番は、骨太で、英雄的で、しかも華麗に仕上がっており、シベリウスを代表する作品の一つに挙げられている。これら2曲の交響曲で、クルト・ザンデルリングの指揮は、緻密で、滋味豊かで、しかもダイナミックな効果を存分に発揮しており、当時の旧東ドイツの演奏レベルの高さを充分に聴き取ることができる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ネヴィル・マリナー指揮アカデミー室内管弦楽団のチャイコフスキー:「弦楽セレナード」/「フローレンスの思い出」

2022-02-17 09:40:43 | 管弦楽曲


チャイコフスキー:「弦楽のためのセレナード」
         「フローレンス(フィレンツェ)の思い出」

指揮:ネヴィル・マリナー

管弦楽:アカデミー室内管弦楽団(アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ)

発売:1981年

LP:キングレコード K16C‐9124

 今回のLPレコードで指揮をしてるのは、2016年10月2日に92歳で亡くなったネヴィル・マリナー (1924年-2016年)である。マリナーは、英国イングランドのリンカン出身。王立音楽大学に学んだ後、パリ音楽院に留学。フィルハーモニア管弦楽団やロンドン交響楽団でヴァイオリニストを務めた後、米国に渡り、ピエール・モントゥーの音楽学校において指揮法を学んだ。そして1959年にはアカデミー室内管弦楽団 (アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ) を結成して、長年にわたりその指揮者を務めてきた。このほか1969年~1979年ロサンジェルス室内管弦楽団の指揮者を務めたのをはじめ、1979年~1986年ミネソタ管弦楽団の音楽監督、1983年~989年シュトゥットガルト放送交響楽団の音楽監督などを歴任している。長年の指揮者活動により、1985年にはナイトの称号を授与された。1972年アカデミー室内管弦楽団と初来日を果たしたが、以後しばしば日本を訪れているので、マリナーの指揮を直接聴いたリスナーの方も少なからずおられよう。NHK交響楽団をはじめとして、世界の有力なオーケストラを客演指揮し、そして多くの録音も遺している。また、モーツァルトの生涯を描いた映画「アマデウス」では、その音楽を担当し、そのサウンドトラックには、マリナー指揮のアカデミー室内管弦楽団による演奏が用いられるなど、演奏会以外にも幅広く活躍してきた。ネヴィル・マリナーの指揮ぶりは、端正な正統派ともいえるもので、それらは柔らかい造形美に彩られ、限りなく美しい。このLPレコードでもチャイコフスキーの「弦楽のためのセレナード」を、それは、それは上品にサロン的に演奏している。チャイコフスキーの持つロシア的土臭さとは一切関係なく、夢の中にいるような幻想的な世界が目の前に展開され、リスナーは一時の安息の時間を過ごすことが出来る。B面に収められた「フローレンス(フィレンツェ)の思い出」は、チャイコフスキーが大好きなイタリア旅行から帰り、作曲した弦楽六重奏曲のための曲。このLPレコードでは、室内管弦楽向けとして演奏されているが、なかなか奥行きのある演奏となっており、弦楽六重奏よりも一層聴き応えがあるような感じがする。ここでのネヴィル・マリナーとアカデミー室内管弦楽団の演奏は、基本的には「弦楽のためのセレナード」と変わりはないが、「フローレンス(フィレンツェ)の思い出」の方がより一層陰影感が明確に演奏されており、より印象の強い演奏となったようだ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ケンプ、シェリング、フルニエのベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番「大公」

2022-02-14 10:33:13 | 室内楽曲


ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番「大公」

ピアノ:ウィルヘルム・ケンプ

ヴァイオリン:ヘンリック・シェリング

チェロ:ピエール・フルニエ

LP:ポリドール(独グラモフォン) SE 7910

 ベートーヴェンのピアノ三重奏曲第7番「大公」は、聴けば聴くほど、その雄大な曲の構成力に圧倒される。歳を取って聴いても、つまり幾つになっても人を自然に奮い立たせるようなエネルギーを蓄えている曲であることに驚かされる。岡田暁生氏によると、ベートーヴェンの9つのシンフォニーは「頑張れば報われる」という“励ましソング”なのだそうであるが、シンフォニーではないが、この「大公」はその典型的な曲ではないかと思ってしまうほど、聴くたびにいつも励まされる。大公とはベートーヴェンより18歳年下のルドルフ大公のことで、ベートーヴェンのピアノの生徒であると同時に財政的支援者でもあった。2人は互いに尊敬し合っていたそうであるので、ベートーヴェンはルドルフ大公を思い描くことによって、室内楽としての“励ましソング”の名作「大公」を完成させたのであろう。このLPレコードは、ピアノのウィルヘルム・ケンプ(1895年―1991年)、ヴァイオリンのヘンリック・シェリング(1918年―1988年)、チェロのピエール・フルニエ(1906年―1986年)という、3人の名手の息がぴたりと合った、古今の「大公」の録音の中でも1、2を争うほどの名盤である。ウィルヘルム・ケンプは、ドイツの名ピアニストで、1936年の初来日以来、10回も来日した大の親日家であった。私も実演を聴いたことがあるが、特にベートーヴェンのピアノソナタ全曲連続演奏会は当時テレビでも放送され、多くのファンが熱狂して聴き入ったことを思い出す。ヘンリク・シェリングは、ポーランド人で後にメキシコに帰化した名ヴァイオリニスト。パリ音楽院に入学して、ジャック・ティボーに師事する。シェリングは多くの録音を遺しているが、中でもバッハの無伴奏ヴァイオリンのための作品は今でも名録音として名高い。ピエール・フルニエは、フランスの名チェリスト。1923年パリ音楽院を一等賞で卒業した翌年、パリでコンサート・デビュー。気品のある容貌とその格調の高い演奏内容で“チェロの貴公子”とも呼ばれ、親日家でもあり、ヴァイオリンのジャック・ティボー、ピアノのアルフレッド・コルトーとピアノトリオを組んだこともあったほど、三重奏曲などの室内楽にも力を入れていた。この3人が録音した今回のLPレコードは、いたずらに力まずに、3人が悠然としていて、しかも奥行きの深い、そして堂々とした演奏は、まるで「大公」の演奏のために生まれたピアノトリオではないかと思ってしまうほど優れた演奏内容だ。(LPC)

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