★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇べルグルンド指揮ボーンマス交響楽団のシベリウス:劇音楽「ペレアスとメリザンド」/組曲「歴史的情景」第1番/劇音楽「白鳥姫」

2023-02-27 09:38:29 | 管弦楽曲

シベリウス:劇音楽「ペレアスとメリザンド」
      組曲「歴史的情景」第1番
      劇音楽「白鳥姫」

指揮:パーヴォ・べルグルンド

管弦楽:ボーンマス交響楽団

 このLPレコードは、2012年1月25日、82歳の生涯を閉じたヘルシンキ生まれのフィンランドの指揮者、パーヴォ・べルグルンド(1929年―2012年)がボーンマス交響楽団を指揮した録音である。左手で指揮棒を持つ指揮者としてでも有名であったパーヴォ・べルグルンドは、1962年~1971年の10年間は、フィンランド放送交響楽団の首席指揮者を務めた。さらに、1972年~1979年まで、このLPレコードでも演奏している英国のボーンマス交響楽団の首席指揮者、1975年~1961年ヘルシンキ・フィルの音楽監督兼首席指揮者を務めた。パーヴォ・べルグルンドは、北欧作曲家、特にシベリウスのスペシャリストとして名高く、シベリウスの交響曲全集の録音は3度にも及んだほか、同じくシベリウスの「クレルヴォ交響曲」の紹介者としても名高い。このLPレコードでは、お得意のシベリウスの作品を3曲録音している。いずれもシベリウスの作品が持つ、北欧音楽独特の透明感と祖国愛に燃えた情熱とが見事に調和した演奏を聴かせてくれる。劇音楽「ペレアスとメリザンド」(城門にて/メリザンド/海辺にて/庭園の噴水/三人の盲目の姉妹/パストラール/糸を紡ぐメリザンド)は、メーテルリンクの戯曲「ペレアスとメリザンド」の付随音楽。ヘルシンキにあるスウェーデン劇場からの依頼によって1905年に作曲された。同じ題材を用いてドビュッシーやフォーレが作曲しているが、シベリウスの曲は、それらの曲に比べると北欧的色彩が強く感じられる作品となっている。初演は、1905年3月17日に作曲者の指揮によって行われた。組曲「歴史的情景」(全3曲)は、ロシアから圧迫を受けていたフィンランドにおいて、1899年11月3日~5日に行われた愛国的催しのために作曲された組曲で、最初の版には、第4曲目としてあの有名な交響詩「フィンランディア」が含まれていたという。1911年に、シベリウスは、3曲を改訂して新たに「歴史的情景」(序曲/情景/祝祭)作品25として発表した。劇音楽「白鳥姫」(このLPレコードには、全7曲から第2曲ハープの奏で/第3曲ばらを持った乙女/第4曲聞け、こまどりが鳴いている/第6曲白鳥姫と王子が収録されている)は、ストリンドベリーの戯曲のために書いた劇附随音楽。パーヴォ・べルグルンドは、数度来日も果たしているが、改めてLPレコードを通して聴いいてみると、その類稀な美しい表現力に圧倒される思いがする。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇アンドレス・セゴビア門下生3人によるギター名曲集

2023-02-23 09:38:11 | 器楽曲


~ギター名曲集~

タルレガ:アルハンブラの想い出/アラビア風奇想曲
アルベニス:入江のざわめき/レイエンダ
モーツァルト(ソル編):“魔笛”の主題による変奏曲
スペイン民謡:ロマンス
ヴィラ=ロボス:前奏曲第1番
ムダーラ:ファンタジア
サンス:パバーナ&カナリオス
リョベート:3つのカタロニア民謡(アメリア姫の遺言/盗賊の歌/聖母と御子)
バッハ(セゴビア編):シャコンヌ(無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番より)

ギター:クリストファー・パークニング(タルレガ、アルベニス、スペイン民謡、
                   ヴィラ=ロボス)

    アリリオ・ディアス(モーツァルト、サンス、リョベート、バッハ)

    オスカー・ギリア(ムダーラ)

LP:東芝EMI EAC‐40033

 ギター音楽を聴くと何かほっとした気分に浸れる。ピアノやヴァイオリンそれに管楽器を聴くと、多かれ少なかれ、何がしかの威圧感のような緊張感が常に付いて回ってしまう。それに対し、ギターの音色を聴くとその瞬間から、回りの空気がどことなく穏やかになり、リスナーはその中で夢ごごちで音楽を思う存分聴くことができるのだ。その一方では、ギターは“小さなオーケストラ”とも言われている通り、一つの楽器とは到底思えないほどの音の広がりを我々に聴かせてくれる。このLPレコードは、そんなギター音楽の名曲中の名曲を一堂に集めて、一流の演奏家が心を込めて演奏してくれている、誠に楽しくも懐かしい一枚。ギターの柔らかい音色に浸るのは、LPレコードが一番なのだ。「アルハンブラの想い出」は、タルレガがアルハンブラ宮殿を訪れた印象を綴った曲。「アラビア風奇想曲」は、タルレガの作品の中で最もロマンチックな作品。「入江のざわめき」は、アルベニスのピアノ曲集「旅の思い出」の1曲。「レイエンダ」は、アルベニスのフラメンコ風な曲。「“魔笛”の主題による変奏曲」は、モーツァルトのオペラを基にソルが書いた変奏曲。「ロマンス」は、“禁じられた遊びのテーマ”として知られている曲。「前奏曲第1番」は、ヴィラ=ロボスの「前奏曲集」(全5曲)から1番目の曲。「ファンタジア」は、16世紀のムダーラの曲で、ハープを真似た作品。「パバーナ&カナリオス」は、17世紀のサンスの優雅な宮廷舞曲。「3つのカタロニア民謡」は、リョベートがカタロニア民謡を編曲した曲。「バッハ:シャコンヌ」は、セゴビアがギター曲へ編曲した作品。このLPレコードで演奏しているのは、スペイン出身のギターの神様アンドレス・セゴビア(1893年―1987年)の門下生の俊英3人である。クリストファー・パークニング(1947年生まれ)は、米国出身の初めての天才的クラシック・ギタリスト。演奏スタイルは、均整のとれたなかにも瑞々しい歌心を通わせたもので、アンドレス・セゴビアも「まれにみる天分に恵まれた若者」と絶賛していたと言う。アリリオ・ディアス(1923-2016年)は、南米ベネズエラ出身のギター演奏の大家。セゴビアの教えを受け、師の助教授も務めた。歯切れの良い明確なテクニックには定評がある。イタリア生まれのオスカー・ギリア(1938年生まれ)は、パリ国際ギター・コンクールに優勝し、セゴビアの助教授に選ばれた、こまやかなニュアンスに富んだ演奏が持ち味だ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇コレギウム・アウレウム合奏団によるバロックの隠れた名曲ドゥランテ:合奏協奏曲集

2023-02-20 09:52:35 | 古楽

ドゥランテ:合奏協奏曲 へ短調/ホ短調/ト短調/ハ長調

指揮:ロルフ・ラインハルト

弦楽合奏:コレギウム・アウレウム合奏団

録音:1962年、南ドイツシュヴァーベン地方のキルヒハイム城「糸杉の間」

LP:テイチク・レコード(ハルモニア・ムンディ) ULS‐3162‐H

 バロック時代の著名な作曲家の作品は、これまでも聴いてきたが、今回のLPレコードのフランチェスコ・ドゥランテ(1684年―1755年)の作品は、私自身このLPレコードによって初めて聴くことができた。ドゥランテは、18世紀以前のイタリア音楽界で活躍した人で、ドメニコ・スカルラッティ(1685年―1757年)とともに、名高いナポリ楽派の始祖といわれたアレッサンドロ・スカルラッティ(1660年―1725年)の後継者になるであろうと言われていたほどの作曲家であったという。2人のスカルラッティは、我々にもお馴染みの作曲家になっているが、現在、何故かドゥランテの作品を聴く機会は少ない。それは、そのほとんどがミサ曲をはじめ詩篇、モテット、賛歌、マニフィカトなど、宗教曲に限られているからという理由だからかもしれない。今日では、ドゥランテの名は、むしろ優れた音楽教師として知られているようである。このLPレコードのドゥランテの4つの合奏協奏曲は、弦楽合奏と通奏低音によって演奏されている。現在、合奏協奏曲(コンチェルト・グロッソ)は、コレルリやヘンデルの曲を聴く機会が多いいが、なかなかどうしてドゥランテの曲を聴くと、これらの曲と堂々と渡り合える、その優れた内容に驚かされるのである。何よりも聴いているだけで心が豊かになるような、その曲想の豊かさは、現代人の我々にも訴える力がある。“隠れた名曲”と言ってもいいほどの存在感がある曲だ。演奏しているコレギウム・アウレウム合奏団は、1962年にドイツで結成された古楽器オーケストラの草分け的存在。演奏家や音楽院の教師、フライブルクを拠点とするレコード会社「ハルモニア・ムンディ」との結束から生れた。作曲者が当時耳にしたであろう響きの再現を目標に、歴史的な演奏習慣の復興を当初より使命として、バロック音楽から初期ロマン派音楽までを演奏。古い時代の演奏習慣を慮って指揮者を置かず、コンサートマスターを指導者とした。このLPレコードは、同合奏団の本拠地であった南ドイツシュヴァーベン地方のキルヒハイム城「糸杉の間」で録音されている。ドゥランテは、1684年3月31日、ナポリの北15キロの村フラッタマッジョーレで生まれた。ローマに出て作曲の勉強を行った後、ナポリへ戻り、サントノフリオ音楽院、サンタ・マリヤ・ディ・ロレート音楽院、ジェズ・クリスト音楽院などで死ぬまで教え続けた。このため音楽史の上でのドゥランテの存在は、これらの音楽学校での教育者としての実績によって評価されてきたようである。作曲家としは、宗教曲が圧倒的に多い。このLPレコードに収録されている合奏協奏曲4曲は、いずれも弦楽合奏と通奏低音によって演奏されている。いずれの曲も4つの楽章からなり、ヘ短調の曲以外は緩急緩急の順で演奏される。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ケンプが弾くブラームス晩年の3つのピアノ小品集

2023-02-16 11:21:46 | 器楽曲(ピアノ)

ブラームス:3つのインテルメッツォ op.117
      6つのピアノ小品 op.118
       4つのピアノ小品 op.119

ピアノ:ウィルヘルム・ケンプ

LP:日本グラモフォン SLGM‐1271

 ブラームスは晩年に、数多くのピアノ小品を残している。このLPレコードには、1892年に書かれた「3つのインテルメッツォ op.117」「6つのピアノ小品 op.118」「4つのピアノ小品 op.119」の3つのピアノ小品集が収められている。これらの曲は、いずれも寂寥さや諦観といった、ブラームスが人生の最後に行き着いた枯淡の境地が切々と綴られている。ベートーヴェンは、人生の最後までピアノソナタの大曲を作曲し続け、正に死ぬまでピアノと格闘したたわけであるが、ブラームスはこれとは全く逆に、ピアノに語りかけるように自らの心情を吐露し、独白的で瞑想的なピアノの小品を作曲した。ブラームス自身、晩年に作曲したこれらのピアノの小品を“自分の苦悩の子守歌”であると語っていたという。このLPレコードの3つのピアノ小品集は、そんなブラームスの晩年の心情を綴ったものだけに、静謐で深遠な内容は、他に較べようもないピアノ作品に仕上がっている。人生の淵に佇んで、これまで来た歩みを一つ一つ思い起こしているようでもある。これまで歩んできた自分の人生を一人で振り返りたいとき、深夜、一人で聴くことによってこそ、この曲の真価が光り輝くのだと私は思う。演奏しているのは、ドイツの名ピアニストであり、このLPレコードのジャケットに「来日記念盤」という副題が付けられていることからも分る通り、わが国へも度々来日し、ファンも多かったウィルヘルム・ケンプ(1895年―1991年)である。ケンプの演奏は正統的でしかも誠実そのものであり、ブラームスの晩年のピアノ小品を弾くのには、今でもケンプをおいて他にいないと私は考えている。ケンプは、ドイツのブランデンブルク州の出身。幼時よりピアノ、オルガンを学び、卓越した才能を示した。ベルリン音楽大学で学び、1917年にはピアノ組曲の作曲によりメンデルスゾーン賞を受賞。つまり、若かりし頃のケンプは、ピアノのほか、オルガンを弾き、作曲にも才能を開花させた。シュトゥットガルト音楽大学の学長を務め、1932年にはベルリンのプロイセン芸術協会の正会員になるなど、ドイツ楽壇の中心的役割を担うようになる。第二次世界大戦後は、ピアニストとしての活動に専念する。ケンプの演奏スタイルは、1950年代の技巧と解釈が高度に均衡した録音に比べて、1960年代以降は、よりファンタジーに富んだ自由闊達なものとなり、現在多くの人がケンプの演奏を評するとき、この晩年のスタイルを差して、技巧よりも精神性を重視する演奏家とみなしている。ベートーヴェンのピアノ協奏曲が2種類、ピアノソナタの全集が4種類の録音を残している。ケンプは、1936年の初来日以来、合計10回も来日した大の親日家でもあった。1954年には広島平和記念聖堂でのオルガン除幕式に伴い録音を行い、被爆者のために売り上げを全額寄付している。1970年にはベートーヴェン生誕200周年記念で来日し、ピアノソナタおよびピアノ協奏曲の全曲演奏会を行った。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇仏のクラリネットの名手エティエンヌのモーツァルト:クラリネット協奏曲/クラリネット五重奏曲

2023-02-13 09:40:53 | 協奏曲


モーツァルト:クラリネット協奏曲
       クラリネット五重奏曲

クラリネット:フランソワ・エティエンヌ

指揮:モーリス・エウィット

管弦楽:エウィット室内管弦楽団

弦楽四重奏:ヴェーグ弦楽四重奏団

録音:1941年(クラリネット協奏曲)/1952年(クラリネット五重奏曲)

発売:1969年

LP:東芝音楽工業 AB‐8089

 クラリネットは、その音色が何か人々の郷愁を呼び覚まし、一度聴き始めるとなかなか忘れがたい印象をリスナーに与える管楽器だ。モーツアルトは交響曲でもクラリネットを巧みに取り入れ、効果を上げているが、クラリネットを使った協奏曲や室内楽でも傑作を残している(とは言え、モーツァルト自身はあまりクラリネットは好きではなかったという)。それが今回のLPレコードのクラリネット協奏曲とクラリネット五重奏曲であり、現在に至るまで、それぞれを代表する名曲として、現在でもコンサートなどでもしばしば取り上げられている。そして、これまでこの2曲は数多く録音されてきたが、その原点とも言うべきものが、LPレコード初期に発売された、このフランスのクラリネットの名演奏家フランソワ・エティエンヌが遺した録音であった。録音は、クラリネット協奏曲が1941年(SPレコード)、クラリネット五重奏曲が1952年と第二次世界大戦を跨いだ時期に当る。このためクラリネット協奏曲の音質は良いとは言えないものの、今聴いても鑑賞には差し支えはない。それより、演奏内容が極上の出来であり、聴いている間中、音質などは気にならない。ジャック・ランスローなど、フランスはこれまで優れたクラリネット奏者を輩出してきたが、フランソワ・エティエンヌは、それらの元祖というか、象徴的存在であった。聴いてみると、クラリネットをいとも軽快に演奏することに唖然とさせられる。クラリネット協奏曲はモーツァルトが死の2カ月前に作曲した曲だけに内容が深く、しかも諦観に満ちている。そんな曲を、エティエンヌのクラリネットは、七色の音色を巧みに使い分け、奥深い曲想を、明快にリスナーの前に提示してくれる。モーツァルト:クラリネット協奏曲で、今もって、このエティエンヌの演奏を越える演奏は、あまり見当たらない。クラリネット協奏曲の指揮のモーリス・エウィットは、有名なカペエ弦楽四重奏団草創期からのメンバーで、エウィット室内管弦楽団を組織した。一方、クラリネット五重奏曲は、1789年に作曲された曲で、モーツァルトの室内楽の中でも傑作として知られる作品。ここでもエティエンヌの演奏は、溌剌としていて、清々しい感情が前面に出ている演奏を繰り広げ、聴いていて思わずうっとりとさせられるほどの出来栄えとなっている。ヴェーグ弦楽四重奏団は、ブタペスト音楽院の出身者たちによって結成され、1946年「ジュネーヴ国際コンクール」で優勝し、世界的に知られたカルテットであった。主宰者のシャーンドル・ヴェーグ(1912年―1997年)は、ハンガリー生まれのフランスのヴァイオリニスト。1924年リスト音楽院に入学。1930年に同音楽院を卒業後ソリストとして活動すると同時に、1935年にはハンガリー四重奏団を結成したが、1940年リスト音楽院の教授に就任すると共に、自身の名を冠したヴェーグ四重奏団を結成した。(LPC)

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